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変化した自分に出来る事(仮題)  作者: 奈良づくし
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どこまで書いてよいのだろう。

もう少しオブラートに包みたい。

41話をちょっと修正。

「痛みは無い?消毒はしたけれど、気になるなら病院へ行こっか?」


「痛みは……はい、ありますけど、大丈夫です。」


はじめの手に包帯を巻き終わり一段落。


「後で爪を切っておこうね。少し……伸ばし過ぎだからね。」


「はい。」


「さて。話せそう?」


はじめの表情はまだ硬いながらも、先程よりは落ち着いている様に見える。


「……どこから、話せばいいのか。」


「う~ん。さっきみたいに質問形式で行く?ただし、さっきよりも踏み込んだ内容になるけども。」


「……いや、わたしから、言います。」


「じゃあ、お願いするね。どこからでも良いよ。」


「その……ぼ、わたしの家って二人兄妹で、両親が共働きしているんです。父は単身赴任中で家を出ていて、帰ってくるのも年に数回程度でして……。母も、その……家族を大事にしてくれてはいるんですけど、仕事も好きなので、帰ってくるのも遅いんです。」


「うん。じゃあ、お兄さんは?」


「はい。その、兄は……今他県の大学生で、まぁ、家から電車で通っているんです。年も離れているから、喧嘩とかは無くて、でも、余り話さなくて……こういうの、疎遠になるって言うんですかね?」


「そう言うね。何歳は慣れてるの?」


「7歳です。今、大学3年生です。昔っから、あんまり関わることも無くて、遊んでもらったことも……無いんです。挨拶とか、必要最低限でしか話さないですね。」


「寂しい?」


「いえ。正直言うと、兄さんの事、あんまり好きじゃないです。小学校の頃、友達を家に誘って遊んでた時、少し騒いじゃったら思いっきりドア叩かれて怒られまして……。気難しいって言うか、なんていうか……。」


「なるほど。」


「えっと……。後はまぁ、あんまり家事とか手伝ってくれないんですよ。洗濯物取り入れたりとか、食器洗いとか。」


「お母さんとは話したりする?」


「はい。お母さんから何度も言ってもらってるんですけど……その後でぼ、わたしが怒られるんです。チクるなとか、お前がやれって。」


「そう言う人なんだね。僕も嫌いになりそうだ。」


「です……よね。」


「……本題に入る?何となく察せちゃうんだけど……。」


はじめは俯きながら沈黙してしまう。

僕が知るあの人も、似たような事を言っていた。


「露骨になるんだよね?今まで見向きもしなかったことを、急にし始めるんだ。」


僕の言葉を肯定するように、はじめは軽く頷く。

僕ははじめが持ってきていた鞄の中身が何なのかを、理解してしまう。


「その鞄の中身って……もしかして下着類?」


はじめの身体が怯える様に、少しだけ震える。

その反応で中身が正解だと判断できる。

でも、それ以上の何かをはじめ本人から聞きたいので、少し黙っておく。

束の間の沈黙の後に、か細い声ではじめが話し始める。


「わ……たしが、この身体になっちゃって……。お父さんもお母さんも……心配してくれてるんです。特に……母さんは。でも、兄さんは違うんです。……怖いんです。」


「うん。」


「兄さんは、急に……僕に話しかける様になってきたんです。大丈夫か?心配するなって。でも、目が……笑ってないんです。急に優しくなって、最初は……嬉しかったんですけど……何かが、違うんです。」


「…………。」


「一昨日、僕が……洗濯物を取り入れた時に、現れて、畳むから置いとけって。最初は、いつもこうしてくれたらいいのになって、思ってたんですけど。お風呂掃除を終えた後、畳まれた洗濯物から、消えてたんです。ぼく……わたしの下着が……。」


うん。あの人も言ってた。


「可笑しいと思って、兄さんに聞きに行こうとしたら、兄の部屋の扉が少し……開いてたんです。それで、覗いたら……その……。僕の下着を、握りしめて……笑っていたんです。気持ち悪かった!加藤先生が、言ってた事を……その時思い出したんです。家族としっかり向き合って話せって……。」


加藤先生は、みんなの経験談を元に話してくれている。

きっと、あの人の事も含まれている。


「怖かった……。兄さんが、何を考えているのかを、想像してしまって……。いや、流石にそんなことは無いと思って……。でも、その日、寝る前に部屋の鍵を掛けたんです。いつも掛けてなかったのに……。怖くて、寝れなくて。眠くなるまで、スマホで小説を読みながら時間を潰していたんです。そしたら、鍵の掛かった扉が動いて……。」


「入ってきたの?」


「いえ……。慌てたような足音が聞こえてたので、入っては来ませんでした。でも、兄さんが開けようとしたんだって、確信できました。」


「…………扉の鍵って、簡単に開く?」


「……爪で簡単に開きます。」


「お母さんにはちゃんと話してる?」


「……まだ……です。」


「もう帰ってるのかな?」


時計を見ると、19時半を回っていた。


「多分、まだです。」


「…………。」


何かを想像したはじめの顔色が悪くなっている。

多分その想像は、間違いではない。


「お母さんに電話できる?ハッキリというけど、危ないよ。」


「……そう、思いますか?」


「うん。加藤先生から、竹田さんの話、聞いた?」


「竹田さん……?」


「うん、竹田雅史さん。一昨年に亡くなった……。」


「え?あれ、作り話じゃ……。」


「違うよ。加藤先生の言い方はきついけど、本当の事しか言わない。事実、有った話なんだよ。作り話でも、嘘でも無い。僕は竹田雅史さんと面識があるし、お葬式にも参列した。そして、あのメディア事件があった。」


「…………。」


はじめ。今すぐに、お母さんに連絡を取って。僕は竹田さんの二の舞だけは、二度と見たくない。」


「でも、いや、さすがに……。」


「正直、君のお兄さんがそんな事を考えてるなんて思いたくはない。けれど、有り得なくない状況なんだ。」


「うっ……。わかり、ました。」


「大丈夫。僕も話すから。それと、今日は家に泊まっていかない?お母さんに許可貰ってさ。」


「……はい。」


はじめはスマホを取り出して連絡を取ろうとする。

その時、はじめのスマホが音を立て始める。


「うそ……。」


はじめの驚く顔が、理由を物語る。噂をすれば何とやら……。

着信相手は、はじめのお兄さんからだった。

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