幸と不幸
ファルは毎日、窓ガラスの向こうの景色を眺める。
そこから見えるものは、いつもほとんど変わりない。同じ建物、同じ道。日々の天候と朝昼晩の空の色が刻々変化していくくらいで、窓という四角い枠の中に収められた風景はずっと固定されている。
けれど道行く人々は、常に同じということはなかった。子供が走り、男性と女性が慌ただしく交差し、老人が誰かを見つけて立ち止まる。ファルの視界の中を通り過ぎていく人々の群れ──彼らにとって昨日と今日とはほとんど変化のない日であったとしても、それでも確実に、一日ずつ一歩ずつ、それぞれが前へと進んでいるはずだ。
行き交う人の顔ぶれは様々だが、毎日同じ窓から同じ場所を見ていれば、毎朝欠かさず花を売りに来る女の子とか、鳥にパン屑をあげるおじいさんとか、塀の内側の敷地内を巡回している人たちとか、おのずと一方的に見知った存在も出来てくるようになった。
少しずつみんなの服装が、薄い軽装から、分厚く暖かそうなものに変わっていくから、外はだんだんと寒くなりだしているらしいことが窺える。ファルがキノイの里にいた時、日中はおおむね温暖な気候で、あちこち動き回っていると汗ばむくらいだったのに。
何もなければさぞひんやりするだろうと思われるこの部屋の中は、ほぼ一定の温度になるよう調整されているので、薄着のままでもまったく問題なかった。現在の外気がどれほど冷たいのか、窓の開かないこの場所にいるファルにはまるで体感できない。
ただ、眺めるだけ。
花売りの女の子が、時々自分の両手をこすり合わせながら、道行く人に頑張って声をかけている姿を。空を飛ぶ鳥たちが、おじいさんが来る時刻を今か今かと窺いながら待機している様子を。制服を着た者同士が、すれ違いざま軽く挨拶を交わす時の笑顔を。
女の子を無視して通り過ぎる男の人。うろちょろと周りを駆け回る子供。赤ん坊を抱きながらおじいさんの近くに寄って、餌をついばむ鳥を見る女の人。塀の外からこちら側を指差し何かを話す人たち。
ここからは外にいる彼らの表情まではよく見えないけれど、きっとみんな、暑さや寒さを直に感じながら、笑ったり怒ったり泣いたりして、懸命に日々を生きている。
天界にいた頃、白雲宮からこんな風に人々を──その人々の中に混じっていた自分を、見下ろしていた誰かがいただろうか、と、ファルは埒もないことを考えた。
いたとしたら、その人は、何を思ってそこからの景色を眺めていたのだろう。
まるで自分一人だけが外界から弾きだされ、取り残されているような、そんな疎外感を味わうことはなかったのだろうか。
胸が引き攣れるような奇妙な感覚。少しずつ自分の中から何かが抜け落ち、干乾びていくような枯渇感。ずっと長い間、一人でいることを何とも思わなかったのに、今はこんなにも心が寒い。
これが「寂しい」という感情なのだと、はじめて知る。
塔の上の部屋で過ごすようになって、少なくとももう三月は経過した。
……キース、今、どうしてる?
会いたいよ。
***
ファルの日々の勉強は、おもにエレネが見てくれている。
本を読み、計算に頭を悩ませ、文字を書き取るという基本的な作業に、根気よく付き合ってくれるエレネは、決してファルを笑ったりも馬鹿にしたりもしなかった。我ながら必死でやっているとは思うが、それでもエレネから見れば「こんな簡単なことも知らないのか」ということも多々あるだろうに、いつも穏やかにファルの問いに答えてくれる。
丁寧に説明し、出来たことは率直に褒めあげ、解答を提示するのではなくあくまでもファル自身がそこに辿り着けるように導こうとするエレネは、まったく理想の教師だった。
その点、クイートはかなり違う。
俺が先生になってもいいよと申し出たクイートは、時々、気まぐれのように顔を出し、エレネとはまるで異なる方法で、ファルにものを教えた。
大体いつも、彼はふらりとこの場所にやって来て、勝手に椅子に座り、「やあ、元気?」とにっこり笑う。そこから天気の話をしたり、ファルが着ている服についてからかったり、今日は何を食べたかと訊ねたりする。
それにファルが答えたりムッとしたりしているうちに、それらの話はいつの間にか、少しずつ内容が変化していくのだ。
「天気の話」は、太陽と月の法則、雨が降る理由やそれが及ぼす影響について、という話に。
「ファルの服への感想」は、ひとつの衣服がどのように生産され、どのような過程で市場に流通していくか、という話に。
「今日の食事メニュー」は、気候や風土を生かした野菜や肉などの特産品が、いかに各国の重要な資源となっているか、という話に。
