Fifth stage 何者かの強襲(1)
読者さん、お久しぶりです
年始に少しバタついたため、すっかり一月更新の予約を忘れていました…… 本日から連載が復帰します。今年もよろしくお願いします。
それから三日間はこの星にある多くのレジャー施設を巡りまわった。
大森林をバイクで駆け抜けたり、大きな湖をボートで漕いだりと久々に純粋に楽しい時間を過ごすことが出来た。
さらにこの星では、香りの良いインテリアが多く売られている。なので出発の時に購入を見送った物をいくつか買い込むことにした。少し高いが品質は一級品だ。
「これ欲しい……」
少女が指を指しているのは、木製の食器類だ。
食器類は出発する時に一通り買ってはいたが、まあ問題はないだろう。
「そうだね。じゃあ2人分買おうか」
店を見て回る間、私達に付き添っている人間の店員に目を向ける。それに気づいたのか、店員は商品の番号を確認し手にしていたボードに転写した。
やはりこの星では、原始的なマニュアル作業を好むようだ。
「そう言えばお客さんはあの噂を知っていますか?」
「……噂、ね」
次の商品を見て楽しそうにする少女を尻目に店員が囁く。噂とはつい最近から下の街で街で囁かれ始めたものだ。それは、
『対帝国戦で劣勢に立たされている連合協商がこの星を攻めてくる』
と言うものだ。
この噂の正否はわからないが、傭兵や警備員の動きがやけに多くなってきているのは確かだ。昨日も複数の商会保有の輸送船が大空の先へと旅立っていった。
少なからず何かが起きる兆候なのだろう。
「私は……流石に信じたくはないですね」
返答に迷っていると店員がそう言う。
「私はこの星から逃げる手段を持っていません。ましてや私にはまだ小さい妹がいるんですが、逃げても彼女と生きていけるかはなんとも……」
そう言って店員は胸のペンダントを見せてくれた。
古ぼけたペンダントにはオレンジ色に輝く小さな宝石が付けられている。そのペンダントの中には、小さな女の子の写真が入っていた。満面の笑みでこっちを見つめる少女。
「妹……ですか」
「はい。今は一応この上の街に住んでいますが、次の税金が払えそうにないので来月からは下の街ですね」
店員は痩せていて、あまり裕福ではないのは分かっていた。
そんな店員の目を見ているとかける声が見つからない。
「……」
まさか独り立ちしてすぐに、こんな過酷な生活を目にするとは思っていなかった。1人で生きる。誰かを養って生きる。
私にはどうすることも出来ずただもどかしいだけにしか思えない自分に落胆した。
そんな日の夜。
私達は船には戻らず、この上の街で一晩明かすことにした。
街の中心にある大きな酒場で夕食を取ると、簡素な部屋を借りて寝泊りの準備をする。
「今日は楽しかったね」
布団にくるまり少女が囁く。
「そうだね。だから、おやすみ」
私は少女のおでこに優しくキスをする。
そして窓の外から聞こえる賑やかな声を聞きながら、少女と2人で静かな眠りについた。
早朝、それは突然だった。
木々の間から眩しいくらいの朝日が差し込んできて目を覚ます。
昨晩は遅くに寝たからかまだ重たい体を起こして窓を開けると、外から焦げ臭い匂いが漂ってくる。煙たいわけではないからどこかの家が朝食を焦がしたのだろう。
「何かあったのかな」
不思議に思って玄関の方へ移動すると、ちょうどカーゴが訪ねてきていた。懐かしい戦闘服を着て、肩には大型のライフルを担いでいる。
「こんな朝早くから何してるの?」
カーゴに対する驚きで眠気とだるさが吹き飛んでしまう。
「何かあった?」
私の質問を無視するように、カーゴは口を開いた。
「ちょうどよかった。渡したい物が完成したから来たんだが……」
そう言って差し出されたのは小さな袋だった。中にはなにかが入っている。
「これは?」
私が問うと、
「そいつが導いてくれる。お前たちをガラム星系に行く情報を握る者へと」
そう言うカーゴはなにか周りを気にした様子を見せている。周りをキョロキョロし、目が何かを探しているようだ。
「ねぇ、何かあったの?」
「お前、まだ知らないのか。昨日の夕方に、東の村が襲われたようだ」
カーゴが早口でそう言う。
まさか、最近噂になっていた連合協商軍が攻めてきたのだろうか。
