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「お、やっと来たな。」
「本当だ。遅かったわね。」
「おはよう。幸、真由美、遅くなってごめんね。」
「おっはっ……ぷふッ!!」
どうやら二人を見て昨日を思い出してしまったみたいだ。
幸も真由美も、急に噴き出す奈々を見て怪訝そうな顔を僕に向ける。
お腹を抱えて丸まる奈々の緊張は解れたみたいだ。これは重畳……なのかな?
「え~っと、奈々はどうしたの?」
「俺達を見て笑うって……、何かおかしいか?ネクタイでも曲がってる?」
「えっと、さっき見合ったけど……、おかしくないわよね?」
「あ~その……うん。」
心の中で再び弟の裕也に謝罪する。ごめんね。
「昨日の……出来事をね……。」
「んんッ!!」
僕の返答を聞いて、今度は真由美が手で口元を覆う。
幸は……、顔を反らして憐れむような顔をしている。
どうやら昨日の出来事は女性陣には最高の出来事のようだ。可哀想に……。
「そのさ、真由美も奈々も……家宅捜索ッ!!とか、止めてあげてね。本当に……。」
二人とももう……、笑いすぎでしょ。
「そう……だよな。可哀想だよ……。」
幸は、男だから分かるんだろうね。
自分がされたらって思うと……同情しちゃうよね。
「んふッ、ごめッ。」
笑いながら謝られても……。謝る相手も違うよ、真由美。
「だってッ、だってぇ~。くふふッ。」
笑いながら何かしら言おうと頑張る奈々。
昨日みたいな爆笑を今されたら困るんです。僕にも羞恥心は有るからさ……。
「あ~。ほら、クラス分け、見に行こうぜ。な?」
「そうだね。行こうか。」
「待ッ……てッ。」
僕と幸はそそくさと二人から離れていく。無関係だよ~。
真由美が何か言おうとしたけど、聞こえないよ~。
「本当に……可哀想に……。」
「うん……。」
「でもさ……。俺でもあのジャ「言わないであげてね……。」……分かった。」
幸が、あの二人が何を言いたいかは理解できる。
うん。内容がね……。うん。
自分の顔が少し赤くなるのが分かる。忘れよう……。
「ところでさ。幸はサッカー部があったら入るの?」
「え?ああ。分からない。中学校で楽しんだしな。」
「そうなんだ。てっきり入部すると思ったんだけど?」
「マネージャーでもしてくれるの?」
「僕には出来ないよ。」
「残念。要がマネージャーなら入部が確定したんだけどな。」
「それは残念。お相子だね。」
「ああ。っと、あのボードだな。」
「みたいだね。人だかりができてるよ。」
「……多いな。もう少し待つか。」
「そうする?今行けば幸ならナンパされ放題だよ?」
「……勘弁してくれ。」
「時期にそうなるよ。頑張ってね。」
「ん~。辛い。」
「世の男子高校生が聞いたら殴られるよ?春西中のイケメン君。」
「ははっ。」と隣に立つ幸は苦笑する。
春西中学校のイケメンとは彼の事。
真面目な話、大半の女子生徒から告白されている。
幸の容姿もさることながら、性格良し、運動神経も成績も良い事が更に拍車をかけている。
家も裕福だしね。
「待ってよ~。」
「要たん。置いてかないで~。」
二人が笑いから解放されたらしい。
振り向いて確認するが、駄目だ。まだ若干笑いを残している。
「二人とも、まだニヤケてるよ。」
「だってぇ~。裕たんのさ~。」
「んふっ、奈々っ。裕也の名前出さないで……。」
「はぁ……。二人は当分の間出禁だね。」
「「ええっ!?」」
おや?何とかなりそうだね。
「ん~、そうだね。向こう一月は出入り禁止にしようかな。」
「それはまた、手厳しいな。」
「つまりはおやつを作りません。」
「かなり厳しい。」
「「そんな~。」」
「幸もだよ?」
「ええっ!?何で!?」
「二人を止めなかったでしょ?僕が台所にいる間に止めれたと思うんだけど?」
「あ、いや……。その……。」
「幸の言い分どうぞ~。」
「その、すまない……。」
「ん。幸は許します。」
「やった!!」「「何でよ!?」」
「素直に謝れるから。下手な言い訳をしないから好感が持てます。それに、あんまり積極的に動いてなかったしね。」
「いやいや。裕たんに謝ってないじゃん!!」
「そうよ。謝るべきは裕也にでしょ!?」
「二人は謝ったっけ?」
「「…………。」」
真由美・奈々両ペア共に明後日の方向を向きます。
目を逸らし、僕から顔を背けます。アウト。
「二人が率先して裕也の部屋に向かったよね?」
二人は顎に手を当て「そうだっけ?」みたいな表情をします。ツーアウト。
「はしゃいでいた君達を、僕は止めたよ?やめなさいって。」
姿勢が固まりました。スリーアウト。
「な、なあ。そろそろ行こうか。ほら、ボードの前……空いて来たし。」
「そうしようか。さてさて、どうかな?」
クラス分けのボード前に多く居た生徒はすっかり減ってる。
その内の何人かの女子は、幸を見ては顔を少し染めている。流石はイケメン君。
お願いだから僕には何も言わないでね。色恋沙汰で苦労したくない。
「クラスはAとかBとかなんだね。」
「みたいだな。おっ、あった。」
「どこ?」
「ははっ。喜べ、皆同じクラスだ。1-A。」
「へぇ。何だかすごいね。」
「ああ。真由美、奈々……、っておいっ。要。」
「ん?何?」
「……何とかしてくれ。」
幸に言われて二人を見てみると、これまた昔の漫画みたいに凹んでる。
何をしてるんだ二人は……。周りの視線が痛いんだけど……。
美の付く女子高生二人が、屈んで地面を軽く擦る自草をしてる。
声を掛けたくないね……。
「……要、頼む。何とかしてくれ……。」
「えぇ……。やだなぁ……。」
「あれを放置していくのか?」
「誰か声を掛けるんじゃないかな?二人とも美人だし。」
「……それを放置していくのか?」
「はぁ……。やだなぁ……。」
何か因縁つけられたくないんだけど……。
真由美も奈々も二人とも春西中ではかなりモテてた。
真由美は男子女子問わずでの人気者。
奈々は顔良し、スタイル抜群、性格は明るいの人気者。特に男子から。
恋愛小説とかに出てくるヒロインみたいな感じだね。
そんな二人がヒドインみたいになってる……。近づきたくないんだけど……。
「お二人さん。同じクラスだよ?」
奈々が反応する。すごい勢いで顔を上げたから思わずビクってなった。
「えぇっと。裕也にちゃんと謝ったら出禁は解除にするね?」
真由美が反応する。奈々と同じ感じだったから、少しだけビクってなった。
「「本当に!?」」
「えっ、うん。」
「「分かった!!」」
「うん……。二人とも仲良いね?」
「「全然!?」」
「良いと思うよ?」
中学校ではあまり仲は良くなかったみたいだけど……。
変な所で意気投合するんだよね、この二人。
昨日みたいにさ……。
「行こうぜ。もうすぐ時間だしさ。」
「そうしよっか。」
幸の後ろを付いて歩くと、二人も付いてくる。
何とかなったね。良かった良かった。