Fifth stage 何者かの強襲(2)
プラットフォームからの道のりはそこまで広くはなかったはずだが、この車両はらくらく通っている。というよりも、切り開いているという表現に近い。
「頭上にも気をつけて下さい。この辺はまだ大丈夫でしょうが『ゴン・カレッド』が出没するので」
「なんですか、それ?」
聞き慣れない生物の名前だ。
「あれ、知りませんか。ここらでは有名ですよ。ここに来るなら旅行会社などから忠告があるほどに」
「……そう、ですね」
「最近は知らずに来て死亡するケースも多いので気を付けてくd」
車長の話を遮るように、私たちの後方を走る戦車にエネルギー弾が命中した。
耳を切り裂くような高い音とともに、眩しい閃光が走った。
「グラーブ3、被害状況を報告せよ」
車長が慌てて振り返りながら無線で呼びかける。
車両の周囲にいた兵士たちも臨戦態勢になり、散会しつつ砲弾が飛んできた方を警戒する動きを見せている。
「こちらグラーブ3。対エネルギー装甲が正常に作動しました。損害は軽微」
「了解。応射するぞ」
2両は防御姿勢を取りつつ、砲塔を旋回させていく。
「シフィー、頭隠して」
少女にそう言うと戦車の動きに合わせて私は車体から飛び降り、少し離れた傾斜の上にある大きな倒木に身を隠す。
「あ、ちょっと」
「シフィーをよろしく」
慌てた様子の車長にそうお願いすると、私はレーザーライフルの出力を上げ、狙撃モードに変更する。
私の感だが、恐らく側面から攻撃してきた奴らは囮で、他に決定的な対戦車兵器を備えた宙族が隠れているはずだ。
そう考えてライフルの照準器を覗き周囲を警戒する。
ーー見つけた
応戦する戦車から500メートルほど離れた草むらに、対戦車誘導弾を準備する宙族の姿が見えた。
口径はわからないが、個人携帯型にしては比較的大きなモノのように見える。
「あれって確か……対物波動弾、か。でも……」
照準器から見える誘導弾の表面には、何かが擦れて消されたような痕が見える。誘導弾をどこで見たか考えようとしたが、今は時間がない。
彼らを倒すのに時間を掛ければ掛けるほど、戦車とシフィーに危険が迫ってしまう。
私は、彼らの中で誘導弾を装填している宙族の頭を狙って躊躇なく引き金を引いた。
放たれたレーザー弾はまっすぐ頭に吸い込まれていき、命中と同時にプラズマエネルギーが宙族の頭を粉々に吹き飛ばす。
その少し後にズドーンとお腹に響く爆発音と爆炎が上がったので、恐らくは落とした誘導弾が誤爆したのだろう。
想像以上に上手く事が運んだので油断してよそ見をしたその時、私の右腕に激痛が走った。
「くっそ……」
衝撃で倒れ込む勢いを利用し倒木の影に隠れる。
絶えず激痛が走る右腕を見ると、二の腕の真ん中あたりの皮膚が切り裂かれ、表面が黒く焦げて煙を上げていた。
どうやら宙族の仲間ら反撃を食らってしまったようだ。
倒木からそっと顔を出すと、さっきまで草むらに隠れていた宙族の生き残りが私のことを狙っているのが見える。
顔をのぞかせる私に気付いたのか、再び閃光が倒木にあたって弾けた。
これはダメそうだ。
「致命傷にはなってないな」
顔を下げて傷口を再度確認すると、胸ポケットに入れておいた即効性鎮痛剤を右腕に打ち込む。すぐに痛みが引いていくが、傷自体は治らないため包帯として代わりの布を巻く。
一通りの応急処置をしながら、撃ってきた相手の様子を倒木の隙間から覗く。どうやら、まだ、相手は移動しないでライフルを構えているらしい。
「さーて、どうしたものかな」
身動きが取れずに困っていると、先に戦車の方で動きがあった。戦車の1両が道を外れて交戦している宙族団に接近を始めたようだ。
その気を逃さないように、すかさず倒木の脇から身を乗り出してスコープを覗くと、私を狙っていた敵に照準を合わせる。
キィィィィィィィイ
突然、そんな雄たけびのような、悲鳴の声が響いた。
間髪入れず、スコープの先の宙族に向かって空から一直線に大きな岩が落ちてきて脳天から押し潰された。
「えっ……えー」
