第1.2幕「学校初日」
宗斗は今日から始まる授業に遅れずに起きて共通学食で朝食をとっているのだが、周りからの視線がかなり突き刺さり落ち着いていない。それは向かい合って座っている英二も同じことが言えるだろう。
「やっぱり昨日のことで注目されているのかな。少しは自分たちの朝食に集中したらいいのに。俺たちは動物園の見世物じゃないぞ。」
「そうは言っても好奇心には人間は勝てないものだ。気にしないでいいだろう。」
英二は気にはなっていないらしい。そう言って朝からから揚げ定食をバクバクとほおばっていく。それを見ると気にするのが馬鹿らしくなってきたので宗斗も朝食セット1の味噌汁を飲んで落ち着いてから食べていく。
家の味噌汁以外は飲めそうにないと思ったのだが普通に飲むことができる。これなら自炊が男料理である俺でも大丈夫だ、と宗斗は思った。
修行の一環で料理もやらされたのだがあまり上達がせず毎日自分がつくった料理を食べたいとは思わないぐらいだから少し安心している。健康的な学生生活を送ることが出来る。
「早く食べて準備をしないとね。今日は初日だから遅刻すると今度こそやばいかもしれないし。」
「それはそうだ。めんどくさいが早く食べ終わるかな。」
宗斗の言葉を深く理解し英二も早く食べていく。
2人は早々に朝食を済ませて自室に戻る。
今の時代は、学校から支給されたタブレットや携帯端末だけで準備が終わる。携帯端末を席の端末と接続をして同期をすることで出席や授業で使う資料のダウンロードしたりタブレットで課題を行い提出をすることが出来るデジタル授業である。
なのでそれらを鞄に入れ、タオルなどを入れるだけで準備は完了。
それを背中に背負って部屋を出る。鍵を閉め忘れてしばらく歩いたところで引き返す。
第二共通棟へとゆっくりと歩いていく。時間はまだ8時ちょうどであり朝礼があるのが8時30分であるので十分余裕がある。しかし、ここでコンビニなどに寄ってしまうと時間を忘れてしまう。なので誘惑に負けずに教室の方に向かっていく。
「ああ、家ではジュースとかをあまり食べることが出来なかったから食べたくなるんだよな。放課後に行こうと。」
またしばらく歩いていくと自販機が大量に並んでいるところに着いた。昨日はすぐに寮に戻ったせいでじっくりと商品を見る機会がなかった。
コンビニと違ってすぐに見終わるので寄ろうと思ったら先客がいた。
髪が白銀の綺麗な色をしていて腰より上の辺りまで伸びている。その特徴的な髪色が目に入らなくなってしまうものを付けている。仮面だ。目が隠れるだけの範囲なのだがそれに絶対に目が行ってしまう。
それが逆に魅力的に思えてしまう。
「ああ、これってどう使うのかしら。」
そして、自販機の前でウロウロとして困っている。少し止まって見てみると自動販売機で飲み物の買い方がわからなくて困っているようだ。
「見ていられないな。はぁ、まず飲み物をボタンを押して選択してみろ。」
仮面の少女に近づいて購入方法を教えていく。声をかけられて少女は驚く。
「そしたらその端末の学園お財布のアプリを開いてここにタッチしな。」
「は、はい。」
彼女はお茶を選択して端末を操作をして購入をする。ゴトンと音と共に購入が完了する初めて買えたことに感動しているようだ。
「それじゃね。入学式に遅刻した俺がいうのもなんだけど、授業の最初は遅刻しないようにね。」
それだけ言って立ち去る。すると、彼女は宗斗の服のすそを掴んで止める。
「あ、ありがとう、ご、ございます。」
顔を下に背けながらお礼をした。すぐに校舎の方へと走り去っていく。
「遅刻はしなさそうだな。俺も飲み物欲しくなった。」
天然水を買って飲みながら教室に向かっていく。
四月なのかまだ天然水は冷たかった。
六組の教室は閉まっていた。自動ドアと手動ドアの2つの機能を持ち合わせており、自動でドアが開いている最中でも普通に開けることができ、開いた状態がしばらく続くと自動的に閉まるようになっている。これは当番の先生がいちいち教室を閉めたり開けたりする作業が一括でできるようになった優れものである。
「さすがに、開いているよな。」
昨日は早くに教室に到着して鍵すら開いていなかったので少し警戒をしている。ドアに近づきすぎて開く。
