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「まぁ、そんなに簡単には出来ないよね。知ってた。」
「ううぅ……。」
朝食を食べ終わり、真由美とお茶を飲んで一休み。
「何かあったのか?」
「あったはあったんだけど。今はお父さんには話せないんだ、ごめんね。」
「そうか。」
お父さん、仲間はずれにしちゃってごめんね。
「それで?何故あんな事言っちゃったの?」
「急だったので……つい。」
「はぁ……。当面は過去の清算から始めたかったんだけど……。」
僕は、いつものように朝5時頃に起きた。
身支度を済ませて、昨日使ったタオルも含めて洗濯気を回す。
それから朝食を作っている最中に真由美が起きて来た。
折角だから一緒にご飯を作ってみないかって誘ったら、急いで身支度を済ましに行った。
「良い心がけだと思うよ。おばさんにも相談しておくね。」
「止めて?本気で止めてね?」
真由美は料理をあまりしない。おばさん無双だから。そしておばさんは厳しい。
僕は料理等の家事類をおばさんに習った。今は料理の味付けをアレンジしてる。
家庭科の実習レベルの真由美に、お味噌汁をお願いした。
野菜のカットや味噌の溶かしも大丈夫で、味も問題無かった。
「まぁまぁ、ここまでは良かったのにね。」
「返す言葉も無いわ……。」
褒めながら出来たおかげで、勢いづいた真由美さん。
今度は別の物も作りたいという事なので、目玉焼きにチャレンジ。
だが、卵が上手く割れなかった。グシャって擬音が聞こえた気がするほどに……。
勿体ないから箸で殻を取り除いた。時間が掛かった。
「それは別に構わないんだよ。僕も何度もやっちゃったし。」
「……ごめん。」
その間にウィンナーを炒めてもらった。
というか、殆ど用意は終わってたから、追加でって感じだった。
流石に焦がすまで焼かないと思ってたんだけど、何個か炭になりかけてた。
「まぁ、これもいいんだよ。問題無い。」
「……本当に?」
潰れた卵はスクランブルエッグにしたから問題無し。
炭になりかけてたウィンナーも、部分的に切り落としたら問題無し。
ただし、形は悪くなった。汚い感じ。
「裕也の起きてくるタイミングも悪かったのかな?」
「それよ!!間違いないわ!!」
横目で真由美を見ると、萎縮しちゃった。
僕の言いたいこと、伝わったみたいで何よりだね。
「あのね。何故、素直に言えないの?」
「だって……。」
「これは私の分よ!!って。こういう時にさ、食べてみて?って言えたらね。」
「面目次第もありません……。」
「う~ん。まぁ、真由美の頑張り次第だね。サポートはするから、頑張って。」
「要ぇ~、ありがと~。見捨てないでね?」
「はいはい。」
横で聞いていたお父さん、終始、訳分からん状態だった。ごめんね。
さてさて、洗濯物でも干そうかな。
終わって皺にならないように解して放置したままだったし。
「真由美はいったん帰る?」
「え?まぁ、そうしようかしら。」
「それなら、コレ。持って行ってくれる?おばさんに渡して欲しいの。」
「何これ?って美味しそう。」
「そう?」
冷蔵庫から昨夜作っていたタッパーにババロアを取り出して真由美に渡す。
なかなか美味しく作れたと思う。
「お父さん、お腹に入る?」
「いただこう。」
多い量は作っていなかった。
正直あまり作ったことが無いから、美味くできると思ってなかったし。
「これ食べちゃってもいい?」
「先におばさんに渡してね。残りはお父さん用に取っておいただけだし。」
「いいのか?」
「うん。また作ってみるよ。」
残りのカットしてあるババロアをさらに載せ、お父さんに渡す。
お父さんがスプーンで軽く掬って口へと運ぶ。少しだけ綻んだような気がした。
僕はその様子を肘をついて眺めている。
「美味い。」
「良かったよ。真由美も、こういう風に出来たら良いね。」
「…………帰る。」
何かを悟ったような表情をして真由美は帰っていく。頑張れ。
美味しそうに食べるお父さんを尻目に、洗濯物を干しに行く。
さてさて。洗濯と玄関掃除と……今日は何をしようかな?
カゴに洗濯物を入れて2階へ上っていく。
「今日はいい天気だ。布団も干そうかな?」
庭を見ると、お父さんが布団を干しているのが見える。
お父さんの布団は一番大きいサイズだ。大きすぎるよね、身体が。
裕也も最近同じサイズに替えた。縮こまって寝るのが嫌になったらしい。
おかげでベッドも用済みに……。
「兄貴、ここにいたか。」
「噂をすれば何とやら。どうしたの?」
「?あぁ、兄貴。ベッド要るか?」
「ん~。一応欲しいかな?」
「要らないならいらないって言えよ。」
「捨てるのがもったいないだけだよ。まだ使えるでしょ?」
「まぁな。それじゃ、兄貴の部屋に置くか。どのあたりがいい?」
「あ、まだ片付いてないと思うから待ってて。直ぐに干すから。」
「分かった。部屋で待っとく。」
のっしのっしと部屋に戻っていく裕也。さっき足音してなかったんだけど?
まぁ、いいか。ささっと干しちゃお。
タオルで視界塞いで、シャツとかも追加。残しは下着類。
日陰の隅っこに僕の下着っと……。終わり。
かごを持って自分の部屋に。
布団そのままじゃん……。せめて折りたたもうよ、真由美。
う~ん。どこに置こうかな?窓際で良いかな。
布団は隅っこに置いといてっと。
「裕也~。」
「おう。終わったか?」
「うん。ここに置きたいんだけど、いける?」
「おう。兄貴は引き出し持って行ってくれるか?」
「分かった。って、力持ちだね……。」
「ん?これぐらい軽いって。退いてくれ。」
「はいはい。」
裕也がベッドを一人で持ち上げて部屋を出ていく。
木製だから結構重いと思うんだけど……軽々と運んでいく。良いなぁ。
ベッドの下にある引き出しを一つ持ち上げる。……重い。
ふらふらとしながら自分の部屋に持っていく。
「兄貴……大丈夫か?」
裕也が代わりに持ってくれる。何だか悔しいな。
「なんか、凄い悔しいんだけど……。」
「そう言われても、どうしようもねぇんだが……。」
「はぁ、僕も力持ちになりたいよ。」
「諦めろ。」
「腕立て伏せでもしようかな?」
「ほどほどで良いんじゃねぇか?」
「……しばらく続けよ。」
何だか分からないけど、非常に腹立たしい。走った後に筋トレだ。
残りの引き出しも裕也がやってくれた。
兄……いや、姉としての威厳が……。ぬぅ……。
そうこうしている内に9時を過ぎる。
お昼ご飯は残り物処分にしようかな。冷蔵庫の中をすっきりさせたい。
あと、精米は……まだいいかな。今週もいける。
洗い物も済ませて一段落。
お茶を飲みつつ、リビングでテレビを見ているお父さんの膝に座る。
なんだかんだ、高校生になった僕にも甘えたい時はあるんだよね。
お父さんは背もたれにばっちりだし。のんびりしよ。