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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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53 借金87,272,000ゴル

ブクマありがとうございます


ストックが無くなってきたので暫く投稿お休みします

またよろしくお願い致します

 部屋の最終チェックも完了し、いよいよ女性専用マッサージの開店時間が迫って来た。

 ちょっとドキドキしている私と、かなりドキドキしているシャーリーさん。何度も深呼吸する彼女は見た目だけでなく娼婦の時とまるで違い、こっちが素の姿ではないかと思った。

 

「シャーリーさん、大丈夫ですよ。暫くは私の手伝いだけですし、ゆっくりと覚えていけばいいんですから」

 

 ぎこちない笑みを見せシャーリーさんがこっくり頷く。

 

「ありがとうございます、ここではリリーって呼んでください。勿論呼び捨てで、弟子なんですから」

 

 シャーリーという名が紫苑の館のナンバーワンなのは有名な事らしく、マッサージ師としては別名を使うようだ。

 

「わかったわ、これからよろしく。リリー」

 

「よろしくお願いします、アメリさん」

 

 これまでと立場が逆転した感じでちょっとむず痒いが仕方が無いだろう。

 

 二人でクスッと笑っていると待ち合いの玄関ドアがノックされた。

 

「はい!」

 

 二人してビシッと背筋を伸ばし初めてのお客様を迎えた。

 

 

 

 最初のお客様は予告通り、イーデン翁の奥様だ。きっとマダムに頼み込んだのだろう。

 

「ようこそ御出くださいました」

 

 平民の富裕層だけあって着ている服も高級な物で珍しそうに部屋の中を見渡したあと私達に視線を移した。

 私はニッコリと微笑み、先ずはマッサージの説明をするために待ち合いの椅子へ案内しようとした。

 

「あぁ、一人じゃないのよ」

 

 そう言って玄関を振り返るイーデン翁の奥様の視線の先には二人の御婦人がいた。

 あれ?予約は一人ずつで一時間、三人のはずだがまだ次の予約時間まで一時間ある。

 

「あの、お一人と伺っておりますが?」

 

 確認するとイーデン翁の奥様が二人に中へ入るように促した。

 

「ごめんなさいね、この二人が見学したいって言うものだから連れてきたの」

 

 イーデン翁の奥様が二人に一緒にマッサージを受けに行こうと誘ったが得体がしれないから嫌だと言われ、それなら自分がマッサージを受けるところを見ればいいと誘ったようだ。

 奥様は旦那様であるイーデン翁からその気持ちよさをずっと聞かされ続けてきたから待ちに待ったという感じらしいが、平民の間ではまだまだ浸透していないから仕方が無いだろう。

 

「奥様が宜しければ私は構いませんよ」

 

 こっちからすればいい宣伝になる。

 三人に改めてマッサージの説明をしていく。

 

「この施術は痛みを緩和するもので治すというものではありません」

 

「でも貴族の間では美容に良いと言われているんでしょう?」

 

 奥様がそこが一番聞きたいところだと言わんばかりに身を乗り出してくる。

 

「そうですね、体の緊張が緩むと血行が良くなり顔色も良くなりますし、浮腫も改善されます」

 

「たるみが無くなるんでしょう?」

 

「改善されます」

 

 医者じゃないから治せない、消えるわけじゃなく改善される可能性があることをしっかりと伝え、いよいよ奥様のマッサージを始めることになった。

 

 シャーリーさんことリリーが着替えを手伝い、準備が整ったマッサージベッドへ案内する。

 三人共に穴あきベッドに驚き、マッサージが進むに連れ奥様は無言になり。残りのお二人はヒソヒソと話しながらマッサージの見学をしていた。

 

 終了後、着替え終わった奥様がぼうっとした顔で待ち合い室へ戻って来た。

 

「とっても気持ち良かったわ……またお願いしたいの。予約は取れる?」

 

「私も」

 

「私もお願い」

 

 その食い付きぶりを見てリリーがうんうん頷いていた。三人の気持ちがわかるのだろう。

 十日は予約が埋まっていたのでその後に三人の予約を承り三万ゴルの料金を頂いた。

 

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 

 と見送った後直ぐに次のお客様を迎えた。

 説明があるから通常より施術を始めるまでに時間がかかる。少しずつずらして予約を取っているものの、暫くは押すだろうから休みなくぶっ続けで仕事だな。

 数日中には手順が決まるだろうが慣れるまであたふたとしながら夫人達にマッサージを行っていった。

 

