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「要お姉ちゃん、お姉ちゃんみたいにおっきい!!」
「何がかな?ほら、奈子ちゃん。ここに座ろうか。」
「うん。」
「要たん、奈子ちゃんにシャンプーハット被せてあげて~。」
「分かった。って奈々も入ってくるの?」
「あったり前じゃん。汗掻いたもん。」
「要お姉ちゃん。うちのお風呂は大きいから平気だよ?」
「奈子ちゃん。テンション高いね。」
「うん。楽しいもん。」
僕は今、奈々の家でお風呂を借りている。
理由は走って汗を掻いた……ではなく、ベンの奇行のせいだ。
近場の公園に到着して、僕と奈子ちゃんでベンの遊び相手をしていた。
奈々は歩きと少しベンと走っただけでヘロヘロになってた。
「ベンには吃驚したよ。」
「だよね。いつもだったら、あんな事しないのに。」
「あれじゃないかな?要たんも来てくれたのが嬉しかったんじゃないかな?」
「そうなの?だからって噴水に飛び込む?」
ベンがボール拾いをしている最中、ボールを咥えながら噴水に飛び込んだ。
その後にずぶ濡れのままで奈子ちゃんに体当たり。
駆け寄った僕にも体当たりしてきた。ずぶ濡れのままで……。
「叱ったけど……反省してる様子無かったね。」
「だよね~。多分またやっちゃうんじゃないかな?」
「ベンってばもう……。いつもはぴょんぴょん跳ねるくらいなんだよ?」
「そうなんだ。奈子ちゃん、流すよ~。」
奈子ちゃんの頭からお湯を掛ける。
泡だった頭が綺麗に流されていく。
奈子ちゃんの髪は少し硬めなので、トリートメントで手入れをしよう。
「気持ち良いですか~?」
「うん。頭くすぐったい。」
「要たん、次あたしお願い。」
「自分でしなよ。」
「要たんがあたしにだけ厳しい……。」
「お姉さんでしょ?奈子ちゃんにだらしない所見られちゃうよ。」
「お姉ちゃんだらしないの?」
「そ、そんなことないよ?」
「どうだろうね~。奈子ちゃん身体は自分で洗える?」
「え~。要お姉ちゃんに背中流して欲しいなぁ。」
「おや、奈子ちゃんは奈々には洗って欲しくないの?」
「う~ん。いつも一緒に入ってるから、今日は良いかな。」
「奈子ちゃんの背中を洗うのはあたしのお仕事です。要たんなら譲ります。」
「ふふ。仲が良いね。じゃあ、洗おうか。」
先に奈子ちゃんの髪をクリップで纏めてあげる。
奈子ちゃんから手渡されたボディタオルにとろりとボディーソープを垂らす。
そうすると僕の背中に当たっていた髪の感覚がなくなる。
「あたしが要たんの背中を洗ってあげよう。」
「ありがとう?」
「なんで疑問形?まぁまぁ、お任せくだされ。」
僕が奈子ちゃんの背中を、奈々が僕の背中を洗う。
なんだろう、これ?
「奈子ちゃん両手を挙げようか。」
「は~い。」
「要たん。前も洗って良い?」
「止めてね?」
「まぁまぁ、そう言わずに。優しくしますよ?」
「自分で出来るよ。」
奈子ちゃんの両腕や脇を、腰とタオルで洗っていく。
ご機嫌な奈子ちゃんは鼻歌を歌いだす。室内に響くね。
「奈子ちゃん、後は自分で出来る?」
「うん。要お姉ちゃんありがと。」
「どういたしまして……奈々?」
「ん?」
「しれっと、どこ触ってるのかな?」
「え、要たんのお尻。張りがあってよいですな。」
奈々は変態さん。今日でしっかり分かったね。
なんか、触り方が厭らしい。
揉んだり、鷲掴みにしたり、撫でまわすような触り方で……。
「止めてくれない?」
「えぇ?やだ。いたたっ。」
奈々の手の甲を抓って止める。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「なんでもないよ~。」
「何でもあるよ。奈子ちゃん、奈々に変な事されてない?」
「変な事って?」
「そうだね。やけに撫でまわしてくるとか、執拗に触れてくるとか。」
「う~ん。よく私のお腹を撫でて擽ってくるくらいかな。」
「そうなんだ?」
「いや、いやいや。只のスキンシップ。姉妹のスキンシップだから。」
「ふ~ん。」
奈々の顔を窺うとばつが悪そうにしている。
ほほう。これは他にも何かしているのかな?
