無人島に飛ばされた
前世の記憶を思い出したのは10歳の時だった。
私は日本に住む女子大生で、事故に巻き込まれて死んだ。
私の今世の名前は、ルータ・ドュルード・バルテラ。第二王子の婚約者で、この国最大権力の公爵家の長女、そして、将来は第二王子に婚約破棄され、この国から追放されることが決定してる悪役令嬢だ。
私は前世でやった乙女ゲーム、「光の末裔」の世界に転生していて、私の役どころは主人公の平民の聖女に嫉妬し、悪事に手を染め、最終的に婚約破棄、国からの追放などというテンプレ悪役令嬢。
記憶を思い出した当初はこの未来を変えられるようにもがいたが、言いたい事が何故か言えなかったり、悪事の現場に何度も鉢合わせたりと結局物語のルートから外れることはできなかった。
多分、ゲームの未来からは逃げられなかったのだと思う。
だから私は諦めた。
そして今日、学園の卒業パーティーで、平民の聖女、攻略対象の側近を後ろに、第二王子のガリオンは私に婚約破棄を申し立てた。
「お前の悪事の証拠は全て揃っている、早くこの国から出て行け。」
「…お望み通りに。」
私が自分の役目を終え、パーティー会場を後にしようとした、その時、
パーティー会場の床に大きな魔法陣と、ラスボスである邪神現れた。
「聖女の力によって、余が封印される未来が見えた、お前ら全員を異世界に飛ばしてやる…!」
「え?こんな設定あったかしら?」
こうして私達「光の末裔」のキャラクター達は、異世界に転移させられたのである。
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ここに転移された瞬間は、恐怖と不安でみんな混乱していたが、聖女と第二王子のガリオンがみんなを宥め、それぞれの魔法のスキルや、得意分野をまとめ、一瞬で2人を中心に団結していった。
流石にここで追放されることはないだろうと思っていたが、第二王子のガリオンに、お前は出て行け!と言われたので、私は身一つで森を彷徨うことになった。流石にそれは鬼畜すぎないか?と思ったりもしたのだが、ゲームの強制力で、クラスメイトに仲良い人もいなかったし、こんな悪役令嬢の為にわざわざガリオンに逆らって私の追放に反対する人ももちろんいなかった。
転移させられた場所は海辺だった。ありえないくらい綺麗な海に見たこともない木々が生い茂る島だった。
追放されてから体感2時間ほど、私は海沿いを歩いている。
「かなり歩いたけど、正直人がいる雰囲気は無いわ…。まさか無人島?とりあえず、川と海どっちも近い所に拠点を作ら
ないと。」
今まではゲームの強制力に操られていたが、もう私の出番はないので、自由にやらせてもらう。
本来私は悪役令嬢なんてキャラじゃないのだ。前世の趣味はキャンプだったし、恋愛よりも趣味をしてる方が楽しかった。
「異世界の無人島に転移…、そんな設定あったっけ。」
正直このゲーム自体そんなにやり込んでいたわけじゃなくて、妹に付き合わされてやっていたぐらいなのだ。
「まあ考えても仕方ないし、ここら辺でいいかしら。」
適当に歩いていると、海にも川にも近いちょうど良い場所についた。
「スキル、植物育成。」
私がスキルを唱えるとあっという間に近くの木々の蔦や枝が伸び、ちょっとしたログハウス調に家を作った。
「すごい便利よね、植物育成スキル。」
ゲームの設定では、貴族なのに攻撃魔法を使えないコンプレックスを持っており、余計に聖女に対し嫉妬していたとなっていたが、私自身はこのスキルを気に入っていた。
もしここが本当に無人島なら、このスキルはなによりも役に立つ。
今世の私は魔力だけは普通の人より多いので、魔力の渇望も心配しなくていい。
まぁでも、それだけじゃ生きていけない。
だけど私には神様からのギフトがある。
「ギフト、キャンパー」
私が唱えると、ゲームのような画面が出てきて、私が前世でよく見ていたキャンプグッズがカテゴリ順に並んでいた。
「ゲームの強制力で今まで使えなかったけど、これは本当に役に立つはず。」
ギフトとは、全員が持っているスキルとは別に、上位貴族が持っている能力だ。
使えないスキルやギフトに腹を立てた父親に何度も叩かれ、「上位貴族なのにお前は本当に何もできない。」と叱られてたっけ。
「このギフトが無かったら正直今日中に死んでたわね。」
ギフトは魔力であるMPとは別に、キャンパーポイントと交換してグッズを取り寄せる方式らしい。キャンプをして経験を重ねると総キャンパーポイントは上がり、朝になるとポイントは全回復するシステムらしい。
「現在のキャンパーポイントは100Pね。100Pで交換できるグッズで優先順位が高いのは、水とナイフとチャッカマン、それと前世で愛用してたキャンプ服、あとボロい釣竿。あとこれは…?なんでも図鑑〜初級編〜?」
水が5Lで5P、ナイフが10P、チャッカマン5P、前世で買った時はそれなりに奮発したキャンプ服が20P、ボロい釣竿が10Pに対して、なんでも図鑑〜初級編〜は50Pもかかる。だけど、その隣にオススメ!や絶対買うべき!などの文言が並んでいて、凄く気になる。
「どうしようかしら、こういうの書かれるとどうしても買ってしまいたくなるのよね。」
私はえい!とそれら全てを買った。
そうすると何も無い場所からダンボールが現れ、その中に今買ったキャンプグッズが現れた。
「キャンプ服は新しいわね、水もナイフもチャッカマンも新品。ボロい釣竿は…ボロいわね、でもちょっとした小魚くらいはとれそう。この図鑑はなにかしら?何も書いてないわ…。」
とりあえず図鑑は置いといて、取り寄せたグッズを持ってログハウス調の家に入った。中は木でできたベッド、木でできたテーブル、木でできたタンスがあるぐらいだった。
「まあちょっとした魔物対策くらいにはなるわね…。とりあえず暗くなる前に食料を確保しないと、水はあるからなんとかなるとして、とりあえず海に行きましょう。」
「…釣れないわね。」
やっぱりあのまずそうな付属品のエサではダメなのか…。前世では釣りマスターと呼ばれていたこともあって落ち込んでいたら、目の前に拳ほどのカニが横歩きしてきた。
「あ!待ちなさい!」
スキルで近くの木から蔦を伸ばし、カエルをぐるぐる巻にさせ、買ったナイフでひとつきにした。
「結構上手くいったけど、このカエル食べられるのかしら?」