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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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76 借金83,954,000ゴル

 乱暴に扱われたショックのせいか、強行な移動のせいか私の体調は全く改善しない。

 熱があるにもかかわらずベイカーは宿でゆっくりと療養させてくれる事もなく騎馬で移動し続けた。

 

「ベイカー様、本当にこのままじゃ死んでしまいますって。せめて次の町で馬車を調達させて下さいよ。俺もコイツを乗せて走るのいい加減疲れるし」

 

 ここ数日意識が朦朧とした状態での移動に本当に命の危機を感じ始めていた。ピーターは何故か甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるが当然の事だが決定権はベイカーが持っている。私が苦しむ様を見て、不気味にニヤつく奴はかなり気持ちが悪い。コイツは絶対にモテないだろう。

 

 とうとう三日目に立ち上がる事も出来なくなった私に舌打ちすると仕方なく小さな荷馬車に乗せる事を許された。申し訳程度の幌がついた古い馬車は全く風を遮ってくれないしかなり揺れは激しいがそれでもピーターの後ろで馬に乗るよりずっとましだった。毛布も与えられたしね。

 馬車のおかげで進む速度は遅くなりベイカーは苛ついていたようだが流石に私を死なせる気は無いようだ。

 

 そこから数日、ピーターが薬を与えてくれたおかげで少しは回復してきた。

 

「もうすぐディアス領だから気を引き締めろよ」

 

 いつになく真剣な顔で私に薬を渡してくる。休憩して止まっている馬車の中でピーターが私の隣に座って低い小声で話しかけてきた。馬車の外の少し離れた所でベイカーは遠くを見るように警戒している。

 

「どうしてそんなことを言うのよ」

 

「もしリーバイ・ハントがお前を奪還するならこの辺りだろうからな」

 

 平坦な道が続き町もなく少し離れた所に木々が見える。

 クライスラー領からどういう道を通ってディアス領まで来たのか私にはわからないが領地の境はそこの領主の裁量で厳しかったり緩かったりする。ディアス領は検問が厳しいということなんだろうか。

 

「どうしてそんな事を教えてくれるの?」

 

「別に……アメリが大変そうだからかな」

 

「大変そう?」

 

「あぁ、このままディアス領に行けばディアス侯爵の奴隷にされる」

 

「はぁ?」

 

 奴隷はこの国じゃもう禁止だからそれって違法ってことだよね。これは完全に国家に対する反逆なんじゃ……

 

「まさか……」


「もう出発しますか?」


 ベイカーがこちらに近づいて来てピーターが軽い口調で話しかけ御者台に座る。


「あぁ、行くぞ」


 そう言われ馬車が走り出した瞬間、後方から二つの影が近づいて来た。


「来たか、お前は領境に急げ!」


 剣を抜き馬を操り方向転換すると駆け出すベイカー。ピーターは命令通り馬車のスピードを上げる。このままじゃディアス領に入ってしまう。きっとディアス侯爵は既にバシュクート国と手を組み国を捨てて、領境は国境となっている可能性がある。


「ピーター、お願い止まって!」


 私は御者台に近づくと彼の肩を掴んだ。


「悪い、そうも行かないんだ。俺には俺の役目があってね、しっかり捕まってろ」


 そう言い馬車の方向を街道からそらすとデコボコとした脇道を境界目指して進み始めた。


「あぁ、わぁ、ちょっと待って!」


 激しく揺れる馬車に驚き、ピーターの隣に座り彼の腕にしがみついた。


「落ちる!」


「落ちるな!」


 馬車はガタガタと凄い音を立て壊れそうになりながらも進み、遠く前方に境界であろう壁が見えてきた。

 ますますスピードを上げ揺れも激しくなる中、街道へ目を向ければベイカーが魔術を放った魔術が着弾する所だった。

 火球は向かってくる二つの影に攻撃したが相手は二手に分かれ一騎がこちらへ向かって来る。


「ゲルタ!」


 革鎧に身を包み剣を差した精悍な顔つきのゲルタは私を確認すると腰から何かを取り出し空に放った。

 キィーンと甲高い音を立てて細い煙の尾を引きながら昇っていったそれを合図としたのか、後方の森の陰から一斉に多くの騎馬があらわれた。それと同時に境界の方からも騎馬があらわれる。

 これってここで戦闘が始まるってこと?

