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「要たん、お疲れ~。」
「……うん。いや、ホントにね……。」
「元気だそうよ~。ほらほら、お昼ご飯だよ?」
「……うん。」
僕は2限目の疲れをそのまま引き摺ってる。
いやもうほんと……何だったんだろうね……。
「参ってるわね。要、大丈夫?」
「ははは。真由美、僕と同じようにあの先生に見られてみてよ。気持ちが分かるよ?」
「え、いやよ。」
「あはは。誰も見られたくないと思うよ~?」
魚崎先生の獲物を狩るような視線、結構キツイ。
ハッキリ言って面倒くさい部類で。
「あ、学食行こうよ。」
「お。いいね~。って、真由美ん手ぶら?」
「……ええ。」
「あれ?お弁当が無いって珍しいね。どうしたの?」
「…………ちょっと、ね。」
「「?」」
真由美が哀愁漂う雰囲気で天井を見上げている。
おばさんが寝坊でもしたのかな?
いや、それなら真由美がそう答えるだろうし……。
「あれ、昼飯食べないのか?」
「幸たん。学食で食べようって話になったんだけど、行く?」
「いいよ。といっても、俺、弁当だけど。」
「あたしも~。お義母さん特製おべんと。真由美んが無いんだって。」
「え?おばさんが忘れたの?寝坊?」
「いや、それは……違うんだよね~。」
「まぁ、向こうで話そうよ。時間は有限だしね。」
「それもそうだな。確か、北側だったよな?」
「そうそう。購買部を抜けた先だったよね。」
皆で学食の方へと足を運ぶ。
他のクラスからも購買部や学食の方へと歩く生徒が多かった。
意外にも、お弁当持参率が少ない学校のようだ。
購買部の混みあい具合に驚きつつ、学生食堂に到着する。
こちらも学年問わず賑わっている。先生方の姿も見受けられる。
「奈々、そろそろ離れて。」
「え~、良いじゃん。カップル割が有るかもしれないよ?」
奈々はここに向かう途中、僕の後ろから抱き着いている。
そして、そのままくっついて歩いている。
奈々の分のお弁当も、何故か僕が持っている。
「入場料なんて無いんだから。そんなもの無いよ。」
「ぶ~。いやです~。」
僕の背中に額が擦られている
ぐりぐりされて痛い。
「昔っから思ってたんだけど、要と奈々の距離感っておかしいわよね。」
「そうなの?」
「そんなこと無いよ~?」
「幸はどう思う?」
「ん~、良く分からん。逆に聞くけど、女性同士ならこうなんじゃないの?」
「いや~、どうなんだろ?有り得ない部類でも無いかな~。」
「あ、あそこ空いてるよ。」
「先に席を取ろうか。真由美も買ってきなよ。」
「そうね。先に食べてて良いから。」
真由美は食券機に並ぶ列へと入っていく。
結構並んでるけど、スムーズに流れているから時間もかからないかな。
奈々と幸とで空いてるテーブルを確保する。
「ほとんどが4人席だね。」
「だな。あっちの方は6人以上座れるみたいだな。」
「基本あっちじゃ無いかな?長テーブルだし。」
「あ、飲み物忘れちゃった~。要たん、後でちょうだいな。」
「いいよ。わざわざ買いに行くのも、面倒だし。」
「そうそう、めんど~。幸たん、食べないの?」
「ん?俺は真由美を待つよ。って要も奈々もだろ?」
「まぁね~。真由美ん、拗ねちゃうかもしれないし。」
「ははは、かもね。真由美の先にしてて良いは待ってて、って意味だしね。」
「素直に待ってろ、って言えば良いのにな。」
「そうそう。クレープ屋さんでも、先に食べてたら拗ねたもんね。」
「先に食べないでよ、ってね。食べ比べがしたかったんだよね。」
「ケーキバイキングでもあったよね~。」
「修学旅行でもあったな。」
幸が中学校での話題を振ると、奈々がスマホをいじりだした。
僕達は同じ班になって北海道の小樽を回っていた。
その時に奈々が写真をいっぱい取っていたのを覚えている。
「あ、写真まだ残ってるよ。あれれ?ちょっとだけ涙目になってるね。」
「懐かしいね。あ、ホントだ。」
「どれどれ?はは、可愛らしいな。」
「ね~。おっと、ここから先は見せられませんな。」
奈々がいくつかの写真を出していたら、急に画面を消してしまう。
最後に見たのは、旅館に到着した辺りの写真だった。
「え?もう少し良いじゃないか。」
「ダメ~。ここから先はあたしと真由美ん専用ですので。」
「僕は?」
「要たんも……ダメ。」
「え?気になるんだけど……。」
「確かに。急に隠されると余計に気になる。」
「ダメダメ。」
奈々がスマホをポケットに仕舞う。
僕にも幸にも見せられない写真ってなんだろうか?
