13
「……。」
東先生と生徒数名が教室を出ていく。
取り残された松田先生とクラスメイトたち。
HRが終わるチャイムが鳴り響く。
何を話そうか少し俯いていた松田先生が顔を上げ、教卓に立つ。
「ええと、東先生が戻られたら移動します。鞄をそのまま持って移動しても構いません。鍵付きのロッカーですので貴重品等は必ず紛失しないようにご注意ください。」
「おぉ。」
クラスメイトの誰かが感嘆の声を挙げる。
うん。公立高校でも充実した設備があるんだね。
「繰り返しになりますが、午前中に身体測定。午後からはクラス内を含む各活動の代表者を選びます。クラス委員とかですね。ええと……。」
松田先生が右手を顎に当てて少し俯く。
「何か質問等ありますでしょうか?」
手を挙げる生徒が結構いて、松田先生が戸惑っている。
席順は出席番号通りなので、出席簿を確認している。
「では、出席番号19番の根川くん。」
「松田先生は彼氏いますか?」
どっと笑い声がする。
多分、美人な若い先生には誰しも聞きたい事だと思う。
因みに、女性陣の反応はいまいちだよ。
「根川くん。仮にも今は授業中です。必要な事を質問してください。」
根川くんは怒られた。
「すいません。」と小さく発して席に座る。
女性陣からは受けているよ。
松田先生の咳払い1つでガヤついていた教室内は静かになる。
「他に質問はありますか?」
明らかに数が減っている、というかほとんど挙がっていない。
「では出席番号28番の武藤さん。」
「身体測定って体育館で全部済みますか?」
「はい、済みますよ。」
「あと、ロッカーってどんな感じなんですか?」
「そうですね……。旅館とか温泉とかで見る鍵の付いたロッカーです。」
「あ、なるほど~。分かりました。」
これは有用な情報だね。
ここ、私立じゃないよね?
「私も聞いた話になるのですが、何年か前に盗難事件が発生して設置されたんですよ。ですので、壊さないように注意してくださいね。高かったそうです。」
「「「はーい。」」」
「他に何か……。」
松田先生が何か言う前に扉が開く。
東先生たちが帰ってきた。
「お待たせ~。いや~、他のクラスは元気いっぱいだね~。」
からからと笑って入ってくる。
「松っちゃん。今何してるの?」
「質疑応答です。」
「ソモサン!!って感じ?」
「説破、違います。」
「もう少し柔軟にしてみると良いよ。硬いだけじゃ自分も生徒も苦しくなっちゃうしね。」
「東先生。教師は誠実で無いといけませんし、学校は教育の場ですよ?互いの距離感は必要になります。」
「お、おう。反論されるとは思わなんだ……。まぁ、メリハリをつけるのじゃ。ほいじゃ行くぞ皆の衆。うちが一番最初に動かんとB組もC組も動けんしな。出席番号順で行くぞ!!」
東先生が外に出て、1番の合場くんから続々と教室を出ていく。
誤魔化した感が否めないなぁ。
松田先生がジト目で東先生を見ていたし……。
というわけで、体育館の更衣室に到着。
1列で30個くらい縦長のロッカーが配置されている。
背後にはスペースがあって背もたれの無い椅子がいくつかある。
「この列のロッカーを使用してください。鍵の紛失が無いようにお願いします。」
「わ、汗のにおいがする……。」
「せんせー。中にゴミある……。」
各所で問題があるようだ。
汗は仕方ないとしても、ゴミって……。
「真由美ん、要たん、早く着替えちゃお!!」
「そうだね。って、奈々……。躊躇なく脱ぐね。」
「ん?女子同士じゃん?」
「まぁ、そうだけど……」
「要は恥ずかしがりすぎでしょ。いい加減慣れなさいよ。」
「まぁ、うん……。」
「そーそー。もうトイレで着替えなんてさせないぜ!!」
中学時代はトイレで着替えをしていた。
小学校時代の僕を知っている同級生が多数いて気味悪がられてたし。
王院高校は偏差値が結構高めなので、春西中学の出身は少ない。
「そもそも。そんな物騒なものぶら下げてるんだから、逆に要の方が恥ずかしいのかしら?」
「それは無いよ。ただ……見る方がちょっと、目のやり場に困るというか……。」
「はいはい。どうでもいいから早く着替えなさいよ。」
「あたしはもう終わったよ?」
「早いね……。」
諦めて鞄からズボンを取り出す。
スカートの中から履いてスカートを取る。
「要たん。そこはパンツ全開にしないの?」
「しないよ。何言ってるの?」
ブレザーとシャツを脱ぎ、鞄から体操服を取り出す。
「…………でかっ。」
「えっ?着痩せするタイプ?」
「腰細ッ!」
真由美や奈々とは別の方向から声が聞こえる。
声に出さないでよ。こっちが恥ずかしいよ……。
「要、痩せた?」
「ん?どうだろう。最近計ってないよ。体重計壊れちゃったし……。」
体操着を着て、上着を羽織る。
ワンサイズ上を買ってるけど、胸の下の部分でファスナーが止まってしまった。
「やばっ、何あれ?」
「うっそ。漫画みたい……。」
恥ずかしい……。
「体重計が壊れるって、裕たんが壊したの?」
「有り得る。でも、私はおじさんの可能性に一票。」
何とか胸を押し込んでファスナーを上げようと努力する。
真由美と奈々は平常通りで、何だか癒される……。
「お父さんだよ。真由美の勝ち。」
「ええ……。何キロあるのよ……って、あの巨体だしね。」
「100オーバーは確実にあるよね~。」
「まあね。裕也はまだ100以内らしいよ。」
苦戦の末、ファスナーを全部閉めれた。けど……。
「そっちの方が何かエロい。」
「体の線が胸に全部持っていかれてるわね……。」
「酷評ありがとう。……交換できるかな。」
「あたしみたいに3つ上にしとくべきだったね。」
「奈々。袖が余りまくってるよ?」
「えーと、なんだっけ。なんちゃら袖!!」
「あ~。なんだっけ?」
「さー?とりあえずあたしの着てみなよ。」
「ありがと。……これくらいなら楽だね。」
「そうしよーよ。……小さいね。」
「うん。そうする。はい、ありがとうね。」
「うむ、くるしゅうない。はい、これ。」
互いに上着を渡し合い、また着込む。
取り合えずお腹の位置でファスナーを留めておく。
「……どう足掻いてもエッチぃわね。」
真由美の酷評は聞かなかったことにする。
現状、足掻きようがないんだけど……。