中には半数近くの人がもうすでについていた。席についている人から、もうすでに友達を作って会話をしている人。新たにやってきた自分たちのクラスメイトを確認するために会話を中断してまで宗斗を見る。すると、反応は悪い方ではなかった。
「藍田宗斗だ。佐藤英二もこのクラスにいてすごいぞ。かなり、強いのでは!?」
「わたくしと同じクラスとは運のいいこと。1年の最強クラスは6組で決まりですわね。」
「、、、写真映え、、、、、。」
「今期の同人誌のタイトルは決まりね。」
と喜ばれているようだ。後ろ2人は思ったこととは違う反応で身の危険を感じている。
「英二が同じクラスであることが知られているということはもういるのか。」
「おう、もういるぞ。席は通路を挟んで俺のとなりだ。」
英二が席に座ったまま話をかけてくる。椅子を斜めらせて危険な座り方で座りながら宗斗に向けて手を振っている。
「席ってもう決まっているんだ。」
「当たり前だろ。席が決まってた方が教師側も誰がいるか把握できるからな。」
「中学は人が少なったから自由席だったんだよ。なるほどね。」
宗斗の実家は田舎であり山や川がとてもきれいなところである。観光地にもなるようなところだが人が住むにはあまり向いていないことから子供が少ないという。
「朝礼の時間までまだあるのにみんな早くないか。暇なの。」
「殴られたいのか。俺とお前は入学式を遅刻するっていう前科があるから、早めに来たんだよ。あと、最初の日ぐらいは誰だって早く来るものだ。」
「なるほど、なるほど、暇については触れないのか。」
宗斗は荷物を机のフックにかけながら冗談をいう。そして、英二とは逆側の隣の席を確認する。この教室では机が2つで1つとなっていてとなりの席の人によっては席替えをするまで授業が億劫になることがある。
英二が話しかけてきた時には自分の隣の席に誰かが座っていることがわかっていたのだが顔を確認はしていなかった。ちらっと横の顔を見ると仮面をつけた女だった。
「さっき自動販売機にいたよね。同じクラスだったんだ。」
「(こくん)、、、。」
また顔を下に背ける。そのまま頷く。人と話すことが苦手な人なのだろう。昔の宗斗は同じように人と話すことがかなり苦手であった。しかし、環境が環境だったので次第に話すことの苦手であるのが解消されていった。
「よろしくね。しばらくは席が隣だと思うし。」
「(こくん、こくん)」
力強く頷く。
(嫌われてはいないようだからよかった。仮面をつけているのは何かわけありなのだろうね。)
その後は英二としばらく話していると続々とクラスに人が集まっていき時間が近づいていく。クラスに入ってくる人は宗斗と英二を見て驚いたり興味深そうにじろっと見たりする。彼らはそれが次第に慣れていった。
時計が8時30分になる時には誰もが席についていた。クラスにやってきた同級生は個性が強そうな人多だったのだが時間になったら席に着席はするという。誰かはまだ立っていて喋っているような光景が想像することができそうなのだがそんなことにはならなかった。
「みなさーん、時間には着席できているとは驚きましたー。第二高校の生徒としての自覚が芽生えているということですねー。」
小さな身長で喋り方が独特な女の人が教室に入ってきた。スーツを着ていることから教師であることが容易に想像できる。その後ろから山のような人が続いて入ってきた。
「大口先生、そこで止まられると私が入れないのですが。」
「あー、すみません。久々の一年生を担任をするもので見とれてましたー。」
「はいはい、担任なのですから教壇まで行って自己紹介と今日の事を伝えてください。」
「はーい。」
元気よく壇上に上がっていく。そして、手に持っていたタブレットを操作すると電子黒板に華やかな自己紹介ボードが映し出される。
「はーい、私は6組の担任である大口雪江と言います。担当は『ロード』はもちろんのことですが数学です。よろしくお願いしますー。」
大きくお辞儀をする。大口先生はそのまま壇上を降りていく。ぴょこッとうさぎのようである。
次に山のような女性が壇上に立つと更に大きくなったように思える。
「私は山田真奈美だ。『ロード』、『地理』、『世界史』を担当している。よろしく。」
そして、大口先生と入れ替わる。また、タブレットを操作をして電子黒板に何かを表示させる。
「今日はこの学校の説明を一時限目に行い、二時限目は決めなければならないことをしていくのでー、授業らしい授業はないですねー。授業は明日からとなるので油断しないでくださいねー。」
