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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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74 借金83,954,000ゴル

ブクマありがとうございます

 何とかアメリの姿をゲルタが確認してきた。

 勿論こちらの事情を話す事は出来なかったらしいが、それでもゲルタの姿を見てバタバタしていたらしいから動ける状態である事がわかりホッとした。出来れば自分で確認したかったが仕方が無い。


 俺とウォーレン・ベイカーは既に何度か直接やり合った事がある。小競り合いが続いていた領地同士で魔術剣士として一線で活躍する身としては当然の事だが、お陰でおたがい相手の魔力がわかるようになっていた。奴が魔術を使った場所に行けばそれがわかるし、俺が魔術を使って何かを仕掛ければ奴にもそれが誰の仕業かわかっているだろう。


「当然、ピアスはバレてたよな」


「当たり前でしょうね、魔力の事だけでなく魔石の色を見れば総隊長のモノだってひと目で気づいたでしょう」


 ガイオが当然という顔で鼻で笑うが、別に俺のモノでは無いし、俺のモノにしたかったわけではない。


「最短記録で誘ったと聞きました。自分の所に来いって」


 ゲルタも無表情のままで恐らくベリンダしか知らなかった話をわざわざガイオに聞かせる。

 チッ、どいつもコイツも煩いな。


 今は三人でアメリが捕まっている屋敷から少し離れた所で作戦会議中だ。ウォーレンの奴がいるから俺はあまり近付かない方がいいとはいえ、何かあっても直ぐに駆けつけられない距離にいることがもどかしい。


「そんなに心配しなくてもエリーゼがいるから何とかなりますよ。ハイどうぞ」


 ガイオは呑気な口調でどこかで調達してきた食事を差し出した。

 俺は元々作戦中は食事に無頓着だ。とにかく口に入って動ければ何でもいいがガイオはやたらと不味いだの足りないだのと文句が多かった。そのお陰で今も野菜や肉がたっぷりと入ったサンドイッチを食べる事が出来た。確かに旨いに越したことはない。

 がぶりと一口齧りながらゲルタが調査してきた屋敷の詳細を聞いていた。


「ここはクライスラー侯爵の別荘でここ数年はほぼ放置されていた屋敷です。管理もされておらず、急遽十日前にここから徒歩で半日ほどの距離にある村で人を雇いいくつかの部屋の掃除をし、食料を運び込んでいたようです」


 恐らくアメリを攫って逃亡しようとする直前にここを使うことがきまり慌てて準備させたのだろう。

 クライスラー侯爵とディアス侯爵のやり取りの詳細はわからないが奴隷が絡みミスカ領が絡んでいることは間違い無い。奴隷制度を復活させることが目的なら先ずは王の側近であるイライアス様を排除するために動くだろうが、国王の甥である公爵を直接狙うことはそう簡単ではない。だとすれば次に狙い目なのは……


「アメリの不幸は総隊長に目をつけられちゃったことですよね、うんうん、旨い!イテッ!」


 サンドイッチに齧り付きモグモグと口を動かすガイオの額を剣の柄で小突いた。


「別に目をつけたわけじゃない。ただ手元に置いておこうと思っただけだ。他意はない」


 残りのサンドイッチを口に押し込みイライラしてガイオを睨みつけた。


「それは独占欲です。それがどういう意味かガイオにはわかっているんですよ。というか、リーバイ様以外はみんなわかってます。ウォーレンですら」


 なんだそれ、全員が揃いも揃って勘違いしているんじゃないか。

 ガイオが額を撫でながら仕方ないなぁって目で上官である俺を見ている。

 ……別に俺だってみんなが(・・・・)どう思っているかわかっているつもりだ。アレだろ、俺がアメリに好意を抱いているとかって思っているんだろう。

 だがそれは違うな、俺はアメリを見て何か衝撃的なモノを受けた事はないし、誰よりもアメリが輝き美しく見えた事もない。

 聞いた話によれば恋愛が始まる時ってそんな不可思議な状態に陥るという。俺はそんな事になったことは今まで一度もない。

 女を抱きたいとか、綺麗だとか思った事はあるが大概は簡単に手に入れることが出来たし何度か抱けば会う気にもならなかった。相手は俺にそれ以上の事を求めているんだとわかってからは関係を持つ前に断りをいれていた。『俺に何も要求するな』と。

