Forth stage 故郷への欠片(1)
すっかり長いこと散策して、私たちが重フリゲート艦の所に戻るとムスッとした表情のガミリオスが待っていた。
「積み込み終わったぞ」
「ありがと」
私が笑顔でそう言うと、なんだかんだ呆れたような表情を見せる。
「これを受け取る気になってくれたんだな」
「正直今でも気が引けてる」
「貰えるもんは貰っとけ」
まるで他人事のように言うガミリオスに思わず笑ってしまう。
「これあげる」
そんな私たちの所にきたシフィーが、ガミリオスにお土産を渡す。渡したのは帰りの港内移送車を待っている間に再び買った甘い香りの焼き菓子だった。
「お、これ美味しいやつじゃねぇか。ありがとよ」
そう言って荒っぽく少女の頭を撫でている。
『アテンション。大型艦D-21が離脱シークエンスに突入しました。クルーの方は急いでD-21へ。繰り返します……』
ステーション内アナウンスで、組織の母艦が離脱するという旨が流れてくる。
「そろそろ時間だ。お前たちはまだここにいるのか?」
「まーね。この船のおかげで予定より早く準備ができたし。あとお金も」
そんなことを言っているとなんやかんやで溢れそうな思いがこみ上げてくる。
今日は別れが多いせいか涙腺が緩みきっている。
「じゃあな嬢ちゃん」
「またね。おじさん」
私が涙ぐんでいるせいか、ガミリオスは先に少女への挨拶を済ませている。
「いろいろありがとう」
「まぁ、またすぐ会えるさ」
ガミリオスがどこかこっぱずかしそうに、そして励ますように言う。
「それじゃあ。またいつか」
「うん、またいつか」
その言葉を最後に、ガミリオスは去っていった。
後ろ姿を見送りながら私は少女と手を握っていた。大丈夫。私はもう大人になったんだ。
予想外のプレゼントもあって、それから3日後には私たちの艦も無事に離陸基準を満たして、商業港のプラットフォームを離れる事が出来た。
もう少し商業港生活を満喫してもよかったが、せっかく浮いた資金を遊んで使うにはもったいなさを感じてしまったのだ。
「こちらアンドレア級重フリゲート。これより離陸する」
新しいコックピットで、新しい座席に座り、傷のない操縦桿を握っている。
目の前に広がるフロントガラス越しの視界はかなり良好で、広大な範囲を見渡すことができる。
『了解、アンドレア。規定の順序に従いステーションを離脱せよ。それでは幸運を』
管制塔から指示が降りたので、一気に離陸しステーションを離脱するため機体を操作していく。
私の席の隣には少女が座っていて、ワクワクした視線を広がる宇宙空間に向けている。
船の名前が『アンドレア』なのはめいめいが面倒だったわけではなく、少女が紹介時からずっとアンドレアと呼んでいたことから自然とそうなったのだ。
「じやぁ、行こうか」
「うん!」
私は光速航行の準備をすると、一気にレバーを引く。
機体は蒼白い光の中へと滑り込んでいった。
☆★☆★☆★
亜空間から抜けて。
新しくもらった船で最初に向かったのは、アウター・コアに位置するカルセイア星系と言うところだ。もっと言えば、この星系の中腹部に位置する第3惑星で、緑にあふれた豊かな星「ジャンター星」
どうしてこの星に来たかというと、母艦にいたころの白髭の整備士からこの星に行けば物知りの友人に会えると言われていたからだ。その為の通行権として宝石のついたペンダントをくれたのだろうと想像ができる。
『こちらは、ジャンター軌道管制局。侵入を許可します』
そんな私たちは今、この星の軌道管制塔に接近している。
「了解。感謝します」
コックピッドの機長席に座る私は管制局の指示の下、決められたコース上に船体を滑らせていく。
『キャプテン。ガンバープラットフォームの36番が空いています。停泊コードを送信しました』
「了解、コード取得」
船体のメモリーに管制局から送られてきたコードが表示される。
このコードには、停泊するプラットフォームの情報や船体の停泊日付、物資運搬費、補給の状況など、停泊にかかる様々な時間やお金が集計される。
さらに星系内での移動の際は、星系外に出るまでこのコードで管制局とのやり取りをスキップすることができる。
「停泊地の座標を確認したよ」
副機長席に座る少女が、表示された画面を見て言う。
「んー、街からも意外と近いね」
「ここにお店があるよ」
「うん、そうだね」
コードを通して読み込み、さっそくジャンター星の商店状況を見ながら声を弾ませている。
