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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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26 借金89,543,000ゴル

ブクマありがとうございます

 予定時間をかなりオーバーして紫苑の館まで帰ってきた。私としては少し休憩したいところだが、勿論ユリシーズがそれを許さずそのままマダム・ベリンダの執務室へ報告に向かう。


「只今戻りました」


 ドアを開けるとそこにマダムとハント伯爵が待ち受けていた。ユリシーズがマダムと二人きりで部屋にいたハント伯爵(イケメン)に一瞬ムッとしたのを私は見逃さなかった。狭量だねぇ。


「あぁ、ご苦労だったな」


 ハント伯爵は軽く手を上げ私達をねぎらった後また自分が座っているソファの隣をポンポンと叩く。嫌そうな顔をしてマダムを見たが肩をすくめられたので黙って隣へ座った。

 一体なんなんだ。

 ユリシーズが馬車の中でまとめていた今日の業務内容をマダムが確認しつつ私にも印象を尋ねてきた。


「子爵は初め私を奥まった部屋へ連れて行ったのでマッサージを何かいかがわしい物かもと思われていたようです」


 予約を頂いた時点で書面で『体の痛みをやわらげる』と書かれた物を渡していたはずだが新手の性サービスと思われていた感じだ。


「なるほど、そこへ夫人が乱入……駆けつけたのね?」


 流石に夫人は自分が住む屋敷で夫が淫らな行為行うことは許せなかったのだろう。


「はい、ですがロードリック様のお名前を出すとすぐに落ち着かれました」


「ロードリック?」


 隣でフンフン話を聞き流していたハント伯爵が急にロードリック様の名前に反応した。


「勿論ご存知ですよね?」


 マダムが勝手にロードリック様にお墨付きを依頼した訳では無いだろう。


「ロードリック・ウェストを名で呼んでいるのか?」


 どうしてそんなにムッとしているのかわからない。


「はい、お許し頂きましたから。駄目でしたか?」


「駄目……じゃないが、だったら私もリーバイと呼べよ」


「はぁ……ありがとうございます。リーバイ様」


「待てよ、同等というのも気に入らんな、敬称もいらん」


「それは無理です。ありえません!」


 なんの冗談だ?まさかまた何か試されてる?まずい!名前呼びを受け入れたのが罠だったのか!?


「貴族という私とは別世界にお住まいのハント伯爵閣下を名前呼びなど受け入れるのは恐れ多いです。どうかこれまで通り伯爵様と呼ばせて下さい」


 直ぐに立ち上がって数歩下がると深々と礼をとった。するとハント伯爵は苦々しい顔をした。


「違う違う!わかった、もういいから様を付けて名で呼んでくれ」


 焦った様子でそう言ってまた自分の隣へ座るように手招きした。

 どゆこと?よくわかんないんだけど?

 理解不能ながらも言われるままに隣へ戻った。


「笑うなベリンダ」


 リーバイ様が不機嫌にそっぽを向いた。

 やっぱり何か機嫌を損ねてしまったらしいが、マダムが声を押えながらクスクスと笑っているので多分大丈夫だろう。


「で、行った感触としてこの先どう進めて行くか意見はあるかしら?」


 やっと落ち着いたマダムが報告書を片付けるようユリシーズに渡した。


「そうですね、子爵夫人はマッサージで顔のたるみが軽減されるという所に敏感に反応しておりましたので、この先はご夫婦、もしくは御婦人へオススメする方が良いかもしれません。そうすれば旦那様方も受け入れやすいかと」


「……そのたるみ軽減って聞いてないんだけど」


 マダムが目をギラつかせて言った。


「あれ?言ってませんでしたか」


 そこからは足を揉めば浮腫の軽減、お腹を揉めば腰痛と便秘の解消なども説明書に加えた。


「情報は全て明かしてくれなくては困るわね」


「申し訳ございませんでした。私も必死になって思い出した感じでして」


 そもそもマッサージひとつでここまで話がぶっ飛んで行くとは思っていなかった。最初は安娼館を回避する為に何とか足掻いただけだ。

 マダムは情報は知らなかったが自分は既に頭のマッサージを受けていたので何とか気持ちを収めてくれた。


「少し方針を変更したほうが良いかもしれませんね」


「そうだな、これまでの貴族男性狙いを少し考えなおすとなると……」


 マダムがリーバイ様とこれからの事を話し合うようだ。

 私は疲れているが借金がある身としては休めるわけもなく、厨房の手伝いへ行くよう言われて立ち上がったが聞いて置かなくてはいけない事があった。


「今回の派遣マッサージはどれだけ請求するつもりですか?」


 ここへ迎え入れてのマッサージは基本スタンダード扱いで一時間三万ゴル、手数料を引かれて私の取り分は二万ゴル。


「派遣マッサージは基本スイート料金で行くけど今は切りよく二十万ゴル、派遣料で別に十万ゴルもらってるから……今回のマッサージは本来三十万ゴルだったんだけど、夫人の追加に時間延長になったので、六十万ゴル請求するつもりよ」


 やった!ってことは私の取り分は四十万ゴル!

