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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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34 借金88,992,000ゴル

「やだリーバイ様、別に怪しんでいませんよ」

 

 シャーリーさんがコロコロと笑い疑いの目を向けたことを誤魔化した。

 

「別に抜け毛は家系の影響だけではありませんからね。用心するに越したことはありませんよ。騎士様なら兜の蒸れとか、脂っこいものばかり食べているとか、ストレスとか原因は色々ありますから」

 

 私の言葉にリーバイ様が眉間に皺を寄せた。

 

「……そう、なのか」

 

「はい、過度の飲酒や睡眠不足も駄目です」

 

「そんなの殆の男が思い当たるんじゃないか?」

 

「そうかも知れませんね。勿論個人差があるでしょうから同じ様な行動を取っていても結果は違うでしょうけど抜け毛が酷くなっていれば気を付けるに越したことはないと思われます」


 頭を揉みながら注意事項を話し時間となった。


「はい、お疲れ様でした」


 マッサージの終了を告げるとリーバイ様がベッドから跳ね起きた。


「俺はハゲるのか?どうすればいい?」


 全く縁がないと思っていた案件が急に自分に降りかかるかもしれない恐れに慄く近衛隊魔術剣士。


「よくわかりませんけど、見た限り今は大丈夫そうですよ」


 全く他人事の私は適当に答えるとさっさと片付けを始める。


「ねぇ、さっき言ってたマッサージグッズって専用の物があるの?」


 シャーリーさんも手伝ってくれながらリーバイ様そっちのけで自分の知りたいグッズの話を始める。


「そうですね、別に難しい仕組みは要らない物ですけど」


 前世でも百均でいくらでも売っていたマッサージグッズ。作れなくは無いだろう。


「もしかしたらマイルズさんの所のドルフさんに頼めば作ってくれるかもしれませんね」


 本来なら魔術具を作る職人のドルフだがマッサージベッドを作ってくれたぐらいだから出来なくはないだろう。


「そうなの?だったら頼んでみてよ」


 二人でグッズ作りを進めようと楽しく話しているのにリーバイ様が口を挟んでくる。


「ちょっと待て!人を不安に陥れておいて放置とは酷いじゃないか!」


「リーバイ様、まだ気にしているんですか?今は大丈夫だと言ったじゃないですか」


 見かけによらずなかなかの心配症だな。必死に話してくるリーバイ様に全く関心がない様子のシャーリーさんが早速数枚の紙を私に持って来る。


「はい、図面を書く紙が必要でしょう?どんなグッズを作るの?」


「図面はいいから俺の心配をしろよ」


 もう〜、どっちも押しが強いなぁ。

 わいわいと騒ぐ二人にちょっと疲れてしまい、ひと呼吸置いて一気にかたをつけた。


「リーバイ様は毎日枕に付いた毛でも数えて下さい。細くて短い毛が増えれば要注意。シャーリーさん、グッズ開発はせめて二週間は待ってください。私は明日からしばらく忙しいんで麺棒でも使っておいて下さい。では今夜はこれで失礼致します。後はお二人でごゆっくりお過ごしください」


 ちょっと強引な帰り方をしてしまったが本当に今夜は疲れて眠いから許して欲しい。

 二人の反応も見ずに素早く部屋を後にし自室へ戻って寝た。

 もう無理……





「起きろ!」


 毎度ユリシーズに起こされ目覚めが悪い。せめてもっと優しく起こしてくれれば少しはやる気が出るんだけどなぁと思いながらノロノロと仕度を始めた。

 昨夜は仕事を終えるなりベッドに倒れ込み何もかもすっ飛ばしてしまっていたから、すぐにシャワーを浴びて食事をとった。

 今日は伯爵邸で行われる午前中貸し切りマッサージ初日であるためマダムの所へ抜かりがないか確かめに向かう。


「おはようございます、マダム・ベリンダ」


 部屋へ入ると既にマダムは机に向かい仕事をしている。一体いつ休んでいるんだろうといつも疑問に思う。


「おはよう、早速だけどマイルズの所でマッサージグッズを作りたいって本当なの?」


 おふぅ、シャーリーさん仕事速すぎ!


