59 借金86,912,000ゴル
ヤバい!!ここは誰か使用中の部屋だ。
無断で入ってしまい血の気が引く。
部屋の感じから男性のようだからユリシーズあたりじゃないだろうか?ここにいることが見つかってしまえばどれだけ文句を言われるかわからない。せっかく最近態度が軟化してきていたのに台無しだ。
慌てて引き返そうとすると突然私が入って来たドアとは違うドアが開いた。
うわぁ~、万事休すぅー!
「なんだアメリ、何か用か?」
そこには蒼い瞳のイケメン近衛騎士総隊長リーバイ様がいた。私に気づいたのに特に気にもせず持って来た鞄を執務机に置いて開くと中の書類を取り出す。
「リ、リーバイ様!あの、もふ、う、し訳ごにゃ……」
訳がわからずとにかく謝罪をしようとするが噛み噛みになってしまう。
「はぁ?何が言いたいんだ……ふぅ……」
椅子にドカッと腰を下ろしため息をつく。恐らく総隊長としての任務を終えてここへ来たのだろう。だけどここって一体何の為の部屋なの?
「お疲れ様です。えぇっと、お茶でもいかがですか?」
部屋を見回すと壁際にお茶を淹れる準備が整えられている。
「いや、酒がいい。そっちの棚にグラスがある」
指示された棚には色々なグラスが並んでいてどれを選べば良いのかわからない。適当に数個トレーに載せていると、リーバイ様が自分で酒が入っているらしき机の引き出しから高級そうな瓶を取り出していた。
「その下に氷がある」
言われるままに棚の下を開くとガラリと氷が鳴った。
「魔術具ですか!?初めて見ました」
自動で氷が作られているらしく引き出し一杯に氷が詰まっている。こんなの上位貴族でもなかなか持っていないだろう。
「ドルフが作った。最近付けてもらったんだ、便利だろ?」
かぁ~、ドルフったら優秀だなぁ。そんな人にマッサージグッズとか作らせちゃ駄目じゃない、私。
氷を大き目のグラスに一杯に入れ、お茶用に置いてあった水さしも一緒にトレーにのせ執務机に運んで行った。
「水はいらん」
そう言って自分でグラスに氷を入れて酒を注ぎロックで飲み始めるリーバイ様。
「駄目ですよ、キツいお酒は体に悪いですから」
私は勝手に水さしでグラスに目一杯水を注いだ。
「わっ、なにするんだ……仕方ない、それはお前が……いや、アメリが、飲め、よ」
何やら口ごもりながら私にお酒を勧めてきた。そうして自分にもう一度ロックで酒を作ると私に水を注がれ無いように手に持った。
「何を言っているんですか。貴族様の前で飲めるわけ、無、いで……す」
そう言いながら私も態度や言葉が立場をわきまえていない事に気がつき何だかモゴモゴとしてしまう。
リーバイ様もそれに気づいたのかフッと笑う。
「もう良いだろう?ベリンダもいないんだから諦めろ、ほら」
自分の顔面偏差値を十分に理解しているキラキラしい笑顔でグラスを渡され黙って受け取った。こんなのズルい。
「では一杯だけ」
椅子まで勧められ、もう同じかとあきらめ机の角を挟む形で傍に座った。
コツッと小さい音をたててグラスをあわせて乾杯し一口酒を口にふくむ。
「はぁ~、美味しい。お酒って美味しいんですね」
前世では体にあわず、全く飲めなかったアルコールがどうやら今は飲めるらしい。
「まさか初めて飲んだのか?ハハッ」
リーバイ様が驚いた後、面白そうに笑った。
「はい、父親が飲んだくれで見ているだけで飲む気になりませんでしたから」
「あぁ、そうか……」
急に顔を曇らせるリーバイ様。きっと、父親が私を見捨てて逃げた事を思い出させてしまったか、とでも思っているのだろう。
「別に平気です。父親とは縁が無かったのだと思ってますから。きっとどこぞの町で自分だけのんびり暮らしてるんだと思うとムカつきますけど」
グラスのお酒をチビリと飲みながら話した。初めて飲んだお酒はほんのり甘く芳ばしい香りが鼻に抜けていく。
「これって高いお酒なんですか?」
氷をカラカラと揺らしまた一口飲んだ。ほんわりした良い気持ちだ。
「まぁそうかもな」
