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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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78/78

78 借金83,954,000ゴル

これで最終話です。

ちょっと長めです。

「まず手当てをしましょうか?」

 

 良い雰囲気になるのかと思ったが駄目だ。重症過ぎる。

 

「は?いや、これくらい大した事ない。ポーションがあれば一発で……」

 

「じゃあポーション出して下さい」

 

 抱きしめられた体を押し退け手を差し出す。

 

「今か?今じゃなきゃ駄目か?」

 

 何故か焦った様子で聞いてくるけど切り裂かれた腕から出血し続ける人のセリフじゃ無いでしょ。

 無言で手を出すと諦めたように腰のベルトからポーションを取り出した。それを受け取り栓を抜くと怪我している個所にかけていく。

 

「お〜い、誰か助けてくれないと俺の命が風前の灯火なんだけど!」

 

 声が聞こえ振り返ると本気で焦っているピーターが誰かに馬乗りに押さえつけられ喉元に剣を突き付けられていた。

 

「エリーゼ!?」

 

 よく見るとそれは戦闘服のエリーゼでピーターに腕を掴まれながらも剣を突き刺そうと力を込めているのがわかる。

 

「アメリ、無事で良かった。ちょっと待ってね……すぐに、終わるから」

 

「いやいやいや、本当にごめんって。エリーゼなら大丈夫かなって思ったんだよ」

 

 ジリっと剣が進みその切っ先がピーターの喉に突き刺さりツゥーっと血が垂れる。

 

「本当にギリギリだったのよ……」

 

 二人の力が拮抗しているのかお互いに腕がブルブルと震えている。

 

「本当に、本当に、ごめんなさい。赦して下さい愛してるから」

 

 棒読みの謝罪に驚いたがその中味に更に驚いた。

 アイシテル?愛?

 ピーターの馬鹿馬鹿しいセリフに首を傾げたが一瞬にしてエリーゼの力が抜けたのか体を起こすと剣を握っていた腕がダラリとたらした。ピーターは慌てて起き上がりエリーゼを抱きしめる。

 

「ごめんね、本当にごめん。愛してるよエリーゼ」

 

 ポンポンと背中を叩くピーターの顔は謝罪しているというより殺されなかった安堵。クズ発見だ!どうしてあんなに可愛いエリーゼがこんな男に。

 

「つまりはピーターも味方だったんですか?」

 

 もう大丈夫かとリーバイ様の手当てを再開しながら問いただす。

 

「話してなかったのか?奴は、なんというか……」

 

「一応傭兵だよ、専門は情報収集なんだけど色々と便利につかわれてる。今回は爺様達に最初から雇われて後からディアス侯爵に声をかけられた。ベイカーがやり過ぎないように見張れって」

 

 エリーゼと寄り添いながらホッとしたような表情でこちらへ来たピーターが言う。まだ首から出血してるよ。

 

「コイツを雇っているのは元商人ギルド長のマルコだけど話は通ってるはずだ」

 

 リーバイ様が腰のベルトからポーションを取り出しピーターに投げた。やっぱ気になるよね、首の流血。

 ピーターとリーバイ様は何度か一緒に仕事した関係で知り合いらしく今回も結果的には合流したそうだ。エリーゼともその関係で付き合い出したのかな。

 

「エリーゼにはもっと相応しい人がいると思う」

 

 ピーターの腕をガッシリと掴んで離さないエリーゼがニッコリと微笑む。

 

「私もたまにそう思うけど本気で斬り掛かっても死なないのはピーターだけなの。それに結構良い人よ、私を愛してるって言ってくれるし、ね?」


 最後の『ね?』に何度も頷くピーター。本当に大丈夫?


「エリーゼとは色々な現場でよく会うし、居れば何かと便利に……仕事中でも寂しくないから、な?」


 クズはクズなりに大変そうだな。いつか口を滑らせて刺されればいい。





 王都に戻り紫苑の館に約二週間ぶり帰ってきた。


「アメリ、無事で良かったわ」


 マダム・ベリンダが笑顔で迎えてくれ帰ってきた実感がわく。

 アレからリーバイ様とは別行動になりエリーゼとピーターと三人で先に帰ってきた。リーバイ様は戦いの後始末があるためあのまま直ぐに戦場へ戻っていた。

 後でエリーゼに入った情報によるとベイカー亡き後のディアス侯爵側は呆気なく倒され。ディアス領主自身も既に捕らえられ領地は没収、今後は王族直轄地になるようだ。私が攫われたと同時に他の作戦が進行し戦いが始まった時既にディアス領には多数の兵が潜み潜入部隊に寄ってディアス侯爵の悪事の証拠も押さえ済みだったとマダムが教えてくれた。