「おまたせ~。ってまだ食べてなかったの?」
「真由美んを待ってたんですよ?」
「?なんで疑問形?先に食べてて良かったのに。」
「まぁまぁ。ほら、真由美んも座って、早く食べよ。」
「ええ。まぁ、ありがと。」
真由美はトレーをテーブルに置き、席に座る。
どうやら、ラーメンにしたらしい。味噌ラーメンだ。
「ねぇ、真由美。修学旅行で見せられない写真ってある?」
「へ?そんなのあったかしら?」
「真由美ん、し~。ダメ。」
「へ?あ、うん。ダメ。見ちゃだめよ。」
「すげぇ気になるんだけど……。」
「要もだけど、幸は猶更駄目よ。」
「えぇ。俺たちに駄目って何なんだよ……。」
「……真由美、もしかして犯罪紛いの写真じゃないよね?」
「ち、違うわよ!!」
「奈々もそう言える?」
「う、うん。盗撮じゃ無いよ?」
真由美も奈々も目線を合わせようとしない。
これ以上追及しても白を切りそうだし……。
兎に角、お弁当を食べようかな。
「ズズー。意外に行けるわね。」
「ラーメンで外れってそうそう無いよね~。」
二人は露骨すぎるくらいに話を逸らそうとしている。
何を隠しているのやら……。
「要。その唐揚げとこっちの焼売。一個交換しないか?」
「いいよ。はい。」
「サンキュー。ほれ。」
「ありがと。あ、美味しいね。」
「昨日の残り物だけどな。うめぇ、パリパリジューシーだ。」
「残り物は朝食かお弁当になる宿命なんだよ。」
「あ、あたしもあたしも。欲しいよ~。」
「ず、ズルい。私も欲しい。」
「さっきの続きを見せてくれたら、あげるよ?」
「え?それは……。その……。」
「え~あ~、その……。」
「交渉決裂だね。」
真由美と奈々が小声で何かを相談している。
そんなにこの唐揚げが欲しいのかな?
……美味しいとは、思うんだけどね。
(「うぁ……。真由美ん……。」)
(「奈々、ダメよ。流石にマズいわ。」)
(「でもでも。残り2個だよ?」)
(「そ、それでもよ……。だって、見せちゃ駄目って言ったら、あれよね?」)
(「うん。秘密裏に取った写真。下着もばっちり見えてる奴もある。」)
(「それ、なんで消してないの。バックアップ済みでしょ?」)
(「いや~。忘れてたっぽい。」)
(「主にそれのせいじゃない。今消しなさいよ。」)
(「バレちゃうよ。」)
(「ぐぬぬ……。唐揚げ欲しい……。」)
(「こ、今回は諦めようよ。」)
(「し、仕方ないわね。」)
二人の物欲しそうな視線を無視して、残りの唐揚げを平らげる。
最後の唐揚げを食べる時「「あぁ。」」って声が聞こえたけど、無視しよう。
教えてくれない方が悪いんだよ。
唇を尖がらせてもあげないよ。
というか、そんなに後ろめたい写真なんだろうか……。気になるなぁ……。