「誰に?」
「連合協商の軍隊に……って言いたいところだが、少し違う。近くの小惑星帯を支配する宙族の集団だ。恐らくだが、彼らが協商を名乗っているのだろう」
「ええぇ……」
私は急いで部屋の外に出ると上空を見上げる。
まだ宙族は来ていない、のか。
「お前は急いで船に戻ってこの星をでろ!」
「カーゴお前はどうするの?」
「久々にひと暴れするさ」
それだけ言うと担いでいたライフルを見せびらかすように持つ。
「それを見てワクワクする私も大概だよね」
「おうよ」
走って他の人を呼びに行くカーゴを見送ったら、すぐに私は少女を起こしに行く。
「んー? なにぃ~?」
「逃げるよ」
「えっ……」
まだ寝ぼけた顔でうとうとしている少女を無理やり起き上がらせると、急いで支度をしてフリゲート艦の停泊しているプラットフフォームを目指す。
エレベーターで下の街へ降りた頃には上空に、宙族の戦闘機や輸送船が襲来していた。
「少し手遅れだったか」
私は護身用に持ってきていたハンドガンをホルスターから抜き出すと、少女の頭をなでた。
「さぁ、行くよ」
「……うん?」
私たちは船のある方へと向かった。
地上の街ではすでに戦闘が始まっていた。
私達は近くにあった障害物に身を隠すと、宙族の放った弾丸が近くに当たって弾けた。
「危ないから身を隠して」
少女をより安全な私の背後に移動させ、そっと顔をのぞかせる。
侵略してきた宙族たちは、明らかに良い武器を使っているように見える。
「ねぇ、どうするの?」
少女がパニックになっていないのがせめてもの救いだ。
組織にいた頃はそれほど多くはないにせよ、何回か地上戦闘を経験した。その甲斐あってか、少女も私の持ってるような小さなハンドガンくらいなら上手に扱える。
「どうしようか……」
船に続く道は戦場を横切って行かないといけない。
取り敢えず近くにいた宙族を倒し、そいつから奪ったレーザーライフルを持って、ハンドガンを少女に渡す。
「いつも通り使って」
「うん」
幸運なことに宙族たちはエネルギーマガジンを複数所持していたため、フリゲート艦に戻るまでに弾がなくなることはなさそうだ。
本当にどうしようか。
現地点から船までのルートははっきり覚えているが、その道を直進するには障害が多すぎる。かと言って森を横切るにしても、地理感のない私たちにはどのみち危険すぎる。
次の行動を考えていると、突然近くの宙族団が移動を始めた。どうやら何者かと交戦を始めたようだ。
「しっかり着いてきてよ」
「わかった」
私はチャンスだと言わんばかりに、タイミングを見計らって障害物から飛び出す。
どうやらちょうど、防衛用に配備されていた自警団が無限軌道輪の付いた戦車を引き連れてやってきたようだった。主砲から放たれた砲弾が宙族の隠れる障害物諸共吹き飛ばす。
彼ら自警団の装備タイプは主に2種類で統一されている。1つ目は125ミリで実体のある砲弾を撃つタイプで、もう1つは25jbのエネルギー弾を撃つタイプだ。これらのタイプは銀河内でも標準的な防衛兵器であり、実弾はエネルギー装甲に強く、エネルギー弾は物体に強いという役割分担がやりやすくなっている。
出動した戦車は見える限りで15両。その内2両と十数名の兵士が私たちの方へやって来た。
「プラットフォームから連絡が来ています。私たちが目的地まで護衛します」
どうやら、プラットフォームまで護衛してくれるよう手配してくれたようだ。無線機を手にした中年の車長が挨拶してくれる。
「ありがとうございます」
お礼を言い、先に少女を乗せてから私も戦車によじ登る。
「お気になさらず。どの道、味方の連絡網を開くためにプラットフォーム方面へ進撃しなければいけませんので。ついでです」
そう言って中年の男性がウィンクを見せてくれた。
「中に入りますか?」
車長がキューポラから身を乗り出し場所を開けてくれたので、少女をそこに座らせる。
「私は外で大丈夫です」
「そうですか。では揺れるので注意して下さい」
「お気遣い感謝します」
車長がそう言ってすぐ一団は出発した。
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それでは次回もお楽しみに