他にも出席登録の仕方を説明して先生からの資料のダウンロードの仕方などを説明をする。誰もが中学から違い高校からは端末と最新の机に備わっている機能を使って資料を使ったり課題を提出したりするようになる。
「朝礼はこれで終わりですー。十分後に授業がはじまるので気を付けてくださいー。」
朝礼が終わり数人が席を立っていく。宗斗は英二の方を向いて話しかける。
「英二は見た目は機械とか全然わからないようにしか見えないよな。ちゃんと理解できたのか?」
「そんな風に見えるのか。SNSで流行をつかもうとはしているぐらいなんだぞ。あとは歌い手のハンナさん。彼女の情報はいち早く知りたいからな。」
「おまえが歌い手とかイメージがない。なんだかおもしろいや。」
ザ、男の中の男と言われるような見た目であり大人達が生まれるずっと前の時代で「昭和の男」と呼ばれていたような風貌だからだ。朝ごはんの飲み物ではコーヒーを飲んでいた。しかもブラックでだ。今の時代ではブラックで飲む学生は少なく砂糖やミルクを入れるのが普通である。何から何までおっさん臭いように見えてしまう。
「おもしろくはない!何がイメージがないだ。ハンナさんは今人気のある学生の歌い手さんだぞ。知らないのか。」
「全く知らない。だれそれ?」
「一度は聴いてみろよ彼女の歌を。絶対にファンになる。」
「寮に戻って覚えていたら聴いてみるよ。」
英二は「トイレ」と一言だけ言って席を立ち教室を出ていった。宗斗は隣にいる仮面の少女と2人になって気まずい状況になっていた。宗斗からは話を切り出すのは年頃の男の子としては難しいことだ。彼は人と話すことは用でもなければ苦手としている。
「、、、すーっ、、、。」
先程まで英二という濃い存在と話していて途端に静かになってしまうと気まずさだけが残ってしまい何かソワソワしてしまうのだろう。故意ではなく息を吐く音が明確に出てしまう。
それを仮面の少女は見ていてついに声をかける。
「あ、あの。藍田宗斗くんですよね。私、置野恵っていいますの。」
「置野さんだね。仮面のインパクトが強すぎるから一発で覚えることができるよ。」
「仮面は私を救ってくれた人が着けていたのです。その方は誰よりも強く私に勇気を与えてくれたのです。私も彼女のようになりたいと思ってこの仮面をつけているのです。他にも理由があるのですが。」
彼女は仮面を大切そうに懐かしそうに撫でて仮面を着けている理由を話す。そして、宗斗の顔を見て尋ねてくる。
「その目と鼻。そっくりです。宗斗くん、あなたのお姉さんは藍田可憐さんではないでしょうか。あの『ロード』の世界一位の選手にそっくりなんです。」
「ああ、そうだよ。俺の姉は『勇者』の可憐だよ。あいつは世界中で色々なことをしているからな。その色々の中に置野さんを助けていたのか。」
「ええ、私は可憐さんを追いかけて『ロード』に参加することにしたのです。まさか、あの可憐さんの弟さんと同級生になることが出来たのは幸運です。」
「弟さんは止めてくれよ。俺はあの姉の弟と呼ばれるぐらいにはなってないからな。普通に宗斗でいいよ。」
置野は顔を赤色に染めながらまた頭を下げる。何度も。それを手で制して止める。
「謝る程の事でもないよ。ただ、クラスメイトにはちゃんと名前で呼んでほしんだ。それだけだよ。」
「はい、宗斗くん。これでいいでしょうか。そ、それでお姉さんのこと、ご実家でどのような感じなのかを教えていただけませんか。」
そして、授業が開始まで宗斗は姉のことを置野に話してあげた。彼女の好きそうな姉の活躍をしたエピソードを。宗斗自身、誇らしげに話すが少しだけ嫉妬を交えながら。
近未来の学校は少子化の影響を受けて寮制度が整っているところが多い。更に『ロード』が出来る設備が整っている学校は私立、国立ではほとんどであり国を挙げて取り組んでいるスポーツであることが誰でもわかり盛り上がっている。
藍田可憐とは、藍田宗斗の姉であり月刊「ロード・チャンピオン」で不定期ランキングがあり3年連続で1位を取り続けているぐらいの最強っぷり。二つ名の称号である『勇者』は数々の強敵を倒した姿からきているとのこと。更に宗斗は普通の男子高校生の顔だが(おそらく)可憐は世界的にもレベルが高い。つまりは最強の女であるということだ!!