リーバイ様がグイッと飲み干しまたそこへ自分で瓶を傾ける。お疲れ気味なのはわかるがそれとは別に少し落ち込んでいそうな気がする。
「大丈夫ですか?」
ついそう言ってしまったが貴族様には心配なんて余計なお世話なのかもしれない。っていうかそうだろう。総隊長で伯爵でイケメン。世の中チョロイくらい思っていてもおかしくないくらいのスペックの持ち主に私の心配なんてね。
ゴクリとグラスのお酒を飲んだ。
「ぷはぁ、何か気になることでもあるんですか?」
いやいや聞いたところで私が出来ることなんて無いから。むしろただ鬱陶しいだけだよ。
「別に大した事じゃない。ただ、任務の遂行と自分の思いに少しばかりズレがあってな」
遠くを見るような眼差しをし、真剣な顔でまたグラスに酒を注ぐリーバイ様のちょっと憂いだ横顔。美しい鼻筋に見惚れちゃうなぁ。
「リーバイ様にも思い通りにいかない事があるんだ」
そう言いながらグラスの酒を飲もうとした。
あれ?もうお酒が無い。
さっきリーバイ様がやっていたように机の上に置いてある瓶を手に取り自分のグラスに注いだ。
これで良いんだよね。
「おい、ちょっと口調が変わってるけど大丈夫か……って待て待て!初めて酒を飲む奴がそんな濃いのを……」
並々に酒を注いだグラスに口をつけようとするとリーバイ様が慌てて私から瓶を取り上げる。
きっと自分の分が減ると思って焦ってるんだ。伯爵の癖にケチだな。
せめてグラスの酒は取り上げられないように急いで飲んだ。
「あぁあぁ、アメリ!よせこれは結構度数が高いんだぞ」
へへぇーん、そんなに慌てたって無理ぃ〜、もう飲んじゃったもんねぇ〜
するとさっきと違い喉をかぁっと熱く酒が通っていく。
「くぅ~、何だかキツいぃ〜」
「馬鹿!当たり前だ」
直ぐに別のグラスに水を注がれ飲むように言われた。
ちょっとちょっと、何をやってんだこの人は。
「駄目、私が水を注ぐから!」
伯爵なのに私に給仕しないでくださいよ!っていうか何だか頭がぼうっとしてきたぞぉ〜
「まじかこんなに簡単に酔うやつがいるなんて信じられん。もう二度と他の奴の前で酒を飲むなよ」
「自分が飲めって言ったくせにそんな事言うんだ。変なのぉ、アハハハッ」
何故かリーバイ様の慌てる様が可笑しくなって笑いが止まらない。イケメンって凄い。居るだけで笑いも取れるんだ。
「はぁ、飲ませた俺が悪かった。もう寝ろ」
リーバイ様が立ち上がり私に近づくとまだ半分酒が残っているグラスを取り上げた。あぁ私のお酒がぁっと思っているとほらっていう風に手を差し出してきたのでその手をきゅっと握りしめた。ラッキー。
「リーバイ様って分厚い手をしてますよね〜、マッサージしていたときも思ってたんですけど、掌が固い」
椅子から立ち上がり反対の手も握ると向かいあった。大きな暖かい手を引き寄せる。
「えへへ~」
見上げたリーバイ様の顔にはエフェクトがかかり背後にキラキラと光が舞っている。
わぁー凄い!天井がぐるぐる回ってる〜
「おい、大丈夫か?」
私を心配そうに覗き込み握られた両手を更に引き寄せると顔を近づけてくる。
「きゃあ~っはははっ、駄目だよ、そんなに近づいちゃ照れるぅ~」
そう言って身をよじって逃げようとすると足がもつれて倒れそうになりガシッと抱きとめられた。
「危ない!全く手のかかる……」
ふわりと体が浮いて気がつけばまたリーバイ様に抱き上げられていた。
「部屋はどこだ?」
そう言いながら自分がさっき入って来たドアの方へ行くので慌てて頬に手を添えこちらを向かせた。
「違う違う、あっち」
部屋の隅にひっそりとある私が入って来たドアを指差すと驚いた顔をした。
「はぁ?あの向こうは侍従の控室だろ?」
「ブー!ハッズレぇ〜!あそこは今夜から私の部屋ですぅ」
驚いたリーバイ様が私を抱えたままドカドカ急ぎ足でそのドアをあけ中へ入って行った。
「ほらねぇ、カワユイ部屋でしょう?」
呆気に取られるリーバイ様の腕から下ろしてもらうとそのままベッドへダイブした。
バフっと飛び込んだ真新しいシーツはいい匂いがし何度か息を吸い込むと意識が遠のいた……




