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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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40 借金88,802,000ゴル

「また新しい話が出てきたわね」

 

 文句を言われつつ青竹踏みの図も描かされ、次に鼻緒のサンダルについて聞かれた。

 

「これは室内履きになりますから底の部分以外は布製でもいいと思います」

 

 楕円の靴底に三つの穴を開けてそこに鼻緒となる紐状の物を通す図を描いて見せると一同に不思議そうな顔をされた。

 

「こんなの履いて歩けるの?」

 

「はい、この鼻緒を指で挟んで脱げないように歩く事で足底筋群(そくていきんぐん)という足裏の筋肉を鍛える事が出来るんです。因みにこんな方法でも鍛えられます」


 私は靴と靴下を脱いでタオルを床に置くとそこに足をのせ指だけでグッと掴んでは離すという行為を繰り返して見せた。


「こ、これは……ちょっと」


 何故かマイルズさんが戸惑いを見せドルフも小難しそうにしていた顔を横に向けた。


「アメリ、年頃の女性として少しは慎みを持ちなさい。いくら平民とはいえ、そこまで堂々と足を殿方の前に晒してはいけません」


 マダムがまるで母親が娘を叱るような事を言った。

 あっ、忘れてた。この世界じゃ女性の足は隠すものだった。平民ではそれほど厳格ではないけれど、貴族女性では私のこの行為はありえない。


「すみません、つい話しに夢中になってしまいました」


 元々前世の知識があるせいか今世での常識が受け入れずらい事が時々あった。しかも教えるべき母親も幼い頃に亡くし非常識な父親に育てられたせいか女性とは斯くあるべしというものが身についていないことが多い。

 そそくさと靴下と靴を履くと改めて席につき口頭で説明をした。


「とにかく、足裏を鍛えるのにこの鼻緒のサンダルで歩く事が有効なんです」


「だけど貴族には室内履きとはいえこれでは靴下が履けなくて使えないんじゃないか?」


 ドルフが先程の私の足を見たことを参考にしたのかチロっと視線をそらしつつ意見を言った。


「では専用の靴下を作りますか?」


 鼻緒のサンダルの横に足袋の絵を描くとまたマダムがため息をついた。

 マッサージグッズはマイルズを責任者としてドルフが製作を請け負う事になっている。魔術具では無い上に製作過程に魔術も必要ないがドルフが珍しい物を作りたい意欲に溢れているのでマイルズさんも止められなかったようだ。


 マイルズさんとの打ち合わせが済むと少し時間が空いたので軽くお昼寝をし体を休めた後、厨房の手伝いと娼婦達の食事の用意を手伝っていた。すると食堂にやって来たキャロに声をかけられた。


「アメリ、ちょっといい?」


 キャロは二人の同僚らしき娘を連れていた。


「あのね、この子達があなたの弟子になりたいって言うの」


「はぁ?弟子ってマッサージの?」


 ここにいる娘達は基本的に借金があるお金が必要な娘ばかりだ。今は夜の蝶として稼いでいるが借金が終わったり必要なお金が貯まればここを出る者が多い。時々どこにも行くあてがなくとどまる人も居るらしいが。


「弟子って言ってもねぇ……」


 シャーリーさんが私の弟子になるってことはまだマダ厶しか知らないはずだけどどうして急にそんな事を言い出したんだろう。


「お願いします!私達、まだ指名もつかなくて……」


 この二人は見た目は確かにパッとしないがそこまで不美人な訳では無い。そもそもあんまり不美人ではここで働けないだろう。恐らく客あしらいが悪くて積極的に勧誘もせず、といって他の娼館では働きたくない。紫苑の館は超高級だからまだ客層がいいけど他は違うから。

 私が次々と指名を獲得しオマケに派遣マッサージまで始めた事を知りこっちの方がチョロいと思ったのかな。


「う〜ん、私の口からはなんとも……マダムに聞いてくれない?」


 きっとこの子達はまだ借金があるはずだ。いくらマッサージ師を増やしたいとは言っても私が勝手に約束は出来ない。それにマッサージの事をどれだけわかっているか知らないがそんなに簡単な仕事じゃ無いんだよ。