もちろんクイートが口にするのは、天文にしろ経済にしろ、かなり単純化された基礎的なことばかりだ。しかしそういったことを、世間話の流れとして、彼はファルにわかりやすく説明した。勉強するという意識もなく聞いているファルの頭にもきちんと理解でき、自然と染み込ませる形で。
どうして雨が降り、どうやって一枚の衣服が作られ、どのように人々の生活が廻っているのか。そんなことを一度として考えたこともなく育ってきたファルにとっては、どれも新鮮な驚きばかりだった。
今までの自分の無知を知り、知ることの楽しさも知る。
自分の周りにあるもの、手にするもの、口にするもの、そのひとつひとつに意味があるのだと。
小さなものが、大きなものに繋がって、巡るように、絡むように、世界が成り立っているのだと。
……そう思えば、ここに生きていること自体が、何かの奇跡のように思えるから不思議だ。
そうやってエレネとは別の方面でファルにものを学ばせ、ファルが質問をしても大概なんでもすらすらと答えるクイートは、非常に頭の良い人間なのだろう。
知識が溢れるほどに頭の中に詰まっていて、必要なものを必要な時にすんなりと取り出せる。頭が回転する速度だって、ファルとは比べ物にならないに違いない。
しかし、だ。
クイートは、理想的な教師であるエレネとは違って、教える対象であるファルのことを、かなり露骨に馬鹿にするし、鼻で笑うし、厭味も皮肉もたっぷり言うのだった。
姿ばかりでなく脳味噌の中身も子猿並み、などと言われるのはまだしもいいほうで、幼児のように何も考えないから外見も成長しないんだね、とも、疑問や好奇心を抱かない人間は純粋なのではなくただ単に頭がカラッポなだけ、とも言われたことがある。ある時には、君とこれ以上話をしていても時間の無駄、と途中でさっさと部屋を出て行かれたこともあった。
これが本当に、教師と生徒という関係なら、ファルだって何を言われても我慢しよう。今までの自分は確かにそう言われても無理はない人間であったから、その言葉に恥じ入ることはあっても、怒りを覚えるのは筋違いだ。そう考えて、じゃあもっと頑張ろうと前向きになることだって出来ただろう。
しかし、しかしだ。
ファルはキノイの里から強引にリジーに連れて来られて、キースと引き離され、塔の上の一室に閉じ込められている身で、クイートはその誘拐および拉致の実行犯なのである。はっきり言ってあっちは加害者で、ファルは客観的に見たら哀れな被害者のはずなのである。
──それなのにどうして、その誘拐犯から、子猿だの頭カラッポだの精神も肉体も幼児のままだのと悪しざまに罵られ続け、それに黙って耐えなければならないのだ?
時々ふっと我に返るようにそんなことを思って、ファルがどうにも納得できない気分になってしまうのは、無理のないことではないだろうか。
***
「……おかしくない? おかしいよね。未だに目的も一切聞かされないまま監禁されてるわたしが、どうしてこうも下手に出なきゃならないのかな。そりゃ、クイートの提案に同意したのはわたしだけど、この状況はなんだかいろいろと、筋が通らないような気がするというか。なんて言うんだっけ、エレネさん。こういうのを一言で言い表す場合」
ファルがペンを持ちながら低い声でぼそぼそ言うと、向かいの椅子に座っているエレネが困ったように首を傾げた。
「そうですね……理不尽、でしょうか」
りふじん、と口の中で繰り返しながら、ファルはテーブルの上にある紙に、「理不尽」と書いた。忘れないように覚えておかなければ、またクイートにバカにされるからである。
「不合理、とも申しますね」
ふごうり、とまた復唱して、手元の紙にペンを走らせる。不合理不合理不合理とぶつぶつ呟きながら、何度も同じ単語を書き続けるファルの目つきが据わっているのを見て、エレネはますます困ったような顔になった。
「ファルさま、根を詰め過ぎて、少々お疲れなのでは? お勉強はお休みして、たまにはゆっくりとお寛ぎになってはいかがですか」
「ううん、平気」
理不尽という単語と不合理という単語を交互に書き連ねながら、ファルは下を向いたまま返事をしたが、顔を上げたら、エレネが心配そうな目でじっとこちらを見ていることに気づいたので、ちょっと笑ってみせた。
「本当に平気。ゴウグさんと運動して気分転換もしてるし、疲れているわけじゃないよ」
今まであまり使っていなかった脳の部分を酷使しているため、そういう意味での疲弊はあるが、身体のほうはどこも問題なく健康だ。
