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「あ、お姉ちゃんおかえり。要お姉ちゃんもいる~。」
「奈子たん、ただいま~。おりゃ~。」
今日は奈々の枝毛処理をお願いされた。枝毛だけね。
そうして園部家に到着すると玄関でばったり奈子ちゃんに出会った。
今年で小学3年生の可愛らしい女の子。
奈々が奈子ちゃんに抱き着き、激しい頬擦りする。
姉妹仲が良くて微笑ましい。
「こんにちは、奈子ちゃん。今から散歩?」
「うん。お母さんが一人でお散歩言っても良いよって。」
「そうなんだ。もう、3年生だったかな?」
「うん。もうすぐ8歳になるよ。」
「そっか~。誕生日も近いもんね。何か食べたいお菓子とかあるかな?」
「うんとね、ケーキ!!ケーキが食べたい。」
「じゃあ、楽しみにしててね。美味しいの作るよ。」
「やった!!ありがと。要お姉ちゃん。」
「やった!!要たんのケーキだ!!」
去年は色んな種類のカットケーキを持っていったっけ?
今年はホールにでもしようかな?
「奈子たん。あたしカットしてもらうから少し待ってて。一緒に散歩行こ~。」
「うん、いいよ。」
奈々が家の中へと急いで入っていく。
「ただいま~。」と大きな声が家の中へ響いていく。
奈子ちゃんはベンにリードを取り付けて撫でまわしてる。
僕もベンを撫でまわそう。
「相変わらず懐っこいね~。よしよし。」
「要お姉ちゃんも一緒に散歩行く?」
「途中まで一緒だね。今日は帰らないといけないんだ。」
「そっかー。今度は行こーね。約束だよ?」
「うん。やくっぷ……」
ベンが僕の口を舐めまわしてきた。過激な愛情表現。
ベロベロと舐めまわされる。止めて、僕は唇が敏感なんだよ……。
「ぷふっ。うわっぷ……。」
「あははは。ベン、駄目だよ。」
奈子ちゃんが引き離してくれた。助かった。
「ありがと。」っと奈子ちゃんにお礼を言っておく。
備え付けられている水道で顔を洗う。ベタベタだよ……。
「ベンって、要お姉ちゃんの事大好きだよね~。何でかな?」
「わかんない。特に何もしてないんだけどね。」
ベンは奈子ちゃんの顔に鼻先をすりすりしている。
人懐っこくて、園部家全員大好きなベンちゃん。
僕を好いてくれるのは嬉しいんだけど、舐めるのは手だけにして欲しい……。
ハンカチで口元を拭いていると、奈々が新聞紙とポーチを持って戻ってくる。
「要たん、お願いね~。ってどうしたん?またベンにペロペロされた?」
「うん、まぁ。」
奈々は新聞紙を地面に置いてそこに座る。
ポーチを受け取り、中から鋏を取り出す。
髪を纏めていたスカーフを解き、手早く枝毛を切っていく。
「要たん、このまま整えてくれてもいいんですよ?」
「それは美容師さんにお願いしてね。ん~、こんなものかな?」
「え~、経費節約したいんだけど~。」
「専門の人にお願いしてね。僕じゃあ出来ないから。」
「要お姉ちゃん。私は要お姉ちゃんに切って欲しいよ?」
「ん?奈子ちゃんは僕で良いの?」
「うん。要お姉ちゃんにお願いする方が良いもん。」
「ありがと。でも、お母さんに聞いてみてね。」
「お母さんに?なんで?」
「お母さんはね、奈子ちゃんに綺麗になってもらいたいんだよ。それなら僕より綺麗に切ってくれる人にお願いした方がいいんだ。」
「えぇ……、お店に入るの嫌。」
「あ~。要たんも知ってるでしょ?」
「まぁ……。うん。」
2年ほど前に奈子ちゃんの悲劇があった。
っといっても、店員さんが誤って髪を切り過ぎたってだけなんだけどね。
