邪魔者はいつも突然に
目を開けるとそこはそこそこ広い部屋で、雰囲気は洒落た洋風な感じの部屋であった。今寝ていたベットからはとてもいい匂いがしていて、眠気をそそる。しばらく寝たはずなのにまだ寝れるくらい心地が良い。体の傷は見た感じでは消えているが、奥の方がまだ痛む。けれども、軽く動けるようにはなった。あの状態で意識を保っていたこと自体今思うと不思議だったが、こうしてまだ生きれているということは、眷属たちが一生懸命治療してくれたのだろう。
「あとでお礼をしないとなぁ・・・」
そう呟き、体を起こし近くにあった姿見で顔を確認する。潰された片目には眼帯がつけられており、それを外してみると潰された目はなくなったままだった。幾ら魔法といえども、一度失ったものを回復することはできない。分かってはいたが、やはり少し悲しい。続いて翼を確認すると羽根が元の半分ほどまで減っており、当分は飛べそうにはない。だが、羽根は時間とも回復するので特に気にすることはない。また、折れて翼の骨が完全に治っていた。
しばらくぼーっとしているとヴィアが入ってきた。
「おお!起きたか!」
そういって満面の笑みで勢いよく近づき、手を首に回し抱き着いてきた。大きくも小さくもなく程よい大きさの胸があたり動揺するピュワなヒュー・シー。
「え、いや、あの・・・ヴィア様・・・その少し離れていただけると・・・」
「ん?どうした?」
言葉だけ聞けば分からないが、その顔を見ればわざとやっていることくらいは理解できた。
「・・・わざとですね?」
「ん?」
「わざとなんですね?」
「♪」
「痴女は好みではないんで、他を渡ってください。」
「い、いや!違う、違う違う!これはほんのスキンシップのつもりだよ!そうスキンシップ、スキンシップ!」
「はぁ、そういうのはヴィア様の恋人とやってくださいね。」
「・・・」
「どうしました?」
「・・・恋人ならいいのか?」
「え、ええ、そうですけど・・・」
「・・・そうか、分かった。」
そうヴィアが言うと顔を赤らめてヒュー・シーを見つめて言った
「ヒュー・シー、私をお前の恋人にしてくれ・・・」
突然の告白に戸惑うヒュー・シーに追い打ちをかけるようにヴィアが言う。
「私じゃだめか?私はヒュー・シーが命を張って私達を守ってくれたことを本当に嬉しく思っている。それに、そんな仲間思いの者はこの世界中探してみてもお前しかいない。だからヒュー・シーにこの身を預けたいんだ。」
「で、ですが、ヴィア様は竜王ですし、竜族と結ばれたほうが・・・」
「・・・やっぱり、私じゃだめなのか・・・」
今にも泣きそうな顔でヴィアが見つめてくる。
「い、いえ!別にそういう訳じゃ、」
「ずっと、ずっと、待っていたのに・・・」
そういうと目にたまっていた涙が溢れ出た。
「ち、違うんです、ヴィア様!その・・・ヴィア様は誇り高き竜族であり、王であります。ですが私は堕ちた天使です。今でこそ『堕天使』の評価は昔よりかはマシになっておりますが、依然として卑下する者達もいます。そんな私と結ばれたら、ヴァア様の評価が下がってしまいます・・・」
「評価などどうでもいい!」
「で、ですがヴァア様はシークレアの統括者ですよ?」
「構わない!『堕天使』の評価が低いなら、私がそんなもの、ひっくり返す!愛に種族や評価など関係ない!ヒュー・シーが何であろうと、私は気にしない!」
「・・・」
「私は本気だ、ヒュー・シー」
「・・・」
「ヒュー・シー、私の愛を受け取ってくれるか?」
「・・・はい。ヴィア様」
「ヴィア」
「?」
「ヴィアでいい。」
「・・・ヴィア・・・」
「ヒュー・シー・・・」
二人の顔の距離が徐々に近づき、ヴィアが目を閉じた。もうこの先はどうなるかは誰もがわかるだろう。お互いの吐息が聞こえ、唇が重ねあわさろうとした時、
「ガタッ」
お互いびっくりしてドアのほうをみると四天王の女性陣がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「あ、あとちょっとだったのに!」
「デスト、あなたが邪魔するから!」
「・・・デストは空気が読めないのね」
「いや!お前ら三人が気持ち悪い顔して覗いてるから気になるのは自然だろ!」
「はあ?!誰が気持ち悪い顔ですって?その頭の角折ってやろうか?」
美しさに関しては自負しているエルフのノアは顔を侮辱され怒りを露わにしていた。
「辞めとく辞めとく。年寄りには気を遣ってやらねえとなぁ」
ニヤニヤしながらデストが言うと
「おお、そうか。私を年寄り扱いするか。いい度胸だ、デスト。この弓でお前を綺麗に木に張り付かせて魔城の門に飾ってやるよ!」
「やる気なら、望むとこだノア!」
二人が喧嘩している間、マゼンタとティアは静かにその場を去っていた。それもそのはず、ノアとデストの二人は気づいていない。この国をおさめ、四天王たちを圧倒する力を持つ彼女、ヴィアが怒りを露わにして近づいていたからだ。ヒュー・シーはそのあとの事の成り行きを何も見ないようにベットの布団にくるまっていた。
その後、眷属達が言うには城から断末魔が長々と聞こえてきたという。