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こってますね、マッサージ致しましょうか?  作者: 蜜柑缶


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21 借金89,643,000ゴル

 以前はこの国でも貴族の屋敷の下働きや大きな商店では奴隷が使われていた。年に数回、奴隷商人が連れて来るあらゆる民族の奴隷。

 勿論、このアーバスキング国の者だってよんどころない理由で奴隷に身をやつしている者もいるが、殆どは隣国バシュクート出身の奴隷が一番多かった。

 この国と国境を接しているミスカ領では奴隷の輸出で経済が潤っていると言われていたほど多くの奴隷商人の拠点となっていたらしい。

 

「奴隷って何人くらいいたのですか?」

 

「そうだな、多い時は十数人はいたか。だけど王命が下って金を払ったらすぐに出ていったよ」

 

 イーデン翁が別に特別悪どい商人という訳では無いだろう。奴隷は買い取って働かせるものだから給料がいらず、皆が嫌がる重労働や汚れ仕事などを主にさせられる事が多く、人件費が抑えられるという利便性を目的としている。食費、住居費、その他生活費は主の裁量で勝手に決められるからどこへ買われていくかでその後の一生が決まる。

 イーデン翁の所では話を聞く限りはそれなりに人として最低限の生活はさせていたようだ。

 

「国へ帰ったんでしょうね」

 

 子供も大人もいたはずだから道中大変だろうが誰だって自由になれば家に帰り家族に会いたいだろう。

 

「どうだろうな、この国は奴隷制度は無くなったが他はまだそうじゃない。わしも一応は話したんだ、国へは帰るなと。だがそれを聞かずに帰った奴らはまた捕まって売り飛ばされたって話も聞いたぞ。奴隷は見ればわかるからな」

 

 一度奴隷となれば胸に焼印を押される。女も子供も……

 暗い気持ちになりながらイーデン翁の頭を揉んでいた。

 

「同情しとるのか?」

 

「そう、ですね。他人事とは思えませんから」

 

 一歩間違えば私だって奴隷商人に売り飛ばされていたかもしれない。

 

「お前も借金の形に来た口か、子供は親が選べんからな」

 

 親ガチャハズレたってことです。

 

「だが親だって子供を選べんのだぞ、うちのバカ息子はいつまでたってもフラフラしおってどうしようもない!」

 

 イーデン翁の事業は息子へ受け継がれたと聞いたはずだがちょっと話が違うようだ。

 

「いい嫁だよ、ザンドラは。うちのバカ息子がディアス領に仕入れに行った時に鉄鋼を仕入れずに女を連れて帰ってきたときは馬鹿に拍車がかかったかと思ったがアイツの人生で唯一良い買い物だった」

 

「買い物!?嫁を買ったんですか?」

 

 どゆこと?

 

「ザンドラの親父が借金の形に娘を売り飛ばそうとしていたところに行き合って金を立て替えたんだ」

 

「えぇ!?……お知り合いだったんですか?」

 

「初対面だ、どこの馬鹿が見ず知らずの女の為に三千万ゴルなんて大金払うと思うよ」

 

「三千万ゴル!!!」

 

 たまたま通りがかった店先で今にも連れて行かれそうな女性を気の毒に思いつい払ったってこと?いや、もしかして……

 

「ひと目惚れですか?」

 

 だったらちょっとメルヘン。そんな王子様わたしにも現れて欲しかった。

 

「違うらしい」

 

 違うの!?逆に怖い。

 

「ただピンときたって言ってた。これまで一度だって勘が働いたことがないくせに生意気な事言いやがったから暫くは納屋に閉じ込めてやったんだ。勝手に連れて帰ってきたザンドラは仕方ないから働かせていたんだがこれが使える娘でな。頭も良くて馬鹿息子よりこっちに店を任せようと思って結婚させたんだ」

 

 イーデン翁ってば太っ腹、いくら気に入ったからって見知らぬ女性を息子と結婚させてまで自分が築いた店を任せるなんて。承諾した息子さんも変わってると思うし、変人度は親譲りってことだね。

 

 なんだかとんでもない話を聞いてしまったが時間となり玄関まで見送りに行った。

 

「またのお越しをお待ちしております」

 

 玄関では黒服が新たなお客様を迎えて前室へ送っていたので少し脇へ退いて場所を譲る。御隠居様と見た目ねずみ色のB級女は目を引くようでジロジロと見られている気がするが気にしない。

 

「おう、ところでお前は他所でマッサージ出来ないのか?」

 

「出張マッサージですか?話には出てますけどまだ行っていません」

 

