第1.1幕「式後」
「で、遅刻した理由ていうのは立ち入り禁止である屋上に無断で入って会話に夢中で時間を忘れていたというのが理由ということかな。藍田に佐藤。」
理事長室で大きい椅子に腰をかけて立っている2人に理事長は問いかける。それを聴こえていないふりをして無視を続ける。ため息をつきながら彼女は立ち上がって2人の目の前に立つ。
「私は理由を聞きたいだけだ。壇上で遅刻のことは取り消すことを宣言した以上は取り消す。だから、取り消すにあたって遅刻の理由を知りたいだけだ。なあ。さっさと寮に戻ってくつろぎたいだろ。無視しないで話さんか。」
このやりとりを数回繰り返したとこで2人はようやく口を動かした。
「理事長の言うとおりで英二の話が面白くて屋上で時間を忘れていましたー。」
「校長の言うとおりで宗斗の話が面白くて屋上で楽しく談笑してましたよ。」
宗斗と英二はお互いにない責任を押し付けようとしている。この行動は普通に考えてめんどくさい思春期の行動だと言えるだろう。しかし、その行動にも意味があることに三人は知っていた。
「そうか、お互いにお互いが悪いと言っているが私も反省の意思がないことを理解することができた。本当ならどちらかに私からの個人的な頼みことをしてもらおうと考えていたのだがどちらかにはやめておこう。2人には後々、頼むから楽しみにしておけ。さ、帰れ。」
そう言って追い出そうとしてくる。手で。
「ふざけないでください。俺はこいつのせいで遅刻をしたって言ったんですよ。聞いてましたか。」
「個人的な頼み事を受けるなんてそんな中じゃないだろ。」
2人は揃ってそれを拒否しようとする。しかし、それを許すわけがないのがこの学校を経営している彼女だ。
「私は2人まとめて相手をして強制的に言うことを聞かすこともできるぞ。」
そう言うと理事長兼校長の周りの空気が歪んでいく。2人はこの人には敵わないと思い数歩下がる。彼らも彼らなりに強さを持っていて強さに簡単には屈したりしないのだが理事長は一つだけ次元が違う強さを持っているのを感じ取った。
「ほら、3秒以内に出て行かないと武力行使に出るぞ。3、2、、、」
「「失礼しました‼︎」」
宗斗と英二は急いで理事長室から出ていく。足跡が遠くに消えていくまで彼女はそこで立っていた。
「問題児の筆頭が入学式の日でもう決定してしまったものだな。」
再び理事長の椅子に腰をかけてパソコンを起動させて生徒ファイルを開く。そして、ため息をつく。
「あの2人が揃ってこの学校に来たのも運命なのかな『悪鬼羅刹』として恐れられた『鬼の子』と、世界最強と呼ばれる『勇者』の弟か。まるで物語上の世界がこの学校で実現していくのかな。」
2人は地元ではかなりの有名な人であった。しかし、それは羨望を集めるような光にあふれたものではなく、避けられる闇のような方でだ。喧嘩を続けてだれも挑むようなものがいなくなった孤高の虎、勇者の弟として家族では期待されるのではなく家族の問題で邪魔者扱いをされて周りに住む者からは関わるなと言われた闇の子。
「この私が手を焼くことになりそうでそれはそれは面白いのだからいいがな。楽しみだ。この学校も世界に流しれることになるのかもしれないからな。しかし、これから能力者に関してのレポートをまとめなきゃいけないのはせっかく上がっていた感情が一気に地面に叩きつけられた気分だ。」
この世界には能力者と呼ばれる人たちが極々少数で存在する。有名どころで言うと「手から火を出す」といったパイロキネシス、「壁越しに隠れているものを見ることのできる」透視能力がある。
能力の強度はかなり低くパイロキネシスは指からライター程度の火を出すことができる。透視能力は距離にして3メートルぐらいでかなり集中をして目に負担がかかるがもの一つ分だけ透視ができるというぐらい日常生活でもあまりにも使えなく悪さもできない程度だ。
しかし、これが『ロード』ないで使えるのかと言うと強力になって使用することができる。
パイロキネシスは火炎の球を手から放つことができる。透視能力は距離にして10m範囲で遠くまで透視して見ることができる。
能力者ほど、この『ロード』が似合うものはいないと言うことだ。なら、この『ロード』には能力者しかいないと言うとそうではない。アバターになったものの身体能力が非常に高く一人一人がスーパーヒーローになることになる。武器の扱いで群を抜いて上手ければ能力をもったものを容易く倒すことができる。戦略によっては能力者なんて関係なかったりする。
さらに『ロード』には公式ではないのだが強さのランキングがあるそこでほとんどのサイトでの1位は先ほど理事長から出ていた『勇者』である。18歳の時に初めて世界大会に出てタイマンで世界最強を倒し日本の初めての優勝をもたらした。数々の強敵を薙ぎ倒し己のチームより強敵だとされていったチームを彼女によって勝っていった。その姿を見て付いた2つ名が『勇者』であった。
