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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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44 借金88,612,000ゴル

「ただいま戻りました」

 

 マダムが私の顔を見てちょっと困った様な顔をした。

 

「イライアス様に明日も呼ばれたのね」

 

「はい、恐らくしばらくは毎日行くと思います。でもリーバイ様がきっと数日でお忙しくなるだろうからと」

 

 マダムがため息をつきつつ頷いた。


「多分そうでしょうけど、大丈夫?」

 

「勿論です、借金返済のチャンスです。それに公爵様のお体の為ですから」

 

「あら、意外といい顔してるじゃない。時には開き直りも大事よ、当分大変でしょうけど頑張りなさい」

 

 私が振り切った気持ちで答えるとマダムが微笑んだ。







「起きろ」


 パチっと目を覚ますとちょっと驚いた。今朝はユリシーズの起こし方がなんだか優しい気がした。まぁ、気のせいか。

 直ぐに支度を整えマダムの執務室へ向かった。


「おはようございます」


 部屋の中には既にリーバイ様もいて執務机には幾つもの書類が広げられていた。

 私だって睡眠時間は少ないがこの方達は一体いつ眠っているのだろう。


「よう、今日も向こうに着いた頃くらいから聞いてるからな」


 リーバイ様が自分の耳たぶを指で叩きながら話す。昨夜の眩い制服姿を思い出し一瞬ドキッとした。


「宜しく、お願い致します」


 出来るだけ思い出さないようにして目の前のいつもの軽めの服装のリーバイ様に集中しようとするがどうしてもイケメンフィルターがかかってしまい調子が狂う。


「なんだよ、疲れてんのか?」


「いえ、大丈夫です」


 動揺するな、昨夜の事が無くったってリーバイ様は元々イケメンじゃないか。あれは制服のせいで威力が増しただけだ。

 そう自分に言い聞かせマダムの方へ視線を向けた。


「今日はコールマン伯爵邸二日目ね、また何かあるかも知れないから付き添いを変えるわ」


 昨日は女性専用だと言われユリシーズが私から離れた事で危惧したようだ。

 

「ゲルタ、アメリだ」


 急にリーバイ様が振り返り誰かを呼ぶと全く気配に気づかなかったが女性が突然こちらへ近づいて来た。


「うわっ!」


 思わず驚き声が出てしまう。

 無表情にスッと私に近づきじっと見てくる。背丈は私よりかなり高くリーバイ様より少し低いくらい。非常に体格がよく侍女服を着ているがあまり似合っていない。


「こいつは俺の部下で色々使い勝手がいい万能型の元騎士だ」


 万能型!?どう見ても武闘派だけど。


「ゲルタです、宜しく」


 少し低めの声で挨拶され、とっても頼りになりそうだがその表情は変わらずニコリともしない。もしかしてリーバイ様に命令されたとはいえ不本意な仕事なのかな?


「アメリです、宜しくお願いします。えっと、なんとお呼びすればいいですか?」


 私より年上なのは明白だし、リーバイ様の部下ならもしかしたら貴族様かもしれない。助手として同行するならやり難くなるから自分から言わない限り身分は聞かない方がいいかも。


「助手ですからお気遣いなくゲルタと呼び捨てで。話し方もそれなりにお願いします。私もそうしますから」


 そう言われてもそもそも人を使った事なんてない。いつだって使われる側で気を遣う側だ。どうしようかと迷っているとリーバイ様がポンと肩を叩いた。


「慣れないだろうから無理はするな。下手な事するよりお前が思う普通に接すればいい、だがこれから人を使う機会は増えていくだろうからよく考えろ。部下には舐められても駄目だし信頼関係が出来なくても駄目だ」


「む、難しいですね」


 視線をゲルタに向けたがやっぱりニコリともしない。


「私は命令に従うだけですから」


 無表情に言われ、いっそ愛想よくしろって命令しようかと思ったが止めておいた。ヤバい事になりそうな気がする。



 早速馬車に揺られゲルタと二人、コールマン伯爵邸へ向った。

 馬車の中ではユリシーズといる時も楽しくお喋りなんてしなかったがいつもと違う緊張感に息が詰まりそうだ。

 向かいに座るゲルタはひと言も話さず、私も話しかけない。コールマン伯爵邸までは三十分ほどだが昨日より遠く感じられた。


 昨日同様、正面玄関に到着すると荷物を持ったゲルタが先に下り、直ぐに馬車の後ろに積んであったマッサージベッドも下ろされそれもゲルタが持ってくれる。

 迎えに出てきた執事のホレスが付き添いが男のユリシーズでなく女性のゲルタに変わっていた為、一瞬ジロッと彼女を見ていたが慇懃に頭を下げる様子に納得したのか歩き始めた。


