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第三王女殿下

ブックマありがとうございますm(_ _)m

 たどり着いたのはテラスのあるカフェだ。それを見つけた俺は即座にティータイムを提案し可決された。リリーの顔色を伺う限り、出てきた紅茶も悪くないようだ。テラス席は風通しも良く、辺りを見渡せ場所的にも中々良い。


 俺はここまでの道のりを完璧に頭に入れる。リリーの機嫌が悪くなって来たら、今後ここで休憩をとりに来るのがベストだろう、ここは俺のオアシスになるに違いない。


 そんな補給線を確保した喜びに浸っていると、テラスに入る扉がギーと開かれる。俺はそれに顔を向ける。


 入って来たのは、男女のペアだ。女は、ブロンドのウェーブした髪を携え、発育の良い身体が存在感を顕にしている。隣の男は爽やかな短髪で、制服では隠しきれない肉体が異彩を放っている。


 そんな男女が何故かこちらに向かってくる。念のため警戒する。


「申し訳ない、この席は主人のお気に入りの席、どうか譲って頂きたい」


 リリーは完全にシカトを決め込んでいる。俺に対応しろて事だろう。身に付けている装飾品を見るにリリーと同じ名家かそれ以上だ。判断を間違えればどうなるかわからない。外にも内にも対応を難解にさせる要員がある。


 たがここはリリーの気持ちを汲んで選択するべきだ、俺の主人はリリーなのだから。


「申し訳ないが断る、譲る気は無い」

「無論謝礼は払います」


 男は懐から金が出てきた。馬鹿か、こんな事されれば余計譲れない。こいつらはリリーを貧乏貴族だとでも思っているのだろうか、完全に逆効果だ。


「いらん、さっさとしまえ」


 すると、後ろにいた女が口を開く。


「なにをやっているのバンデス、力尽くで退かしなさい鬱陶しい」


 名家てのはこんな女ばっかなのか……。


「これが最後だ席を移ってくれ」


 明らかにバンデスの気配が変わった。ここは移動すべきだ、それで全て丸く収まる。俺は期待を込めてリリーに視線を向けるも、彼女は相変わらずそっぽを向いている。


 するとブロンド髪の女がバンデスの肩をどかし、ズカズカと前に出てくると、リリーが飲んでいたティーカップを掴み取る。


 ーーバシャン


 リリーの顔に向かって紅茶を浴びせた。


 ……え?。


 あまりの出来事に俺は呆気に取られ、周りは一瞬静寂に包まれる。均衡を破ったのは紅茶を浴びせた本人だ。


「その態度はなんなのかしら?」


 リリーはすごい形相で女を睨む。


「ふん、醜い顔。さっさと失せなさいな」


 俺は急いで席を立ちハンカチを取り出す。身体に触れる事は躊躇われ、ハンカチを渡そうと手をだすも、リリーはこちらに一切意識が向いていない。完全にキレれている。


 リリーは俺の飲んでいたティーカップをすごい勢いで掴み取り、女めがけて腕を振る。バンデスがそれを察してリリーの腕を掴みかかろうとするが、俺は即座にバンデスの腕を掴みそれを阻止する。


 紅茶は女にかかるかと思いきや、リリーの手首を女が掴み、紅茶は地面に虚しく落ちる。


「気が済んだかしら?」


 女は嘲笑う。


 リリーの怒りは行き場を失い、顔を真っ赤に腫れ上げ口を開く。


「あなた死にたいの?」

「誰に言ってるのかしら?私はエマ・ルグニスカ、この国の第三王女よ。あなた風情に何ができると?」


 ……王女っ⁉︎


 リリーは歯を食い縛り、王女を睨め付ける。


「立場がわかって?さっさと失せなさいな」


 リリーは身体を震わせながら王女の手を払い除け歩きだす。


「いくわよアルス!」

「あぁ」


 俺はリリーの後に続くと後ろから声がかかる。


「そうそう……先ほどの言葉『死にたいの?』でしたっけ?その言葉そのままお返し致します、ではご機嫌よう」


 そうしてこの修羅場は終わった。後は散々たる者だった、式典なんてものはもう頭の片隅にすらない。即座に屋敷にもどると、溜めに溜めた怒りが吹き荒れる。屋敷に飾られてる豪華な壺や置物を持ち上げては投げ捨てる。


 ーーガシャーン


 何個目だろうか。人間10人分と言っていた壺を破りに破り続ける。無言で後ろを歩いていたが、我慢出来ずに声をかける。


「リリー落ち着け……」

「落ち着け⁉︎落ち着けるわけないでしょ!あんだけコケにされたのよ!!」

「物を破壊したって気は晴やしない」

「わかってるわよ、そんな事!」

「だったら一旦落ち着け」

「収まるわけないでしょ!」


 ーーガシャーン


 また一つ陶器の破片が辺りに散らばる。


「あんな惨めな思いして、これからどう生きればいいのよ!」

「惨めになろうが死ぬわけじゃない、学園なんて行かなくたってリリーは生きていけるだろ?」

「そんな惨めな生き方、死んだ方がマシよ‼︎」


 リリーは俺の胸ぐらを掴み怒りをぶつけて来る。彼女の瞳から涙が垂れ落ち、今にも泣き崩れそうだ。


 彼女と俺では余りにも違う。


 惨めになろうと、血で塗れようと、それでも生にすがった俺には、理解できない感情だ。彼女は自らのプライドを傷つけられる事が死ぬよりも辛いのかもしれない、つちかったものは早々変われるものではない。


 そう考えれば俺と彼女は似ているのかもしれない。

生にすがって心を歪ませた俺。プライドにすがって心を歪ませた彼女。愚かと知っていても変わらないし、変われない。


「リリーが殺せと言うのなら殺してやる」


 俺は小声でそう告げ、リリーを真っ直ぐに見つめる。どのくらい視線が絡み合っただろうか、リリーが胸ぐらから手を離し悲しそうな表情を浮かべる。


「……そんな事をさせるためにアルスを側に置いているわけじゃないわ」

「そうか」

「今の言葉に免じて今は怒りを収めてあげるわ」


 リリーはそう言いながら自室に向かって歩き出す。


「散った破片は片付けておいて」


 おいおい、マジか。薄い望みをかけ質問する。


「そんな事をさせるために俺を側に置いているのか?」


 リリーはこちらに振り向き、複雑な笑顔をみせ口をひらく。


「そうよ」


 太陽の光を反射したその顔はなによりも美しく感じた。ただ、その顔についた涙痕が無性に心を苛立たせる。


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