第6話 活気を失った街
最近投稿できていなかったので二回更新です。
「ここが、白ウサギさんの、街……?」
白ウサギさんの案内で街に来た私はほぼ絶句していた。かろうじて発せたのはこのひとことだけ。だって、それは街というにはあまりにも小さく、村と呼ぶにはあまりに大きい土地だったから。そして何より驚いたのは、人々がみんな暗い顔をしていて、街に活気がなかったこと。
「正確に言うと私の街ではなく、このローザ王国の中でも最も小さな街、アルブレです。本当は街というより村なのですが、最近いくつかの村が合併したことにより正式に街と認められました」
なんか歴史の授業で習った廃藩置県みたいだな。
「で、でも、せっかく街になったのになんでみんながみんなこんな暗い顔してるの?」
「それは…」
白ウサギさんが言いかけたところで街の人たちの視線が刺さる。その標的はほとんど私。服装のせいかな?
「…少し、場所を変えましょう。ここでは人目につきすぎる」
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しばらく歩いてたどり着いたのは小さな宿屋…というより旅籠だった。受付らしいカウンターでは主人らしき男の人が退屈そうに本を読んでいた。
「ゴホンッ」
白ウサギさんがわざとらしく咳払いをするとようやく私達に気付いたのか主人らしき男の人がゆっくり顔を上げた。
「何の用だ?冷やかしなら帰ってくれ」
男の人は無精髭の生えた顎をさすりながら面倒くさそうに言う。
「冷やかしではありませんよ。ここに宿を取りたいのです。一番いい部屋ともう一部屋適当に部屋を貸してください」
「一番いい部屋は三階の角部屋。銀貨1枚だ。あとはもう一部屋…二階の角部屋から三番目の右側でいいか?こっちは銅貨3枚だな」
「ありがとうございます。っと…銀貨1枚と銅貨3枚…あった。これで丁度…」
ピョコピョコ跳んでるけど全然届いてない。ちょっと可愛いかも。
「ちょっと貸して。これで丁度ですよね」
「アリス様…そのようなことなさらなくても…ありがとうございます」
「ん?別に、お礼を言われるようなことじゃないよ。困ってる人…ウサギ?を助けるのは当然のことだし」
と、言うと、感動したのか瞳を潤ませている。ますます可愛い。
「話は終わったか?これ、部屋の鍵だ。夕飯は夜告げの鐘が一回鳴った時から真夜中までだ。場所は食堂。食堂の場所は渡り廊下を挟んで向こう側だ。好きな時間に食いに来い。朝飯は朝告げの鐘が三回鳴った時から五回鳴るまでだ。それまでに来なかったら俺と妻の賄いにする」
意外と容赦無いなこの人。お部屋貸してくれるだけマシだけど。
「さ、アリス様、いきなりのことで疲れたでしょうから今日はここで休みましょう。ささ、部屋へ参りましょう」
「ちょっ!?引っ張んないでって聞いちゃいない!?」
かくして私は半ば強引に部屋へと連れて行かれることとなった。
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「ったたた〜。白ウサギさん意外と力強いね」
部屋に入ってすぐに私は手首をさすることになった。当の白ウサギさんはというと…部屋の隅で「ごめんなさい」とか「すみません」とか連発している。別に怒ってるわけじゃないんだけど。
「別に、怒ってないよ。ちょっと吃驚しただけ」
「そ、そうですか……?それならいいのですが……」
うーん、ウサギってやっぱり臆病なのかね?返事してる間も終始ビクビクしてる。
「だーいじょうぶっ。本当に怒ってないよ。ほら、この通り。それで、さっきの話だけど」
「ああ、街と村を比べると街の方が課される税が高いのです。それで不満なのだと思います」
なるほど…となるともう一つ気になるな
「じゃあ、さっき街ですごい目で見られたのはなんだか分かる?」
「それは、アリス様が街のことについて。と、いうか、街の方々の表情について触れたからという事と、アリス様の服装が原因かと…」
服装はどうにかできるけど…
「ねぇ白ウサギさん。明日この世界の服を買いに行こう」
「えっ!?い、いきなりですね……?」
「服装が変わったら、周りの人の目も変わると思うし、さ」
「そういうことなら…分かりました。明日の朝1番でご案内いたします」
その時
カーンーー
何処からか鐘の音が聞こえた。
「夜告げ鐘の音ですね。どうしましょう。このまま食堂へ向かいますか?」
「え?私は…」
グゥ〜
「まだいいよ」と言おうとした私の声を白ウサギさんのお腹から聞こえた可愛い音が遮った。それを受けて狼狽えている白ウサギさんの方も可愛い。結果全部可愛い。
「いいよ。夜ご飯行こうか」
そう言うと白ウサギさん、またもや瞳を潤ませていた。
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「おう、来たか。飯なら出来てるぜ。って言っても、全部妻が作ったんだがなぁ。ガッハッハ!」
随分と豪快に笑う人だな。まあ、何言ってるかわかんないくらいボソボソ喋られるよりマシだけど。
「じゃあ…」
「そうですね」
「「いただきます」」
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「美味しかったね」
「さようでございますな」
そう。とてもこんな小さな宿屋とは思えないくらい豪華で、しかも美味しかった。
「うちの菜園で出来た野菜は最高よォ!それを使って作ったんだから美味ェのは当たり前だな」
直後、主人さんの背後に影が浮かんだ。主人さんのものではない、大きな影。
「それぇ、私が作ったんだけどぉ?」
その声を聞いて、主人さんの顔がどんどん蒼ざめていく。
「か、上さん!?ち、違うんだ。これは!な、なあ、そうだろお前ら!」
「白ウサギさん、このタルト美味しいね」
「そうですなぁ。これも奥様がお作りになられたのですか?」
慌てる主人さんを尻目に、私たちはデザートのリンゴタルトを食べていた。
「あら、そうよぉ〜。この時期、リンゴは沢山採れるから、よく作っているのよぉ〜」
「機嫌、直ったか?上さん」
「ん〜?ふふふ〜。直ってないわよ〜?」
「ご、ごちそうさまでした!」
大きな声で言って食堂を去る。私たちの後ろからは
「た、頼むよ上さん!許してくれ上さぁぁぁん!!!」
と言う声が響いていた。自業自得だ。
その夜は2人(1人と一匹?)ともぐっすりと眠れたのだった。
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ピッ、ピチッ
鳥の声で目を覚ます。丁度さっき、朝告げ鐘が
カラーン、カラーン、カラーン、と、三回目の音を告げたところだった。
コンコン
「な、なに!?」
「おはようございます。私です。そろそろお目覚めになる頃かと思ったので。そろそろ朝食の時間なので準備が整い次第食堂へ」
「うん、ありがとう。朝ご飯は何だろう?楽しみだね」
「そうですなぁ。あのご婦人のお料理は美味しゅうございます。それでは、お待ちしております」