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8 借金89,975,000ゴル

ブクマありがとうございます

 はいはい、いきなりのピンチです。あれからマイルズは五日来ていない。恐らくベッドの製作と仕事の都合だろうけど待っている身としては胃が絞られる思いがする。

 娼館に待機する『女神の微笑み』の従業員らしき人に確認したところ買い付け以外、魔術具工房に籠もりっきりだとか。一応順調に製作が進んでいるって思って良いんだよね?誰かそうだと言って!!

 

 マイルズがベッドを仕上げてくれるまではマッサージはほぼ開店休業状態で、毎日マダム・ベリンダの時間が空いたときに少し行う程度だ。それだけではもちろん家賃や食事代は出ない為、掃除や厨房の手伝いも継続している。

 

 早朝、掃除婦三婆の内の一人、ルーと庭の掃除をしていた。

 

「あんた客がついたって聞いたのにもう捨てられた?何かやらかしたのかい?」

 

 並んで座り手を休めずに次々と雑草を引っこ抜いてく。

 

「いや、まぁ、待機中というか、入荷待ちというか」

 

「待ってばっかじゃ客なんてつかないよ、どんどん客の前でアピールしなきゃ。あたしが若い頃なんて前室でせっせと勧誘に励んだもんだよ」

 

 ルーが昔を懐かしむように話す。

 

「ルーさんは娼館(ここ)で働いてたんですか?」

 

「そうさ、ここには今のマダム・ベリンダの先代マダム・ベランジェールの時に世話になってたんだ。引退した後少しばかり他所で過ごしたけど結局戻って掃除婦に雇ってもらった」

 

 ルーを含め掃除婦の三人は元娼婦でその時代では中々の人気だったらしい。

 

「誰だって最初から上手く行くわけないよ、よっぽどの美人でもない限りね」

 

 ルーが横目で私をチラリと見て首を横にふる。わかってます、平々凡々な容姿ってことは。

 

「でもマッサージってまだ知られて無い事をどうやってアピールすればいいのか……」

 

 前室で片っ端から肩揉んで回るなんて駄目だろうな。時間が短いとあまり効果を感じられないだろうし、娼婦達の邪魔しちゃ悪い。

 

「まぁ確かにそうだね……わかった!私がなんとかしてやるからちょっと試しにやってみな」

 

 ルーはそう言って自分の肩をポンと叩いた。私は草むしりで汚れた手をタオルで丁寧に拭くとルーの後ろに回り首と肩のこり具合を確かめる。

 

「そこまでこってないけど血行は悪そう」

 

 マダム程ではないが硬い肩を撫でるように解していく。

 

「ふ〜ん、痛いところとそうで無いとこがあるね」

 

「そうですね、こってるところほど痛いかもしれません」

 

 後頭部の生え際に沿って張りつめた場所を優しくマッサージしているとルーが段々と口数が少なくなっていった。そのまま頭を揉んでいくとふぅ〜っと息を吐く。

 

「なんだか眠くなってきたよ、気持ちいいねぇ」

 

 頭揉まれるとまぶたが下がってきちゃうよね。

 私が十分ほどルーをマッサージして、それに満足してくれたのかルーが良しっと立ち上がった。

 

「これは良いね、マダム・ベリンダが認めただけの事はある。おいで、私が客を紹介してやる」

 

 そう言って私を連れて屋敷の中へ入って行った。どこに行くのだろうと黙ってついていくと階段を上り廊下をどんどん進む。確かこの先は昼過ぎまで絶対に行くなって言ってた泊まり延長の部屋の方だ。

 ルーはそこを通り過ぎもっと奥の部屋の前まで行くとあるドアの前に立ちノックした。延長の客がいる娼婦達はまだ眠っている時間だ。ここに居ても良いのだろうかという思いでドキドキしてくる。

 

「はい、誰?」

 

「ルーだ、開けるよ」

 

 返事も待たずにルーはドアを開けると部屋入って行く。そこは高級感が漂いながらも派手過ぎずシンプルな心地良い空間が作られている貴族風な部屋だった。奥にある天蓋付きのベッドへ向かいカーテンを開けたルーが振り返る。

 

「おいで、紹介するから」

 

 部屋に入った所で突っ立っていた私に手招きするとルーが私をカーテンが開いた前に突き出した。

 

「シャーリー、この娘マッサージとかいうのをやるからちょっと試してやって」

 

 突き出された先のベッドには優雅に本を読む黒髪の美しい女がいた。

 ヘッドレストにクッションを重ねてもたれかかり、かきあげた黒髪の下には長いまつ毛に縁取られた黒目がちの大きな瞳。陶器のように滑らかに輝く白い肌に形の良い鼻筋、ぽってりとした桜色の唇は驚いたように小さく開かれ、私とルーを交互に見た。

