First stage 防衛機動戦(3)
依然戦闘は激しさを極めていた。
私たちが飛び立った母艦も敵艦隊へと攻撃を浴びせている。母艦は大型艦に分類され、敵艦よりも2倍近くも大きな見た目をしている。その為搭載している武装も多く、また重くなっている。一般的な対艦砲やレーザー砲、さらにイオン粒子を圧縮して持続的に飛ばすイオン砲やミサイル発射台などなど。
そんな単艦で作戦行動がとれるように改造してあるが故の重火力は敵艦を圧倒していた。
私達の小隊も更なる敵機を狙って旋回していく。
味方と敵の状況を見回すと、肉(支援物資)を積んだ補給船が敵艦からの攻撃を受けているのが見えた。
どうやら敵艦隊の注意を上手く逸らせていないらしい。
「支援物資を積んだ補給船が攻撃を受けてますね」
バルに報告する。
『ギリギリシールドで耐えている感じだな』
バルより先にケインから意見が出てきた。
『味方の状況から支援の必要もなさそうだし、敵艦の艦砲を潰しに行くぞ』
バルからそう無線が届くと敵艦に向けて進路を取る。
敵艦は母艦とも砲撃戦をしているため、戦闘機からの防御は対空砲に頼りきっている。
『このまま接近して残りの砲台を潰す。対空砲に当たるなよ』
「了解、任せてください」
速度を落として敵艦に再び肉薄する。今度はさっきよりも低速で、より近づいて飛ぶ。敵艦の表面はいろいろな物が突き出ていて、高速で飛ぶには危険だ。しかし、それを避けて、少し離れて飛ぶと対空砲火に晒されてやられてしまう。なので、ある程度速度を落としても肉薄した方が、対空砲火を避けやすく障害物も避けやすい。
もっと言えば、敵の対艦砲台も潰しやすい。
『突入するぞ』
バルの後を追って敵艦に接近する。そして、敵の砲台に向けてレーザー砲を撃ち込む。しかし、あまり効果がない。
敵艦を通過したので一気に速度を上げて敵艦から離れる。
『中央砲台のシールドが強力で破れないな』
バルから通信が入ってくる。どうやら他の2人も攻撃が通らなかったようだ。
『火器の火力を上げて再アプローチする』
「了解。次はミサイルに切り替えます」
私は主兵装をレーザー砲からミサイルへと切り替える。すると、照準器のディスプレイがミサイル用のものに切り替わった。
大きく旋回し敵の対空砲火を避けつつ、ミサイルを発射する。
『砲台の付け根がよく効くぞ』
先に攻撃を仕掛けていたケインからそんな助言が届いた。
私はすぐに自動誘導から補助誘導モードに切り替えて、ミサイルの着弾地点を操作する。
青白い尾を引いて二二のミサイルが砲台に向かって飛んでいき、一本目が砲台直下に命中。大爆発を起こした。さらにトドメの二本目を喰らわせると砲台は完全に破壊され、使用不能になった。どうやらミサイルなら効果が出るようだ。
そうと分かれば。
私たちは次々と砲台を破壊していく。
嬉しいことに敵艦はまだまだいる。母艦からの集中砲火を受けていない敵艦を中心に、さらに砲台を破壊していく。
砲台の損失に敵艦が攻撃をやめて退避するのを確認し、バルから連絡がきた。
『ミサイルの残弾はあるか?』
照準器の下にある残弾を表示したディスプレイを確認するとレーザー砲のエネルギーはまだ余裕があるが、ミサイルの残弾は一と表示されている。
「残り一発、もうありません」
『こっちもだ』
どうやら私と同じようにケインもほとんどのミサイルを撃ち尽くしたようだ。
『よし、離脱するぞ』
バルの指示で敵艦から離脱していく。
これで補給船の被害を減らせる。やったね。
『……3人とも、いい判断だ』
どこからか私達の活躍を見ていたらしい中隊長からの賛辞の無線が送られてくる。
「ありがとうございます」
中隊長にお礼を言うと、再び敵戦闘機の迎撃任務に戻る。
その後1時間にもなる長い戦闘を続け、何とか連合協商軍を撤退させることに成功した。