「私は邪魔をしてしまったようですね」


 潜入して情報を得るはずが、役に絶たなかった上に手間をかけさせてしまった。これじゃあ貰えないな、報酬の一千万ゴル。

 助かったと同時にリーバイ様がくれるといった料金を思い出してしまい、我ながら笑ってしまう。借金があるとどうしてもね。


「邪魔じゃないわよ、立派な囮になっていたから」


 私が攫われてリーバイ様が追いかけていることによって、ディアス侯爵側はそちらに目が向けられていると思っていたようだ。そんなディアス侯爵もまさかイライアス様がその裏をかいて既に包囲網が完成していたとは気づかなかったようで、割とあっさり捕まえることが出来たようだ。


「それと、クライスラー侯爵は死んでいたそうよ、奥様に殺されて」


「えぇーーー!侯爵夫人が?!」


 私達が逃げたあの後にそんな恐ろしい事が起きていたなんて驚き。お二人の間に一体何があったのかわからないけれど、ベイカーに私を差し出したのは侯爵夫人の独断だったようなのでそのことが原因かな。

 クライスラー侯爵を捕らえにいった騎士団に夫人は「私はリーバイ様の恋人なのよ!」と叫んでいたと報告されていたそうで。


「アメリ!無事だったのね」


 突然扉が開きシャーリーさんとキャロが駆け込んできた。二人に抱きしめられちょっと息苦しい。


「心配かけてごめんね」


 私も二人を抱きしめる。紫苑の館ナンバーワンの柔らかボディを堪能出来る機会は貴重なので。勿論キャロだって良いスタイルしてるしね。


「それで、リーバイ様とどうなったの?」


 人が気持ちよく二人を抱きしめているのに何故かキャロが急にニヤけると変なことを聞いてきた。


「え?どうもしないけど」


 リーバイ様は絶賛仕事中だし、別に何も言われてない。


「えぇ?!こういう時って助けた時に二人の気持ちが通じ合って、こう……その後上手く行くって……」


 そんなお伽噺な。通じ合うって……別にそんな感じじゃ無かったけど。ただ助けてくれただけだ。


「リーバイ様から何も聞かされてない?」


 シャーリーさんまでそんな事。


「何言ってるの、リーバイ様は貴族だよ。しかも伯爵」


 爵位持ちが平民にそんな気持ちを持つわけない。しかも相手は爆モテ男。


「私は身分は関係無いって、今なら言える」


 シャーリーさんが振り返るとそこにロードリック様がいてそっとシャーリーさんの肩を抱いた。


「まさか……シャーリーさんと……」


 二人は顔を見合わせると微笑みあう。


「アメリが攫われた時に紫苑の館の娘が攫われたって聞いてもしかしたらシャーリーかと思って心臓が止まりそうだった。それでもう自分に嘘をつくのは止めにしたんだ」


 なんてこった、こんなところで私の事件が実を結んでいるとは。


「だからこれからは娼婦としてのシャーリーは引退して、リリーとしてマッサージ師を目指すから」


 それはちょっと、リーバイ様が寂しがるような気がする。ロードリック様の前では言えないけれど。


「因みに私とリーバイ様は、その、ないから」


 ちょっと言いにくそうにシャーリーさんが言う。


「は?ないって、え〜っと、その……寝て、あの、一番客という……」


 私もロードリック様をチラチラ見ながら言葉を探す。


「だから、それが違うの。私はちょっと前からもうお客は取ってないの。娼婦を辞めようかと思っていた時にリーバイ様から紫苑の館に出入りするための目眩ましに使わせてくれって言われて引き受けたの。一番客のふりをする仕事よ」


