27
「あんまり喋らなかったね。真由美らしくもない。」
「だって……。」
寝る準備を進めながら、椅子に座って落ち込んでいる真由美と喋る。
僕の部屋にはベッドが無いので、畳んだ布団を敷いている。
「まぁ、急に素直になっても裕也が吃驚しちゃうしね。さっきみたいに。」
「う……。」
裕也が真由美の謝罪を受け取ったけど、二人は喋ってない。
爪楊枝ハウスを作りつつ、真由美は裕也の漫画本を読んでいた。
僕は幸と話しながら22時になって、幸が家に帰っていった。
裕也も結構疲れたのか寝るって言ったので、部屋を後にした。
「でも、少しずつでも良いんじゃないかな?」
シーツを敷布団に被せて整える。
「……うん。」
どうしようかな。少し肌寒いし、毛布もいるかな?
「正直に言うと驚いたよ。真由美が裕也の事が好きってさ。」
「ちょぉ……。口に出さないでって……。」
急に背中を押されてのしかかられた。
重くは無いんだけど、吃驚するから止めて欲しい……。
「はいはい。ごめんね。」
「もう……。」
「ところで、退けてもらっても良いかな?布団が敷けないんだけど……。」
「分かったわ。」
真由美が立ち上がって、また椅子に座り直す。
毛布はひいちゃおう。その上に布団を被せる。
枕も置いたら出来上がり、寝床の完成だ。
「ところで、帰らないの?」
「え?なんで?」
「うん?」
「だって、今日は要と一緒に寝るつもりだもん。」
「え?布団1つしか無いよ?じゃあ、下にもう1つあるから持ってくるね。」
「え?いらないでしょ?」
「え?」
「良いじゃない。昔みたいに同じ布団で寝ましょ。」
「一体いつの話してるの?」
「ん~、かれこれ10年近くよね。小学生でも何回かあったっけ。」
「もう15歳だよ?というか高校生だよ?」
「ね?良いでしょ?ね?」
「まぁ、別に良いけど。寝にくいよ?」
「大丈夫だって。電気消す?」
「え、もう寝るの?」
「え?寝ないの?」
「だって、真由美はまだ眠くないんじゃないの?」
「暗くしたら眠くなるわよ。私だっていつも遅くまで起きてないし。」
「そうなんだ。まぁ、いいか。」
「オッケ―。」
真由美に電気を消してもらう。
いつもなら隣の家に住む真由美の部屋の電気が見えるんだけど、今日は見えない。
あ、枕が一つしかないや。
……真由美に使ってもらって、僕はクッションで良いか。
もそっと真由美が布団に潜り込んでくる。
いつもより近いけど、暗いせいか表情までは見えない。
「「…………。」」
お互いに何も喋らず、僕が欠伸をするくらいには静かだ。
「ねぇ、要。」
「ん?なに?」
すぅっと息を吸い込む声が聞こえる。
次にはぁっと吐き出す声が聞こえる。
深呼吸南下しちゃってどうしたの?
首だけを動かして真由美の方を向こうとしたが、真由美が急に起き上がった。
と思ったら、僕の上に乗ってきた。いわゆる馬乗り状態だ。
「え?え?どうしたの?」
両手まで掴まってしまった。動けないんだけど……。
真由美も黙ったままだから怖いんだけど……。
「真由美?どうしたの?」
「すぅ…………はぁ…………、よし。」
「?」
「要にさ、言っておきたいことがあったの。」
少し真剣な雰囲気みたいだし、大人しく聞いておこうかな。
「……なにかな?」
「あのさ、私が裕也の好きなった理由って分かる?」
「……さぁ、なんだろ?……分からない。」
「……昔っから変わらないところ。」
「昔から……ね。」
「そ、あの時もそうだったしさ。単純にね、羨ましかった。」
「羨ましい……か。あの時って?」
「…………左手、見せて。」
「あぁ、あの時か。でもさ、見ても良いものじゃ無いよ?」
「分かってる。ほら、早く。」
「暗くて見えないんじゃないかな?」
いつの間にか手を離されていたので、左腕を布団から出す。
僕が真由美に左手を見せると、両手でがっちり掴まれる。
僕の左手には古傷がある。昔、コンパスが手を突き刺さった痕。
それは何針か縫って直ったけど、傷痕は残ってしまった。
真由美が指先で傷痕を撫でまわしてくる。
「くすぐったいよ。」
「……もう、痛くない?」
「かれこれ6年も経つんだから、治ってるよ。」
「……ごめんなさい。」
「真由美が悪いんじゃないんだから、謝らないでよ。」
「でも……。」
「幸にも謝られたんだけどね。気にしないでって言ってあるんだ……納得はしてなかったけど。だから、真由美にも同じことを言うよ。気にしないで。真由美が気にするような事なんかじゃ無いんだ。」
「……それで、私が納得なんてできると思う?」
「うん。出来ないというより、しないと思ってる。」
「でしょ?……でも、今更になってしか言えなかった私が言うのも……おかしい話よね。」
「正直な話。忘れて欲しかったと、僕は思ってるよ。」
「忘れるなんて出来ない……忘れられない……。」
「そぉ?でも、忘れてね。たかだか怪我の一つなんだし。」
「……ねぇ、要。言いたいことが有るって言ったよね。」
「うん、その話だったね。」
傷痕を擦られながら、少し真由美が黙り込む。
くすぐったいから、そろそろ止めて欲しいんだけど。
「あのさ、私って裕也が初恋の相手じゃないんだ……。」
「そうなの?」
「うん。違う。」
お、コイバナでしたか。僕コイバナ出来ないよ?
小学校の時、誰が好き~なんて言えないし。いなかったから。
そも、初恋すらしたことが無いんだよね。
「誰か分かる?」
「分からない。」
「なんで最初っから諦めてるのよ……。」
「分からないし、直ぐに聞いた方が良いかなって。間違えたら何言われるか分からなくて怖いっていうのも、あるかな?」
「奈々とそう言う話とかしないの?」
「しないね。奈々がコイバナとか、あんまりしたがらないし。」
「そうなんだ。私が話振ったら、合わせてくれるんだけど?」
「そうなんだ。僕も今度してみようかな?」
「止めといた方が良いわよ?」
「え、なんで?」
「そんな事より、誰か分かる?」
「そんな事って……。奈々、哀れ……。」
「はい、答える。10秒上げるわ。10、9,……」
「さっきの仕返しかな?う~ん。」
「7、6……」
「芸達者の大森君。」
「違う。5、4……」
「佐々木君。」
「なんであいつなのよ。只のマセガキじゃない。3、2……」
「じゃあ、幸。」
「1、0。ダメね。くすぐりの刑よ。」
そう言ってくすぐってくるけど、お生憎様。ぼくにはくすぐりは効かないよ。
「笑いなさいよ!!笑い転げなさいよ!!」
「残念、僕は弱くないんだ。あきぃ!?」
「ふ。ここが弱いのは相変わらずね。」
頭を押さえつけられて、指先で唇を触れるか触れないような位置でなぞられる。
「く、ふ……。」
「ふふん。これ知ってるのは私くらいかしら?」
「ふ、ふ……。」
「はい、おしまい。残念だったわね。」
「もぅ……。はぁ~止めてよ。」
僕に顔を近づけてきて、勝ち誇ったような表情をしてる。
ちょっぴり悔しい。後でくすぐり返そうかな……。
「私ね、要の事が好きだったんだ……。」




