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「へ?幸じゃないの?」
「違うわ。幸なんかじゃない。」
「なんかって……。可哀想だよ。」
「要。」
「うん?どうしたの?」
「なんで……そんなに平然としてられるの?」
「なんでだろ?」
「私なんて今、絶対真っ赤になってるわよ。」
「そう?あ~、確かに熱いね。」
「もう、もう!!」
「牛さん?」
「馬鹿。少しくらい真面目に聞いてよ。私の方が馬鹿みたいじゃない。」
「ごめんね。真由美がすっごい緊張してるみたいだったから。」
「そりゃするわよ。言えなかったんだもん……。」
「ごめんってば。」
「馬鹿。」
「僕は馬鹿だよ。あと、不真面目。」
「……もういい。」
「……理由、聞いてもいい?」
「私を……助けてくれたから。」
「……それだけ?」
「それだけ!?十分すぎるのよ!?」
「えぇ?だって、僕でなくとも、幸も色々世話を焼いてくれてたと思うよ?裕也は……まぁ~、年相応だったかな。」
「幸はむしろ逆効果の時が多かったわよ?」
「そうなの?」
「そうよ。だから教室内とかでも、あまり話さないようにしていた時期もあったし。」
「あらら。もしかして中学校の時?」
「小学校の6年と、中学校の2年の時ね。面倒だったわよ、ホントに……。」
「あ~、そうだったんだ。その時の幸って、結構僕らの方を見てたよ?」
「どうでも良いわよ。要だって色々大変だったじゃない。」
「……どうでもいい、可哀想。まぁ、もう終わったことだよ。」
「……強いよね、要って。」
「そうかな?非力だよ?握力も弱かったし。」
「そうじゃないから。もう少し空気読んで、読む努力をして。」
「はいはい。でも、言った通りだよ、僕は弱かったし。裕也が頑張ってくれただけなんだから。」
「それでもよ。ま、おかげで裕也が狂犬、要が飼い主、なんて言われてたしね。」
「言ってた人って誰?教えてくれない?」
「そこは置いときなさいよ。じゃなくて。あ~もう。リセット、リセット!!」
馬乗りからの抱き着きはきついよ。
真由美の髪の毛が僕の顔に当たってむず痒いんだけど……。
「小っちゃい頃から、ずっと好きだったの。」
ぼそって、真由美が小さい声で話し出した。
「ずっとさ。お礼が言いたかったの。助けてくれてありがとうって。」
助けた……、心当たりが多すぎてどれの事なんだろう。
「覚えてない?幼稚園の年少の頃。私もそうだけど、幸も……。」
う~ん、あんまり覚えてないなぁ。年少って、3歳だよ?
「幸なんかあの見た目だし、私も大人しかったしさ。」
「あ~。何となく覚えてる。」
「良かった。幸も、感謝してるのよ。恥ずかしくって言ってないみたいだけど。」
「そうなんだ。真由美が言っちゃっていいの?」
「良いんじゃない?……私だけ違う組になっちゃったの、覚えてる?」
「あ~そうそう。幸と一緒に授業抜け出して行ったっけ。怒られちゃったよね。」
「あの時、本当に嬉しかったのよ。」
「そう?それなら良かったよ。」
「その後も、何かにつけては、来たわよね。」
「そうそう。僕だけの時もあったし、幸だけの時もあったよね。先生の目を盗んで行ったのを覚えてるよ。」
「幸は要の真似したの、あいつ言ってたわよ。」
「あらら。でも、良いんじゃないかな?」
「そうね。おかげで友達も作れたし。あいつ何なの?って良く言われたわよ。」
「っはは。」
「その時はまだ、恋なんて思わなかった。ただ、ずっと、私が困った時、助けてくれたでしょ?」
「うん。困った真由美を放っておけなかった。その時はまだ、男の子だったんだから。」
「女の子になった今でも、助けられてるわよ。」
「おばさんの言うように、もう少しお淑やかさを「それは言わないで。」……。」
「話が逸れたわね。まぁ、つまりね。寂しいと思う時、要は傍にいてくれたでしょ?それが、嬉しくって、ずっと傍にいて欲しいって思ったの。」
「……うん。」
「でも、言えなかった。小学校に上がった時も、……要が変わっちゃった時も。」
「……うん。」
「でも、言いたかった。言えなかったけど……今日、急に言いたくなったの。」
「……どうして?」
「……今は……裕也が好きだから。このままじゃ駄目だって思ったから。」
「うん。」
「はは、なんか……おかしいよね。好きだった人にこんなこと言うのって。」
「そう?真由美にとって、大事な事でしょ?」
「うん、大事。すっごい大事。」
「うん。」
「要は憧れから……裕也は羨ましさから……。私って変な女……。」
「……。」
「でも、要には知って欲しかった。ただ、私のけじめをつけたかった。」
「振られちゃったや。」
「……そういうの言わないでよ。私だって結構傷つくんだから……。」
「ごめん。」
「ねぇ、要?」
「なに?」
「私って……ずるいと思う?」
「全く?思わないよ。」
「……卑怯者。」
「なんで!?」
「要は……私の事、どう思ってたの?」
「大事な幼馴染で、友達だよ。小さい頃からずっと。」
「振られちゃった……。」
「あれ~?別に振ってないんだけど?」
「振ってると同じ答えじゃない。」
「そうかな~?」
「そうよ。」
「う~ん。」
「……ありがとう。変な事聞いてくれて。」
「うん、真由美も頑張ったね。苦しかったのかな?」
「……うん。」
「ごめんね、気付いてあげられなくて。ずっと、苦しんでいたんだよね。」
「うん。」
「僕もありがとう。正直、好かれてたって実感が、あんまり湧かないんだけど。」
「馬鹿。」
「うん。でも、もういいんだよ。僕の事は忘れて、裕也の事を大事にして欲しいんだ。」
「……。」
「裕也はね、僕の事でいっぱい気苦労しちゃって、今も無理してるところが多いんだ。」
「……。」
「それだからって訳じゃない。真由美が裕也を好きだって教えてくれたから。」
「うん。」
「僕は二人を応援するから。だから、真由美は真由美で頑張ろ?僕も手伝うから。」
「お願い……。私だけじゃ……無理よ。」
「そこは頑張って欲しいけど、無理も言わせられないしね。うん、任せて欲しい。」
「ありがと……、ごめんなさい……。」
「謝らないで、ね。」
「うん……。ぐずっ。」
泣いちゃった……。今日はよく泣いちゃうね。
しばらくは、こうさせてあげよう。
今まで我慢していた分、明日からは素直になって欲しいかな。
実は裕也も真由美の事を気にしてるって話はしないようにしよう。
二人とも素直じゃ無いからね。拗れちゃったら嫌だし。
さてさて、まずは真由美を労おうか。いっぱい苦しんだみたいだし。
今日は、いっぱい泣いて、明日から頑張ろう。