 隣でロードリック様が安心したように息を吐いている。あんな攻撃力が高そうな奴の後なんて嫌だよね。


「シャーリーさんが幸せそうで良かったよ」


「イヤそうじゃ無くて、アメリはリーバイ様の事どう思ってるのよ」


 隣で聞いていたキャロがもどかしそうに口をはさむ。その言葉に部屋の中の全員が私を見ている気がする。


「えぇ〜っと、そう言われても……」


 嫌いじゃないよ、無いけど、好きかって聞かれれば……好きかも、でも。


「どうにかなりたいと思ってはいないかな」


 うん、これがピッタリ。だってそもそも貴族をそういう位置に置いてない。

 私がそう言った瞬間全員がピタッと動きを止め、その後マダムが引き出しをパタリと閉めた。


「あぁ、アメリ。帰ったばかりで疲れたでしょう。今日はゆっくりしてもいいけどマッサージの予約が殺到してるから明日から仕事に復帰して頂戴」


「へ?……もうですか、いえ、はい、わかりました」


 ユリシーズが無言でポーションを渡してきので受け取ると諦めて承諾した。

 これで回復してまた馬車馬のように働けと、はい、了解です。

 その後、私だけ追い出されるように自分の部屋に帰る。

 ポーションを飲んで明日に備えて寝ることにした。




 いや、時間の流れは早いね。

 私が攫われて帰って来てから1か月が過ぎた。

 やっと戦いの事後処理が済、リーバイ様とゲルタも帰ってきたと聞いた。私はあの日マダムに言われた通り次の日から働き始め、また順調に借金を減らしていく日々。攫われていた日々の家賃が加算されていたことに抗議も出来ずガックリと肩を落としたがその代わりにいいこともあった。

 キャロがジョバンニさんに身請けされそのまま彼のお店で働く事になったのだ。身請けはされたが告白はされていないという摩訶不思議な関係だが、キャロは幸せそうだからそれも時間の問題だろう。


 今はジュリアンさんが紫苑の館ナンバーワンになっている。と言ってもあくまで看板だけでコーディネーターという仕事に精をだし頑張っている。いきなり二大看板が無くなるとマダムの仕事に差し支えるからなのだそうで。

 私はそのまま紫苑の館の裏でマッサージをしているが今は場所を広げるか、いっそ他の場所を探すかで検討中だ。それほどマッサージの人気は凄い勢いで伸びていて、リリーも今は見習い金額でお客様のマッサージを格安で行っている。なのでもう一人くらい助手を雇うために今は募集と面接を頑張っている日々だ。


「お疲れ様、これで最後のお客様がお帰りになったわね」


 午後からの営業を終えるとホッと息を吐いた。


「お疲れ様です、片付けはやっておきますので休憩なさって下さい」


 リリーの言葉に甘えると私は自分の部屋に戻った。

 バフンとベッドに倒れ込んでウトウトしているとドアがノックされる。


「はい、アレ?」


 ノックは廊下からではなくリーバイ様の部屋へ通じるドアからだ。

 え?どうしてここへ?

 訳がわからなかったがベッドから起きてドアへ向かう。


「リーバイ様、お疲れ様です」


 久しぶりの近衛隊総隊長は相変わらずキラキラしい。


「アメリ、元気だったか?」


 ちょっと余所余所しい感じでいつものリーバイ様と何かが違う。


「俺の部屋に来てくれないか?」


 確かに私の部屋じゃ何もおもてなしするものはない。

 ソワソワしているようなリーバイ様について部屋に入ると既にテーブルにはお茶の準備がされていた。

 お酒じゃなくていいのかな?

 言われるままに席につくと向かいにリーバイ様が座る。


「あぁ、その……」


 話があるのかと思っていたが珍しくもじもじとしてその姿はまるで乙女。


「なにか御用でしたか?」


 話しにくそうだったので一応こちらから切り出してみた。


「アメリはその、どこかでマッサージをするための場所を探していると聞いたんだが」


「はい、まだ検討中ですが」


 最近の人気にマダムから本格的に場所を探すのもいいと言ってくれたが予算や場所の決め手にかけている。なにせ借金持ち。きっと今回の建物の費用も私持ちになるんだろう。もういつ返済が終わるか想像もつかない。貴族様をお迎えできて出来るだけ安く済む場所を探すのはなかななに難しい。


