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9 借金89,965,000ゴル

ブクマありがとうございます

 あれからまた数日経った。シャーリーはあの後、もう一度呼んでくれてその時は三十分で一万五千ゴル頂いた。まだベッドが出来てこないうちはこの方が良いだろう。

 それにしても時間がかかり過ぎている気がする、おかしいな。そんな難しいことかな?

 

 ルーから話を聞いたお掃除仲間のパティとノーマにも一回ずつマッサージを受けてくれ好評だったが勿論二人からはお金を取らなかった。ルーからも取ってないからね。施術時間を短くして三人からシャーリーを紹介してくれたお礼という形にしておけばいいだろう。いくらこの世界じゃ珍しい施術だと言っても一万五千ゴルは普通の人には高価過ぎる。このままじゃうまく広まっていかないかもしれない。

 

 私はまたマダム・ベリンダの肩を揉みながら提案してみた。

 

「値段をもう少し下げれませんか?」

 

 マダムの肩は毎日短い時間だがマッサージを続けているため順調にほぐれてきている。

 

「安売りは駄目だって言ったじゃない」

 

「ですけどマダムもおわかりの通り、マッサージは一度だけ受けても効果は持続しません。定期的に受けなければまた元通りにカチカチになります。せめてひと月に一度か二度、抵抗なく受けていただかなければいけないです。その場合平民には値段が決め手になります」

 

「貴方の言いたいことはわかるわ。だけど貴族相手の商売で三万ゴルなんてお茶する程度の値段なのよ」

 

 マダムは今夜の予約を確認しながら話す。

 

「マッサージは貴族相手だけの商売ではありません。肩こりや腰痛は万人の悩みなんですから」

 

 パティ、ルー、ノーマだって本来ならマッサージを受けたいはずだ。厨房のライラとモニーだって……

 

「そうね、いずれそうなる可能性がある事は理解してる。だけど今はまだ貴族相手の商売にするのよ」

 

 頑なに言い張るマダムには何か私が知らない事情がある感じだ。もしかして債権を早く回収する為に単価を高く設定したいのだろうか?

 それにしたって宣伝は必要だろう。このままじゃ貴族にだって広まっていかないかも。

 

「そう言えばジュリアンがマッサージを受けたいと言ってたから、もう少ししたら行きなさい」

 

 ジュリアン……って確か、この娼館ナンバーツーだったはず。

 

「どうしてジュリアンさんが?私は一面識もありませんが」

 

「シャーリーが話したんでしょう。あの娘随分マッサージを気に入ってるみたいだから」

 

 娼館で一、ニを争う女達……とか思っていたけど結構横のつながりもあるらしい。お客の取り合いなんかもたまに発生するらしいが、大体はスタンダードクラスでの些細な争いみたいで、スイートクラスの娘達はそんな心の狭い人は居ないようだ。

 

 

 マダムのマッサージを終えると教えられた部屋へ向かった。

 スイートクラスの娼婦には個室が与えられている。スタンダードクラスの娼婦は四人部屋だ。

 ノックをすると可愛らしい声で返事が聞こえ、中へ入るとシャーリーさんとはまた趣が違う部屋にちょっと驚く。

 ヒラヒラとしたフリルが沢山ついた天蓋付きのベッドの上に可愛らしいピンクのガウンを着た、ふんわり縦巻きカールの髪の夢見る乙女のような少女がニッコリと微笑んで座っていた。どう見ても十代半ばの少女に見えるけどここでナンバーツーになるくらいだからそれなりに年齢を重ねているはず。シャーリーだって二十五歳だと聞いている。

 

「失礼致します、アメリと申します。マッサージをご用命だと伺ったのですが」

 

「わぁ、待ってたのよぉ。早くこっちに来てぇ」

 

 うひゃ〜見た目だけじゃなく声まで可愛い。前世で言うところのアニメ声です、萌ですね。

 私は早速ジュリアンさんの近くに行くとペコリと頭を下げた。

 

「よろしくお願いします」 

 

「早く、早くぅ、シャーリーから聞いてずっと試したいと思ってたのぉ。でもぉ指名が途切れなくてやっと今日、呼ぶことが出来たのよ」

 

 ヤバい、お花が乱れ飛んで蝶々が舞ってる。こんな可愛い娘に早くぅとか強請られた日にゃ貴族といえど中年の親父共なんてイチコロだろうな。

 なんだか指名しているであろう貴族が鼻の下を伸ばす情景が目に浮かぶ気がする。

 ジュリアンさんにベッドの縁に座ってもらうと失礼しますとベッドに上がり後ろへ回った。ピンクのガウンごしにか弱そうだと想像した肩にそっと触れる。

 えぇ!?硬い(かったい)!!

