26
泣き止んだ真由美をとりあえずお風呂に入らせる。
「一緒に入ろう。」と言い出したけど、一人で入らせる。
流石にね、身体は女性だし自覚もあるけど……無理。
とりあえず顛末を裕也に話そうと部屋を訪ねる。
「裕也~。入っても良い~?」
ノックをしながら聞いてみると、中から入っていいと声が聞こえる。
ゆっくり扉を開ける。また壊れたら可哀想だし。
「ごめんね。もう少ししたら、真由美が謝りに来ると思うから。」
「お、おう。」
「ま、まぁ……ね。うん。」
幸も裕也の部屋にいて、2人とも何だか顔が引き攣ってる。
幸が裕也の爪楊枝ハウスを手伝ってくれているみたい。
でも、さっきと変わっていなくて、あんまり進んでいない感じがする。
「出来たの?」
「いや、あんまり進んでねぇ。」
「すまない。俺が足を引っ張ってるみたいだ。」
「そんな事ねぇよ。慎重にやってるだけだ。」
「そ、そうか?それなら良いけど……。」
「そ、そうだ。兄貴。何か飲む物くれねぇえか?」
「ん?あ、ごめんね。気が利かなかったね。待ってて。」
裕也の部屋からでて扉を閉める。
違和感が凄いんだよ。何だか余所余所しいというかなんというか……。
僕を見て怯えてるような印象を受けるんだけど……、僕何もしていないよね?
う~ん。と少し考えながら唸ってしまう。
「要。何かあったのか?」
リビングで本を読んでいるお父さんに話しかけられる。
「ううん。僕が真由美に叱った位だよ?あ、お父さんも何か飲む?」
「うん?そうだな、熱いお茶を貰おうか。」
「分かった。他の皆はジュースで良いかな?」
台所へ行き、お盆と湯呑を用意する。
なんと我が家には僕たち家族の他に、幸と真由美と奈々の専用コップがある。
幸は真っ白な半プラスチック製のカップ。主にコーヒー専用。
真由美のカップは猫の絵柄がたくさんあるカップ。ジュース専用。
奈々は犬の絵柄が大きく載ったカップ。ジュース専用。
お父さんはポットのお湯から番茶を淹れる。
裕也は牛乳で良いかな?
幸はコーヒーだね。
真由美はオレンジジュースにしておこう。
「はい、お父さん。」
「ありがとう。」
本にしおりを挟んで、コップを受け取るお父さん。
「何の本を読んでるの?」
「ん?今度、ある資格を取らないといけないんだよ。社内認定みたいなものでね。」
「へ~。国家資格とかじゃ無いんだね。」
「ああ。あまり必要でも無いんだが、取れと上が五月蠅いんだよ。」
「お父さんも大変なんだね。会社で何か言われたりしないの?」
「どっちかというと、私が言う側だな。」
「……お父さんってお喋りな方なの?」
「いや、あまり喋らないぞ。」
「?」
「?」
あれ?そういうのってお喋りな人がする印象なんだけど……。
昼のドラマとかでもそうじゃ無かったっけ?
