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今日のお父さんは19時前に帰宅予定。
現在14時を回った所。鰹の為に、ちゃちゃっと終わらそう。
……もう終わっちゃった。どうしよ……。
洗濯は走った後で~、掃除は今日は……いいかな?
お風呂も浴室は磨いたし、お湯を張るだけ。
ゴミは明後日だし。う~ん。今から走ろうかな?
そう言えば、奈々が後で来るって言ってたけど、来るのかな?
16時前でまだ日は高いし……宿題とかも無いし……。
走ろう。
自室へ戻り服を着替える。
今まで制服で動いていたのに失念する。ありゃりゃ、汚れてないよね?
前後ろ良し。匂いは……大丈夫。洗おっかな……。
制服とスカートをハンガーに掛けて吊るし、ジャージを取り出す。
おっと、スポーツブラをっと……。きっつい。
でも仕方ないよね。また、大きくなったのかもしれない……。
いや、多分なってる。
えぇ、有名メーカー品でちょっと高いんだよ……。
買い直すの嫌だな~。
無理やり押し込んで~、良し。
シャツを着てジャージを着こみ完了。
腕時計を左手に巻き、リビングでストレッチ―……の前に。
ゴンゴンっと裕也の部屋をノックする。
中から「あ~。」と気怠げな声がする。
「裕也~。僕ランニングに行ってくるからね~。」
「お~。」と更なる気怠げな声が帰ってくる。
真由美なら問答無用で扉を開けるだろう。
奈々なら思いっきりノックしつつ豪快に開けるだろう。
幸は……分かんない。多分、気を遣うかもしれない。ちらって覗く感じ。
僕は空けない。プライベートは大事にね。しないとね。うん……。
昨日の……嘆く弟を思い出し、その場を後にする。
ストレッチは入念に。怪我防止のために。
開脚も平気で出来る。何年も毎日やってるとこうなった。
ただまぁ……胸が邪魔だ。本当に……。
男だったらって思う事も、少なからずある。
未練たらたらだ。
お気に入りのランニングシューズを履き、外へ出る。
時刻は午後16時を過ぎた。
お風呂込みで……二時間走ろうかな。
「よーし。今日はどっち方面に行こうかな~。」
アキレス腱を伸ばしつつ、昨日は北だったな~と思い出したので。
「今日は南に行こう。」
体感3割ほどでアップ、を20分。
それを過ぎると徐々にペースアップしていく。
4割5割とスピードを上げていき、いつもの8割までペースアップする。
何キロ走った、んじゃなくて、何時間で走ってる。
走る度に胸が揺れ動くが、途中から気にならないくらい集中し始める。
ランナーズハイってやつなのかな?分からないけど。
自分の息遣いと、周りが若干スローペースに見える。
走って走って、田んぼが広く見える道路を抜け、山道のアップダウンが始まる。
(二時間だから、貯め池を過ぎたくらいでUターンしよう。)
走っていく。そして坂道の途中で、何人かの同士を抜かしていく。
同じようにランニングをしている人たちだろう。
横目で見たけど、若く見えた。高校生か大学生くらいかな?
後ろから追いかけられる感覚がある。
(あれ?追いついて来てる感じ?何か言ってる気がする。まぁ、良いかな……。)
登り坂も下り坂も、ペースは落とさない。
少しの時間走った位で後ろから気配は消えていた。
ペースは守ろう。
目的地までもう少しというところで、タイマーが半分切ったことを腕時計が知らせてくれる。
(行けると思ったんだけど……。)
このままのペースだと少し遅れてしまう。
(調理時間が無くなってしまう……。)
目的地の貯め池でUターンし、ペースをほんの少し上げてみる。
(これくらいならまだ走れる。)
道路の反対車線をしばらく走っていると、先程の同志たちが戻っている。
(この辺りに何か引き返す目印でもあったかな?)
僕が走って去る後ろから、同じような声が聞こえた。
「走れ走れ!!サッカー部は体力が命だ!!負けるな!!」
「「「うっす!!!」」」
サッカー部だった。陸上部かと思ってた。
(負けるなって言葉。良い響きだね。)
何人かは全力で走ってきたみたい。僕の側面まで来てる。
(足早いね。凄いや。)
横目で確認すると、凄い形相だった。必死の形相。
「負けてなるものか!!」って声が聞こえるみたいに。
数歩走って、一番先頭の人と目が合った。
(僕も負けないよ!!)
少し笑って、ちょっとの間だけ全力で走ってみる。
呼吸が凄く乱れる。しんどくて苦しい。けど、何故か負けたくない。
先頭を頑張って走っていた人はもういない。見えない。
(もう少しだけ、このまま走ろう。)
気付けば、田んぼの道路まで来ていた。
それに気づいて、ペースを戻す。
呼吸がし辛くて、顎が少し上向いてしまう。
ふぅ、ふぅって無理矢理戻そうとするけど……きっついなぁ。
知らず知らずでペースがガクッと落ちてしまう。
体感何割なのかもわからないくらい、疲れている。
(うわぁ、うわぁ。)
心の中では何を言ってるのか分からない状態だ。
久しぶりの感覚に、ちょっと吃驚。
(ペースを、守らなかった、ツケが回ってきた。)
ゼェゼェって呼吸音がヤバい。
(これ駄目だ。歩こう。)
歩こうと思ったけど……膝に手をついて止まってしまった。
(あぁぁぁ……。)
この日、久しぶりに完走できなかった。
(家までもうちょっとで……、時間は……?)
汗が目に入って沁みる……。指先で軽く拭いながら時計を確認する。
時間は17時半を過ぎたくらい。大分と、時間を短縮した。
(でも、これじゃあね……。)
腰に手を当てて、ゆっくり歩き始める。
(キツイ~。維持張らなきゃよかった……。)
呼吸を落ち着かせながらゆっくりゆっくり歩く。
しばらく歩くとある程度まで回復した。
(けど、今日はこのままクールダウンにしよう。)
足に筋肉痛がキテいる。全力でどれくらい走ったのか分からない。
(痛いな~。明日何測定だっけ?運動だったかな~?)
やってしまった、と少しだけ後悔している。けど……。
(あ~。楽しかった~。)
僕は走るのが好きだ。小さい頃から。
その気持ちは、この女性の身体に変わっても、変わらなかった。
ただ、ただ一つだけ言いたい事。
「ペース守ろ~。」
と声に出して再確認した。完走しないと……ね。
18時までには帰れました。
ストレッチをしてお風呂に入ってる最中にお父さん帰宅。
ちょっと帰宅早くないですか?お父さん……。