 驚きの硬さにちょっとビックリしてしまう。

 

「かなりお疲れなんじゃないですか?」

 

 撫でるように首元を揉んでいくと彼女はため息をついた。

 

「そうなのぉ、この仕事ってどうしてもお客様に気遣う事が多いから……」

 

 スイートクラスで、しかもナンバーツーになるためにはやはり並々ならぬ努力と才能が必要なのだろう。容姿はある種才能だ、でもそれだけではここまで売れっ子にはなれない。初めてここで見たスイートクラスのフルールだって相当可愛かったがそれでまだクラス内では下っ端と聞く。フルールとジュリアンさんは可愛い系の同じ路線だと思うがジュリアンさんの方が確実に上手(うわて)な雰囲気だ。

 

「気遣いは溜まると身体にも影響がでますからね」

 

 あまりのカチカチ度合いにホットタオルを用意してそっと肩に載せる。載せた瞬間、ジュリアンさんの身体が小さくビクッとした。

 

「あっ……ダァ〜〜〜なんだコレ!気持ちいい!!」

 

 急に野太い声が部屋に響き思わず周りを見渡した。ここには私と可愛いジュリアンさんしかいないはず。まさかこの野太い声の主って……

 

「あぁんもうっ!気持ち良すぎて思わず地声が出ちゃった、テヘッ」

 

 振り返りつつ可愛く舌を出されたけど頬がひきつる。

 

「地声低すぎません?」

 

「やだ、内緒よぉ。まぁ、ここにいる人達には知られてるけどお客様は知らないから。もし話したら……ワカルヨネ?」

 

 最後の一言だけ低く言われてコクコクと頷いた。

 流石ナンバーツー!只者じゃないってことね。

 実はかなり中身は男らしいんじゃないかとわかり返って親しみが湧いた後はじっくりとマッサージを行った。

 

 

「はぁ〜、本当にいいわねコレ。これなら私のお客様にも紹介してあげる」

 

 施術が終わったあとジュリアンさんがニッコリ微笑みながら一万五千ゴルくれた。

 

「紹介って……貴族様にですか?」

 

 彼女の指名なんて一流の人ばかりのはず。

 

「そうよ、でもぉ貴族ばかりじゃないわ。この国や他国の富豪だって私のお得意様にはいるのよ。だけどマダムからは当分はこの国の貴族しか紹介しちゃ駄目だって言われてるから」

 

 なんだその限定?自国の、しかも貴族だけって……あぁ、希少価値を持たせるつもりなのかな。

 ちょっと腑に落ちなかったが取り敢えずお代を頂くと可愛いく手を振るジュリアンさんの部屋を後にした。そのままマダムの部屋に行き報告をする。

 

「ジュリアンさんにお客様を紹介して頂けると言われました」

 

 お金を渡すとマダムがニヤリとしながらそれを引き出しにしまった。一万五千ゴルにはチップが含まれていない為私の手元には一ゴルも返ってこない。

 

「この紫苑の館のツートップのお墨付きをもらえたんだから一応は成功ね。後はマイルズが上手く……」

 

 話している最意中にドタドタと廊下を走る音が聞こえマダムの眉間にシワが寄った。何事かと思っていると乱暴に開けられた扉から噂のマイルズが興奮気味に部屋へ入って来た。その後ろから剣を持っていればひと刺ししてもおかしくない形相の執事のユリシーズが追いかけて来てマダムに近づこうとするマイルズの肩をむんずと掴んだ。

 

「マダム・ベリンダ出来ました!!」

 

「ここから直ぐに出て行け!!」

 

 マイルズとユリシーズの叫び声が重なる。

 

「遂に出来たんですよマダム!!」

 

「マダムに近づくなこの木っ端商人がぁ!!」

 

 二人の叫び声はいつまでも収まらずマダムの眉間に寄っているシワもどんどん深くなる。執務机の前にいた私はこの騒動に巻き込まれまいとマダムの後方に逃げ、全体が安全に見渡せる位置を確認する。

 良し、ここで見学しよう。

 

「いやぁ、苦労しましたよ。なにせ見た事も聞いた事もない物を作るのに簡単な図面一枚でしたからね!」

 

「ここから出ていけと言っている!無礼な奴め!!」

 

 マイルズはまるでユリシーズが見えていないかのようにマダムに私が描いた図面を見せながら熱く語る。顔はマダムに向いているが体はユリシーズに掴まれ部屋から引きずり出されそうに引っ張られている。

 ユリシーズは執事だけどマダムの身を護るために多少鍛えているのか体格はいい。対してマイルズはただの商人だから普通体型なので敵うはずは無いが、マダムと話したい勢いがあるのか粘って部屋に留まっている。なかなか見応えがある戦いだ、うん。

 

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