表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

Second stage 夢の訪れ(1)


「さて、何しようかな」


 戦闘機は今から整備と補給をするだろうから、最低でも後1時間は飛べないだろう。こうなったら補給物資の積み下ろしを手伝いに行くくらいしか時間を過ごすことがない。

 思い立ったら吉日。

 私のために届けられた肉たちの様子を見にいくことにする。


 その前に、一度部屋に戻り着替える。


 着替えた服は、普段から船内で過ごしやすいようにと着ているラフなジャージだ。紺色の生地にピンク色の刺繍が施されている。かわいいかどうかは微妙だが、まあ着るだけなので何でもいいだろう。


「これでよし」


 私の部屋は母艦の中でも比較的上の階にあるので、下層にある補給物資搬入口までは移動するのにそれなりの時間がかかる。


 なので、少し寄り道をする事にした。


 向かった先はメインハンガーとちょうど反対側に位置する救難船用の格納庫だ。といっても、救難船は母艦に外付けする形であり、主要格納庫のように大きな空間があるわけではない。


 私は帰ってきた救難船と母艦の接続部に向かう。

 撃墜されたパイロットが救助されていないかどうか見に来たのだ。宇宙空間での戦いの場合、生きて戻ってくることはほとんどない。


 私は一呼吸おき、救難船が戻ってきているのを確認してから中に入る。

 部屋の中は相変わらず簡素で静かだ。

 鳥肌の立つような冷たさえ感じられる。

 

「……どうされましたかな、中尉」


 入ってすぐ、私に気が付いた救難隊に所属する白髭の整備士が不思議そうに声をかけてきた。飛行後のパイロットが来ることは珍しいのだろうか。


「いえ、様子を見にきただけです」


 私は簡単に返事を返すと中を帰還者を探す。

 接続部の中では、整備士が何人か働いているだけだ。残念ながら撃破された自軍のパイロットは生還しなかったようだ。


「……別に珍しいことじゃない」


 周りを気にしていた私の様子から白髭の整備士が何か察してくれたようだ。


 まぁ、回収できないのも無理はない。

 そもそも致命傷を受けた機体はバラバラになってしまうことがほとんどだから。もし、運良くバラバラにならなくても宇宙空間のなかから冷たくなったパイロットを探し出すことは困難を極めるだろう。


「……お前の友人だったか?」


「友人……なのでしょうか……」


 撃破された機体のパイロットとは数回の面識しかなかった。それでも同じ護衛戦闘隊として幾度となくともに飛行した紛れもない『仲間』だった。


「…………」


 しんみり落ち込んだ雰囲気を紛らわせるため、私は目に入った物を尋ねる。


「あれは何ですか?」


 救難隊は何やら大きな箱を拾ってきたらしい。補給物資と並んで、見慣れない大きな装置が付いた箱が横たわっているのが見える。


「あれは撃破された敵の船の近くで見つけたものです。中から生体反応が」


 白髭の整備士が眉間にしわを寄せながら答える。


「近くで見ても?」


「もちろんです」


 整備士のじいさんと共にカプセル装置に近づく。

 装置の防護ガラスが曇っているように中が見えない。両脇に何やらたくさんのボタンが並んでいて、赤や緑といった色が淡く光っている。


「なんでしょうか?」


「危険物じゃないといいですが」


 母艦に乗っている救難船の整備士は他と比べるとベテランの数が多い。私といるこの整備士も顎に立派な白髭を付けるくらいには歳をとっている。


「おそらくはアウター・コアの技術でしょう」


 白髭の整備士は顎髭を撫でながら続ける。


「昔文献で見たアウター・コアにいるワーボ族の使う装置に似ている」


 こうゆう事があるたびに改めて銀河の広さを実感する。

 数多の種族が存在し、それらが共存するこの銀河では未知と出会うことなど当たり前のことなのだ。昔読んだ文献からこれを推測できるのは、やはりベテランだからだろう。


「開けれますか?」


 好奇心に駆られて私が尋ねると、白髭の整備士は難しそうな顔をする。


「どうでしょう……」


 そう呟きながら愛用品だろうか、古いタブレットと工具を持ってきて何やら操作し始めた。

 私はその様子をじっと見つめる。


 ちなみにアウター・コアとは、銀河系の中でも外側の領域を指すもので、外縁領域とも呼ばれている。纏まった星系が数が少なく、広大な小惑星帯が無数に点在している地域だ。

 それに対して、私たち生命体が住んでいる星系が多く集まっている領域をワールド・コア(恒星領域)と呼ばれている。他にも、銀河のあちこちには荷重警戒領域などの地域もあるが、今はどうでもいいよね。