「勇者にも負けない素養があることはオリエンテーションでもわかった。アバターの身体能力を3割ぐらい下げても簡単にこの学校の中位に勝てるぐらいだからな。」
そう彼らのことを褒めながらキーボードとマウスを高速に動かしながらファイルの整理整頓をしていく。夏に開かれる全国大会に向けて誰を採用していくかの採用基準を振り分ける。彼女の仕事であり今後は職員会議などで詳細を決めていくことになる。
「いや、全く上からの圧力には屈しないぞって言っていたのに屈しているじゃん、英二は。」
「宗斗だって屈して尚且つ俺に頼み事が来るってことを予想したのに対策が俺と同じ無言なのはないぜ。」
お互いに理事長室から解放されて学校内にある寮に向かって歩いていく途中だ。荷物を教室に取りに行ってからあの時はお前がと言い合っている。今日の日程は終わっているので誰も校舎内にはいない。だからこそ2人の言い合いはかなり響いている。
「今日はラッキーだったな。『ロード』をいち早く体験することができたしな。あんなにも動くなんてびっくりしたよ。」
「ああ、慣れもしない状態で走ったりしたらコケて瞬殺されていた気がするな。先輩たちはなめていたから勝てたもんだぜ。」
2人的には頼み事はともかく『ロード』の一部を体験できてかなり満足をしていた。言い合いからはその時のことを話して楽しくしていた。
寮の前に設置されている門に近づいて来たところで誰かがその付近で立っていることに気がついた。
2人は外で談笑をしているだけだと思いそれを過ぎて行こうとするが声をかけられ止められた。
「お二人ともお待ちなさい。風紀委員会です。」
「「遠慮させていただきまーす。(いただくぜ)」」
「ちょっとちょっとお待ちなさい!!」
それすらスルーをして行こうとする2人にもう一度声をかける。
2人はめんどくさいなと思いながら彼らの方に体を向ける。
「ごほん、私たちは風紀委員会です。あなたたちは問題児であると教師の方々から言われていて私たちが直々に注意をするため待っていました。」
「理事長からそれは不問とされているので、それじゃ。」
「だから!ちょっと待ちなさい!」
「風紀委員会は寮の前で大声を出す委員会なのか。迷惑なやつらだ。それじゃ。」
宗斗と英二はそれぞれの言い分た感想を言ってからもう一度そこから立ち去る。
「いいから聞け。この方は風紀委員長だ。聞くだけでもいいからもう少しだけ待ってくれ。」
1人の大きな体格をした男が静かに言ってくる。
「なんですか。俺たちはかなり理事長に絞られて疲れているんですよ。早くしてください。」
委員長と言われた女はかなり顔を赤くしながらこっちを睨んでいる。スルーされることが嫌のだったのだろう。
「あなたたちにこの寮の説明をします。まず、建物は学年と性別を考慮をして分けられています。そして、男は女の寮に、女は男の寮に入ることは禁止されています。もし、破るようなことがあれば休学もしくは退学とさせていただきます。さらに寮外にあるお店は21時まで営業、8時からの営業開始となります。それだけです!さっさと行ってください。」
「「へーい。」」
手を雑に振りながら2人は寮に入っていく。彼らは彼女がしばらくの間赤色の顔のまま2人のことで文句を言い続けたことを知らない。
寮に入ると目の前には管理人室の窓があった。それの中央には管理人さんに話しかけることができる小さく複数の穴が空いていて下には四角い穴があいていた。
「お前さんたちが藍田宗斗、佐藤英二だね。理事長から話は聞いてるよ。こっちに来なさい。」
先程の穴から年寄りのしわがれた声が聞こえてきた。2人はその声にドキッと驚きながら声のしたところに向かっていく。
「ほら、これがあんたらの部屋の鍵だよ。4階の4125と、4126だよ。荷物は運び終わっているからさっさと行きな。風紀委員会からの注意事項は聞いただろう。補足で、寮で朝ごはんを食べるなら7:30から8:00までの間だけだ。場所は男女共通の学生食堂だ。わかったな。」
すると、管理人室から姿を見せていたすごい派手なおばあさんは中に引っ込んでいった。
「ここの大人たちってかなり個性が強い気がしてきた。まだ会っていない教師とかもそんな感じがするわ。」
「ここって血の気が多い奴らがかなりいるからな。それを抑えることができるやつじゃないとここに務めることができないとは思うがな。」
英二はそう言ってもう派手な管理人のことを受け入れている。
鍵を取るとすぐ横にあるエレベーターに行きボタンを押してくるのを待つ。
「4階って言ってたけど何回まであるんだろうな、ここって。」
「5階ぐらいあるんじゃ。お、来たぞ。」
やってきたのに乗って4階までいく。
かなり静かでこの中で喋ると寮内全体に聞こえてしまうのではないのかと思ってしまうぐらいの静かさだ。
4階に降りると高級マンションを思わせるかのような綺麗なフロアが待っていた。
「おれ、ここにずっと住んでいてもいいと思うわ。」
