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「はい、次の人ー。」
体育館内は女性しかいないみたいだ。
測定者も女性だけ。花の園……かな?
「お願いします。」
「妹尾さんね。身長からね。その台に載って背筋を伸ばして顎を引いて……はい。次に行ってね。」
次は体重……の前に。
紙に161の文字が見える。
もう背は伸びないみたいだ……。
もう少しだけ身長が欲しいんだけど……。
と、どんどん計測を終わらせていく。
僕の肺活量は凄いみたいだ。
7000を軽く超えた。
計測してる人が驚いてた。僕もその人を見て驚いて途中で止めてしまった、ので再測定。
再び高い数値に故障では無かった模様。
「要たんゴイスー!!」
「死語!?奈々、どこでそんな言葉覚えたの?」
出席番号が連番なので後ろには奈々がいる。
真由美は少し前で周りのクラスメイトと和気あいあいと話している。
コミュ力凄い。真似は出来ないけど、見習いたい……。
「妹尾さんって何か運動部に入ってたの?」
僕の前、清水さんが話しかけてくれた……。
と、友達を増やせるチャンスかな!?
「ぇえっと……何も部活には、入ってなかった……かな。」
だめだ。こう……だめだ。
人見知りが発動してしまう……。
「そうなんだ。あの肺活量って化け物みたいだったけど。」
「ば、化け物……。」
「あ、ごめん。良い意味での誉め言葉のつもりだったの。」
「あ、うん。ありがと?」
「どういたしまして?」
「清水さんが要たんで遊んでる~。」
「え!?違うよ!?」
化け物か~。う~ん。
っと、次は胸囲測定と腹囲測定か。
パーテーションが一際多い。
中には一人ずつ入ってる。
「要たん、今回は負けないよ。」
奈々が腰に手を当てて胸を張り、僕を牽制(?)している。
えっと……。勝負してるつもりはないんだけど……。
「頑張ってね?」
「……要たん、今のブラカップは?」
「え?Gだよ?」
「一緒か~。うーん。多分勝ってると思うんだけど……不安になってきた。」
「僕は勝負はしてないんだけど……。」
「くっ……これが強者の器か……。」
「嫌味に聞こえないのが何とも……。」
変な声が混じって聞こえる。
ひそひそと話すの止めてよ……。なんだか辛い……。
「妹尾さーん。次―。」
「あ、はい。」
終わったであろう清水さんに声を掛けられパーテーションをくぐる。
結構広くスペースを取ってるみたい。
「このかごに着てる物入れてね。」
「はい。」
言われた通りに脱いでいく。ブラは着けたままで良いから楽だね。
脇の下からメジャーを通して、胸と腰を測ってもらう。
「……凄いわね。いや、本当に。うっすら腹筋も割れてるし……。」
「ど、どうも……。」
何と答えて良いのか分からない……。
「嫉妬しちゃうプロポーションね。世の男子が放っておかないわよ?」
「は……ははっ。」
答え辛いこと言わないでよ……。
今すっごい苦笑いしてると思う。
服を着直して記入してもらった紙を受け取る。
「次の人を呼んでくれない?そしたら次の握力検査の方に行ってね。」
「分かりました。奈々。」
「あいあいあいあい。どうだった!?」
「それは後で先に入って。」
「おっしゃ!!」
気合を入れて奈々がパーテーション内に入っていく。
何故気合を入れるんだ?
「握力か~。どれくらいあるんだろ?」
するすると残りの測定もこなし、奈々が追いついてくる。
「要たん、要たん。勝負!!」
「何を?」
「まず身長!!」
「161.0」
「勝った!!0.3勝った!!
「うっ。」
奈々の身長が伸びてる……。
去年は同じだったのに……。
でも、身長は起きてる時間ごとに縮むって言うし。
僕は5時起きだし。奈々は8時付近だし。
うん。そうだ。きっとその時間の差の分なんだ……。
そう、思うようにしよう……。
「体重は~いいや。座高……。」
「僕は49キロだよ?奈々は?」
奈々の気にしている所を突いて行こう!!
「……要たん。嫌われるよ?」
「…………。」
真面目なトーンで返される。
女性に聞いてはいけないワードってのは、分かってる。
けど、僕は身長がコンプレックスなんだよ……。
仕返ししたいじゃないか……。
「最後の勝負!!」
基本的に奈々が勝てそうな項目ばかり選んできてた。
ちょっと酷くないかな?
「……胸囲ですかね?」
僕のなけなしのプライドをここまで傷付けられたら、敬語にもなっちゃうよ。
「ふふーん。あたしは101です。」
なんで奈々も敬語になるのかな?
「あ、はい。102です。」
「…………なんで?」
「さぁ?」
こればっかりは分からないよ。
僕は、毎日走ってるのに小さくならない。
「胸は脂肪の塊なんだ!!」って誰かが言ってて、運動してる分小さくなるかなって思ってたんだけど……。
ブラカップはGなんだけど、最近小さくて無理に詰めてる。
おかげで脇が痛くて、今週末にでも買いに行こうと思ってた。
沈黙してた奈々が起動した。いきなり僕の胸を鷲掴みにしてくる。
「痛いよ。」
「小さくしてあげてるんだよ~?」
「痛いから止めて欲しいんだけど?」
「大丈夫大丈夫。」
可愛らしい笑顔に影がね、見える見える。
流石に痛いので引っぺがす。
膨れた頬がもうね。押したくなる。
「ぷぅ。」
「戻ろう。松田先生も待ってるよ。」
先に戻ってるクラスメイトが記入された紙を松田先生に手渡している。
むくれた奈々を連れて松田先生の方へ向かう。
「松田先生。」
「はい。お疲れ様です。えぇと、妹尾さんと園部さんですね。」
「はい。そうです。」
「その、園部さんはどうしたんでしょうか?」
「気難しい年ごろなんですよ。きっと。」
「そうなのですか?少し怒っているように見えますけど……。」
「先生は……要たんのおっぱいとあたしのおっぱい、どっちが大きいと思います?」
何を聞いてるの?
「え?ええと……。」
案の定、松田先生は困った様子になった。そりゃそうだろうね。
松田先生の視線が少し痛いけど……。
なんとか奈々を選んで、って視線で訴える。
察してくれたかな?
「その……園部さん……かしら?」
「本当ですか!?」
よっしゃ!!って言いながら更衣室へ向かう奈々。
両手を高々と突上げて歩いていく。気難しいね……。
「「…………。」」
何とも言えない雰囲気になってしまった。何だろう……これ……。
「その、ごめんなさいね。」
急に松田先生に謝られた。
「あ、いえ。その……、すみません。」
何故か僕も謝ってしまう。ここはお礼だと思うんだよね。うん。
どうやら僕達でA組は終わりらしいので、戻ろう。
なんだか、他のクラスの生徒からの視線が痛いので帰ります。
何かを松田先生に聞こうとしてたんだけど……忘れてしまった。なんだっけ?