「そこで、いい場所があるんだが」


 リーバイ様がそういって街の地図を広げた。

 ここだと指さされた場所は私が父親と商売をしていたところ。


「お前が暮らしていた店はもう跡形もなく壊され今は別の建物が建とうとしている」


 少し申し訳無さそうな顔のリーバイ様。あなたが気に病むこと無いのに。


「元お前の店と裏の建物を合わせて前のより少し大きくなって貴族を招いても遜色無い物を建設中だ」


 どうやら私達から騙し取った場所に高級レストランを建設するつもりだったらしく、今回の件で持ち主は国外追放となりそこは国が没収したらしい。工事が止まった状態でこれからいくらでも変更がきくようだ。

 あの場所は大通りから一本入っただけの賑やかな場所で高級な店も最近増えている。


「良いですね、マダムには?」


「もう話してある」


 流石に仕事が早いね。


「でも前より広い建物となるとマッサージをするには少し大き過ぎる気がしますね」


 いくらリリーがお客を取り出して助手も増えるとは言え流石に広すぎかも。


「そう言うと思って考えてある。建物は三階建だからその内の2階部分をマッサージ店にして他は貸し出すことにすればいい」


 なるほど、賃貸料を取れば返済にあてられる。いい話だ。


「じゃあ早速明日にでも見に行ってきます」


「俺が連れて行ってやるよ」


「いえ、お忙しいでしょうから」


「いや、俺が(・・)行きたいんだ。アメリと一緒に」


 キラキラしい近衛隊総隊長が何故か頬を染めた。





 ちょっと騙された気分ではある。

 あれから凄い勢いで建築が進められ、ジュリアンことコーディネーターのペネロープが装飾などを請け負ってくれ私のマッサージ店がいよいよ開業する。

 マッサージ店は三階建の二階にあり、三階の半分のスペースが私の住まいとなった。もう半分は賃貸物件で既に借り手がついている。

 そして問題の一階部分。


「どうしてリーバイ様がここに?」


 腕組し得意気な顔であらわれたリーバイ・ハント伯爵。


「そりゃここが俺の新しい拠点だからだ」


「新しい拠点?」


 なんとリーバイ様は爵位を甥御様に譲りしかも貴族籍まで放棄したらしい。


「どうしてそんなこと……」


「どっかの誰かが貴族を相手にしないと言ったんでな」


 視線をそらしボソッと零す。最近マダム達と作戦会議と称して謎にリリーやペネロープと集まっていたがまた新たな作戦でも始まったのだろうか?貴族籍は金を積めばいつでも取り戻せると聞いたからきっと何かの目眩ましなんだろう。


「貴族を相手にしないなんて大胆な事を言う人がいるんですね」


 一体何の相手なのか知らないけれどリーバイ様の事を知らないんじゃない?こんなにカッコよくて強いのに。


「俺も初めての事で戸惑ってる」


 大きくため息をつくリーバイ様はなんだか元気がない。


「どんな相手か知りませんが頑張ってくださいね。ところで一体ここで何をしようとなさっているんですか?」


 二階にある私のマッサージ店に行くには必ず一階のリーバイ様の拠点とやらの中を通って行かなければいけない。変な商売をされてはこっちの店に影響が出かねない。


「そりゃ勿論、見張り……いや、俺個人が請け負う仕事を割り振る事務所を構えるんだよ」


 なるほど、何かの事務所か。だったら大丈夫だな。


「これから末永く宜しくな、アメリ」


 これから毎日リーバイ様に会えるのかな。

 なんだか楽しくなりそう。





 ふぅ……何とかアメリの持ち物である三階建の一階に入り込めた。慎重に事を運び上手く誘導してアメリの客を見張れる位置につけた自分を褒めてやりたい。

 まだバレていないが三階の賃貸物件も俺がおさえている。いずれそこへ住むつもりだが焦りは禁物だとベリンダに言われた。

 アメリは今回の件で借金を完済してもまだ余りある報奨が与えられたがその事をベリンダが上手く気を回し彼女には話していない。

 未だ借金があると思わせておいて他へ移るのを阻止してくれたのだ。だがそれも一年限り。一年以内にアメリを口説けなければ全て話すと脅されている。イライアス様が呼吸困難になるほど腹を抱えて笑っていたがそんな事に構っている暇はない。


 待ってろアメリ、絶対に落として見せるからな。



おしまい








 

最後までお付き合い下さいましてありがとうございました

ちょっと思うように進めず強引に終わらせてしまいました。


ブクマ、評価ありがとうございました

次への糧になります

お話書くのって難しいなぁ

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