18
「運動やだ~。動きたくない~。」
「運動測定だもん。仕方ないよ。」
今日の奈々は駄々をこねる子供だ。
運動嫌いな奈々。何せ、運動音痴だ。
「そう言ってても仕方ないよ。」
「でも、園部さんの言う事も分かる。」
「清水さん。おはよう。」
「おはよ~。」
「おはよう。」
清水さんが声を掛けてくれた。嬉しい。
「清水ちゃんは運動苦手系?」
「ええ、実は苦手よ。その様子だと、園部さんも苦手なの?」
「超を超える程の苦手。っていうか嫌い。」
「ふふ。そうなんだ。じゃあ、妹尾さんは?」
「僕?」
「あ~、清水ちゃん。要たんはヤバいよ。超ヤバイ。」
「ヤバい?」
「うん。後で分かると思うけど……超ヤバイ。」
「どういう事?」
「得意ではあるかな。ってくらいなんだけど……。」
「そうなんだ。確か、走るのが趣味って言ってたよね?」
「うん、そうだよ。」
「……期待しましょ。どんなヤバさなのか興味あるわね。」
愛嬌のある微笑で、清水さんが笑う。
「清水ちゃん。あたしの事は奈々で良いよ~。」
「じゃあ、私は千里って呼んでね。」
「千里?じゃあ……ちーたんで良い?」
「う~ん。まぁいいかな?」
「僕は要で良いよ。」
「……私も要たんって呼んでいい?」
「んん?何故?」
「何だか面白い響きだからかな?」
「でしょ?要たんは要たんだよね?」
「ええ。そうね。」
「あれ~?」
以後、クラスメイトの大半から、要たんと呼ばれるようになる。
「席つけ~。ってもう座ってるか。」
予鈴のチャイム前に、東先生と松田先生が入ってくる。
「おはよう。諸君。」
「「「お早う御座いまーす。」」」
「元気で良いぞ!!松っちゃんお願い。」
「お早う御座います。本日の運動測定は……。」
松田先生の事務的な朝礼。
東先生は椅子にドカッと座って聞いている。欠伸までしてる。
「以上です。何か質問御座いますか?」
「はい!!」
「…………。」
何故か東先生が手を挙げている。なんで?
「東先生、何かありますか?」
「はい。松っちゃん硬いです。柔らかくなってください。」
「他に何か質問はありますか?」
松田先生のスルー力が上がった。
「ちょいちょい。質問に答えてよ~。」
「質問ではなく要望と思われます。ですのでお答えする義務はありません。」
「え~。みんなどう思う~?」
生徒に投げかける質問じゃ無いと思うんだけどな~。
「聞いてみよう。今日は元気無さそうな園部さん。」
「え、あい?」
「松っちゃんの表情をどう思いますか?」
「え?え~っと、綺麗美人系の怖い感じ。笑った顔を見てみたい。」
「…………。」
嬉しいような悲しいようなって感じの表情をする松田先生。
「でしょ~。あたしも同意見。そう思う人挙手!!」
結構な数の手が挙がる。思ってる人は思ってるんだね。
「下ろして~。じゃあ、八木くん。」
「はい、何でしょうか。」
席を立ちあがる八木くん。
「立たなくても良いよ~。手を挙げなかった理由教えて?」
「その人の自由だと思いました。押し付ける問題では無いと思ったからです。」
「ほほう。見事な反対意見がきたぞ。じゃあ、要たん。」
「はい?」
「要たんはどう思うの?」
「えっと。僕も似たような意見だね。自然に笑ってもらう方が良いなって思うかな。」
「ほほう。純情だね、高瀬君は?」
「俺も似たような意見です。無理をしてもらいたくは無いですね。」
「優しいね~。じゃあ、大間さん。」
「私も同じ意見です。それに、まだ日も浅いのに難しさを求めるのはどうかと思います。」
「おっと、反撃が来ちゃった。ん~、追々って感じにしましょうか。頑張れ松っちゃん。」
「…………新手のパワハラでしょうか?」
「嬉しい癖に~。ちゃあんと見てくれる生徒はいるんだから、頑張んなさいな。」
「……努力はします。」
「よろしい。さて、さっきも説明があったけど、今日は運動測定ね。全力で取り組みなさい。それと、気分が悪かった悪くなったりしたら直ぐに言いなさい。オッケー?」
「「「はい。」」」
「よろしい。じゃあ、移動しようか。男子は私。女子は松っちゃんに同行しなさい。ロッカーは昨日と一緒の場所ね。行くぞ!!」
東先生が出ていき、続いて松田先生が出ていく。
「要たん、あたし気分ヤバいよ~。」
「気のせいだよ、気のせい。」
「え~。そこは気遣ってよ~。」
「顔色良いのに、何を言ってるの?」
「……くっ。要たんの意地悪。」
「はいはい。行くよ。」
女子は体育館内で出来る測定からしていく。
男子は屋外での測定から。
ロッカーで着替えながらも、奈々は駄々をこねる。
「ヤダー。」
「頑張れ、頑張れ。」
「むぅ。要たんは運動得意だからな~。」
「好きで走ってるだけだよ。」
「こんなデカ乳持ってるのに~。」
「揉まないでくれる?」
背後から鷲掴みにされる。そういう奈々も大きいんだよね……。
あと、周りの視線がすっごい痛いからやめて欲しい。
「っていうか、痛くない?」
「別に?気にはなるけどそれだけかな。」
「スポブラしてても揺れるっしょ?」
「まぁね。そう言う奈々は着けてなかったけど、大丈夫?」
「忘れた……。」
「憂鬱な原因が一つ分かったよ。いつ思い出したの?」
「教室に入ってから……。椅子に座った時にあっ、ってなった。」
「あらら。」
喋りながら体育館内に入っていく。
後ろから抱き着かれたままなので、歩きにくい。
そろそろ離れて欲しいんだけどね。
「妹尾さん。園部さんはどうされたんですか?」
松田先生が怪訝そうな表情で話しかけてくれた。
「奈々はスポブラを忘れちゃったので憂鬱なんですよ。それと、純粋に運動が嫌いでして。」
「あ、それは……。すみませんがサイズは幾つでしょうか?事務所でお借りできるかもしれません。」
「奈々?」
「ん~?何?」
「ブラのサイズは?」
「んー。スポブラだとHは欲しい。」
「……無い……でしょうね。」
一応電話をしてくれている。有ったらいいんだけど……。
少しの応対の後、申し訳なさそうに無いと教えてくれた。
「ありがとうございます。」
「いえ。こちらこそごめんなさいね。」
「いえいえ。元をたどれば忘れた奈々が悪いので。奈々、戻るよ。」
「ほえ?」
「僕の貸すから。」
「良いの?」
「先生。時間はまだあります?」
「ええ。あと、15分はあります。」
「ありがとうございます。戻るよ。」
「ありがと~。」
「着心地は悪いかもしれないけど。あと、脱ぎたてになるし……。」
「全然オッケー。要たんの脱ぎたてなら売れる!!」
「売らないでね?」
という訳で、僕は奈々にスポブラを貸すことに。
上着のファスナーを閉めたら、少しはマシになるかな?
結構きついから、いけると思う。多分。
戻ったら2人組で体操していたので、僕は奈々とですることに。
奈々の身体は柔らかいのに、運動は苦手。なんでだろ?