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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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77 借金83,954,000ゴル

「ほら、急げ!」

 

 ピーターが叫びゲルタが馬に乗ったまま私達を安全と思われる方へ導こうとしてくれる。だがすぐそこに火球が迫りこのまま焼け死ぬんだと覚悟した瞬間。

 キィーンと金属を叩くような音が響き渡り見えない壁に弾かれるように火球が跳ね返された。

 

「間に合ったかリーバイ・ハント」

 

 ピーターが何か呟き走り続ける。よく見ると私達のいる周りだけが防御されたのか少し離れた場所の騎士達は敵味方関係無く火球の被害を受けていた。ディアス侯爵側は敵を倒す為に味方の被害は計算に入れないのか。

 漸く林にたどり着き少し奥へ入った所でピーターが私を下ろした。

 

「流石にキツい」

 

 ぜいぜいと息を切らせ直ぐに引き返すと木陰からリーバイ様とベイカーの戦う姿を確認しているようだ。

 騎馬達の戦闘は続いていたが戦場は二ヶ所に分かれ、ディアス領への境近くと後方に集中している。

 

「アメリ、後方へ避難しよう」

 

 ゲルタが馬から下りると私の手を取り連れて行こうとする。

 

「いや、待て。まだどっちが安全か見極めがつかん。当分はここにいろ」

 

 二ヶ所に分かれた戦場からはそれぞれ時折激しい魔術が使われ火柱が上がったり龍巻が起きたりしている。確かに迂闊に近づけばまた巻き込まれる。ピーターの言葉にゲルタが一瞬立ち止まった時、リーバイ様がいる方向から火球が向かって来た。

 

「奥へ逃げろ!」

 

 ピーターが叫んで走り出すとゲルタも私の手を引き走り出す。火球がすぐ横の木にぶつかり火が飛び散る。

 

「キャー!」

 

 驚いて悲鳴を上げながら必死で走る。

 

「ウォーレン、お前の相手は俺だ!!」

 

 リーバイ様の叫ぶ声が聞こえるが振り向く余裕はない。

 

「こっちへ」

 

 ピーターが私とゲルタを誘導するように先を行く。

 無我夢中で走りながらも背後にベイカーが近づいて来るのがわかる。

 

「止まれ!命令だ」

 

 ベイカーが叫びピーターを止めようとするが一向に止まらずそのまま林の奥へ進んでいくと不意に拓けた場所に出た。そこは大きな岩が点在する起伏の激しい場所でこれ以上先へ進むのは困難に思えた。

 

「ここまでだな」

 

 息を切らせたピーターが振り返り私の側に来る。

 直ぐにベイカーも追いてきた。

 

「女を寄こせ!」

 

 ベイカーがこちらに近づきながらピーターに命令すると私の側にいたゲルタが庇うように前に出た。

 

「悪いな」

 

 ピーターはそう言うとさっき拾った剣でゲルタに斬りかかった。ゲルタは素早くそれを受け弾くとまた直ぐに剣を振り下ろす。

 いや、ゲルタは現役の剣士だよ。いくら女でも使用人のピーターがかなう相手じゃ……え?

 ピーターはそれを難なく受けそのままゲルタを引き倒し彼女は動かなくなった。

 何が起こったのかわからず固まっているとそのままピーターに腕を後ろに回され捕まった。


「痛い!離して」


「じっとしてろ」


 両腕を掴まれ身動きが取れない。


「私に寄こせ」


 ベイカーが近づき手を差し伸べる。


「いや、オレが押さえときますんで。ごゆっくりどうぞ」


 ピーターは何気に少し下がるとベイカーの手を逃れた。一瞬ベイカーはムッとした顔をする。


「卑怯だぞベイカー、狙いは俺だろ!アメリは関係ない」


 追いかけてきたリーバイ様が叫ぶとベイカーがそちらへ顔を向けた。


「お前が素直に私に殺されるならコイツは解放してもいいぞ」


 ベイカーがお決まりとも言えるセリフを吐く。どう見てもクズ。いくらチップを三万ゴルくれたからって良い人と思ってしまったあの時の自分を飛び蹴りしたいよ。


「アンタ馬鹿じゃない。リーバイ様は貴族なのよ、平民の私一人の為に殺されるわけ無いでしょう」


 何故か、あぁあとピーターが小さく嘆く。


「煩いぞ小娘!」


 ベイカーがこちらへ顔を向けるとリーバイ様がジリっと近づいて来た。するとその気配に気づいたベイカーがまたリーバイ様を睨みつけ何かゴニョゴニョと唱えだす。これって魔術の詠唱?止めさせないとヤバいんじゃない?


