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変化した自分に出来る事(仮題)  作者: 奈良づくし
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「ふぅ。裕也、お疲れ様。重かったでしょ?」


大量に食料のはいったエコバックを玄関に置く。


「全然?」


裕也は全く疲れを見せず、平気そうに答える。

野菜のぎっちり詰まった段ボールを肩に担いで、空いた片手には鰹の切り身が入った保冷庫を持っている。

僕なら台車で持って帰るね。それでもしんどいと思う。


「力持ちだなぁ……。僕にも分けて?」


「無理だろ?気張らずに俺を使えばいいんだよ。」


「使うって言い方は嫌だなぁ。」


「別の言い方でも考えてくれ。台所に置いとけばいいか?」


「うん。お願い。」


裕也は靴を無造作に脱いでいく。

僕も靴を脱いで揃えておく。

買い過ぎたかもしれないけど、そうじゃない気もする。

我が家の出費の大半は食費だと思う。冗談抜きで。

料理をしていたらいつの間にか無くなってるし。


幸いにもお父さんの収入が多いから、食費の気苦労はない。

それでも工夫はするんだけどね。

一番助かっているのはお米。

お母さんの伝手で安く仕入れれる。米農家の辻さんに感謝だ。

今日もわざわざ運送してくれている。助かります。今度何かを持っていこう。


「今日は鰹のたたきがメインだけど、他に希望は有るかな?」


「ん~。中華系の何かが食いたい。」


「餃子にしようかな。タレは市販のものにするけど。」


「お、いいな。じゃあ、それで。」


必要な食材を台へと置いていく。

裕也が屈んで冷蔵庫に買ってきた食材を入れてくれている。

…………今、してみようかな?汗臭くないよね?

自分の匂いを嗅いでみる。多分、大丈夫。少しベンの匂いがするくらい。

裕也を背後からそっと抱きしめてみる。

ツンツン頭が少し刺さる。ちょびっと痛い。


「いつもありがとう、裕也。」


返事がない。

いつもお礼を言ったら「気にすんな。」とか「飯で返せ。」とか言ってくるのに。

ん~、流石に頬擦りは恥ずかしいから……撫でるくらいにしておこう。

ツンツン頭をなるべく優しく撫でてみる。

何でこんなに剛毛なんだろ?お父さんもお母さんも柔らかいのに……。


「裕也?」


まだ返事がない。一体どうしたんだろ?


「あ~……。もしかしてなんか臭う?汗臭いかな?」


抱きしめるのを止めて離れ、恐る恐る裕也の顔色を窺う。

真っ赤な顔になってる。


「ちょっ、やっぱり無理してたんじゃ……。」


「ち、違ぇ!!」


「顔赤いよ!?風邪?熱中症?」


「違う!!つか、いきなり何するんだ!!」


「え?……嫌だった?」


「え、いや、そうじゃ……ねぇよ。じゃなくて、いきなりどうしたんだって聞いてるんだ。」


「え、えっとね?」


今日の出来事を簡単に説明する。


「ただ単に、いいなぁって思ったから、やってみただけ。」


「あぁ、そういう事か……。」


「裕也が……嫌じゃ無かったら、たまにしても良いかな?」


「…………なんでだ?」


「ん?何かね、嬉しかったから……かな。」


「……俺以外にするなよ。」


「え?お父さんにもしようと思ってたんだけど……。」


「親父は良い。家族以外にするなよ。」


「え、まぁ。家族以外にはしないよ?」


「そうしろ……。たく……。」


頭を掻きながら裕也は立ち上がる。

裕也の背が大きくなったせいか、見上げなくちゃいけない。


「良いか。幸にもするんじゃねぇぞ?」


「幸に?」


「ああ。絶対勘違いするからな。」


「勘違い?何を?」


「そこは気にすんな。早く飯作れよ。腹減った。」


「あ、うん。分かった。待っててね。今日はお父さんも早く帰れるみたいだし。」


「おう。風呂洗っておくわ。」


「おや、助かるよ。けど、今日は珍しいね」


「……。」


「どうしたの?」


「気まぐれだ。気まぐれ。」


のっしのっしとお風呂場の方へ歩いていく。

ほうほう。抱きしめると気まぐれでお風呂を洗ってくれるんだ。

今日は良い事を知れたね。奈々に感謝しよう。

さて、ちゃちゃっと作りますか。


料理もほとんど終わって、18時を回った辺りでお父さんが帰ってくる。


「ただいま。」


「お帰りなさい。ご飯とお風呂、どっちにする?」


「風呂にしよう。今日も美味しかったよ。」


空っぽのお弁当箱を渡される。

朝はぎっしり詰まって重かったお弁当箱が軽い。

それが凄く嬉しくて、何だか自分の表情が綻んでしまう。


「それは何より。明日も頑張るね。」


「ああ。いつもありがとう。」


「どういたしまして。……お父さん。一つだけ良いかな?」


「どうした?」


お父さんの部屋で、脱いだスーツを受け取りながらハンガーに掛ける。


「ちょっとだけ屈んでもらっても良い?」


「いいぞ?」


お父さんの部屋は和室なので、畳に正座してくれる。

後ろに回って裕也にした様に抱き着いてみる。

お父さんの髪は猫毛のように柔らかいのでチクチクしない。


「いつもありがとう。お父さん。」


頭を撫でるのは止めておこう。流石にね……。

お父さんを子供扱いは出来ないし……。


「ああ。こちらこそ。いつも助けてもらっている。」


お父さんは、軽く答えてくれる。


「うん、僕もだよ。」


「今日はどうしたんだ?良い事でもあったのか?」


「うん。」


お父さんにも、今日の出来事を話す。


「それでね、裕也はさっきお風呂を洗ってくれたんだ。吃驚したよ。」


「そうか。裕也にも気苦労を掛けてしまっているな……、私は駄目だな。」


「そんなこと無いよ。裕也も、もう子供じゃ無いよ。」


「私にとっては、要も裕也もまだまだ子供だ。」


「ん~、僕だって頑張ってるけど……。」


「そうだな。だが、背伸びばかりは疲れるだろう。偶には……甘えなさい。」


「……うん。そうする。裕也にも言ってあげてよ、喜ぶと思うよ?」


「そうだな。言ってみよう。」


「うん。じゃあ、お風呂あがったら御飯にしよう。お父さんの好物もあるよ。」


「直ぐに入ろう。」


「お酒はいる?」


「いや、酒はいい。」


お父さんがスッと立ち上がると、僕は宙に浮く感覚になった。

吃驚して強くしがみ付いてしまう。


「すまない。忘れていた。」


「う、うん。僕もごめん。痛くなかった?」


「全く?要は軽すぎるな。しっかり食べなさい。」


「……結構食べてるほうだよ?」


「そうか?いつも少ないだろう?」


「……お父さんたちの食べる量が多いんだよ?」


「そうか?」


「そうだよ。」


そして今日のお父さんは、ご飯を2杯で食べるのを止めた。

理由を聞くと、僕が食べ過ぎって言ったように聞こえたらしい。

「そんなことないよ。いっぱい食べて。」って言うと追加で4杯食べた。


どうやら、会社の健康診断で体重の結果を同僚に「重い。」って言われたらしい。

もともと、お父さんは体重を気にしていた……らしい。初耳だ。

更には去年の体重計を壊してしまったのも、思い出したようだ。

食事制限で痩せようか悩んでいた時に、僕の今日の一言が効いたようで……。

ごめんね。

でも、確かに150オーバーは重いかも……。あ、冗談だよ、冗談だから……。

裕也は終始笑ってたけど、僕は裕也も重い事を知ってるからね。

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