『全小隊、一時集合せよ』
中隊長からの指示が送られてくる。
その指示に従い、各小隊が中隊長の元へと集まってくる。
相変わらず、私たちの乗る母艦の火力は圧倒的だった。私達の小隊が、一部敵艦の砲台を潰したとはいえ、敵艦をほぼ一方的に撃破していた。
それもそのはず、あの母艦は銀河中に5隻しかない特別な攻撃型巡洋艦なのだから。元々は、実験艦として設計されたらしいが試しに製造してみると故障が多く5隻だけで中止となった。
敵の艦隊の損害は中型艦3隻が完全に破壊され、護衛の大型フリゲートが大破し放棄されていた。敵戦闘機の損害に関しては、24機と作戦ブリッジから報告が上がってきた。
今回の作戦で私たちの損失は、戦闘機3機が撃墜され、さらに4機が大きく損害を受けていた。
『第64戦闘機中隊、現時刻をもって作戦の完了とする。皆よくやった。順次帰投せよ』
作戦ブリッジから作戦終了の知らせが届く。
そのすぐ後、中隊長からも指示が出る。
『引き続き損害の少ない機体は、周辺を警戒せよ。おつかれ』
私の機体は目立った損害はない。しかし、他の機体よりも弾薬の消耗が激しい。よって中隊長より個別で帰投せよとの指示をもらった。
なので、編隊を離脱して母艦へと進路を取る。
「終わったぁ」
私はコックピットの座席に深く腰掛けた。
まだまだ戦闘になれない若い体をコックピットの中でできる範囲にリラックスさせる。
母艦への自動操縦をセットすると操縦桿からも手を引いた。
ちょうど補給船が私と同じく母艦へと進路をとったようで、すぐ隣を航行しているのが見える。頑張れば、補給船の窓から乗組員の姿が見えるかもしれない。
それくらい近い。
『マウザー5、ご苦労さん』
母艦から出動した救難船とすれ違いついでに通信が来た。
「ありがとうございます」
おそらく味方パイロットや敵艦の生存者の救出と連合協商軍の物資や生き残りを拾いにいくのだろう。
そんなことをぼんやり考えていると作戦ブリッジから引き継いだ航空管制ブリッジから無線が入る。
『マウザー5、着艦準備に入れ』
順調に母艦は接近し、格納庫の近くまで来た。
航空管制の指示のもとメインエンジンを切り、予備エンジン及びリパルサーを起動する。
安全にハンガーゲートを抜け格納庫の中に入る。予備エンジンの出力を切り、完全にリパルサー機動になると着地に移る。そしてゆっくりと機体を下し、設置したのを感じると機体のシステムを停止させた。
まだ体に浮遊感が残っている。
『お疲れ様でした』
「ありがと」
ここまで誘導してくれた管制官にお礼を告げると通信も切ってヘルメットの顎ひもを外した。
コックピットの保護シールドを開けると、ちょうど青年が梯子をもって来るところだった。
「お疲れ様です、中尉」
「全くだよ」
私はヘルメットを座席に置き、コックピットから飛び降りると青年の肩を軽く叩く。
「無事に補給が終われば肉が食べられますね」
「やったね」
青年の言葉に笑顔で返事をする。
そうだ。無事に補給船が補給を始めれば食堂のおばさんが肉料理を作ってくれる約束だ。
「あ、そうだ。食堂の婆さんから伝言です。補給が終わって肉料理が食べられるのは夕食になるそうですよ」
「マジか……なら昼食抜こうかなぁ~」
「それならこれをどうぞ」
私の冗談を真に受けたのか、青年が胸のポケットから栄養補給のできるゼリー飲料を取り出して投げてきた。さすがに悪いとも思ったが、まじめな青年の顔に圧倒され返せなかった。
「……ありがたくもらうね」
「体には気を付けて」
心配しつつも呆れたような声が聞こえた。
そんな青年に軽く手を振って格納庫を後にした。
青年からもらった栄養ゼリーは、疲れた体も相まって少し甘く感じた。
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それでは次回もお楽しみに