「こちらアンドレア、コース確認。感謝する」
『問題ない。ようこそ、ジャンター星へ』
管制局の歓迎の言葉を最後に通信が切られる。
完全に切れたことを確認すると、操縦桿の前にある画面を『通信記録保持システム』から『着艦誘導システム』へと切り替える。
すると、画面内に受け取ったコードから分析したプラットフォームまでのコースが赤線で示され、それに連動して船体の操縦アシストが作用する。
軌道上からずれるのに多少船体は揺れたが、すぐに安定し、ゆっくりとプラットフォームに向けて高度を下ろしていく。
「みどりが見えないかな」
「そんなに楽しみなの?」
「うん、みどりの星はほほとんどないから」
確か前に少女の故郷の星『ガルム星』について調べたとき、地上の殆どが苔に包まれていて植物があったとしてもほんの一部分だけだと書いてあった気がする。
彼女の種族の技術力からして、殆ど外の世界を見たことがなくてもおかしくはない。ましてや、彼女はまだ子供なのだ。ワクワクするなという方が無理な話だろう。
「このくもの下にあるのかな」
ニコニコしながら呟く少女。
「雲を抜けるまで少し時間があるから、外に出る準備をしておいで」
「うん、分かった!」
コースが指定されていればよっぽどのことがない限り安定して飛べるので、待っている間少女に外出の準備をさせる。
この星系の恒星は少し小さいため、緑が生えているこの星でも多少厚着する必要がある。向かっている間にその事を話しておいたので、しっかり準備してくるだろうと思い、しばし休むことにする。
そんなこんなで少し経つと、船体が地上を覆い隠していた分厚い雲を抜ける。
フロントガラスを通して明るい光が差し込んでくる。
「んー眩しい」
暗いくもを抜けていきなりだったため一段と眩しく感じる。
それに反応したのか、船体の補助システムがフロントガラスの対光線シールドを展開した。
このシールドは戦闘時に爆発の光で機長が困らないようについているので、使い時が少ないと思っていたが、こんな時にも役に立つのでありがたかった。
シールドによって保護されたフロントガラスによって外の景色が見やすくなる。
「あー……やっぱり綺麗だな、この星は」
私は前に一度だけこの星に来たことがあった。背の高い木々に囲まれた森が永遠に続いているんじゃないかと思わせるほどの大自然。
それを見た時から私はこの星の美しさに惚れ込んでしまっていた。
「わぁー、きれー!」
背後から、戻ってきた少女のそんな感激する声が聞こえてくる。
「椅子に座りな。もうすぐ着陸だよ」
「分かった」
少女の服装は、ちゃんと長袖を着てきていた。しかし、それでも少し薄着のように見える。ま、それは後から羽織物を上げれば問題ないだろう。
大自然の森の間に、人工的に整備された空間が見えてくる。それも自然の景観を崩さないように絶妙に整備がされている。
「着陸コード送信」
船体がプラットフォームから10キロのところまで迫ると着陸用のコードを送信する。
すぐに返信及び、着陸の許可を知らせる通知が鳴る。
「よし、操縦アシストをオフに」
「はい」
私が呟くと隣に座る少女が返事をする。
操縦桿を握り速度を落とす。
プラットフォーム上では、着陸誘導員が赤い誘導ライトを振っているのが見えた。
「少しずれてるかな」
船体の向きやバランスを調整しつつ、船体下部から四本の足を下ろす。
そのままゆっくりと船体を降下させていき、やがて地上に設置した感覚が座席を伝って伝わってきた。それが分かるとエンジンをスタンバイモードに設定し、対地空警戒網を起動させる。これが点いているだけで地上での防衛力が格段に増加する。
「みて! だれか来たよ」
一通りのシステムを確認していると少女が言った。指差す方から四人の護衛に囲まれた将校服の女性が近づいてきているのが見える。
「おそらく出迎えだろうけど……少し警戒したほうが良いかもね」
「うん」
私はベルトを外すと少女の後を追ってコックピットから出る。
腰に下げた小型のハンドガンに手を添えて、貨物室まで降りる。そして、壁の装置を操作し、スロープを下ろす。
危険を知らせる警告音が三回なってからゆっくりとスロープが降りていく。
「お待ちしておりました」
完全にスロープが下り切ると、目の前に立っていた将校服の女性がそう言った。
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それでは次回もお楽しみに




