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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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37 借金88,862,000ゴル

ブクマありがとうございます

 どうやら待っている間に奥様が他の方々にじっくりと説明なさってくれていたようで、先を越されて残ったお二人がちょっと悔しそうな顔をしている。

 

「アメリ、早くいきなさい」

 

 またも獲物をロックオンした目つきの奥様が私に言い放つ。

 

「はい、ただいま」

 

 すぐに二人目の貴婦人の後を追いマッサージ部屋へ戻ると夫人は既に衝立の奥で着替え始めているようだった。さっき使用していた盥やタオルなども片付けが済んでおり準備は万端。私用のお茶とオヤツもこそっと置いてありなんだか至れり尽くせりの様子にちょっと感動。

 

「着替えたわよ、どうすればいい?」

 

 夫人はマッサージベッドを見て少し動きを停止したが、直ぐに素直にベッドにうつ伏せになりマッサージを開始出来た。

 あまり詳しく話を聞かないでここへ来たが、きっとマクブレイン伯爵夫人もこれを受けたから大丈夫とふんだのだろう。本当は足のマッサージだけなんだけど。

 

 


「もう、終わりなの……」

 

「足をもう少しやって欲しいわ」

 

「腰が気持ち良かったのに……」

 

 三者三様の後ろ髪を引かれるというような感想を頂き、片付けを使用人さん達に任せて奥様が待つ部屋へ入って行った。

 

「皆様お疲れ様でした。マッサージを受けた後は少し運動したのと同じ状態になりますから十分に水分と休息をお取りください」

 

 説明しおわり、何とか無事に仕事を終えたとホッとしていた。

 奥様も満足気でそろそろ私も引き上げようかなと考えていると一人の貴婦人が口を尖らせ不満を言い始めた。

 

「サヴァンナ様、今回のマッサージの件ですが、少し酷いと思うのですが」

 

「あら、何かご不満が?」

 

 奥様もちょっと驚き私を見た。

 いやいや、何も粗相はしてませんよ!と首を横にふる。すると貴婦人が身を乗り出し意気込んで話し始めた。

 

「さっきのように短い時間ではなく、もっとして欲しいのです。マッサージは素晴らしかったですわ」

 

「そうですわ、私もそう思います。足がとっても軽くなりましたわ」


「本当に今も背中がホコホコとして気持ち良さが続いているんです!」

 

 他の方々も口々に称賛し始め、マクブレイン伯爵夫人もそこに加わらないまでもコクコク頷いている。

 

「まぁ、そうだったのですね。そんなに気に入って頂けたなんて私もご紹介したかいがありますわ。ですけどこのアメリは今は大変な人気で予約がなかなか取れませんのよ。今回はわたくしが(・・・・・)何とかツテを辿ってやっと掴んだ特別なものですの。ですからより多くの方々にマッサージの気持ち良さを味わって頂こうと思いまして三十分という短時間にさせて頂きましたの」

 

 夫人方の不満かと思いきやマッサージを大絶賛されたことに我が事のように得意気になる奥様。

 

「私は一時間マッサージを受けましたがそれでも延長したいくらいでしたから、三十分ではご不満なのはとても良くわかりますわ」

 

 一時間受けたということでマウントを取り出し何故か羨望の眼差しを浴びている奥様。

 

「マッサージは一度ではなく数日後にまた受けるほうが良いようです。私は既に七日後の予約を取っているのですが他の方はもう難しいでしょうね」

 

 おぉう、予約マウントまで取り出す奥様……やることがえげつない。

 

「まぁ〜、羨ましいですわ!」

 

「サヴァンナ様、どうにかなりませんの?」

 

「もしかして直接アメリさんに予約すればいいのかしら?」

 

 貴婦人方の注目が奥様に向いている事で目の前の状況を他人事のように見ていたが急に私の名前を出されて体がビクッとした。

 ギラッとした鋭い眼差しでこちらへ歩み寄り始めた貴婦人方に背筋が寒くなり数歩後ろへ下がる。

 このままじゃマズい、勝手に予約を取ってはまたマダムに叱られる&睡眠時間が減っていく!!

 

「あの、皆様、落ち着いて下さい。私では予約を受ける事ができません」


 私の言葉に皆様目をむいて更に一歩近づいて来る。


 

「どうして駄目なのですか!?この先ずっと埋まっているわけでは無いでしょう?」

 

「あぁ、あの……」

 

「まさか私の予約を取るのが嫌とか言うんじゃ無いでしょうね?」

 

「いえ、そんなまさか……」

 

「私の家名をご存知無いのかしら。私は由緒正しい家門で代々王家に……」

 

 一歩、また一歩とグイグイ追い込まれとうとう壁際へ追いやられ逃げ場が無くなった。

 どどどどど、どうすればいいのぉー!!断るとか無理だし、かと言って受け入れるわけにいかないし、ちょっと奥様黙って見てないで何とか言ってくださいよ!!

