12
下駄箱で靴を履き替えたいんだけど、親友ズが離してくれない。
真由美は左腕にくっ付いて離れてくれない。
奈々は右腕に絡みついている。
ハッキリ言いたい。目立つからやめて欲しい。
「離れてくれないかな?履き替えられないんだけど?」
「ゆ、許してくれるなら……。」
「ごめん。ごめんってば……。」
幸は既に上履きに履き替えて廊下で立っている。
助けてって目線を送るけど、首を振って断られる。
このままだと変な噂でも立ちそうだね……。
「じゃあ、後日にチャンスを設けます。それにクリアしてね?」
「……チャンス?」
「クリアって?」
「これから考えるよ。それまではいつも通りに過ごそうか。」
「それってさ。クリアできなかったら……要たん怒る?」
「どうだろうか?怒るのは好きじゃないし、疲れるから何日も続かないよね。」
僕の言葉で奈々は右腕を離してくれた。
だけどまだ左腕は解放されない。
右手も空いたし、上履きへ履き替える。
屈んだ時に、真由美の長い髪が顔にかかってくすぐったい。
「言質が欲しい……。」
幼馴染だけあって、やっぱり僕の事を解っているみたいだ。
奈々は履き替えながら不思議そうな顔をしている。
「言葉通りなら、許すって一言も言ってないしさ……。」
「そうだね。言ってないよ。」
返答した瞬間にまた右腕が摑まれる。
「両手に花って状態は僕以外にしてあげたほうが良いよ?そこに両手の空いている彼とかどうかな?」
僕は幸を見ながら意味の無い事を言ってみる。
幸は満更でも無さそうには……していない。嫌そうな顔をしている。
もう面倒なんだよ。朝から疲れるなぁ。
「早く教室に行かないか?ほら、時間も時間だし。」
「そうだよ。幸の言う通りだ。」
ジト目で僕を見続ける真由美。
少し泣きそうにしている奈々。
「真由美も早く履き替えたら?」
「ぐぅ……。」
やっと左腕を離してくれた。
「要たん、要たん。お願い許してぇ。」
「頑張ってチャンスを掴んでね?それと、早く教室に行こうか。寝癖あるから。」
「え!?マジ!?」
「あ~、確かにあるわね。」
「まだ時間あるし、教室で梳いてあげるから。」
「わ~い。じゃあじゃあ髪型もセットして~。」
「簡単なのしかしないよ?」
やっと解放された。
幸、空気になり過ぎじゃ無いかな?
後、その表情は止めて欲しい。微笑ましいって思ってそうで何だか嫌だ。
奈々が鞄の中からブラシと櫛を取り出して僕に渡してくる。
中学校の頃からオシャレ道具を学校に持ってきている。
化粧品関係も持ってきてるけど、重くないのかな?
「要たんよろしく!!」
「はいはい。ドライヤーが無いから梳かして纏めるくらいにするよ?」
「うん。どんな感じにするの~?」
「ん?適当にしようかな。」
「え~。」
毛先から昇っていくように櫛とブラシを使い分けながら梳いていく。
奈々の髪質はちょっと癖のある柔らかい髪だから力加減が大変だ。
髪を纏めている時に奈々が大きめクリップを渡してくる。
受け取って髪を挟み留める。
「もうこれでいい?」
「いやいやいや。もう少し頑張ろ~よ~。」
スカーフを使ってなるべく綺麗に纏めていく。
「この前みたいに凝った感じがいいな~。」
「残念。もう時間だよ。後、枝毛が少しあるから早めに対処した方が良いよ?」
「え!?マジマジ?」
「まじまじだよ。」
自分の席に座る。今日は身体測定だったね。
「要たん切って~。」
「専門の人にやってもらった方が良いよ。お金は惜しむなかれ。」
「え~。」
奈々がむくれていると予鈴のチャイムが鳴る。
教室内では話し声はあるがみんな席に着いている。
優秀な生徒が多いようだね。
「要たん。身体測定って何するの?」
「さぁ?身長体重なんたらかんたら~じゃ無いかな?」
「なんたらかんたら~が分かんないんだけど?」
「僕も分からない。」
「む~。あ、中学の時みたいに勝負しよっか?」
「何を……って、嫌だよ?」
「え~。なんで~?今どっこいどっこいでしょ?」
「まぁ、そうだけど……。」
「何の勝負?」
隣の席から声を掛けられる。
昨日、弟君の弱みを握りたがっていた小野田さんだ。
「あ~とね。「バストサイズ勝負。」……。」
「あ、うん。」
小野田さんの視線が僕と奈々の胸部を交互に見る。
「この前買い物行ったときに測ったけど、多分勝ってると思うし。」
うん、まぁ。その大きな胸を張って言わなくても良いんだよ?
後、もう少しボリューム落としてもらって良いかな?
結構な人がこっち見てるんだよ。視線が痛いんだよ……。
「あ~、その……。おっきいもんね。二人とも……。」
「最初は要たんの方が大きかったんだけどね。去年あたりから巻き返してきたんだ~。」
「あ、うん。」
「奈々。もう喋らないでね?先生たち来たよ。」
「あいあい。」
何だか昨日よりきっちりしたような東先生と変わらずきっちりしてる松田先生がいる。
チャイムもタイミングよくなったので朝のHRだ。
「はい。おはよう。」
「「「お早う御座います。」」」
「元気が合って良いぞ!!ほんじゃあ出席~はいっか。埋まってるし。」
「東先生……。」
「まぁまぁ。こう見えて顔と名前覚えるの得意なんだよね~。」
「…………。」
松田先生が東先生をじっと見てるけど何処吹く風。
「今日は身体測定なんだけどね。当たり前だけど男子女子に分かれてするよ。松田先生、説明お願いね。」
「はい。男子生徒は武闘館、女子生徒は体育館になります。女子生徒は仕切り……パーテーションがちゃんと配置されていますのでご安心を。3クラス合同で行います。あまり喋らず、スムーズに動いてもらうようお願いします。」
そう言って松田先生は書類を配っていく。
片面ずつ男子女子と説明が書かれた書類だ。
身長、体重、胸囲、腹囲、肺活量や握力等々。
結構な項目の数だ。色々しなきゃいけないんだね……。
「10時開始ですので、東先生が男子更衣室、私が女子更衣室へ案内します。説明は追って致します。ここまでで、何か質問等御座いますか?」
「はーい。」
「はい、咲ちゃん。」
手を挙げたクラスメイト。ごめん、まだ全員覚えてないや。
でも、東先生は本当に覚えているみたい。淀みも無く名前を呼んでる。
「体育館用のシューズとかも要ります?」
「持ち物に関してはそうですね。体操服とシューズが必要になります。もし忘れてしまった生徒は手を挙げてください。」
何人かが手を挙げる。
「ん~。合場くん、園部さん、水谷さん、八木くんは~事務所行こっか~。着いてきなさい。松っちゃん、何かで繋いどいて~。」
「え?繋ぐ?」
東先生を筆頭にクラスメイトが出ていく。
残された松田先生は少し慌てている感じだ。
というか、奈々……忘れてたんだ。朝にあんなことしなければいいのに……。
幸先が不安だね。本当に……。