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4. 狭間に住まう神

 神の力が暴走し爆発した後、アヴェンは全身の皮膚が真っ黒に変色して、白目をむき気絶した。

 内臓が全て体外に露出したような喪失感を味わい、手足がピクピクと痙攣する。


 シスターは慌てふためき、助けを求めるために教会の外に飛び出していった。



『 貴様はバカか。 その貧弱な体で我の力を全解放するなど、愚行に他ならない 』



 アヴェンの脳内に、聞き覚えのある声が響く。



 ──お前、あのときの神か、今までどこ行ってたんだよ!! ていうか、俺今気絶してるはずなのになんで意識があるんだ!?



 アヴェンの周りは真っ暗闇で何も見えない。

 体の感覚は全くなく、それどころか体自体がないような気さえする。


 意識だけが無重力の闇の世界にふわふわと浮いている。そんな感覚。



『 貴様はやはりバカだ。 命が消えぬ限り、意識が消えることはない。 今は一時的に意識が体から離れ、死相世界と地上世界の狭間を漂っているだけだ 』



 神はそれが当然のことであるかのように、呆れた様子で語る。

 しかし、ただの人間であるアヴェンにとって、そんなことは知るよしもなかった。



 ──何を言ってるのかよくわかんないけど、死相世界ってのはあのスプリテュスとかいう生物がいる場所のことだろ? つまり俺は死にかけてるってことか?



『 そういうことだ。 しかし安心しろ、狭間を経由するような遅い死であれば、狭間を住処とする我の手で貴様を地上世界に戻すことができる 』



 狭間というのがどんな世界なのかはいまいちよくわからないが、どうやらそこにこの神は住んでいるらしい。



『 問題があるのは狭間を通らぬ早い死だ。 こればかりは我でも手が出せない。 狭間を飛び越え死相世界に直行してしまえば、今度こそ全ての釈命花(しゃくめいか)が黒く染まるだろう 』



 釈命花(しゃくめいか)とは、死相世界で見たあの黒と白の花のことだろうか。


 早い死というのが、一瞬で命を失うような即死のことを指すのなら、遅い死はゆっくりじわじわと死に近づいていく死に方のことなのだろう。



 ──じゃあ、さっきの爆発で即死することだけは何とか避けられたわけだな。でもこれが遅い死だっていうなら、俺の体は今少しずつ死んでいってるんだよな?



『 そういうことだ。 貴様の言うとおり、貴様の命の灯火はだんだんと弱まっている。 我が再び薪をくべなければ、このまま死んでいくだろう。 我は常にここにいる。 もし、また我と対話する機会を得たければ、ゆっくりと自死すれば再びこの場所に来られる 』



 この神は狭間に住んでいる。

 ゆえに、神と話せるのはこの空間にいるときだけということだろう。



 ──自殺しないと会えねえとか、不便なもんだな。ミスって即死しちまったらどうするんだよ



『 そのときはおとなしく諦め、世界外空間への溶解をあまんじて受け入れるしかあるまい 』



 その世界外空間についてもよくわからなかったが、聞いたところで余計混乱する気がしたため深掘りしないことにした。



 ──何はともあれ、お礼は言っとかないとな。俺に命をくれてありがとう。神様ってのは高みで見物してるだけのいけ好かねえやつだと思ってたけど、お前は案外、悪くない神な気がするぜ。食われたときはさすがにびっくりしたけどな



 最初はダマされたのではないかと疑っていた。

 しかし、最終的には命と力をアヴェンに授け、転生させてくれた。

 そのことに対しては、礼を言わなければならないだろう。


 アヴェンが素直に感謝を告げると、神は少しだけ黙ってから言葉を発した。



『 我のことを神と呼ぶのはやめろ。 あの吐き気を催すような醜い生物と一緒にするな。 我は神の道から背いた身、呼ぶならば黒神(こくしん)と呼べ 』



 神、あらため黒神は、露骨に不快感を顕にした。

 どうやら他の神をそうとう毛嫌いしているようだ。


 そこでアヴェンは思い出す。



 ──そういえばお前は、堕天して地に落ちた神だって言ってたよな。何で落ちたんだ? 他の神と喧嘩でもしたのか?



『 話は終わりだ。 今から貴様を地上世界へと送り返す 』



 ──え、ちょっと待て、俺の質問への返答は……!?



 もしかしたら、踏み込んではいけない領域に立ち入ってしまったのかもしれない。

 黒神は強制的に会話を打ち切ると、アヴェンの意識を下へと引っ張った。



 ──待ってくれ! 最後に一つだけ聞きたいことがある! スプリテュスが言ってた、俺の命に付与された宿命ってのは何なんだ!!?



 黒いもやに意識を呑まれながら、アヴェンは必死に問いを投げかけた。


 地上世界に引きずり下ろされる。

 意識が世界を横断する。


 その直前、黒神の声が重たく響いた。



『 宿命、それは、神を殺すこと 』



 その言葉を最後に、アヴェンの意識は体へと還る。



 ──ん? ここは……俺、戻ってきたのか……?



 狭間とは違う新鮮な空気の感触を感じて、アヴェンはゆっくりと目を開けた。


 そして──



 ──痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!?



 全身をとんでもない激痛が貫いた。

 致命的な怪我はないものの、真っ黒に変色した皮膚はこれでもかと痛みを訴えてくる。


 アヴェンは、体を切り刻まれるような痛みにのたうち回り、まともに働かない頭の中で、こう思った。



 ──もう少し狭間にいればよかった……!!!



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