25
「おぉ、凄いね裕也。手先器用だね。」
「まぁ…………。ふぅ、兄貴、ボンドもうちょい出してくんね?」
「はいはい。これくらい?」
「おう、サンキュー。」
裕也は今、爪楊枝を使って家を作ってる。
モデルは我が家。上手に特徴をとらえてる。特にベランダ。
何でも、夏休みの自由研究に提出予定らしい。用意早すぎだよ……。4月だよ?
それで、僕は裕也の手伝いをしている。
均等の長さで爪楊枝を切ったり、とか。
裕也は元々不器用な方だった。
けれど、色々頑張って器用になっていた。いや、器用すぎるんだけど……。
「くっそ、ここやりづれぇ……。」
「持とうか?」
「頼む。」
今はベランダの物干し竿の土台を作ってる。細かすぎないかな?
Y字の部分が出来なくて手伝ってる。2本作れば良いから後1本だ。
慎重に裕也がくっつけようとしていると扉が大きく開かれる。
そのちょっとした風圧で、今作っている物干し竿が大きく変形してしまった。
ボンドが乾いてなかったので、こう……グニャって。
「うぉわぁ!?」
「あぁ!?」
「きゃっ!?って、何してるの?」
「おい!!糞女!!扉くれぇそっと開けれねぇのか!?」
「べ、別にいいでしょ!?いつもの事なんだし!!」
「良かねぇえんだよ!!いつもいつも!!勝手に開けやがって!!」
「い、良いじゃない!!わざわざ、来てあげてるのよ!?」
「誰が来いっつった!?むしろ来んな!!」
「な、なによ!!それに!!今日は要に用があったのよ!!部屋にいないし……。」
「だからって、俺の部屋を勝手にバカバカ開けて良い理由にならねぇんだよ!!馬鹿か!?」
「ば……馬鹿ですって!?あんたより何倍も頭良いわよ!!」
「そう言う意味じゃねぇんだよ!!常識だ常識!!頭のねじでも飛んでんのか!?」
「そんなわけないでしょ!!それは裕也の方でしょ!?」
本日3回目の口喧嘩。喧嘩するほど仲が良いって言うけど、し過ぎじゃない?
ま、これ以上は近所迷惑になるし。お父さんにも悪いし。
僕に用事とは……まぁ、想像は付くんだけどね。
さて、どう止めようかな?
今回は真由美が悪いし、真由美から退散させようかな。
立ち上がって真由美の傍に寄る。
というか、真由美を連れて僕の部屋に行く。
真由美も裕也も黙っちゃったけど、好都合。
ささ、とりあえずお説教からかな?
「さて、真由美。先ず正座から。」
「え?」
「正座。今すぐ。」
「はい。」
素直でよろしい。
僕も真由美に向かって正座で答える。
こういうのは目を見てしっかりと言ってあげよう。
「まず、真由美。悪いのは誰か、分かってるよね?」
「……はい。」
「何故、素直に謝れなかったの?」
「その……。」
「答えて。」
「あの、ごめんなさい。」
「謝って欲しいんじゃないんだ。謝れなかった理由を聞いてるの。なんでかな?」
「えと、意固地になったから……です。」
「なんで?」
「えっと。その……」
「早く答えようか。」
「はい。えっと、今日の出来事で……その…………」
「なに?はっきり言って欲しいな。」
「裕也が……くれなかったし……。」
「それは裕也のせいじゃないよね?違う?」
「…………」
「黙っているのは小さな子供でもできるよ?」
「えっと。」
「真由美は子供?小学生くらい?」
「ち、違う……ます。」
「じゃあ、答えれるよね?」
「わ、わた、し、……こじで、すな……いえな……。」
「泣かないで欲しいな。泣くような事、言ってもらってないよ?」
「す、すいませ……。」
「謝ってって言ったっけ?」
「ち、が……。」