「部屋に和室があればそう思う。俺もな。」
部屋に向かい先に英二が部屋の前に着く。
「それじゃあ、明日な。」
「おう、おつかれ。」
そして、宗斗は4126の鍵を持って部屋のカギを開けて入る。
すると、寮の部屋にしてはかなり広めの面積だった。奥の窓に勉強机があり部屋の右にはベッドがある。入り口付近にはトイレと風呂が一緒になったバスルームがあり、その向かい側には冷蔵庫やIHなどといったキッチンが備わっている。
「学生には豪華すぎる気がするけど。ま、荷物を開けて模様替えをしてこうかな。」
段ボールに詰められた荷物を乱暴に解放していく。自分の枕や布団、勉強道具や歯ブラシ、着替えなどを備え付けられた家具に収納していく。
「最後に、趣味の本と参考書に偽装したエロ本を、何かある。手紙か。」
真っ白い封筒が入っていたので縁をビリッと破り中身を取り出す。
「誰からだよ。身内なのは確実だけど。」
手紙を広げて見ていく。
[これを見ていると言うことは学校についたってことね。入学おめでとう。おねえちゃん嬉しいわ。弟の制服姿を見たかったけど、アメリカの大会に出ないといけないから見れなくて残念。この気持ちを相手で発散してやるって決めたの。どうして、この荷物をしまう前に旅立った姉の手紙が入っているかって?それは祖父に頼んで入れてもらったわ。それはそうとあなたの学校、今のあなたでは勝てない相手がいるはずよ。私の相棒の妹さんがいるはずだし。そこでいい仲間を見つけて私たちに挑むことができるだけの力をつけてきなさい。それがあなたの望む野望に一番の近道だからね。]
「は、アメリカにいても弟の心配をしているなんてな。最強の戦士『勇者』藍田可憐も弟の心配をするっていうのは面白いな。」
[アバターでの体の動かしかたは現実とは違うところがたくさんあるから訓練をおこたるのはダメです。これ以上言ってしまうと説教になってしまいそうになるので最後に一言。]
「なんだよ。ここで裏面に行くなんて字がでかいんだよな、昔から」
手紙の裏面を向ける。
[あなたが参考書に偽装したエロ本なんですけど、ノーマル過ぎてつまらないです。もう少し、SM系統を取り入れたりするなど広いジャンルを好んで読んだ方がいいと思うよ。以上]
「俺の性癖が落ち着いてよかったと思うどころか過激な方に進ませようとすんなよ!あと、勝手に弟のエロ本を探して読むんじゃねぇよ。」
手紙を設置したゴミ箱に投げ捨てる。
顔を真っ赤にしながら腹を立てる。
「くそ、勇者のやることはあいかわらず滅茶苦茶だな!俺の特訓の時にも遠慮や優しさのカケラもなかったからな!」
今更の事なのだが彼、藍田宗斗の姉は世界最強の人間
『勇者』藍田可憐。レイピアとバックラーを持ち閃光の剣さばきで寄ってくる敵を斬り伏せ、剣で対応できない際には岩をも砕く拳で鉄拳制裁でなぎ倒す。彼女を倒すことができたものは世界に3人といない。倒したときにはチームは壊滅状態である。
「しかも、俺たちの実家は能力者家系でみんな能力を持っているけど俺だけ持って生まれなかったからな。家では両親や親せきからは恥さらしだのなんなのと言われ続けたっけな。姉さんやじいさん、ばあさん、姉さんの仲間たちだけに良くしてもらったな。しかも、みんなに特訓をしてもらったな。けど、手加減を知らなさ過ぎて死にかけたな。」
彼の家、藍田家は生まれてくる子供がほぼすべて能力者でありそれを誇りとして江戸時代から続いている名家である。一般的社会には知られてはいない。彼はその本家の長男として生まれたが能力を持っていないとわかると家での居場所がなくなった。その時、非能力者差別をしていない祖父母によって引き取られて、
「弱いままではいけない。わしらが自ら修行をつけてやろう。なぁに、これでも指導者としての名は知られておるからの。」
といい裏にある広大な敷地を使って地獄が居心地の良いと思えてしまうような日々を過ごした。対人戦の練習をしなければということで姉とその友人たちが長期休暇で相手をして試合を繰り返した。彼は一度も勝つことが出来なかった。
それを続けて6年間。高校生になった彼は自分の境遇を変えるため手始めに全国大会優勝をするという目標を立てた。彼は世界最強達との特訓でそれが出来るということは夢ではないと確信している。
なので、全国大会が優勝できそうな高校を探していると姉から勧められたのが第二高校というわけだ。理事長は姉が学生の頃にお世話になった人であると宗斗は聞いている。
「結果、新入生の中では俺に勝てる奴は数少ないだろうな。英二とはいい勝負が出来そうだし。敵でなくてよかったと思うな。」
家の事、姉関連の事を思い出しながら荷物の整理は完了した。ベッドにバタンと横になる。設置した時計を見ると時刻は9時を示していた。このまま寝てしまうのはよくはないと思い勢いよく体を起こしてシャワーをしに着替えを用意する。
そして、彼はコンビニで簡単なものを買って夕食もとい夜食を食べて寝た。