「ほ、ほら。早く洗ってお風呂に浸かろう?風邪ひいちゃうよ?」
「……そうだね。僕も帰らないといけないし。」
「要お姉ちゃん。もう帰っちゃうの?」
「うん。帰ってお父さんと買い物に行くんだ。」
「いいなぁ。私も行きたい。」
「商店街で食材を買うだけだよ?」
「そうなの?」
「うん、そうだよ。」
「じゃあ、いいかな。てっきりショッピングモールに行くと思ってた。」
「う~ん残念だね。機会があればいこうか。」
「え?いいの!?」
「うん。でも、当分先になると思うよ?」
「いいよ。お姉ちゃんも一緒に行こ?」
「行く行く~。」
奈々ちゃんが一番先に洗い終わったのでお風呂に浸かる。
僕は髪を洗って、奈々は身体を洗っている。
「……お姉ちゃんも、要お姉ちゃんも大きいよね。」
「「ん~?」」
「えっとね。おっぱいって大きい方が良いのかな?」
「「ん?」」
「えっとね。男の子っておっぱいが好きだって、崎山君が言ってたの。どうしたら大きくなるのかな?」
「な、奈子ちゃん?」
「奈子ちゃん、ちょっと待ってね~。洗い終わったら詳しく聞くから。」
「うん。」
おっと~?奈々の声のトーンがおかしいよ?
最後らへんから凄く低くなってる。
奈子ちゃん大好きな奈々には、少し刺激の強い問答だったかな?
直ぐに洗い終わらせる勢いで奈々が動いてる。
「おまたせ~、奈子ちゃん。まずね?崎山君って誰?」
声のトーンが怖いよ。もう少し露骨にしないで話そうよ。
「え?えっとね、同じクラスの男の子で、子供って感じの子。良く女の子にちょっかいかけてるの。だからクラスの女の子から嫌われてるよ?」
「へ~。奈子ちゃんはどう思ってるの?」
「私?私はなんとも思わないかな?嫌な事されてないし。」
「ほうほう。まだ、猶予は与えてやろう。」
「奈々。あんまり突っつくような事はしちゃ駄目だよ?」
「要たん。これはあたしに直結する問題だよ?静観できない。」
「もう少し大人になろうか?」
「無理!!」
「きゃっ。」
奈々は奈子ちゃんをお風呂内で抱きしめる。
「こんなに可愛い奈子ちゃんに、手を出す奴は許せんぞぉ。」
「お姉ちゃん。くすぐったいよ。」
二人が暴れて、お風呂からお湯がどんどん溢れていく。
微笑ましい光景を横目に、僕も洗い終えたのでお風呂場に入る。
奈々の家のお風呂はかなり大きい。
お父さんと裕也が一緒に入っても、まだ余裕がありそう。
……家族3人でお風呂に行くのも有りか?
「要お姉ちゃん。」
「ん、どうしたの?」
「えっとね、ちょっとだけギュってして欲しいの。」
「?良いよ。」
奈々から解放された奈子ちゃんが僕へと寄ってくる。
奈子ちゃんの目線が僕の胸にあるんだけど……。
「はい、ぎゅ~。」
「……お姉ちゃんより大きい?」
「なんですと!?」
「そうなの?」
「うん。少し大きい気がする。それに、お姉ちゃんよりも……」
「奈子ちゃ~ん。あたしへのマイナスポイントは言わないで~。」
そう言いながら、奈々は僕たちの方へと寄ってくる。
っと思ったら抱き着いてきた。今回はがっちりホールドだね。
奈子ちゃんを間に挟む状態になってしまう。
「さあ、奈子ちゃん判定プリーズ。どっちが良い?」
「うぷぷっ。」
「奈々。ちょっと離れてくれないかな?」
「要たんの勝ち逃げは許さん!!あたしが勝つのだ!!」
奈子ちゃんの後頭部には奈々の胸。
僕の胸には奈子ちゃんの顔。
嬉しそうな表情でいる奈子ちゃん。
小声で何かを呟いていたけど、何を言っていたんだろうか……。
奈々の、テンションの高い声が響いて何も聞こえなかった。