 小さく拳を握り喜んでいるとマダムが先を続ける。


「馬車はこちらで出しているからあなたの収入に出張費は含まれない。だから実働の二時間の四十万ゴルと延長一時間十万ゴルの三分の一引いて、あなたの取り分は三十三万ね」


 まぁ……まぁ、いいか、良いよね。細かいけど仕方が無い。とにかく派遣マッサージの方が借金返済にはかなり効率がいいと確認出来たんだから。

 なんとか気持ちに折り合いをつけドアへ向ったがふと足を止めた。


「そう言えば一度聞いてみたかったんですけど」


 私はリーバイ様を振り返った。


「なんだ?俺の魅力に気がついたか」


 リーバイ様がキラリと白い歯を見せていい顔を向けてきた。


「違いま……いえ、リーバイ様は大変素敵ですが、そうではなくて。私の事をどの時点で利用しようと思われたのですか?」


 危なく違うって言い切っちゃいそうになったよ。

 寸止めで命拾いしたが、一瞬部屋の空気がピリッとした気がした。何か不味い事を聞いたか?リーバイ様は普段からお優しいから平気だと思って聞いてしまったが本来貴族様に使われる理由なんて聞かないか。


「変な事を聞くのね。勿論ディアス侯爵を調べるうちに高利貸しのダントンに繋がって、詐欺で土地を買い占めるって情報が幾つかあって被害者の中にあなたがいたのよ。商売をやっていることがわかったから多少は使えるかもと思って上手くここへ誘導したの」


 マダムがユリシーズにお茶を頼みながら答えてくれ、リーバイ様も軽く頷いている。


「私の他にも被害者がいるんですね」


 父さんの馬鹿な油断で私はこんな目に合って、自分は何処かへ逃亡中。どうせ楽しく暮らして私の事なんて思い出しもしていないだろう。だけど他の被害者はどうなったんだろう?


「他人の心配してる場合なの?自分の事だけ考えなさい。協力はしてもらうけど借金はきっちりと返してもらうんだからね」


 考え込みそうになる私にマダムがそう言った。確かに私の立場からすればマッサージっていう仕事をさせてくれているだけでも感謝しなければいけないだろう。




 初めての派遣マッサージで多少疲れはしたがまだ昼前だったのでマダムの執務室を出ると厨房へ向った。

 厨房にはコック長のライラが仕入先の親父と何やら話していて私を見ると目でジャガイモが入ったカゴを指した。私は了解したと頷いたがここで皮を剥くのはお邪魔かなと思いナイフを持つとドアから厨房の裏へ出た。

 するとそこにモニーがいて、何故かシャーリーさんとロードリック様までいた。


「お帰りなさい、どうだった?」


 シャーリーさんは私が初めての派遣マッサージから帰って来た事を知っているようだった。


「ただいま帰りました。ちょっと緊張したりして大変でしたけど夫人にもマッサージを受けて頂いて結構上手く行きました」


 そう答えるとシャーリーさんと一緒にロードリック様も笑顔見せた。


「それは良かったね。いまシャーリーと話していたんだよ。アメリのマッサージは凄く良いよねって」


 シャーリーさんがロードリック様と顔を見合わせて柔らかい表情を浮かべて嬉しそうに微笑んだ。

 あれ?あれ、あれ、あれ?シャーリーさんたらどうしてそんなに可愛い顔してるのかなぁ?


「お二人はお知り合いだったんですね」


 私がニヤけながら二人を交互に見て話すと側にいたモニーも楽しそうにニヤリとした。


「ロードリック様はシャーリーをとっても(・・・・)気にかけていらっしゃるんだよ」


「そうだったんですね、へぇ〜」


 私とモニーのニヤニヤ顔を見てシャーリーさんが頬を少し染めながら否定してくる。


「勘違いしないでよ、ロードリック様はお優しいから昔から知っている私を心配してくださっているだけよ」


 いつものクールビューティーなキリッとした感じではなく、可愛らしい雰囲気のシャーリーさんをロードリック様が微笑ましそうに見ている。


「シャーリーとは子供の頃からの長い付き合いなんだよ。いつも明るくて可愛い娘でね、小さい子達の面倒もよく見てたけど……私が不甲斐ないばっかりに……」


 そう言って少し悲しそうに言葉を濁した。



 

 

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