「だったら直ぐに始めろよ、わしの女房にマッサージを受けさせてやりたいんだが娼館に来るのは嫌だって言うんだ。しかもマッサージなんて聞いたことない事を言い出してまた娼館遊びを始めたと疑われて居心地が悪いんだ」

 

 それはそうだね、誰だって旦那が女遊びしてるところにわざわざ顔出したくなんかないよ。

 

「マダムに話してみますね、直ぐには無理でもお客様から声が上がれば話が進めやすいと思いますので」

 

 この後はモージズ翁が予約を入れてくれていたので急いで部屋へ戻り準備をして前室へ迎えに行った。

 モージズ翁は前室のソファに座り側に若い紳士と立ち話をしていた。

 

「久しぶりに会うのが娼館(ここ)とは、元気そうだなモージズ」

 

 どうやら相手は貴族らしいが、平民とはいえお年寄りに席を立てとは言わない紳士的な方のようだ。

 最近の貴族の方々は昔よりは態度が軟化して来たというか、特にお若い方の中には身分を笠に着ない方が増えて来ている。平民の中にも財産を持つものが増え、貴族の中に窮困する者が増え、援助を受けて立場が逆転していることもあると聞く。とはいえ貴族は貴族、逆らえば殺される可能性は未だに残る。

 

「何をおっしゃいますか、ロードリック坊ちゃん。随分ご立派になられてこんな所へ通われるとは大人になられましたな」

 

「モージズ、もう坊ちゃんは止めてくれ。私も二十四歳になったのだから」

 

 昔からお付き合いがあるらしく、かなり親しそうだ。話の邪魔をしてはいけないだろうが、予約は無いが次の客が来ないとも限らないから出来るだけ時間通りに動かなくてはいけない。私は仕方無く控え目に咳払いをしてモージズ翁の気を引いた。

 コホンッ。

 

「おや、モージズの指名はこの娘か……」

 

 先に気づいたのは貴族様の方で、言外に随分地味だなという言葉が滲み出ている。

 

「お話中に失礼いたします。モージズ様、お迎えにあがりました」

 

 先ずは貴族様に礼をしてモージズ翁に視線を向け、ニッコリと笑った。

 

「おぉ、アメリ、約束通りまた来たぞ」

 

「はい、ありがとうございます。お待ちしておりました」

 

 モージズ翁もニコニコとしヨッコラショと立ち上がる。若い貴族は場所をあけ、ゆっくりと歩むモージズ翁を優しく見守り、余計な手出しもしない中々イイ男だ。

 柔らかそうな茶色い髪に優しげな深い翠の瞳、その微笑みは爽やかな風を感じますね、あっ、笑いかけてくれた。優しいぃかも〜。

 つい見惚れてしまったが気を取り直し素早くマッサージの事を說明したカードを貴族様にどうぞと差し出し、モージズ翁を部屋へ案内した。

 

「ロードリック様を気に入ったのか?」

 

 ちょっとニヤつきながらモージズ翁が着替えを手に間仕切りの向こうへ行った。

 

「貴族様ですよね、優しそうでカッコいいです」

 

「ロードリック・ウェスト様はお小さい頃からの知り合いでな。うちの薬剤店にお父上で医師のブラッド様とよく一緒にいらっしゃってた」 

 

「ではロードリック様も医師なんですか?」

 

 医師ということはお金持ちで、それで『紫苑の館』で遊んでらっしゃると。

 

「いや、確か医師ではなく城勤めだと聞いたがな」

 

 いわゆる公務員的な感じか、それも良し。

 

「ブラッド様も貴族で優秀だが気さくな方で貴賤問わず診察してくださる良い方だ」

 

 無爵位とはいえ優秀な医師なら貴族の中でも尊敬されそれなりに扱われているだろう。そんな方が平民も区別なく診ているなんて素晴らしい事だ。

 

「お父上の跡を継がなかったんですね」

 

 今世でもきちんとした医師の資格を取るのは難しいと聞く。時々コネや金で無理くり資格を取る馬鹿貴族がいるらしいが無論誰にも相手にされない所謂ペーパードクターとして存在する。

 

「ロードリック様は資格を取れなかったんですか?」

 

「いや取ったさ、優秀な成績でな。じゃがそれでも城勤めを選んだようだ……いずれは医師になるつもりかもしれんが見聞を広げたかったんじゃろ」

 

 モージズ翁の言い方がなにか気になったが貴族様の事を根掘り葉掘り聞かない方がいいだろう。ベッドにうつ伏せになってもらうと首筋から揉みほぐしていった。

 

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