お気に召さなかった奈子ちゃんが、お店でギャン泣きして大変だったらしい。
今は元の長さまで戻ってるけど、当時の髪はすごく短かった。可愛かったけどね。
「でも、お店に行けるようになった方が良いよね?」
「まぁね。今度連れて行く予定だけど……。素直に来てくれるか不安なんだよね~。」
「嫌。いくらお姉ちゃんと一緒でも嫌。」
「そんな事言わないでよ~。奈子ちゃんも綺麗になりたいっしょ?」
「う~ん。でも……。」
奈子ちゃんは凄い嫌そうな顔して、お座りしてるベンを抱きしめてる。
「まぁ、その、あんまり……ねぇ?奈々?」
「うん、そう……だね。お義母さんに、聞いてみる……。」
「……うん。お願いね。」
櫛で髪を梳かして毛先を確認していく。
もう大丈夫かな?後はお店に行ってもらおう。
「はい、終わり。」
「ありがと。」
「片付けるからちょっと待ってて。奈子ちゃん、ちょい待ちね。」
奈々はパパッと新聞紙を丸めて家に入っていく。
僕は奈子ちゃんの頭を撫でながら待つ。
ポケットのスマホが鳴ったので確認すると裕也からの電話だった。
「もしもし、お米来たのかな?」
「おう。もう中に入れておいたぞ。」
「ありがと。玄関に置いてあったお金渡してくれた?」
「ああ、渡したぞ。精米しなくても良いのか?」
「ありがと、まだ大丈夫だよ。」
「おう。何時に帰ってくるんだ?」
「え~と、16時過ぎかな?」
「分かった。そんくらいに買い物行くか?」
「そうしようかな。」
「おう、待っとく。」
電話が切れる。
今日の献立を頭でイメージしながら、今日買う予定の食材を思い浮かべる。
メインは鰹のたたきでいこう。
「要お姉ちゃん、大変?」
奈子ちゃんが気遣うような表情で僕を見上げてる。
妹も良いなぁって思えてしまう。
「大変じゃ無いよ。いつも楽しいよ。」
なでなでと奈子ちゃんの頭を撫でつつそう答える。本心だからね。
「お待たせ―。行こっか~。」
「お姉ちゃん遅いよ。」
「ごめ―ん。お詫びにチュウしよっか~?」
「いらなーい。」
「え~。お姉ちゃんチュウしたいんだけど~?」
「いや~。要お姉ちゃん行こ。」
リードを牽いて奈子ちゃんが外へ出ていく。
ベンも嬉しそうにトテトテと奈子ちゃんに付いて行く。
「ははっ。嫌がられちゃった~。」
「恥ずかしかっただけじゃ無いかな?」
「そうだといいな~。……要たん。」
「なに?」
「あたしって、お姉ちゃん出来てるかな?」
「急にどうしたの?」
「いやぁ……何となく、ね。」
罰が悪そうに頬を掻いている。
奈々がこんな感じになるのは、大体何かがある。
「何かあったの?」
「何も無いよ?ただ、何となくそう思っただけ。」
奈々と奈子ちゃんは血の繋がりが無い。
父親の再婚相手の連れ子が奈子ちゃんだ。
家族仲は凄く良いと、僕は思う。
「奈々。僕は奈々がしっかりできてると思うよ。それと……。」
「?」
「僕は奈々の味方だ。何時でも、頼ってね。」
「……ありがと。」
嬉しそうに笑っている。
奈々は、笑っている方が輝いて見える。
いつも笑っていて欲しい、って僕は思っているから。
「おねーちゃーん。」
遠くから奈子ちゃんの声が聞こえる。
「呼ばれてるよ、お姉ちゃん。」
「ん。よーし……。奈子たん待って~。」
大きな声を出して、僕の親友は外へと出ていく。
僕も後を付いて行こう。
何だか、妹が欲しくなるね。
外へ出て、少し先で待つ奈子ちゃんの方へ向かう。
奈々は奈子ちゃんへ抱き着いている。
奈々なりの愛情表現なんだよね。あれって。
……僕も裕也に抱き着いてみようかな?帰ったらやってみようかな。
今は女の子の身体だし、嫌がられないよね?