「じゃあ、答えて?何故、裕也に素直に謝れなかった?意固地になったから?それはパフェをくれなかったのが原因?なんでくれなかったのかな?考えて。10秒あげる。」
「え?え?」
「10、9、8、……」
「そ、あ、え」
「5、4、……」
「ご、ごべ……」
「1、0。答えようか。」
「う、うぇ…………」
「泣かないでって、言ったよね?」
「ごべ、ごべん、ゆる、ひっ……」
「答えようか?出来るよね?子供じゃないんだから。裕也よりお姉さんでしょ?」
「うぅぅ…………。」
「もうやめてあげよう。要。許してあげよう、な?」
ゆっくりと、戸を開けて幸が入ってきた。
多分、さっきの裕也と真由美の言い争いを聞いて来たんだろうね。
優しい幸なら、そう言うしかないよね。けれどね。
「幸、今は優しさは必要無いよ。出て行ってくれる?」
「要、それ以上は……。」
「幸?僕は幸には叱りたくないかな?」
「あ、うん。ごめん。でも、お手柔らかに、ね。」
幸はゆっくりと戸を閉めて退散してくれる。
残ったのは完全に泣いてしまった真由美と、叱っている僕。
別に、声を大きくしたりとかしていない、
ゆっくり、静かに喋ってるだけなんだけどね。泣くほど怖いかな?
「さて、幸は優しいからね。ダメだと自覚したら素直に謝れるんだ。真由美はどう?出来る?」
「で、でき、ない、で、す……。」
「そうだね。出来ていないよね。今日だけでも、証明になってるよね?」
「はい…………、そ、です。」
「じゃあ、さっきの答え。聞かせてくれないかな?」
「さ、っき?」
「そう。なんで?」
「ど、え?」
「教えてあげるのは簡単。でもね、気付くことが重要。出来るようになることが大事。」
「う、あ。」
「後は野となれ山となれって訳にはいかないよ。正直は最善の策って言うでしょ?」
「えぅ、う。」
「なぜかな?答えれるよね?」
「ず、ずなおに、ほじい、で、いえなが、の。」
「うん、そうだね。よく言えたね。偉いよ。」
軽く頭を撫でてあげると、真由美が胸に飛び込んできて大泣きしちゃった。
ちょっと言い過ぎたかな……。でも、ねぇ……。悪いとこは悪いって、言わないとね。
とりあえず泣き止んでもらわないとね。よしよ~し。
頭撫でて背中も擦ってあげる。はいはい、良い子良い子。
「ぐず、ぐず……。」
泣き止んだは、泣き止んだんだけど……。
ああ、もう。涙のあとが……。
「ほら、もう泣かないの。可愛い顔が台無しになっちゃう。」
「……ぐず、……うん。」
「ね。分かったじゃないか。今日の用事だって、本当は気付いていたんでしょ?」
「…………うん。」
「ただ、言い表せなかったのか、言えなかったのかは、僕には分からない。」
「……うん。」
「今日はこんな感じになっちゃったけど、分かったでしょ?」
「うん。」
「じゃ、出来るよね?」
無言で首を振らないでよ……。そこは出来るって言わなきゃ……。
「ね?出来そう?」
「むり……。」
「どうして?」
「言いたいけど、勇気、出ない……。」
「う~ん。そこは頑張って欲しいな~。」
「むりぃ、たすけて……。」
「うん。僕で良ければ手伝うからさ。だから、頑張ろ?ね?」
「うん。かなめぇ、おねがいぃ。」
「うん。分かった。真由美も、勇気を出せるように。いっぱい悩んで、いっぱい失敗して、それでだめって思う所を正していってさ。歩こっか。大丈夫。真由美なら出来る。僕が保証するよ。」
「ありがとぉ……。」
真由美の泣き虫さんは中々直らない。
もうしばらくだけなら、このままにしてあげよう。
でも、服は着替えないとね……。多分これ、鼻水まで付いちゃってるよ……。