 今思えば傲慢な態度だったと思うし誠実さは欠片も無かったが、当時は剣の腕を磨き伸び始めた魔術との連携を使いこなす為の鍛錬に夢中だったせいで他の事は完全に後回しだった。

 伯爵家を継ぐことなんて頭になかったしな。


「総隊長って結構乙女チックな考えを持ってたりしますもんね」


 ガイオが訳のわからない事を言いながらエリーゼと連絡を取るために離れていった。


「それにしてもクライスラー侯爵はどういうつもりでここに留まっているのでしょうか?王都の屋敷であれ程の騒動を起こしていれば問題になるとわからないはずはありませんよね」


 ゲルタがひと息入れながら腰に差していた剣を取り出し手入れを始めた。


「この件は微妙だからな。クライスラー侯爵邸の中で起こった事件は屋敷に何者かが侵入し襲撃を受けた。それを魔術で応戦したが身の危険を感じた為王都から急いで脱出した。それだけだ」


「実は侵入者はリーバイ様でクライスラー侯爵に非はないということですね」


「あぁ、実際アメリを連れ去った事も大して騒がれんだろう。平民の女が一人侯爵気に入られて連れていかれたって話だ。ベリンダが債権を握っているから後で請求することは出来るだろうがそれ以外誰も気に留めん」


 俺は違うがな。


「総隊長!ウォーレンが姿をあらわしました」


 ここ数日、屋敷内にいると思えないくらい部屋にこもりっていたウォーレンが漸く動いたと急ぎ戻って来たガイオが知らせてきた。


「誰と会ってる?」


「恐らく侯爵夫人です。あぁ、総隊長はここに居てください。俺とゲルタで行ってきますから」


 ウォーレンの行動の目的がハッキリしない今は俺が何処にいるか知られない方が良い。もどかしさに身悶えるが仕方が無く待機しようとしていた。


「何かあったら直ぐに知らせ……!馬車です、隠れて」


 突然凄い勢いで馬車がこちらへ向かい走って来た。


「エリーゼです」


 三人で並んで木陰に身を隠すと直ぐに馬車は目の前を通り過ぎたが、御者台にいたエリーゼが激しく馬に鞭をくれている。すると馬車から何かが投げ落とされ俺達が隠れている近くへ転がってきた。

 ガイオがそれを拾うと持って来た。


「エリーゼから、『ウォーレンがアメリを連れて行こうとしている。危険と判断し一緒に脱出』だそうです」


 アレにアメリが乗っているのか。ウォーレンが連れ出す?ディアス侯爵の命令か。

 エリーゼの馬車の後を追いかけるように騎馬が駆け抜けて行く。騎手はウォーレンだった。既に詠唱を始めていたのか掌に火球が浮かぶ。奴は俺と同じ魔術剣士だが、どちらかといえば奴は魔術の方が強く俺は剣の方が腕が立った。

 なので戦場で突発的に対峙するとどうしても魔術頼みのウォーレンは詠唱時間が必要で俺の素早い動きには敵わなかったのだ。お互いに補佐役は必要だったが結局それもこちらの補佐役(ガイオ)の方が優秀だった。


「あっ、馬車に攻撃します」


 ゲルタが慌てて飛び出しかけたが引き止めた。


「当てる気は無いだろう。遅い上に威力も弱そうだ」


 戦場で見たものと比べ物にもならないほど弱い火球は馬車にカスリもせず道端の木を焼いた。


「やっ、アレはやり過ぎですよ」


 ガイオもウォーレンの実力を知っているがそれでも馬車を足止めするには威力が大き過ぎたようだ。

 ウォーレンの後を距離を保ちつつ三人で追っていく。火球の爆発で馬車は傾きかけたが建て直しなおも走っている。


「そろそろアメリを回収するか」


 危険度も増しているし何より俺がイライラする。ウォーレンの後を急いで馬で追いかけつつ奪取する算段を始めながら次に備え詠唱を始める。


「駄目ですよ、アメリをそのまま置いてスパイさせようと言ったではありませんか」


 む、確かにそれはそうだが実際に危険な目にあっているところを間近で見るとだな……


「来ます!」


 ガイオの声で俺以外の二人が下がると先程から準備していた防御の魔術を展開した。ウォーレンの攻撃が急速にこちらへ向かい俺に襲いかかったがバチッと音を立てて光りを放ち弾かれると同時にアメリが乗っていた馬車が燃え上がり砕け散るのが見えた。