 

 

 

「お疲れ様〜」

 

 三人目のお客様をお見送りし初日が終了した。

 慣れない仕事にリリーはぐったりとして大きくため息をついた。

 

「なんだかあっという間で、何も出来てない気がする」

 

 リリーが自分でこめかみをグリグリとしながら緊張からくる頭痛をほぐしているようだった。

 

「そんな事ない、ちゃんと動けてたよ……ベッドの準備も、一度しか間違えて無かったし」

 

 最後のお客様に胸当てを置き忘れてた。

 

「すみませんっっ」

 

 ペコリと頭を下げるリリーが可愛くてついからかってしまった。

 

「あははっ、ごめん、大丈夫だよ。初めてのことだし直ぐに気がついたから」


 そのまま今日の反省点を二人で話し合った。


「ホットタオルは熱すぎず冷ませ過ぎず、着替える場所も二つに分けてもいいかもね」


 今はまだ三人だけだが人数が増えれば着替えの待ち時間があるのはもったいない。


「それなら衝立で仕切って同時進行がいいかもしれませんね。マッサージ室も帰る人に施術を受けている人が見えない方がいいかもしれません」


 特急料金で作ったマッサージ室だがまだ改善点がありそうだ。


「帰る人には一度廊下へ出てもらって待合へ戻ってもらいますか?」


 着替える部屋にも廊下へ通じるドアはある。


「う~ん、でも万が一にでも娼婦達とかち合ってもめたくないからねぇ……」


 話し合っている間にスタンダードの時間が迫り私はそちらへ行かなくてはいけなくなった。


「アメリさんは行って下さい。私は掃除してから戻りますから」


 シャーリーさんにスタンダードでの仕事は無いとはいえ一人で片付けなんてちょっと心苦しい。


「今夜は予約は無いの?」


「リーバイ様がいらっしゃいますけどまだ時間がありますから」


 ニッコリ笑う紫苑の館ナンバーワンのシャーリーさん。変装していてもやっぱり綺麗で、私は最近殆ど話していないのにリーバイ様はシャーリーさんを指名してここに来ている。


「そ、そう……一番客、だもんね」


 娼館の一番客は必ず定期的に来館しなければその地位を保てない。

 だからリーバイ様がシャーリーさんに会いに来るのは当たり前で。

 だから今夜はリーバイ様とシャーリーさんはあの部屋で一緒に過ごすわけで……


「あ、あの、アメリ……さん。リーバイ様は別に私に好意がある訳じゃ……」


 シャーリーさんが急に焦って変な事を言い出して、でもそんな事は聞きたく無くて。


「じゃあ時間が無いから後はよろしくね」


 逃げるように部屋を後にした。




 スタンダードの時間が来てマッサージを行っていた。


「明日から侯爵夫人の所へ行くんですね」


 今夜はマイルズさんとドルフの予約が入っていた。

 マイルズさんをマッサージしながらドルフと新しく入った据え置き型のマッサージベッドの話をしていたが、また改良したいとドルフが言い出さないか心配したのかマイルズさんが話題を変えようと口をはさんできた。


「はい、お二人を一時間ずつです」


「一人はクライスラー侯爵夫人として、もう一人が誰だかわからないままかい?」


 マイルズさんも派閥の繋がりから侯爵夫人の大体の交友関係は知っているようだが、流石に調べる時間が少なかったせいで誰が来るかは知らないようだ。


「はい、聞いておりません」


「そうかい……まぁ、あまり詳しくは言えないがクライスラー侯爵家も昔ほど余裕がある訳ではないみたいだ。侯爵自身も以前は貴族が金儲けするなど品格に欠けると仰っていたが今はあちこちの投資話に乗っては失敗を繰り返していて派閥の中での地位も低くなってきているんだ。

 前婦人のご実家に頼って一時は盛り返していたようだがそれも夫人がお亡くなりになり、間を置かずにグレンダ様をお屋敷へ迎えたと知られて援助を打ち切られたみたいだしね」


 前婦人がご存命の時から関係があったのか、それとも前婦人がお亡くなりになってすぐに縁談の申込みがあったのか、そこは定かじゃないがあまり聞こえの良い話では無いようだ。


「そうなんですね」


 そんなクライスラー侯爵夫人がリーバイ様と再び繋がったのか。



 

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