30
昼食後の洗い物中に、ポケットのスマホが鳴りだした。
泡だらけのゴム手袋を取って、スマホを取り出す。
奈々からだ。何か用事でもあるのかな?
「はい、どうしたの?」
「要たん、遅いよ~。何してたの~?」
「え、今は洗い物中だよ。」
「あ、ごめん。」
「いいよ。何かあったの?」
「あ、そうそう。奈子ちゃんとベンの散歩行こって思ってね。行く?」
「あ、いいね。何時から行くの?」
「えっとね14時にしようか?」
「うん、分かった。それじゃあ、その時間にそっちに行くね。」
「ありがと~、待ってるよ~。」
ベンとお散歩か~、動きやすい服で行こう。
ゴム手袋と着けて、洗い物再開。と言っても後は流すだけなんだけどね。
フライパンはどうしようかな。今日くらいはいいかな。晩も使うし。
今度はピンポーンとチャイムが鳴った。
と思ったら、玄関の開く音がする。幸か真由美かのどっちかだね。
「よう、要。裕也は?」
「部屋にいるんじゃないかな?寝てるかもしれないよ?」
「しょうがないな。」
「どこかに行くの?」
「ゲーセンだよ。昼から行こうぜって言ってたんだけど。」
「そうなんだ。気を付けて行ってね。」
「ああ。」
階段をトントンと上がって行く幸。
幸と裕也は一つ年は違うけど、遊びに行くほど仲が良い。
まぁ、裕也に友人が少ない?のが理由だと思うんだけど……。
僕は裕也の交友関係が心配です。
友達を連れて帰ってきたことも無いし……。
「さて。お父さん、何か飲む?」
「ん?温かいお茶を貰おうか。」
急須にお湯を注ぎ、リビングへ持っていく。
お父さんはリビングで本を読んでいるので、湯呑にお茶を注ぐ。
「今日は16時くらいに帰ってくるから、夕飯の買出し一緒に行ってくれないかな?」
「ん?いいぞ。」
「ありがとう、お父さん。」
「ああ。いつもは裕也に任せっきりだからな。」
「ふふ、うん。」
「どこかへ出かけるのか?」
「奈々のどころに行くよ。奈々の妹さんと犬の散歩だね。」
「そうか。ご迷惑を掛けないようにしなさい。」
「わかった。あ、冷蔵庫の中にクッキー入れてあるから、良かったら食べてね。」
「ありがとう。」
さてさて、何を着て行こうかな。運動用の服でも良いかな?
スパッツに短パン。スポブラ付けてジャージの上を羽織る。
一応スマホも持っていくから、ウエストポーチを付ける。財布も忘れずにね。
僕が着替え終わって部屋から出ると、裕也の部屋から裕也と幸が出てくる。
「お、やっと起きたの?」
「ああ。さっきまで結構ごねてた。」
「別に昼寝しててもいいだろ。兄貴も出かけるのか?」
「うん、奈々の所に行くよ。」
「要がその恰好なら、奈々も運動するのかい?」
「ううん。ベンの散歩に付き合うんだよ。」
「犬の散歩か?兄貴にそこまでさせるのかよ……あのバカ女。」
「違う違う。妹の奈子ちゃんっているんだけど、その子の体力じゃあ、ベンに振り回されちゃうんだよ。奈々でも振り回されてるけど……。」
「ははっ、その様子を見てみたいね。」
「なんだそれ、笑えるじゃねぇか。」
「はは、まあね。それじゃあ、行ってくるよ。あ、晩御飯はいる?」
「おう、飯食う金は流石にねぇ。」
「裕也が店に入ったらどれほど食うんだろうな?食い放題なら良いけどさ。」
「じゃねぇと会計したくなくなるぜ。」
「だな。俺たちも行くか。最新の格ゲーが近場で卸されたって話だし。」
「混んでるかもな。ま、行ってみてからだな。」
「要も途中まで行くか?」
「え?僕は少し走ってから行くよ?」
「「え?」」
「一時間くらい走ってから奈々の家に向かうよ。一緒に来る?」
「「止めとく。」」
「そぉ?それじゃあね。」
僕はちょっとだけ走ってから行く。
今は13時前。ストレッチして走って1時間ちょい。
どのあたりを走って奈々の家に向かおうかな?