「この手の装置には元よりも改造が加えられているはずだ。特に連合協商軍が持っていたものだからな」


 一体どういう理由で、連合協商はこんな外れの星の種族の製品を持ったまま航行していたのだろうか。もしかすると、今回の襲撃は想定外だったのではないだろうか。

 もしくは、連合協商の技術者にこれらの装置を扱う腕はなく、持て余していただけだろうか。


 そんなことを考えている間に手応えがあったようだ。

 白髭の整備士が声を上げる。


「おっ、装置と連動したぞ。これなら開けられそうだ」


 どうやら連合協商にも多少の技術はあるようだ。


「これで開けられるぞ」


 どうすると言わんばかりに白髭の整備士が振り返ってくる。正直、こんな未知のモノを独断で開くのは良くないのだが。なのだが、この場のだれもが好奇心以上の自制心を持ち合わせてはいなかった。


「よし、開けましょう」


「分かった」


 私の提案に白髭の整備士が頷く。

 そして向き直り、タブレットを操作して装置を開く。


 ピピピピピ……プシュー


 と音を立ててカプセルの中から空気が抜かれていく。それに伴って曇っていた防護ガラスが晴れた。


「「「あっ……」」」


 曇った空気が晴れ、中に眠っていた『それ』を目にしてその場にいた全員が固まる。

 見えてきたカプセル装置の中には小さな女の子が眠っていたのだ。


「…………」


「なぁっ!」


 多少の沈黙。

 直後、何かに気付いたように白髭の整備士が声を荒げた。


「ど、どうしたんですか?」


 私は慌てて質問する。


「……こいつはたまげた。未だに生き残りがいたとはな」


 白髭の整備士はカプセル装置の防護ガラスを慎重に開ける。すると眠っていた少女のまぶたが、ゆっくりと開いた。そして、私たちを見る。


「……ここは、どこ?」


 少女がゆっくりと呟いた。


「お主は、ガルム星系のガラム人なのか?」


 白髭の整備士が少女に質問する。


「わたし? わたしはガラムニル?」


 ガラムニル?

 その名を私は聞いたことがある。しかし、それはおとぎ話の中だけだ。 

 彼女はがラムニルといった。それは整備士が言ったガラム人ってことと同じような意味になるはずだ。多分だけど。


「ねぇ、ガラムニルって?」


「なんだ、聞いたことないのか? ガラム人と言うのはな昔隣国のドミナシオン帝国に滅ぼされた種族のことだ」


 あれ、おとぎ話じゃなかった。

 もしかすると私がおとぎ話だと思っていた本は歴史書だったのかもしれない。そんなことをふと考えてしまった。


「ま、無理もないか。滅ぼされたのは今から300年も前の話なのだからな」


 そう言いながら白髭の整備士は、少女をカプセルから抱き上げて近くの椅子に座らせる。


「これはどうしたものか」


 椅子にちょこんと座る少女を見つめて険しい表情を見せる白髭の整備士。


「取り敢えず、艦長に報告、か」


 未だにこれがどういうことなのか理解していない。もちろん周りで様子をうかがっていた整備士たちもぽかんとした様子だ。


「面倒だから艦長に任せよう」


 白髭の整備士は少し考えた後、頭をかきながら頷いた。


「報告している間、一緒に待っていてくれ」


「えっ? 私がですか?」


「お前ら! 船と物資を片付けておけ!」


 白髭の整備士は私の訴えを無視し、他の整備士に指令を叫ぶ。


「えっ、えー」


 それだけ言い残すと部屋からそそくさと出て行ってしまった。少しの間唖然とし、ふと周りを見回すといつの間にか数名いたはずの整備士たちが皆姿を消していた。


 私と少女が二人格納庫に取り残される。


「さーてどうしたものか」


 不安そうな少女が私のことをじっと見つめてくる。

 正直、とても気まずい。





感想などもお待ちしています!

それでは次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