 必死に奥様へ目で訴えたがほくそ笑むばかりで全く助けてくれない。ユリシーズも肝心な時に側にいないし、盗聴ピアスなんてなんの役にも立たない。皆様の押し迫る圧力が高まり息苦しさも覚える。このままじゃ倒れちゃう!ここはどうにか自力で脱出しなければいけない状況のようだ。

 

「あの、私が勝手に予定を決められないのです!」


 何とか言葉を絞り出す。

 

「だったら誰に言えばいいか教えなさい!」

 

「紫苑の館のマダム・ベリンダです!」

 

 と叫んだ瞬間シンと静まり返った。急に貴婦人方の圧が下がり呼吸も楽になって体から力が抜ける。

 

「紫苑の館って娼館の?」

 

 一人の夫人が怪訝な顔で尋ねる。

 

「はい、そうです」

 

「あなた娼婦なの?」

 

 他の夫人が蔑むような目つきで私を見る。さっきまでの称賛から一転し鼻白む貴婦人達。

 

「まぁ、娼婦がどうしてここに?」


 なんだこいつ等、急に態度を変えやがって。


「正確には私は娼婦ではありませんが、紫苑の館のマダムの下で働いております」

 

 ムカムカとして睨みつけてやりたい気持ちが込み上がってくるが下を向いて謙虚な態度を取ったフリをして表情を隠した。


「あら、マダム・ベリンダって例の女でしょう?」


「あぁ、公爵様の愛人でしょう?婚前からのお付き合いで公爵夫人がお亡くなりになった後も愛人のままなんて誤算だったでしょうけど、まだ諦めていないんでしょう?」


「公爵様も物好きですわね。平民の娼婦にこんなに入れあげるなんて。よっぽどアチラの方が良いんでしょうねぇ」


 はぁ!?よくわからないけど、マダムの事を思いっきり馬鹿にしている事は私にだってわかるぞ!

 公爵の恋人だってリーバイ様が言っていたけど世間じゃこんな風に見られてるって事なの?

 マジむかつく!!マダムはちょっとキツイ性格でヤバイ所に私を売ろうとしたけど止めてくれて、娼婦をしたくないって言った私をブラックだけどマッサージ師として雇ってくれたのよ!ちょっとは恩義を感じてるんだから!!


「ちょっと、お言葉ですけど……」


 ムカムカが頂点に達してつい言い返そうとしたとき、大人しいと思っていたマクブレイン伯爵夫人が私の言葉を遮った。


「公爵様って国王陛下の甥御様ですよね」


 その言葉に私に詰め寄っていた三人がくるりと振り返りマクブレイン伯爵夫人を見た。


「陛下とは大変信頼関係が厚いという噂を聞いたことがありますけど、違いましたか?なにぶん私は田舎者で」


 静かに微笑み奥様へ確認するように視線を向ける。


「いいえ、マクブレイン伯爵夫人のおっしゃる通りですわ。公爵様は大変忠誠心が厚く、陛下も他の者の言う事は聞かなくても公爵様のお言葉には耳をかたむけるとか」


 同意して同じ様に微笑む奥様。


「やっぱりそうなんですのね。でしたら公爵様のご寵愛なさる女性の方がお困りになったら」


「公爵様のお耳に入って、陛下の耳にも入るでしょうね」


 お二人で顔を見合わせてクスリと笑う。それを見た貴婦人達が青い顔をして私を振り返った。


「私はマダム・ベリンダを悪く言うつもりはないわ」


「私もそういう噂を聞いたことがあると言っただけで」


「私も別に……」


 貴婦人達の変わり様に胸糞悪いがこれ以上事を荒立てては助け舟を出してくれた奥様にもマクブレイン伯爵夫人にも悪いと思って奥歯を噛みしめた。


「さぁ、皆様は部屋を移してお食事に致しましょうか。ホレス、お客様をご案内して、あっ、マクブレイン伯爵夫人は少しお話を」


 奥様が直ぐに貴婦人達を退室させると残されたマクブレイン伯爵夫人と私だけとなった。

 応接セットへ移動し、何故か私まで座らせると奥様が呆れたような顔して小さくため息をついた。


「あんな事で動揺するなんてこれだから無学の平民は嫌なのよ」


 はぁ!?こいつまで喧嘩売ってくるのか!




 

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