「着替える必要はなさそうですね」


 ホレスが私の服装の違いに頷き直ぐにサロンが開かれている場所へ連れて行かれた。


「いらっしゃいました」


 ノックと同時にドアが開かれ昨日とは違うメンバーの貴婦人達が一斉にこちらを振り返った。


「失礼致します。マッサージ師のアメリでございます」


 部屋に入り礼を取ると早速コールマン伯爵夫人が私を導きながら貴族的な微笑みを浮かべた。


「どなたから?」


 昨日と違い詳しい説明が先に済んでいたのか一人の若い貴婦人がスッと立ち上がった。


「わたくしが参りますわ」


「はい、ではこちらの方へ……」


 すんなりと事が運びそうで良かった。

 貴婦人は部屋に入ると直ぐに衝立の向こうへいき着替え始めた。

 ゲルタはマッサージベッドを広げ私が示した場所へ置くとそこへ私がタオルを敷き準備を進めた。

 貴婦人はマッサージベッドを珍しそうに見ていたが拒否する感じは無く素直に穴に顔をはめてうつ伏せになった。


「失礼致します」


 ベッドにあがり跨ぐと貴婦人よりゲルタの方が反応していた様に思える。貴婦人はなんだかクスッと笑った気がしたがマッサージが進むにつれゆったりと気を緩めていった。

 貴婦人の職業病のような冷えと肩こり、足の浮腫を指摘し揉んでいく。時間となりマッサージ後の注意点を述べ次の方と交代した。


 順調に進み最後の方のマッサージを終えると片付けをし、部屋へ戻った。

 そこには皆様揃ってテーブルについていたが私を見るなり奥様が私を手招きした。


「あぁ、来ましたね。皆様、アメリのマッサージはいかがでしたか?」


 その一言に貴婦人達が一斉に話し始めた。


「凄く気持ちが良かったですわ」


「本当に、うわさ通りいえ、それ以上ね」


「私は眠ってしまいそうでしたわ」


 絶賛の嵐に営業スマイルを張り付けると深々と頭を下げた。


「恐れ入ります」


 今日も心の中の拳を突き上げる。


「皆様、ご満足頂けて良かったですわ。では場所を移動してお食事に致しましょう」


 奥様が笑顔で皆様を案内しようとしたが一人の貴婦人が困った様な顔をした。


「サヴァンナ様、私はまたマッサージを受けたいですわ。予約をお願い出来ませんか?」


 それを聞いた他の二人も同じ様に言い出し奥様がそれをわざとらしい顔で困った様に首を傾げる。


「まぁ、そんなに気に入って下さったのですか?ですけどアメリは大変な人気で中々予約が取れませんのよ。わたくしも何とか手を回しやっと取れましたの」


 またマウントを取り始めたよ。

 貴婦人達はガッカリしながらも空きが出れば必ず知らせてほしいと言いながら退出していった。

 奥様が後に残り私に予約の空きが出来たら真っ先に自分に知らせるように念を押してきたがマダムに聞かないとわからないで通した。



「はぁ……」


 帰りの馬車に乗り込みやっと気を抜いた。


「大丈夫でしたか?」


 何も言わないゲルタに一応確認してみた。


「はい」


 のひと言で終わった。



 今回は何事も無く終わりマダムに報告に向った。

 部屋にはリーバイ様もいて例のごとく私が座る場所を示すように自分の隣をポンポンと叩く。もう慣れてしまって抵抗もマダムに確認することも無く座る。


「今日は順調だったと思うのですが」


 成り行きは盗聴でわかっているのだから取りあえず感想を述べた。


「あぁ、そうだな。ゲルタ、そっちはどうだ?」


 リーバイ様が視線を向けると彼女が今まで無口さが嘘のように報告を始めた。


「はい、コールマン邸は伯爵家であるため基本的な警備は整っておりました。ただ一部成長した木が窓に枝を伸ばしていた為手入れが必要です。使用人達は視認した八名に限っては怪しい言動はありませんでしたが、

 伯爵夫人はここ数週間は投資家達の奥様の接待を中心に動いているようですので次の投資先の期限が近いという事は間違い無いと思われます。

 伯爵の執務室は三階南に位置しているようですが今朝は人の出入りは無かったようです。夫人の執事は二番手のようですが脇が甘そうです。あれなら着替えを手伝ってる女中の方が使えるでしょう。今朝はこれくらいです」


「そいつらがいるから執事はそこそこで構わないと思っているのだろう。初日だからこんなものか」


「申し訳ございません」


「いや、仕方ない。お前の一番重要な役目は護衛だからな」


 リーバイ様が手を振りゲルタを下がらせた。

 

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