南周りで東方面なら……運動公園付近だし、そうしようかな。
ストレッチも入念にして……いざ。
最初は慣らしでジョギング。
近所の人に挨拶されたら、挨拶を返す。
大体6割で走るけど、それ位には余裕はある。
あ、髪を縛るのを忘れた。結構面倒だ……。
いつもなら、首元で縛ってるんだけど。髪が揺れてちょっと面倒。
あとで奈々に借りよう。
っと、耽っていたら運動公園に着いちゃった。
市の運営する公園でテニスコートとかバスケットコートとか球場とか、色々有る。
結構な格安で、お金を払ったら借りられる。
日曜日だからか、賑わいもある。
ジョギングしている人も、ちらほらといるね。
一周目はまだ6割ほど。だけど、大体抜いて行ってしまう。
あ、あの人は日曜日に見かける人だ。
結構速いペースでランニングしている男性で、年齢的には30ぐらい。
小さい頃は全く抜かせなかったんだよね~。
2年ほど前から同じくらいで走れるようになったけど……。
まぁ、今日は時間が無いから途中から全力で走るけどね。
向かい側のレーンで走っている人も何人かは見知った顔で、軽い会釈をする。
一周走ったから、後は全力。
といっても、スプリントではなくあくまでランニング。
今日は調子が良いかも。
速く走れるし、疲れもあまり感じない。多少、髪が揺れて気になるくらいで。
もう少しで……、うん。自分の呼吸音しか聞こえないようになった。
同じレーンを走る人をどんどん抜かしていくけど、それもあまり気にならない。
と、思ったら、並走された。
誰かなって思ったら、日曜日に見かける人。
喋ったことも無いし、実は会釈しても返してくれない人だったりする。
お、今日は競争かな?今日の僕は手を抜かないよ?
それから、何周か走った辺りで、日曜日の人のペースが落ちて来た。
いつものペースで走ってないからきついのかな?
左腕に付けた時計をチラ見する。時間は14時前になっていた。
そろそろ、奈々の家に行こう。
出口に向かって、そのまま運動公園の外へ出ていく。
奈々の家はここから走って数分くらい。信号でちょっと変わるけど。
ちょっとずつペースを落としていく。急には止まれないからね。
信号は青。今日は何だかついてるね。
左に曲がって住宅街へ。そのまま進んで奈々の家。
玄関の庭には奈子ちゃんが首輪にリードを着けていた。
「ふぅ、こんにちわ。奈子ちゃん。」
「ばふっ」
「あ、要お姉ちゃん。こんにちわ~。汗いっぱい掻いてるよ。」
「うん。ちょっと走ってたんだ。ふぅ~。奈々は?」
ウエストポーチから小さいタオルを取り出して汗を拭く。
「……なんだか要お姉ちゃん。えっち。」
「え!?どういうこと?」
「ん~。なんとなく。」
「?」
奈子ちゃんに衝撃発言をされた。えっちって、どこが?
玄関から奈々がやってくる。中学生時代のジャージを着ていた。
「奈子たん待ってよ~。お、要たん…………。」
「こんにちわ。奈々。」
「要たん、よくそんな恰好で外出てるね?」
「え!?なにかな、そんなにおかしい?」
「うん。走ったの?汗で拭くがぴっちりしてるよ?しかも、体の線が出ちゃってるし。」
「え?そう?」
自分の服装を見回してみる。ジャージが汗で肌に張り付いてるくらい。
まあ、汗は結構掻いてるけど……。そこまで言われるものなのかな?
「要たん。あと、髪の毛がセクシーな感じになってる。」
「そぉ?」
「うん、まぁ……。服、貸そっか?」
「……ありがと。何だか腑に落ちないけど。」
奈々が家に戻ると、ベンに寄りかかられて右手を舐められる。
奈子ちゃんはあんまり僕を見てくれなくて、ちらちら横目で見てくる感じ。
え、僕ってそこまで変かな?
少しだけファスナーを下ろして、身体を冷まそうとすると奈子ちゃんに止められた。
「エッチなのは駄目。」って言われたけど、何もしてないよ?




