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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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66 借金83,954,000ゴル

 居場所まで分かるやつに改良してもらうべきだったな。

 ピアスから声は聞こえるが詳しい状況がわからず、アメリの居場所がつかめない。壁沿いを進んでいたようだが、方向が違うのかも知れない。開かない勝手口を通り過ぎどこかへ隠れた様子だったが。


 ゲルタが前もって探っていた侯爵邸の造りは勿論俺も頭に叩き込んでいる。アメリ達がマッサージを施していた部屋から下へ脱出して裏門ではなく勝手口を探すならこの方向だと思ったが違ったか。こんな事なら脱出経路も教えておけば良かった。

 反対へ進んだなら正門の方へ出るはずだ。あの辺りで隠れる所があったか?

 

 騎士達も見つけられていないのかそこらにウロウロしている為こっちも探し難い状況ではある。アメリがどこに隠れているかはわからないが奴らに見つかるのも時間の問題だろう。

 ディアス侯爵の目的がイマイチ掴めていないが最終的には領地へ利益をもたらすために動くのだろうから国内でそこまで大きな動きは見せないはずだ。反逆の意志があるとされれば直ちに国を挙げて領地へ踏み込まれるだろう。いっそその方が簡単でいいかも知れん。

 だがもしかするとミスカ領からの援軍を得るならば多少は長引きそうか。


 色々な考えが頭を巡るが、それにしてもアメリはどこに隠れた?何か声にしてヒントをくれればいいんだが。

 

「誰だ!?」

 

 不意に上から声をかけられ急いで建物の陰に隠れた。見つかるのは構わなかったがアメリを見つけてからにしてほしかった。

 途端に騎士達の動きがアメリ捜索ののんびりした物ではなく、侵入者捜索の緊張感が漂う。敵地にいるならこうでなくてはな。

 やっと俺も本格的に動くことを決めた。見つかったのだからこれで大々的にアメリを探せるってもんだ。

 

「アメリ!!どこにいる?教えてくれて!」

 

 声を張り上げ邸内を走った。俺の声に先に反応したのは騎士達だった。

 

「賊がいたぞ!」

 

「こっちだ!」


 後方から追いかけて来るので先を急ぎながらまたアメリに叫んだ。


「アメリ!どこだ!」


『シィー!リーバイ様、叫んじゃ駄目でしょう!!』


 やっとアメリから反応がありホッとする。こちらからの声はピアスで届ける事が出来ないもどかしさはあるがとにかく近くにいることがわかった。後は詳しい居場所を言葉にしてくれればいいんだが。


 追手を引き連れて行くわけにもいかず後ろから近づく騎士に向き直り剣をかまえる。


「動くな!」


 五人の騎士が取り囲むように広がり剣をかまえる。


「大人しくしてマスクを取れ!」


 五人がかりで一人を相手にし余裕だと思っているのか粋がっているようだ。首をコキっと鳴らすとゆっくりと剣を引き抜いた。そろそろマッサージを受けなくてはな。


「抵抗するつもりなら容赦はしないぞ!」


 いいから早くしろよ。こっちは急いでるんだ。

 念の為声を出さずにかかって来いという風に手招きする。


「なんだコイツ、俺達五人を相手にするつもりか?」


「馬鹿め!」


 一斉にかかる合図が馬鹿めなんてしまらない連中だな。

 一人、二人と躱すと三人目に蹴りを入れ四人目とまとめて吹き飛ばす。五人目の剣を受けると軽く弾き飛ばし、立ち直って再び切り込んできた一人目の剣を叩き折る。


「なんだコイツ……」


 直ぐに自分達の手に負えないと判断したのかお互いに目配せし引き上げるかどうか考えているようだ。なかなか見どころがある。


『そうか、話せば良いんだ。小屋の中です!正門の庭の端にある小さい小屋です』


 やっとアメリが盗聴器の使い方に気がついたのか居場所を口にした。正門ならすぐこの近くだが小屋ってどこだ?。

 もじもじとハッキリしないし騎士達は放っておいて恐らくアメリがいる方へ走った。


「に、逃がすな!」


 騎士達も追いかけて来るようだが構わない。どうせもうあの人数ではかかって来ないだろう。


『これ聞こえてるのかな?リーバイ様!小屋の中ですよ!』


 さっきまでベソをかいていたくせに俺が来ているとわかって泣き止んだのか、何度も小屋の中だと繰り返し話ている。一度言えばわかる、ちゃんと聞こえてるぞ、ふふっ。

 気がつけば笑っている自分にちょっと驚いた。変な気分だ。


「いたぞ!」


 庭に入ったところで前方にも騎士が現れた。ここらは低木が植え込まれ見通しが悪い。後ろに五人、前に三人、計八人で俺を取り囲む。流石に無傷で退かせるのは無理かもしれん。時間が惜しい。

 仕方なく前方の三人にむけ、剣を抜くと立ちはだかった一人の肩に斬りつけた。


「うわぁ!!」


 もう一人に体当りして道を開くと足を止めずに走って行く。もうすぐそこにアメリがいるはずだ。


『リーバイ様!大丈夫ですか?いま悲鳴が……』


 ガタガタと音がしアメリが小屋から出る音がする。


「馬鹿!動くな直ぐに行く!」


 声に出すと辺りを見回し小屋を探す。ゲルタの探索でも見つからなかったくらいだから陰に小さく建てられた物だろう。クソっ、どこだ!?


