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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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45 借金88,352,000ゴル

ブクマありがとうございます

 なんですか今のは?

 という顔をしてしまっていただろう。リーバイ様がその後マダムと話し始めたが全く頭に入って来ない。

 

「おい、聞いているのか?」

 

「いいえ、全く」

 

 無礼と分かっていても首を振りあ然としてしまう。


「ゲルタってもしかして……」


「あぁ、ここだけの話し諜報部員だ。元騎士っていうのも嘘じゃないがちょっと癖が強くて色々あってな。騎士団をやめるか俺につくか選ばせたんだ」


 諜報ってまさに私がしなければいけないスパイって事でしょう?


「だったら私じゃなくてゲルタに頼めば良かったんじゃないですか?」


 ノウハウを身に着けている専門家の方が良いに決まってる。


「勿論ゲルタも使ってるがあの通り一度目にすれば忘れられない存在だから警戒が厳しい所では使い辛いんだ。だからゲルタに注意を引きつけておいてお前が入り込む方が良いだろう」


 なるほど、ゲルタで引っかきまわしてその隙にってことか。そんなので上手くいくのかな?




 不安を感じつつも考える事は私の役目では無いので一旦忘れよう。

 それより裏門の改装の為に頑張ってる三婆のこともあり厨房へ手伝いに向かう前に裏門の様子を見にいった。

 裏門では数人の男達が丁度これまでのシンプルな門をお客様を迎えれるようにちょっとランクを上げた装飾を施した門に付け替えるようでで、掛け声と共にロープで新しい門を引き起こしているところだった。


「馬鹿野郎!もっとあげろ!」


「「はいっ!」」


 責任者の声が響き若い衆が必死にロープを引っ張る。前世ではクレーンで吊り上げなければ設置出来ないような高さの新しい門扉は鉄製で格子の中央部分に大輪の薔薇、その周辺には細やかな葉のような模様が組み込まれている大変凝った代物だった。


「これほどの門をこんなに短期間で造ったのは城の増設の時以来だぞ」


 突然後ろから声をかけられ振り向くとそこにイーデン翁が満足気に立っていた。


「イーデン様の所で作ってたんですね」


「優秀な鍛冶屋だからな、うちは」


 自慢げに見上げるイーデン翁とそのまま並んで見ていると、鉄柵と門扉を繋ぐ丁番をこの場で取り付け始めた。

 一人の職人らしき男が梯子にのぼり上の方の丁番の位置を確かめ腰に下げていた道具を構えると急にそこが眩しく光り始めた。


「うわっ!」


「直接見るんじゃねぇぞ。目がやられちまう」


 イーデン翁と一緒に目をそらし光りが止むのを待った。


「あれって魔術具ですか?」


 これまで鍛冶屋内で行われる作業を見たことは無かったが使われている魔術具はまるで前世での溶接ガンのような形で、コードはなく大きさもかなり小さ目。腰の道具ベルトにまるで拳銃のようにさしてあって、かなり手軽に溶接出来るもののようだ。


「最新の魔術具でドフルが作ったもんだ。アレが開発されて以来作業がかなりはかどるようになって門の取り付けも簡単なもんさ」


 そう言えばドルフはご隠居クラブに顔がきく。製作をお願いしているマッサージグッズや鼻緒のサンダルもご隠居様御一行の手により試作を進めているが、そこには鍛冶屋は関係無いのでイーデン翁は知らないかも。


「ここの工事が終われば奥様もマッサージを受けに来て頂けるようになりますよ」


「あぁ聞いてる。まさか改装してここでするとは思わなかったがこの屋敷は広いからこっち側からなら女も入りやすそうだな。だがお陰でわしまで駆り出されて女房に早くしろとせっつかれて大変なんだぞ」


 いつも強気なイーデン翁だが奥様には頭があがらない感じで微笑ましい。


「それは申し訳ございませんでした。でも娼館遊びの疑いは晴れたのでしょう?」


「あぁ、最近コールマン伯爵家で派遣マッサージを始めたろ?平民の方でもけっこう噂になっていてな。まだ平民の女で受けた者はいないから女房が一番に受けたいみたいだ」


 平民の富裕層でも女性は流行には敏感らしく階級は違えど最新の物には飛びつくようだ。

 裏門周辺の改装は順調に進んでいるようで、イーデン翁に別れを告げて厨房へ手伝いに向った。


 厨房の勝手口は元々出入りの業者が使っていたものなので、お客様を迎える出入り口はそこから離れた少し奥まった場所になるようだ。

 新しくマッサージ室になる部屋の窓部分を改造して玄関扉をつけ、部屋の中も完全リフォーム。これまで使っていた前室横の男性用マッサージ室はシンプルな部屋だったが女性向けはかなり華やかなりそうだ。