「だよね、私もそう言ったんだけど聞かなくて。だから駄目だって言ったじゃない」


 キャロは流石に分かっていたようで呆れた顔で二人を見た。


「何よ、キャロだってそんなに指名はいないじゃない!デブのジョバンニさんにだって逃げられたくせに!」


「はぁ!?喧嘩売ってんの!ジョバンニさんは良い人だし逃げられて無いし!」


 ワァオ!急にここで喧嘩を始めないでよ。

 慌てて間に入ると二人を引き離した。私はキャロを引っ張って食堂の端まで行くと向こうの娘はもう一人の娘に連れられ反対側へ行った。

 結構大きな声で言い合ったのに周りは意外と冷静で二人が引き離された後はもう何事も無かったようだ。小競り合い的な事は良くあるのかな。


「本当にムカつく!頼まれたからあなたに話してあげたのにあんな事を言うなんて」


 プリプリしながらもキャロも普通に食事を取り始めた。


「ジョバンニさんはキャロから逃げたんじゃなくて疲れているだけだからね」


 一応キャロにジョバンニさんが今いかに忙しいかを話した。


「そう……教えてくれてありがとう。でも逆にちょっと悔しいかも」


 さっきあの娘にジョバンニさんに逃げられたと言われた時は怒っていたが、私が事情を話したら途端に悲しそうな顔をされてびっくりした。


「え?私何か変な事言った?」


「だって、疲れてるのにアメリには会うなんて。私といても安らがないってことでしょう?」


 なんだなんだ!?もしかしてキャロもジョバンニさんの事ちょっと意識してる感じなの?娼婦的には元気になって指名をして欲しいと思うもんでしょう?


「やだ何言ってるの。私はマッサージ師だよ、体の疲れを癒やす仕事(・・)をしてるだけだよ」


「私だって……仕事だよ」


 うわぁ……なんと言えばいいのか。

 私としては好きだ嫌いだともじもじしている人を見るのはイライラするんだけど、キャロのジョバンニさんへの気持ちがお客様を思っての事なのか一人の男として見ているのか判断がつかない。


「でもジョバンニさんはキャロ以外を指名してないんでしょ?」


 紫苑の館は指名している間は他の娘とは遊べない。


ここでは(・・・・)……そうだけど」


 おぉぅ、他の娼館へ行っていれば他の指名が出来るわけか。

 二人の繋がりが娼婦と客としての疑似恋愛的なものなのか、それともお互いに本気の男と女なのか、はたまたどちらかの一方通行の片思いなのか。これは進行を見守るしかないね。





 少し元気が無いキャロも食事を終えてスタンダードの時間へ向け準備を始めた。私もマッサージ室へ行きねずみ色B級制服に着替えてベッドの準備をし今日予約が入っていたイーデン翁を迎えに行った。


「おうっ、アメリ」


「ご来店をお待ちしておりました、イーデン様」


 前室へ入るなり元気のいい爺様が声をかけてきた。部屋の中にはキャロの他、さっき弟子になりたいと言っていた娘もいて早速私が指名を受けていくのを妬ましい顔で見ていた。お客を取った訳では無いがある種私目当てで客が増えているのは嫉妬の対象となるらしい。

 まぁ、借金がある身としては儲けている奴が妬ましいのはわかる気がする。


「お前なんかやらかしてるらしいな」


 うつ伏せの背中を解しているとイーデン翁が楽しそうに話し出した。


「やらかしてるって……なんの事ですか?」


 ちょっと心当たりがあり過ぎて迂闊に話を進められない。


「しらばっくれんなよ、お貴族様の屋敷へ行ってんだろ?」


 う〜ん、どっちだ?


「えぇ、まぁ」


「オマケに何か作ろうとしてる。売れるんだろうな?」


「えぇ!どうしてマッサージグッズの事を知ってるんですか?」


「あれはマッサージグッズの部品か、なんかの軸ってことはわかってたがなるほどね」


 どわぁ〜、ヤバい!かまかけられて引っかかっちゃった。またマダムに叱られるよ。


「もう〜、止めてくださいよ。まだ試作段階なんですから」


 どうやらマイルズさんの金属部品の発注先がイーデン翁の鍛冶屋のようだ。細かい作業はドルフが行うが材料の仕入れや寸法切りなどはイーデン様の所で行ってもらっているようだ。


「よく私だってわかりましたね」


「あぁ、珍しくドルフが自分で注文に来たから色々話を聞いた。勘違いするなよ、奴は他の者にはいっさい話してない。直接注文に来ても話すのは俺だけだから心配すんな」


 長年の付き合いがあり信頼関係が出来ている相手としか話さないなんて、ドルフって本当にヘンコツだな、笑っちゃう。



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