 

「急にどうしたの、ルー、まさか頼まれたの?」

 

 怪訝に眉を寄せる美女は私に視線をとどめた。

 

「違うよ、私がちょっとおせっかいしてやってんの。でもやってみて損は無いよ」

 

 ホラホラと背中を押されるが乗り気でなさそうな美女を前にどうすればいいのかわからない。だけどせっかくルーが紹介してやると言ってくれたチャンスなんだからこれを活用しない手はない。

 

「あの、突然すみません。私はアメリと申します。実は今、マッサージという施術を行なって皆様の肩こりや腰痛を和らげる商売をやろうとしているのです」

 

「聞いたことないわ、マッサージ?」

 

 胡散臭いモノを見るような目で見られているが構わずアピール!!

 

「はい、今のところお客様はマイルズさんだけにご指名頂いております」

 

「マイルズが指名って、それホントなの?」

 

 シャーリーさんはこの館で一番の稼ぎ頭だというから、お客様におねだりタイムも勿論何度もあるだろう。ということはマイルズのお得意様でもあるはず。マイルズの名を出したことで少し警戒が緩んだ感じがした。

 

「ルーのおせっかいにマイルズが指名だなんて、そんなにいいモノなの。わかった、今日は予約も入ってないし試してみるわ」

 

 シャーリーさんは読みかけの本を閉じると私が言う通りベッドの端に腰掛けた所へ失礼しますとベッドに上がらせてもらい、早速マッサージを始める。

 さっきの態勢を見た感じでも首がこってそうだ。あと、目の疲れがありそう。

 首筋から後頭部、頭のマッサージに入る頃にはシャーリーさんは目を閉じ、それを見たルーが静かに部屋から出て行く。

 三十分ほど肩や頭を解すと終了した。

 

「いかがでしたか?」

 

 ベッドサイドに置いてあった水差しからグラスに水を注いで渡しながら具合を確かめる。

 

「めちゃくちゃ気持ち良かった……ちょっとゾワゾワしたわ、頭を触られるのって初めてだけど眠くなっちゃった」

 

 笑うと少し幼くなる美女はそう言って、水差しを置いてあったベッドサイドの引き出しから革袋を取り出す。

 

「いくら?」

 

「えぇ!?あの、今日はお試しのつもりで……」

 

「駄目よ、私はちゃんと満足したんだからちゃんと支払うわ。ここに居るって事は借金があるんでしょ?しっかり稼ぎなさい」

 

 そう言って四万ゴルくれた。

 

「いいえ、多過ぎます。この前マイルズさんは一時間で七万ゴルでしたし、もう少し値段設定を下げるように言われましたから」

 

 そうなの?っとシャーリーさんは少し考えたが四万ゴルはそのまま私の手のひらに載ったままだ。

 

「マイルズはケチね、今度文句言っておいてあげる。こういう未知のモノを売り出すなら最初が肝心なのよ、安売りは駄目。今回は楽しくて気持ち良かった、残りはチップとして渡しておくから取っといて。また頼むわ」

 

 さっぱりとした物言いが気持ちいい。私は有り難く四万ゴル頂き、お礼を言うと部屋を出て急いでルーを探す。この時間なら前室の掃除をしているはず。玄関横にある前室入ると窓を拭いているルーに駆け寄った。

 

「ルーさん、ありがとうございます。気に入って頂いた上にお代も戴いてまた頼むって言われました!」

 

「そりゃ良かった。ほら掃除しな」

 

 私は凄く嬉しくて有り難かったのにルーは少し微笑んだだけでそれほど大した事をした感じでもなく私に雑巾を渡した。紹介してやったと恩着せがましくする事もなく普通に仕事をしている。なんてカッコイイばあちゃんなの!

 

 掃除と厨房の手伝いが一段落しマダムの部屋に向かった。いつものようにマダムの肩を揉みながら今日、シャーリーさんをマッサージしてお代をもらった事を言うとそっと手を出された。

 あぁ、こうやってもぎ取られるのね。

 もらった四万ゴルを全部渡すとマダムは一万ゴル返してきた。

 

「うちではチップは本人の物としてるの。返済にあてるもよし、お小遣いにするも良しよ。どうする?」

 

 着の身着のままここに売られて一銭の金も持っていなかった私は取り敢えず自分で持つことにした。

 なんだか売られて初めて直に受け取った稼ぎを手元に置いて置きたかった気もしたからだ。マイルズの時はマダムへ支払われいるからね。

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