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どうやらハンバーグ及び鶏のもも肉は好評だった。
良かった良かった。
「今日、何かの記念日だったか?」
と、聞かれた時は焦った。
咄嗟に裕也が話題を逸らしてくれなかったら悲惨な目に合う所だった。
裕也が……。
「お、お父さん。明日はビフテキなんてどうかな?」
「ん?良いな。久しぶりに食べたい。お代わりを貰えるか?」
「う、うん。美味しく作ってみるね。」
お父さんから空の茶碗を受け取り並々とご飯をよそう。
「あ、俺も。」
お父さんに茶碗を渡し、裕也から空の茶碗を受け取る。
裕也は大盛り。育ち盛りだね。僕に身長を分けて欲しいよ。
「はい。これくらいで良い?」
「おう。」
「ところで……「え、あ、忘れてた。明日新鮮な鰹が手に入るんだけど……。」たたきで。」
露骨な話題逸らしだと、誰でもわかるくらい不自然だった。
そんな目で見ないでよ……。自分でも分かってるよ……。
声が裏返りました~。すいません~。
「ふむ、隠し事は良くないと思うが……。言いたくないのであれば無理に言わなくていい。」
「え、あの……ごめんなさい。」
ふぅ、とお父さんがため息を一つ吐く。
「私としては、事前に言ってもらいたいものだがね。」
「…………。」
お父さんに隠し事はしたくないけど……。
嘘は、もっとつきたくないし……。
裕也も食べる手を止めてまで、お父さんの話を聞いている。
「出来れば、言ってみたい一言でもあるんだ。」
「……どんな、一言?」
普段寡黙なお父さんが言ってみたい事って……何だろ?
裕也も不思議そうな表情だ。多分、僕もそうなってると思う。
「お前のような奴に要は渡さん。っと……。」
真剣に聞いてしまった僕が、馬鹿だった……。
「あの、お父さん?」
「ん?彼氏が出来たら……いの一番にここに連れてきなさい。私が見極めよう。」
「何を!?っていうか、お父さん。僕にはまだ早いよ!?」
「ん?では裕也の彼女の方が早いのか?」
「ゴフッ!?」
丁度、お味噌汁を飲んでた裕也が咽る。
あ~あ~、痛そう……。お水とかならまだましだけど……。
「ん゛ん゛!!あのなぁ、そんな奴いねぇよ!!」
「ん?そうなのか……。」
お父さんが、少し悲しそうな表情を見せる。
裕也はまだ痛そうに咳込んでる。どんまい。
「まぁ、あれだ。待ってるぞ?」
「う、うん……。」
「……ん゛ふん。いってぇ……。」
何だか変な雰囲気なった。
楽しい食事時間の筈なのにね……。
「要。」
「ん?なに?」
「気になっている異性はいるのかい?」
「ん゛ん゛!?」
裕也が酷く反応している。
え?どうしたの?
というか、お父さんの表情が凄く真剣なように見える。
鶏肉を野生児みたいに齧り付き始めたから、気のせいだった。
「いないよ。」
僕が答えた時、裕也は安堵したような表情だった。
「そうか……。裕也はどうなんだ?」
「ん゛!?」
お父さんの標的が裕也になった。
なんだか、少しワクワクしているような気がする。
大きい筈のハンバーグを二口で食べちゃった……。
お父さんに真剣なお悩み相談は向いていないと、確信した。
今度はお水で咽た裕也は、鼻から水が流れてきていた。
「はい、ティッシュ。」
「ん。」
「器用に咽るね。」
「ヴ、うるへぇ。」
「で?どうなんだ?」
「いねぇよ。」
「残念だ。」
「本当にそう思ってんのかよ……。」
「思っているぞ。」
「そう見えないよ。お父さん。」
「そうか?」
「そうだよ。」
「そうか……。」
表情筋が死んでいるのかな?ピクリとも動いていない。
顎に手を当てて何か考えているけど……今日はどうしたんだろ?