「何だねこれは~。うんたらかんたら~。」って感じで。
「お父さん……って、無口な方だよね?」
「そうだな。喋るのは得意じゃない。」
「?」
「?」
どうしよう。お父さんの仕事風景がすっごい気になってきた。
いやいや、多分嫌がられるだろうし……聞かないようにしよう。
「いつもお仕事お疲れ様です。」
「ん?ああ、ありがとう。」
気になるなぁ……、お父さんって確か、役職が上の立場だったよね。
どんな感じなんだろう……。顎で人を使う感じ?それは無いでしょ。
仕事では人格が変わる感じなのかな?おしゃべりになるとか……。それは無いね。
こう……厭味ったらしくしてるとか……。無い無い、それは考えられない。
明るくにこやかに喋って……無い無い。有り得ないと思う。
今だって相当な無表情だし。う~ん。
「要~、お風呂のお湯ってどうしたらいいの~?」
お風呂上がりの真由美が出てきた。
昔っから僕の家は幸と真由美のたまり場だから、着替えの1着や2着は普通にある。
勿論だけど洗濯するのは僕。干すのも僕。畳むのも大半僕。持って帰りなさい。
「あ、おじさん。お風呂いただきました。」
「ああ。構わないよ。」
家着用のラフな格好で真由美が喋りかけている。お父さんも、もう慣れっこ。
「お風呂はそのままで良いよ。というか、髪乾かしてないじゃない。」
「あ~。まぁ良いかなって。」
「駄目だよ。ほら、乾かしてあげるから。」
真由美ってうちの家ではかなり大雑把になる。
真由美の家ではきっちりしてるのにね。おばさんの存在が大きいと思うけど……。
ともあれ、風邪を引かれても嫌なのでドライヤで乾かしてあげる。
「はい、座って。」
我が家の洗面台にある椅子に座らせる。
お母さんが妊娠していた時に買った椅子で、結構座り心地が良い。
そして、買ってきたお父さんはお母さんに怒られたらしい。
「こんな高価なもの必要ない。」って言われたらしい。可哀想に……。
「あ~。極楽極楽。自分でやるのって面倒だし。」
「家じゃいつもやってるでしょ?」
「お母さんが五月蠅いのよ。女の子なんだから!!って。」
「そうだと思うよ?今度言っておこうか?」
「お願いだから止めて!?私もね、楽できる日が欲しいのよ~。」
「……僕には髪切っちゃ駄目って言うのに?」
「要はロングの方が似合うからよ。私はこれくらいで良いの。」
真由美は肩まである髪を首を振って揺らしながらアピールしてくる。
乾かしにくいから、止めて欲しいんだけど……。
「え~。なんだか可笑しい気がする。自分の髪乾かすの、結構面倒なんだよ?」
「まぁまぁ、要なら大丈夫。」
何故自信満々なのか分からないけど……。
「はい。終わり。これくらいで大丈夫?」
「うん、ありがと。へへ~。」
これからはうちでもちゃんとして欲しい。
「真由美。二階に飲み物運ぶから手伝って。」
「ほえ?良いけど……。」
「僕が運ぶから、裕也の部屋を開けてね?」
「…………。」
「ちゃんと謝ろうね。」
「…………はい。」
「声が小さいね。いつもの元気はどうしたのかな?」
「はい……。」
「良し良し。それじゃあ行こうか。先歩いて。」
お盆に載せたそれぞれの飲み物を持って二階へ。
さて、素直に謝ることが出来るのか……。
扉をゆっくり開く事には成功。但し、ノックはしようね……。
「兄貴?……な訳ねぇよな。」
「ははは。真由美、ノック位しようよ。……どうしたの?」
「あ、その……。」
「はい、裕也。幸はホットで良かった?」
「サンキュー。」
「ありがとう。ところで……。」
「二人とも、少し黙っててね?」
「「……はい。」」
「さ、真由美。」
「うっ……。そ、その。裕也、…………ごめん。」
「真由美。」
「ひぅ!?ご、ごめんなさい。」
「僕じゃなくてね?僕の方を向いて謝るんじゃなくて、誰に謝るんだっけ?」
さっきからさ、僕の方しか向いてなくて気になってたんだよ。
ただ、それだけだったんだけど……。そんなに怯えなくても、いいんじゃんないかな?
お、ちゃんと裕也の方を見たね。頑張ろうか。
「ご、ごめんなさい!!」
何故か、謝られている方の裕也がきょとんとしてる。
幸はうんうん。と頷いている。
普段からちゃんと謝らないせいで、こういう反応になってるのかな?
ま、今日は頑張ったんだし。助け舟を出そうか。
「裕也。真由美もちゃんと謝ったから、今日は許してあげて欲しいんだ。いいかな?」
「え?あ、おう。別に……良いけど……。」
「真由美、良かったね。許してくれるって。」
「……う、ん。」
ちょっとだけ目が潤んでいるように見える。
「ほら、こっち座って。真由美はオレンジジュースで良かった?」
「うん。ありがと。」
気持ちを切り替えるのが早い。
直ぐさまオレンジジュースを飲み干している。一気飲み。
「というか、あんまり進んでないね。爪楊枝ハウス。」
「あ、ああ。その……なぁ、幸。」
「え!?あ、ああ。ちょっとね。」
「?」
何だか2人に曖昧な返事をされる。
ジッと2人を見つめると目を逸らされるし……。
挙句の果てに「このコーヒー美味いな~。」って、露骨に話題も変えられたりする。
それ、インスタントでいつも飲んでる奴だよ?
え、疎外感が凄いんだけど……。何これ?