 突然の事に状況が飲み込めないが、ピーターは前方と後方を見比べ舌打ちした。


「間に合うか?!ベイカーがケチったからな」


 馬にムチを入れるがそもそも馬車がボロ過ぎる。両軍が向かってくる中とうとう馬車の車輪が壊れて傾くと二人で投げ出されそうになった。


「キャーー!」


「クソッ!」


 ピーターに上手く抱えられ飛び降りた先の地面に転がる。


「イッ、タタ……」


 転がった時に頭を打ち付け押さえた手がぬるつく。軋む体をなんとか起こして周りを窺うと正に両軍の中間地点、どちらかというと敵よりな位置にいる。

 このままじゃ巻き込まれる。

 立ち上がろうとするとガシッと抱えられた。


「ピーター!」


「暴れるな」


 肩に担がれ顔を上げると後方にベイカーがいてこっちへ向かって来ている。


「そのまま行け!」


 追われているベイカーは自分の後ろを見ずに火球を連続で打ち出し牽制しながら側にくる。


「急げ!」


 迫る前方の敵軍。

 もう駄目かも……

 そう思っていると後方の味方の軍から一騎だけが突出し向かって来る。


「リーバイ!!」


「ウォーレン!」


 互いに名を口にすると魔術を放った。

 攻撃魔術のベイカーに対しそれを弾き返すリーバイ様。


「先に行け!」


 ベイカーがピーターに叫びピーターはそのまま止まらず走り続ける。


「リーバイ様!」


 ここが脱出する最後のチャンスかもしれないと焦る私は必死に暴れて抵抗した。


「うわっ、動くなって。悪いようにはしないから」


 ピーターが私を押さえながら走る事は止めない。


「いいから離して!あんたの事も何とか取りなしてあげるから私を逃して」


「イテテッ、じっとしてろ!ここじゃ戦闘に巻き込まれる、あいつらが見えないのか!」


 ディアス領からも恐らく味方の後方からも武装した騎馬が止まることなく迫って来る。このままじゃここで混乱のなか死んでしまうかもしれない。その事に気づいて暴れるのを止めた。


 リーバイ様とベイカーが互いを魔術で牽制しながら近づきすれ違いざまに剣をぶつけ合う。戦闘の事はよくわからないがベイカーの攻撃魔術に対し防御ばかりのリーバイ様がいされているような気がする。何度か馬を返し馬上でつばぜり合いをするがことごとく弾き返されている。


「リーバイ様……」


 二人からは少しずつ遠ざかっているが両軍はすぐそこまで迫っている。戦場の中心地点からはいくらかそれたが馬の足には敵わずすぐ後ろで先陣同士がぶつかり合うのを間近に見た。

 鈍い音と共に馬が横転し剣が振り下ろされ叫び声が響く。

 ピーターは必死に走っていたが逃げ切れず騎馬の交差する中に巻き込まれる。


「キャーー!」


 恐怖でピーターにしがみつくと耐えきれず悲鳴をあげる。


「クソッ!」


 ピーターはそれでも私を抱えたままわずかな隙を突き進んでいく。途中で馬にかすり、倒れそうになりながらもまた立ち上がり進んで行く。

 するとディアス領側の騎士が何故か私達の前に立ちはだかり異様な目を向けてくる。


「待て、俺は味方だ。侯爵様の命令でコイツを」


 ピーターが必死に叫んだがその騎士は聞こえなかったのか聞く気がなかったのか剣を振り上げ襲いかかってきた。

 もう駄目!


 そう思った瞬間、ピーターは私を下ろすと近くに落ちていた剣を拾い上げそいつの剣を受け止めた。


「行け!」


 何故かピーターは私に戦場から抜けた林の方向へ逃げるようにいった。


「でも……」


 敵なんだけどなんだかずっと一緒にいたコイツを置いていくことに罪悪感が芽生える。


「早く!死にたいのか!」


 怒鳴りつけられ追い立てられるように走り出した。その間もピーターは騎士と対峙している。

 必死に足を動かし林を目指しているとゲルタの声が聞こえた。


「こっちだ!」


 これで助かった。

 ゲルタへ向かって走っているとすぐ隣にピーターがもう追いついてきた。


「足が遅すぎる」


 さっき戦っていた人物と同じとは思えないほど軽い感じで抵抗する間もなくまた担ぎ上げられた。あの騎士殺しちゃったのかな?


「わっ、待って下ろして」


「いいから暴れるな、今はここから出来るだけ離れることが先決だ。ここにいればあの化け物みたいな奴らの戦いに巻き込まれ……」


 突然ディアス領から火球が無数に飛来し空を赤く染め上げるとリーバイ様とベイカーがいる場所を中心に降り注いだ。




 

 

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