「どこですか!?」


 右斜め前方で声がし視線を向けると、キョロキョロとしながらアメリが見当違いな方へ向かって行く。


「アメリ!」


 名を呼ぶと振り返ったアメリが直ぐに男達に囲まれ頭から布袋を被せられた。


「キャー!」


「何をする!!」


 目の前で乱暴に攫われカッと頭に血が上る。魔力を身体強化に使うと勢い良くそこへ飛び込んで行った。


「アメリを離せ!!」


 剣を振り下ろしながら騎士達に斬り込もうとすると割って入る形で一人の騎士が俺の剣を受け止めた。

 ガキィーンと金属音がし火花が散る。弾き返されたが素早く体勢を整えて飛び退った。


「これはこれは、覚えのある剣ですね」


 身体強化をした俺の剣を受け止め弾き飛ばすやつなんてそうそう居ない。


「ウォーレンか」


 覆面も無駄だとわかり脱ぎ捨てた。


「うわぁ……リーバイ・ハントだ」


 騎士の一人が俺に気が付き慄いて顔を引きつらせる。これでも伊達に総隊長をやってるわけじゃないんでね。


「お前達は先にソレを連れて行け」


 ウォーレンが下っ端騎士に命じて暴れるアメリを運んで行く。


『リーバイ様!?どうなってるの?助けて!!』


 ピアスを通じて聞こえるアメリの声にギリッと奥歯を噛み締めた。


「必ず助けるから、ちょっと待ってろ!」


 そう叫び、剣に魔力を巡らせるとウォーレンを睨みつけ構える。


「私もね、貴方とやり合いたい気持ちはあるのですが今は任務が先でして。失礼しますよ」


 そう言うと俺を取り囲むようにドーム状に土壁が立ちはだかり行く手を遮った。


「クソッ、準備されていたのか!」


 これほどの規模の魔術は俺達魔術剣士では扱えない。本格的な魔術師が時間をかけて詠唱を行わなければ出来ない大きな魔術だ。恐らく俺が侵入したと見越して先に詠唱を始めていたのだろう。

 やられた……何処かから情報が漏れていたのかも知れない。ウォーレンがいるということは完全に俺に対抗するためだ。


 アメリ……すまん、少し待たせるかもしれん。



 剣に魔力を纏わせ何度も土壁に打ち付ける。魔術で強化された土壁は一度や二度打ち付けた所で崩れやしないが諦める訳にはいかない。

 なんて硬いんだ、これは数人の魔術師が協力して作り上げた物だろう。俺一人足止めする為にそんな用意をするなんて随分と見込まれたもんだ。何度か繰り返すうちに一部が崩れそこを集中的に攻めるとなんとか通れる穴が空いた。

 


総隊長(そ〜た〜いちょ〜)!」


 気の抜ける声が聞こえウンザリとする。


「逃げられたのか?」


 駆け寄るガイオを睨みつけると距離をあけて立ち止まる。


「やだな、ちゃんと付いて(・・・)ますよ」


 剣を鞘に戻し屋敷へ向った。


「アメリちゃん攫われたみたいですね、これも作戦の内なん……じゃないみたいですね。了解で〜す」


「ウォーレンがいた」


 歩きながら話すとガイオが一瞬立ち止まった。


「ウォーレンってミスカ領との戦いで一番手こずったウォーレン・ベイカーですか!?一体いつから王都にいたんですか!?」


 追いかけて来ながらガイオが驚きの声をあげる。俺だって知りたいよ。

 今回の事は完全に俺のミスだ。相手を甘く見積もりし過ぎていた。まさかウォーレンが王都入りしているとは思わなかった。

 今回はディアス侯爵ではなくミスカ領を相手に作戦を立てて行かなくてはいけなかったんだ。国交が回復しきっていないからと油断していた事が悔やまれる。


 屋敷内に入るとクライスラー侯爵邸はもぬけの殻で殆どの金目の物は持ち出された後だった。ゲルタにアメリの護衛を優先させた為屋敷の変化に気づくのが遅れてしまった。そう言えば……


「ゲルタは?」


「一時捕まっていたみたいですが上手く抜けたようで、後を追ってます。これ総隊長あての伝言っすね」


 手渡されたメモにはひと言『失敗ですね』と書かれていた。

 チッ!主をなんだと思っているんだ、言われなくてもわかってる!!


「行くぞ、イライアス様には誰かに伝言させろ。暫く帰れないと」


「了解です、私が直々にその重要な伝言を……」


「誰かに、だ。お前はこのままついて来い」


「うぇ〜、勤務外手当はずんで下さいよ〜」


 直ぐにアメリを追い掛けるために馬が繋いである場所へ急いだ。


 

 

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