「あんたみたいな性悪にリーバイ様が負けるわけないわ。どうせモテないんでしょ」


 陰気な風貌に性格も最悪。間違い無いわ。

 

「はぁ?!小娘が何を言う」

 

 ベイカーが詠唱を中断し私を睨みつけてきた。コイツ本気で馬鹿だ。

 

「アンタみたいな卑劣な男がリーバイ様に敵うわけないのよ。リーバイ様はモテモテで鬼畜なくらい女遊びしてんだからね」


「いやそれは言い過ぎだろ」


「鬼畜って……ふっ!」


 リーバイ様からツッコミが入っちゃった。何故かピーターも何かをこらえるように体を震わせている。

 ベイカーは頬をピクッと引きつらせ私に剣を突きつけてきた。


「直ぐに口をきけなくしてやる」


 ヤバい!言い過ぎた、刺されるっ!と思ったがピーターがヒョイっとよけた。


「怪我させるなって言われてるんで」


 ベイカーが物凄い顔で睨んでいるが涼しい顔だ。本当にピーターって訳がわからない。


「いいから寄こせ!」


 ベイカーがピーターに捕らえられている私に手を伸ばそうとした瞬間。数メートルは離れていたはずのリーバイ様が一瞬にして飛びかかってきた。

 剣を振り下ろしながらベイカーの背後に迫るリーバイ様。だがベイカーもそれを読んでいたのか素早く体を低くし短く何かを唱えながら振り返る。


「リーバイ様!」


 私が叫ぶのとほぼ同時にピーターが大きく飛び退り、ベイカーの魔術であろう地面から突き出たいくつもの刃がリーバイ様へ伸びていく。長く伸びた魔術で出来た刃がリーバイ様の腕や足を切り裂きながらかすめ、その内の一つの鋭い一本が彼の心臓へ向かって伸びていく。

 すんでの所でリーバイ様がそれを剣で切り崩したが着地する目の前にはベイカーがいる。ベイカーは着地の瞬間を狙っていたのか、既に剣がリーバイ様に向かっている。


「これで終わりだリーバイ!剣自慢のお前が私の剣で死ね!!」


「キャーー!」


 悲鳴を上げた私の耳元に冷静な呟きが聞こえた。


「んなわけない」


 ベイカーが繰り出した剣がリーバイ様に届く寸前、何故かベイカーが倒れた。すっくと立ち上がるゲルタ。ベイカーの背中に深々と刺さった剣を抜くと血を振り払う。

 カッコイイ……


「ゲルタ、良いところを取り過ぎじゃないか?俺の出番は?」


 切り傷だらけでリーバイ様がため息をつく。


「私が奴を仕留めるお膳建てありがとうございます。これで騎士団に復帰しますのでリーバイ様との契約は終わりということでお願いします」


 ゲルタってリーバイ様の部下が嫌だったの?


「わかった、だが復帰は近衛隊だ」


 リーバイ様がニヤリとしてゲルタの肩をポンと叩いた。舌打ちするゲルタ。まだまだリーバイ様から離れられそうにない。

 リーバイ様がそのままピーターに捕まえられている私の側へ歩いてくる。


「いい加減手を離せ」


 ピーターを睨みつけながら寄こせという風に手招きするリーバイ様。もしかしてピーターがダブルスパイだって知らないの?そんなはずないよね。


「俺をこのままバシュクートへ逃してくれ」


 ジリっと下がるピーター。


「そうもいかん。エリーゼ件があるからな」


「アレは不可抗力だろ。油断してる奴が悪い」


 リーバイ様が苛ついた顔で更に近づきピーターは更に下がる。


「いい加減にしろ、力尽くで押さえても良いんだぞ」


 もしかしなくても二人は知り合い?どちらも口調はそんな感じだがお互いに剣は握ったまま。なんか変だ。


「そう言われても、オレは雇い主の指示に従っているだけだ。優先順位はアメリだからね」


 そう言って私の腕を離し後ろから抱きしめられた。


「アメリかわいい……なんて、どわぁっ!」


 急にリーバイ様が近づきピーターの腕を私からもぎ取ると抱き寄せそのままふわりと体が浮いた。


「わぁー、違う違う、ごめんごめん、痛い!」


 ピーターの叫ぶ声が聞こえるが頭をリーバイ様に押えられ振り向けない。


「我慢の限界だな」


 リーバイ様の呟きが聞こえるが一体何の事?もしかして私の心配してくれた?


「リーバイ様、あの」


「あぁ悪いな。大丈夫か?迎えに来るのが遅くなったな」


 手を緩められ見上げたそこにある端正なお顔は血まみれだった。


 

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