Third stage 自由への二人立ち(3)
「どこにいたんですか?」
私は急に現れたガミリオスに向かってそう言い放つ。
「やぁ、久しぶり。元気にしてた?」
「質問に答えてください」
はぐらかすので私は、少女の方を見る。
どうやら少女はこの男に餌付けされていたようで、銀包のお菓子を食べている。
「いやー、いろいろ手続きしてたら遅くなってね。あっ、そうそうここに運んでね」
「あっ」
ガミリオスが差し出したタブレットに、しまったと思い振り返ると荷物の移送場所が中型機のプラットフォームに変更されていた。
「本当に何するんですか、まだ船がないって言ったでしょ」
勝手なことをしたガミリオスに対して不満をぶつける。
「知ってるさ、だからこれを用意したんだから」
そう言って見せびらかしてきたのは、中型機用プラットフォームの駐機許可証だった。
「それが何?」
「見れば分かる。着いてこい」
そう言って意気揚々と歩き出すガミリアス。
半年前には顔色悪くしていたのに、どうして今日はこんなにも元気なのか。
そんなことを考えていると、いつの間にか荷物から降りていた少女がガミリアスを追って着いていってしまう。
「えっ、ちょっと待って。支払いがまだ…」
「もう済んでる」
気がつくと私の荷物の元に運搬ドロイドがふたりやって来ていた。カウンターの女性ドロイドも全ての案内工程が終了し、笑顔でスタンバイモードになっていた。
いつの間に支払っていたのだろうか。
「おねぇーちゃーん! はーやーく、きてー」
考えていると、先を歩いていた少女が大声で呼んできた。
周りの注目が少女の元へ。次いで私の元へと向けられる。
「あー、待ってよ…」
恥ずかしさのあまり弱々しくそういうと、早歩きで2人の後を追うしかなかった。
メインエントランスのすぐ横には、汎用エレベーターが置かれている。このエレベーターは、上下左右に通じていて、だだっ広いステーション内を快適に素早く移動できる。数もかなりあり、一度に50人は軽く乗れてしまうくらいの広さがある。
そんなエレベーターに乗って中型機用のハンガーに到着した。
中型機用ハンガーは4つあり、各100機ほどの中型機が停泊可能となっている。
「ガミリアス。確かに倉庫に入れるよりも個人の機体に積んだ方が安く済みますが。私たちはここに一か月くらい滞在する予定ですよ。ひまなんですか?」
歩きながら私は訴える。
「ずいぶんな言いようだな。だが、俺の船に積むんならな」
どういうことだろうか。
ほかに何か別の手段を用意したのだろうか。
「それと。荷物の移送費、勝手に払いましたね」
「あれくらい大した事ない」
「独り立ち早々に貸しを作りたくないんですけども」
「じゃあ……あれは独立記念費だ」
「なぁ……」
それを言われると何も言い返せない。
私は一応を受け入れ黙ってついていく。
中型プラットフォームの入り口をくぐると、駐機してある機体を避けながら進んでいく。いい加減、どこに向かっているのか教えてほしいものだ。
「と言う事で、私からのプレゼントだ」
立ち止まった先には、1台の新型機が停泊していた。
「……一体何の冗談ですか?」
その機体を私は知っていた。
型番『Zad-12A』のアンドレア級重フリゲート艦だ。
フリゲート艦と言っても武装はそれほどなく、長距離移動や旅用に設計された船だ。小惑星帯などで機体を守る自動迎撃砲や魚雷などが武装として搭載されている。
そして何よりこの型番は、メーカーカスタム可能な軍艦だ。
「いい船だろう。カスタムモデルでセキュリティも万全だ」
「あ…あぁ……」
誇らしそうにそう言うガミリオス。
そんな男を尻目に私は絶句していた。
少女はと言うと、ガミリオスを見てか同じように目を輝かせて船を見ている。
「取り敢えず、荷物が届くまで中を見て回るぞ」
そう言って船の、フリゲートのスロープを下ろすと中に入っていく。その後を追って私も新品特有の香りがする船内へと入った。新品なのだ。
中に入ると主電源が入り電気がつく。
スロープを登った先は、格納庫になっていた。色々な物資が入りそうな大きめの格納庫。
今は何もないためその奥にある扉に向かう。
スライド式の扉を抜けて本当の船内へと入ると、奥にさらに扉があり、そこへ向かう通路の真ん中あたりに上へつながる梯子があった。
梯子を登ると2階には船室が広がっていた。部屋は四部屋だろうか。通路に沿って扉が5つある。
その一部屋を覗くと、意外にも広いへやだった。
二部屋ずつ向かい合ってあり、その先には共用スペースが少し広めに存在していた。
共用スペースはどうやら、艦首の武器兵装と繋がっていて、大きめの家具はそこから中へと運べるようだ。
「広い…広すぎる…」
私は思わずそう呟いてしまう。
「広いねー」
少女は嬉しそうに各部屋を覗いている。
登ってきた梯子の奥にも扉があるため気になっていると、
「艦尾の方の部屋はシャワールームとトイレがあるから」
私が気になっていた所をさらっと教えてくれた。流石は長い付き合いなだけある。
共用スペースのさらに上。半階のところにコックピットが見える。
とにかく大きな船なので、まだまだいろんな仕掛けや部屋がありそうだと思うとワクワクしてきた。
「何が目的ですか?」
こんなことを言うのは良くないかもしれない。
しかし私は、ガミリオスが何のたくらみもなくこんなモノを与えるとは到底思えなかった。
「子供の頃から戦闘に参加させていたせめてもの罪滅ぼしだと思って受け取ってほしい」
私がガミリオスの方を見ると、そう改まって話してくれた。
そんなに改まって言われては嫌とは言えない。
全くどうしたら良いものだろうか。
重フリゲート艦のプレゼントについてはまた考えるとして。いろいろ混乱していた私は、荷物が届いたことによって少し落ち着いた。
「オトドケニマイリマシタ」
移送ドロイドがそう言う。
「ありがとう……本当に、ありがとう」
相手がドロイドだと分かってはいるが、どうしようもない感情に何度も感謝を伝える。
「もういいや。取り敢えず全部積み込んでおいて。向こうにいる男が責任持ってくれるから」
落ち着くついでに大きなため息を吐く。
そしてちょうど貨物倉庫から出てきたガミリオスに全ての積み込みとチップを丸投げして、私は少女と共にステーションの散策に向かうことにした。
「じゃ、後よろしく」
「ばいばーい!」
「おい、ちょっと待てって」
私たちがプラットフォームの出入り口に向かって歩き出すと、ガミリオスが慌てて声をかけてきた。
しかし今回は、少女は私側についている。
楽しいところに行こうと言ったら嬉しそうについてきてくれた。と言うか、食べ物に釣られてなければきっと私の味方をしてくれていた、はずだ。きっと。
「お土産は買ってくるよ」
そう言い残すと背後から、残念そうな悲鳴を上げているガミリオスの声が聞こえてくる。
さて、ステーションを散策すると決めたは良いものの、このだだっ広い施設をただいたずらに歩いてもどうしようもない。何か目的を決めないといけないのだが。
「ねぇねぇ、あれ何?」
迷っている私を差し置いて、少女が何かを見つけて指をさした。
それはひときわ目立つように光り輝いているショッピングモールだった。
「そうだね、あそこに行こう」
組織に所属し母艦に乗っている間は、そんな大型の商業施設に出向くようなことはなかった。
これは期待できるだろう。
久々の自由な楽しみに、私は胸を躍らせながら少女と共に歩き出した。
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それでは次回もお楽しみに