「ゴウグもファルさまに無理をさせてはいませんか」
「うん」
自分の肉体を鋼のように鍛え上げることを至上の喜びとしているゴウグは、結構熱心に、「筋肉トレーニング」というものをファルに伝授してくれる。彼は少し単純なところがあるので、最初の警戒心などすっかりどこかに吹っ飛ばして、今はどうやったらファルの身体に無駄なく筋肉をつけられるか、を一生懸命考えているらしい。
あそこまでムキムキにならなくてもいいのだが、ゴウグの言うとおりに身体を動かしていたら、確実に体力は増してきたし、力もつきはじめた。今のファルはもう、重い椅子を動かすことも出来なかった以前とは違う。
──もう少し。きっと、もう少しだ。
焦る気持ちはある。どうしようもなく揺れる心を持て余すこともある。クイートに対する腹立ちと、満たされない孤独感とが、自分に鬱屈をもたらしていることも知っている。
しかし今はまだ、それを抑え込んでいなければならないのだ。
きっといつか、時機は来るはず。その時のために、今はひたすら力を蓄えておこうと、ファルは決心したのだから。
「クイートは、次はいつ頃来るの?」
そう訊ねると、エレネは首を捻った。
「どうでしょう……最近、またお忙しいようなので」
「ふーん」
何に忙しいんだか、と内心で思いながら返事をする。
クイートが普段何をしているのか、相変わらずなんの説明ももらえないファルには、まるで判らない。間違いなく役人の下っ端などではないようだが、そもそも仕事をしているのかどうかも不明である。エレネとゴウグを「部下」と呼んでいるからには、大なり小なり権力のある立場なのだろう、と推測できる程度だ。
だからあんなに偉そうなのか、そうかそうか。
と思ったら、またムカムカした。
「……クイートさまは、あれでお優しいところもおありなんですよ、ファルさま」
ファルが誰のことを考えてむっつりと口を結んだのかを察したのか、エレネが取り成すように言った。
「うん、エレネさんやゴウグさんに対しては、そうなのかもね」
ファルはあっさりと頷いた。
その二人、あるいはそれ以外の人間に対しても、クイートは「優しいところ」を見せたりするのかもしれない、ということは理解している。それに、そうでなければ、ここまで信頼と忠誠を寄せているエレネとゴウグが気の毒だとも思う。
が。
「でもそれは、わたしには関係ない」
ファルがクイートを信用しないとか、気に食わないとかの問題ではない。
クイートのほうが、ファルとの間にきっちりと線を引いて、その線を消すつもりも越えるつもりもないからだ。
彼がファルに向ける目には、いつも必ず醒めた光が宿っている。笑っていても、からかうようなことを口にしても、それでファルの出方や反応を窺うような冷ややかさが常にある。
彼のその瞳の中に、ひどく突き放した無機質なものが含まれていることに、気づかされる。
ファルは、嫌悪されることにも、軽蔑されることにも慣れている。だからこそ感じ取れるのだ。クイートがファルに向ける眼差しは、天界にいた頃自分に向けられたものとは種類が違う、ということが。
……まるで、箱の中に入れた珍しい生き物を観察するかのような。
ファルはその視線を受けるたび、とても居心地の悪い気分になる。あまり愉快なものではない。
エレネとゴウグがクイートをどう庇おうと、あちらにファルを対等の相手と見なすつもりがないのだから、こちらから寄って行こうという気にはなれないのは仕方ないというものだ。
「──ファルさま、クイートさまは、私を救ってくれたのです」
そこのところを今ひとつ判っていないらしいエレネは、ファルがあまりにも興味のなさそうな素っ気ない返事をしたためか、きゅっと真面目な表情になり、若干前のめりになって、訴えるように言った。
「私は、子供の頃に、両親を亡くしました。五歳の時です。それから親類に引き取られたのですが、私はそこで奴隷のように働かされて育ちました。食事も睡眠もろくにとれず、少しでも休めば殴られ蹴られ、私の身体にはまだ、その時の傷が残っております。ファルさまと同じように」
だからファルの身体を見た時に、自分と同じく虐待されて育ったことが一目で判った、とエレネは目を伏せた。
「十二になったある晩、私は酔っ払った義父に、乱暴されそうになりました。怖くて憎くて──なんとか近くにあった瓶を取って、義父の頭に思いきり叩きつけてやりました。そこから真っ赤な血が噴き出して、義父ががっくりと倒れ伏したのを見て、ますます怖くなった私は、その家から飛び出して逃げたのです」