 恐らくエリーゼは無事では済んでいないだろう。もしかしたら死んでいるかも知れないが考えないようにしなきゃ耐えられない。

 数日だが一緒にいて面倒も見てもらっていたし、しかもリーバイ様の部下だ。きっと今頃ゲルタが助けてくれているだろうと思いこむことにする。

 それにしてもこんな事態になっているのにゲルタはどうして来てくれないんだろうか?屋敷で私がいることは確認済だったのに一向に助けに来てくれない。やっぱり重要度が低いのか……


 疲れた体でぼんやりしているとピーターが手早く簡易的に石で竈をつくると火をおこし食事の準備を始めた。


「なぁ、これ混ぜて」


 私を振り返り鍋をかき混ぜるように言ってオタマを差し出してくる。


「イヤ」


 こんなに疲れているのにムカつく馬鹿の言うことなんて聞きたくない。


「えぇー、危害を加えちゃうぞ」


 反対の手でナイフを取り出しヒラヒラと揺らして見せる。


「チッ」


 怖いし、ムカつくし、疲れてるしで舌打ちしてしまった。きっともう正常な判断が出来てないと思うけど一応指示に従いオタマを受け取った。


「うわっ、態度悪!」


 大して驚いた様子もなくピーターは取り出したナイフで食材を切り鍋に次々と放り込んでいく。雑で考え無しな料理に更にムカついて側にあった袋から勝手に調味料を取り出し味付けをしていく。どうせなら美味しいものが食べたい。


 遅めの昼食を食べながらベイカーの様子を窺っていた。侯爵夫人とどんな取り引きをしていたのか、それに侯爵とどう話をつけたのか詳しくはわからないが、私を連れてディアス侯爵の所へ行くんだろう。

 ピーターはディアス侯爵に雇われてクライスラー侯爵邸に潜入している時にご隠居クラブに情報を流すように持ち掛けられその流れでエリーゼの事も知ることになったのだろう。まさかディアス侯爵のスパイとも知らず。


「少しは心が痛まないの?」


 仲が良いとは言えなかったけれどじゃれ合っているようにも見えていたのに。昼食のスープをガツガツ食べている姿を見るとムカムカしてくる。


「ふぇ?エリーゼちゃんの事?そりゃカワイソーだなって思ってるよ」


 そう言っておかわりをしてやがる。


「食べないの?いつもお腹すかしているのに、それじゃこの先持たないよ」


 ムカつくが確かにそうだ。これからどの道を通ってディアス領へ行くのか私が聞きだせばピアスで盗聴してリーバイ様やゲルタが先回りして助けてくれるかもしれない。


「先ってどこに行くのよ、そもそここはどこなの?周りに何も見えないんだけど」


「そりゃ人目につくとこでこんなにのんびり休んだりしないよ」


 食べ終わった食器類を片付けながらピーターがチラリとベイカーを見た。ベイカーは私達から少し離れた場所で食事を取っていたが、もちろん目を離す事はない。


「もう出発しますか?俺的にはもう少し休みたいんですけど」


「もう少し休む。後をつけられている様子も無いからな」


 ベイカーが私を見てニヤリとして言った。

 つけられていないって、ゲルタもリーバイ様も居ないってこと?っていうかつけて来ていた事は知っていて屋敷では放置していたの?いやでも今はベイカーに気づかれていないだけでいるはずだよね。そのはず!


「あぁ、上手くいったんですね。コイツの魔力も切れてるって言ってましたもんね」


 ピーターが私のピアスを指で弾く。


「そんな小さな魔石に込められる魔力はせいぜい四、五日。既に枯渇しただの石ころだ」


 ………………えぇーーー!そーなのぉーーーー!!

 魔石は定期的に魔力を込めないと魔術具として作動しなくなる。いわゆる電池切れ状態になるらしい。

 私が攫われて既に十日ほど、もしかしなくても魔力は完全に切れている。









 

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