私がとっさに上を見上げると、私の上にも岩が落ちてきている。
「きゃあぁ」
反射的に倒木を飛び越え戦車のいる道へと飛び降りる。
ぎりぎりの所を大きな岩を避けることができた。
「危なかった……」
「おい、この場を離れるぞ。急げ」
ちょうどこちらに向かってきていた戦車の車長が手を伸ばしてきたので、その手を借りて飛びつくようにして戦車の車体に乗る。
「よし乗った。行け」
いつの間にか道に戻ってきていた友軍のグラーブ3が先行する形で再び前進する。
「腕、大丈夫か? 痛そうだが……」
「……いたい?」
目をうるわせて私を見上げる少女。その顔が可愛くて痛みが引いた……ことは決してないが優しさが嬉しい。
「そう言えばあれは何なの?」
思い出したように空を指さして私は尋ねる。
「あいつらが、さっき言っていたゴン・カレッドだ。彼らはデカくて重い岩を落としてくるから気をつけろよ」
その警告の直後、私たちのすぐ後ろに大きな岩が落下してきた。
「な?」
「あれが当たったら死ぬね」
宙族の脅威と比べると、こっちのほうが圧倒的に危険そうだ。当たれば一撃で葬り去られてしまう。
車列は回避軌道を取りつつ前進を続けている。いつの間にか周囲にいた歩兵たちが姿を消していて、どうやら戦車の軌道に追いつけないため身を隠しながら合流地点に向かわせたらしい。
そんなことを考えている間も近くに岩石が落ちてきていた。
「まもなくプラットフォームの防護圏内です」
「なるほど?」
「さすがにプラットフォーム周辺には滞空中生物用の警戒網がありますから」
「なるほど」
そんな話を聞いていると不意に上空から放電による電流の音と、少し遅れてゴン・カレッドの悲痛な鳴き声が響いてきた。
恐らくだが制空圏に入ったのだろう。
「もうすぐプラットフォームだぞ」
「了解、降りる準備をするよ」
ライフルを担ぎ直し、キューポラから少女を引っ張り上げると入れ替わるようにして車長が乗り込んだ。
少女が落ちないように捕まえながら、小型端末を取り出して最新の情報をアップロードしていく。
「プラットフォームの被害はなし。離陸できそうです」
送られてきた情報では、惑星の軌道上で制空戦が起きているようだったが、戦況はやや優勢のようだ。
それからすぐにプラットフォームが見えるところまで来た。戦車が停止するとすぐに揃って飛び降りる。
「「ありがとうございました!」」
「こちらこそ、おかげで助かったよ。では、またどこかで会おう」
あまり止まってもいられないためか、私たちに挨拶すると2両ともすぐにUターンして別の街道へと進路を変更していった。
彼らを少し見送ってからプラットフォームへ足を向けると、ちょうど出てきた警備担当の女性が見えた。
「お待ちしていました」
艦の警備をしてくれていた他の3人も出迎えてくれる。
私たちは移動しながら報告を聞く。
「船に異常はなかった?」
「はい、問題はありません。ですがお急ぎ下さい。上空の制空権が緊迫しているので、急がなければ彼らに補足されてしまいます」
「そっか、分かった」
36番プラットフォームに入ると、私たちのフリゲート艦は何事もなく停泊している。
すぐに防犯システムを停止させ、エンジンを遠隔で起動させる。低い始動音が響き渡ったかと思うと、各所のシステムが連鎖的に起動していく。
「警備はもういいよ。これはチップね」
「ありがとうございます」
警備リーダーであろう女性の胸ポケットから顔をのぞかせている端末に対して、規定の料金に追加して報酬を支払う。
それらを受け取ると4人は、早足でプラットフォームから退散していった。
「整備士たちはもう少し頑張って貰うよ」
「もちろんです」
整備士たちには外装甲の調整をしてもらわないといけないので、そのまま作業を続けてもらう。
上空はまだ静かで晴れやかだが、ここもいつ強襲されるか分からない。整備士の安全も考えると一刻も早く離陸しなければいけないな。
遠くにまだ聞こえるゴン・カレッドの雄叫びに、気を取り直して船の整備を進めた。
感想などもお待ちしています!
それでは次回もお楽しみに