 厨房の手伝いを終えた後に仮眠を取りスタンダードの時間を迎え、予約が入っていた二人のマッサージを終えると直ぐに公爵邸へ向かう。

 公爵邸ではスパイ活動は必要ないし、お客様に襲われる心配もないから護衛のゲルタは来ないのかと思っていたがついてきた。助手として派遣には必ずついて来るそうで、愛想が無く会話も弾まない馬車の中がちょっと気まずいが仕方ない。

 深夜に帰宅しシャワーを浴びて気絶するように眠るというスケジュールが続いた。




「おい、起きれるか?」


 さっき眠ったばかりだと思っていたのにもうユリシーズが起こしに来た。

 何故起きなくてはいけないのか、という気持ちに誰も答えはくれないが起きなくてはいけない。


「ふぐぅ……行きたくない……」


 誰に言うわけでもなく無駄と知りつつ口にする。

 ベッドに腰掛け立ち上がることを拒否している自分の足を見つめて泣きそうになる。

 疲れた、行きたくない……でも行かなきゃ……


「クッソー!」


 両手で頭をポカポカ叩いて気合いを入れて立ち上がる。兎に角やらなきゃ何も終わらない。

 仕度を整えマダムの執務室に行くと既にリーバイ様もいて、ゲルタもそこにいた。


「おはようございます……皆様」


 声に力が無いのは許して欲しい。既に休み無く十連勤、コールマン伯爵夫人の予約は残り四日。もうすぐ休めるけど今が辛い。


「おはよう、アメリ。コールマン伯爵夫人から続けて朝の予約の申請が来てるわよ」


 グラリと頭が揺れるのを感じる。ガシッと受け止めてくれたのはゲルタだった。


「疲れが溜まってるみたいですね、ポーションはまだ飲んでないんですか?」


 不思議そうな彼女の声にハッとする。


「みんなポーションを飲んでいるのですか?」


 ゲルタがリーバイ様の指示に従って指定席の隣へ座らせた。


「そりゃ、通常任務があるうえこの話も進めなきゃならんからな」


 当たり前のようにリーバイ様はいう。


「私も仕事がキツイ時は飲むわ。体力が回復すればなんとかなるからね」


 マダム・ベリンダも愛用しているポーションは傷を直し体力を回復できる。そんな便利な物がある事を忘れていた。


「ポーション!私も飲みた……」


「一本二十万ゴルよ」


 知ってた〜、世の中の九割がお金だってわかってたもんねぇ。わかってたんだから泣いたりしないもん、グスンッ。

 項垂れ鼻をすするとリーバイ様がポンと頭を叩く。


「なんだよ、飲みたいなら買ってやろうか?」


「本当ですか?」


 ガバっと顔を上げリーバイ様を熱く見つめる。制服姿じゃ無いけれどキラッと輝きとっても男前に見える。


「アメリ、ただじゃないわよ」


 ですよね。

 マダムの忠告に現実に引き戻される。


「なんだよ、人聞きが悪いな。俺は貴族だぞ、持てるものが持たざるものに施しをするのは義務みたいなもんだろ」


 途端に笑顔が胡散臭い詐欺師に見えだし上がった気持ちがスンと下がる。施しを受けるのが嫌とかそんな事はどうでもいい、どこが出元でも金は金だ。だけど後々縛られるのは嫌。


「では無条件で買ってくれるんですか?」


「世の中そんなに甘くないだろう、だけど簡単な事だ。この作戦が終わった後、俺に付けばいい」


「リーバイ様に仕えろってことですか?」


「そうだ、ゲルタのように時々何か頼むだけだ」


 怪しい、気軽なバイト感覚で受けたらヤバいやつだろう。


「ゲルタは今回の任務の前はいつ働いてたいたんですか?」


「直前までとある場所でとある仕事についていました」


 連勤だ!しかも今回も連勤、休み無し。


「お優しいリーバイ様からのご提案で、大変有り難いお話ですがお断りさせて頂けませんか?」


 疲れはマックスで気力も無いがここで判断を誤っては人生の後半ずっと後悔することになりそうだ。


「チッ、なんだよ随分慎重だな。じゃあどうするんだ?本当に顔色が悪いぞ」


「じ、自腹で……払います」


 この十日間で稼いだ金額はコールマン伯爵家で二百六十万、スタンダードで最近毎日二人きっちり入っているから二十万、スイートで公爵家に二人にマッサージを行っているから二百六十万。合計五百四十万ゴル!

 稼いでる、稼いでいるよ私!こんなに稼いでるんだからポーションの一本くらい買っても良いんじゃない?良いよね、たまの贅沢!


「わかったわ、じゃあ二十万つけておくわ」


 マダムがユリシーズに頷き彼が棚から小瓶を一本取り出し私に渡してくれた。


「では失礼して」


 美しいカットの小瓶の栓を抜くと直ぐに口をつけ一気に飲んでいく。気分は前世のファ○ト!○っぱつ!的なものだ。


「ぷはぁ~……ぐぇーまっずい!何この味!」


 初体験のポーションは一気に体は楽になるものの次からは飲むのにちょっと躊躇うくらい不味い物だった。



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