「えぇ、そうですね。シャーリーさんが自分ではマッサージがし辛いと仰っていたのであったほうがいいのかなと思いまして」


「それがあれば手軽に自分でマッサージが出来るようになるってこと?」


 マダムが怪訝な顔で尋ねてくる。


「基本的にはそういうことですね」


「そんなものが出来てしまえばあなた依頼する必要が無くなるんじゃない?」


「いえ、そんな事はありません。どんなに頑張っても人の手によるマッサージには敵いませんし自分では届かない所がありますから。グッズはあくまでマッサージを受けられない時の補足で使う感じです」


「そうなの?」


 まだ怪しんでるマダムだがやっぱり人の手で揉む方が断然気持ちいい。勿論グッズもちゃんと使えば効果はあるから必要だとは思うけど。


「グッズ自体も大した作りでもないですからそこからお手軽にマッサージに慣れて頂くのにもいいかもしれません」


 マダムはまだ作るかどうか迷っているようだがとにかく今は目の前の伯爵邸派遣マッサージへ向かわなければいけない。


「ではくれぐれも粗相の無いよう気をつけて。今回であなたが今後通用するかどうかハッキリすると思うわ」


 今後とはつまりスパイ活動の事であると気づき急に緊張感が増す。コクリと頷き馬車へ向かおうとするとリーバイ様が部屋へ入って来た。


「アメリ、今からか」


 思わぬ登場に驚いて顔を見上げれば少し慌てた様子で、シャワーを浴びたばかりなのかふわりとシャンプーの香りがした。まだ髪が乾ききっていない感じで、昨夜はシャーリーさんと遅くまで仲良くお過ごしだったんだろう。そう思った瞬間、何故かドキッとした。あんまり深く考えたこと無かったけどシャーリーさんとリーバイ様ってアレからあの部屋でそういう事をシテいるんだ。


「緊張しているみたいだな。心配するなここで様子は窺っているから」


 リーバイ様がそう言って私の耳のピアスにちょんと触れた。この手でシャーリーさんに……いや今更ながら私には刺激が強過ぎる職場だわ。


「また盗聴ですか」


 変な事を想像してしまったが、ピアスの存在を思い出し素に戻る。うっかりゲップや放屁(ぷ~)とかしないようにしなくちゃ、乙女のプライドがズタボロになっちゃうよ。


「安全の為なんだから我慢しろ」


 ニヤリとしたリーバイ様がポンと私の頭を叩くとマダムの傍へ向った。私は入れかわるように廊下へ出ると馬車へ向かう。


 ユリシーズと共に乗り込んだ馬車が館の門を出ると段々と緊張感がましていく。今日はマッサージを本格的に広める第一歩だと思うと恐ろしくなってくるが、借金返済の絶好の機会だと自分に言い聞かせて何度も深呼吸した。

 大丈夫、これまで皆がマッサージを気にいってくれたのは事実だ。良かったからこそコールマン伯爵夫人が午前中貸し切りにしてくれてるんだからいつも通りにすればいいだけだ。


「おい、今日は絶対にしくじるなよ。お前が何かしでかせばマダムの名に傷がつくんだからな」


 緊張し過ぎないように自分を必死に励ましているのにユリシーズが私の心の弱いところを突いてきた。こいつはマダム以外の人間を何の意味もないクズと思っている。せっかく自分を落ち着かせようと頑張っているのに台無しにしやがって。


「そんな事を言われしまって……酷い、心が折れました、最悪です。私ってプレッシャーに弱くて……」


 ガックリ首をうなだれ頭をかかえグスンと鼻をすする。するとユリシーズが急に焦りだした。


「おい、何言ってる!俺はちゃんと仕事をしろと言っただけで……」


 嘘泣きに狼狽えやがって、見掛け倒しのお子ちゃまめ。お前なんて一生マダムの下僕として生きていきやがれ。


「ですよね、だったら余計なプレッシャー与えないでください」


 あっさり顔をあげ文句を言うと驚いて舌打ちしやがる。


「嘘泣きか!?お前がしおらしい事を言うわけ無いとわかっていたぞ」


 わかってるんならそんなに焦るなよ。

 ユリシーズにかまっている暇はない。コールマン伯爵邸に近づいて来て改めて気持ちを引き締めた。



 前回同様、伯爵邸の裏門をくぐるかと思っていると何故か馬車が正門へ回された。窓から見える風景にユリシーズと二人で首を傾げていたがどうやら門番に誘導されたようだが大丈夫だろうか?まさか何かの手違いってことはないかと思うが止まった馬車のドアを外側から開けられて間違いではないと悟った。


「お待ちしておりました、アメリ様」


 そこには伯爵夫人の執事ホレスが出迎えてくれていた。


 

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