「あの~。お父さん?」
「ん?」
「会社で何か言われたの?」
「ああ。正確には私が訊ねた……だがね。」
「何言ったんだよ。」
お父さんはご飯を食べ終えてから話し始める。
その間は沈黙だった。何なんだろうこの間……。
「年頃の子供たちには何を聞けばよいのか……とね。妻子持ちの男性社員に聞いてみたんだ。」
「ふんふん。」
「集計結果。交際関係が一番多くてな。その辺りを聞けば無難なのだと思ってね。」
「……聞きてぇことが有るんだが。いいか?」
「言ってみなさい。」
「その男性社員って、何歳くらいの子供がいるんだ?」
「ふむ……。大半は一桁台だったはずだが……。」
「重ねて聞くぜ。俺たちは何歳だ?」
「要は15歳。裕也は14歳だ。」
「馬鹿だろ!?聞く奴を間違えてんじゃねぇか!!」
「否定、できないね……。」
「そうだったか……。すまない。」
目に見えてお父さんが落ち込んでる……。
ガチ凹みしてる……。
何とかフォローしないと……。
「せめて聞くなら、俺らと同じ年代か、若手の話を聞いた方が良いと思うぜ。」
「そうだね。家庭環境は多々あれど、同じ年代は似たような悩みを持ってると思うから……。」
「ふむ、なるほど。であれば直接聞こう。」
「であればの使い方間違ってねぇか?」
「うん……。それと、会話の流れも間違えてる。」
「?」
「あのな。まぁ、直接聞こうと思う事は間違いじゃねぇと思う。ただな、自分で言うのも何だがな、俺たちは多感な年頃だと思うんだよ。」
「ふむ。」
「それでな?自分でも判断つかねぇ、ましてや誰かに聞く・聞かれるなんてご法度な悩みを抱えてると思うんだよ。プライドを傷つけないためにな。」
「それで?」
「触れられたくねぇデリケートな問題を抱えてるんだよ。時間が解消するか、手前で折り合いつけるか、腹括るか、解消方法はそれぞれだがな。」
「ほう。」
「……そういう年頃の感性が親父には無かったのか?」
「無いな。」
「だからか……。」
「あぁ~なるほどね。」
「?」
「逆に聞こうか。お父さんはお母さんとさ、どうやって付き合って結婚したの?」
「ん、涼子とか?私が拉致されるような形で、言われるまま婚姻届けにサインしていたな。」
「「…………。」」
「出会ってから二日目くらいだったか……。宿泊ホテルに連行されそのままベッドに「もういいから!!」……まだ続きがあるんだが……。」
「聞きたくなかった……。」
「あぁ……。逆かよ……。」
「ん?確かにプロポーズは涼子からだったな。お前を手に入れる、と。」
「「……。」」
「二人とも、どうした?」
「お父さん。お茶いる?」
「貰おう。冷たい方で。」
「裕也は?」
「冷たい方くれ。」
重い足取りで移動し、冷蔵庫から麦茶を取りだしてきて、二人の茶碗に麦茶を注ぐ。
居たたれない気持ちと、何だか裏切られたような変な気持ちが、こう……なんていうのかな。
自分の茶碗にも麦茶を注ぎ、喉を潤す様に一気に流し込む。
「俺さ、とりあえず今年一年、勉強頑張るわ。」
「うん。頑張ってね。分からないとことか、いつでも聞いてね。」
「受験が有るからな。進みたい道を選びなさい。」
少し間が空いて……。
「僕は、友達を一人でも多く増やせるように頑張るよ。」
「おう。兄貴なら出来るって。自信持てよ。」
「ああ。コミュニケーションはしっかりとれるんだ。対応さえ間違えなければ問題無い筈だ。」
また、少しの間が空く。凄く、静かな時間が流れる。
お父さんの、お茶を飲みこむ音だけが聞こえる。
「ああ……満足だ。風呂に入る。」
「いってらっしゃい。お湯の線は抜かないでね。」
「分かった。」
お風呂場へ向かうお父さんの背中を見送る。
僕と裕也は目を合わせた後、しばらく動けなかった……。