大雪の降る晩だった。薄着で裸足のまま外をふらふらとあてどなく彷徨って、死にかけていたエレネを拾ったのが、クイートであったのだという。
どうせ捨てるつもりなら、その命、もう少し有効活用してみる気はない?──と、エレネと同じくまだ十代だったクイートは言った。
「クイートさまは私を連れ、傷の手当てをし、食事を与えてくださいました。その時、本当に、暗く冷たい地底から、引っ張り上げられたような心地になったものです」
温かい部屋、湯気の立つ飲み物、甘い菓子、眩いほどの明かり。
エレネはそこで、思いきり泣き出した。両親が亡くなってから一度も泣かなかった分、溜め込まれた涙を一気に放出するように。
「その時から、クイートさまは、私のあるじになりました」
「……ふうん」
しみじみと語るエレネに対して、ファルはもじもじと落ち着かず身じろぎしながら、曖昧に返事をした。
──これと同じような話、わたし知ってる。
あまりにも境遇が似すぎていて、エレネの話を他人事として聞くのが困難なほどだ。
少しでも休むと殴られ蹴られ、というのが、ファルには実感として呑み込める。その時にエレネが覚えた痛みさえ、理解できてしまう。発育不全な見た目のせいで乱暴されかかったことはないが、場合によってはそういう可能性もあり得たかもしれない。
髪を引っ張られ、床を引きずられ、冷たい水を頭からかけられ、倒れれば背中を何度も踏んづけられた。痛いと言えば笑われるし、悲鳴を上げればさらに暴力を受ける。だから出来るだけ、表情には出さずに唇を噛みしめ、うずくまり丸くなって、なんとか少しでも苦悶を減らそうと努力するしかなかった。
今でも思い出すとあちこちが痛むような気になるほど、心の深いところまで刻みつけられた記憶だ。
だから、判る。判ってしまう。その淡々とした口調で語られる短い話の中に、言葉にはならないものがどれほど多く含まれているのか。
二人の過去における最大の差異は、エレネには五歳までの幸福な思い出があった、ということ。
きっと、その分、エレネのほうがファルよりもつらかっただろう。
ファルはそんなものを最初から持たなかったから、生まれついての自分の境遇を不幸だと思うこともなかった。仲の良い親子を見ても、自分とは無関係のものだと切り離すことも出来た。
一度は得ていた幸福を失い、絶望の淵にいたエレネにとって、クイートが与えてくれたものはどれほど大きかっただろう。それがどういうものか知っていたからこそ、その大きさが自分にとってどれだけ貴重で尊いものかということもよく判ったのだ。
だから、泣いた。
「……わかったよ、エレネさん」
ファルがそう言うと、エレネは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「おわかりいただけましたか」
「クイートは、エレネさんにとっていちばん大切で、いちばん特別な人、ということなんだね」
「はい」
エレネの頬がぽっと赤く染まる。朗らかな笑みを浮かべて、ファルを覗き込んだ。
「クイートさまは本当にお優しい、尊敬できる、ご立派な方だということも、おわかりいただけましたか」
「…………」
いや、それはわからないんだけど。
と、正直に出しそうになった言葉を喉の奥に押し込んだ。実際はどうであれ、エレネにとってはそれが唯一無二の真実なのだろうし、ファルが「わかった」のが、クイートが本当は優しいかどうかなんてこととはまるで関係のないことだ、などと言ってもしょうがない。
命の有効活用、なんて言い方をする男は優しいかな、と疑問に思わないでもないが、ニコニコしているエレネに指摘するのは憚られたので、黙っておくことにした。
「まあ……うん、いろいろ、わかった、こともある」
もごもごと言葉を濁して、ファルは下を向き、ペンを握り直した。
また文字の書き取りを再開させようとして──
「…………」
しかし、手はそのまま動きを止めた。
そこにある本に顔を向けていても、目が上滑りするばかりで入ってこない。文字を追おうとしても、心はふわりと漂うようにそこから離れていく。
頭に浮かぶのは、蝋燭の輝く灯りがずらりと並ぶ分厚い本を照らす、広くて豪華な部屋だ。
テーブルの上に広げられた、たくさんのお菓子。
そして、ソファに座る背の高い男の人。
胸の中で、自分が口にした言葉を繰り返す。
──いちばん大切で、いちばん特別な人。
危地から救ってくれたから? ちっぽけで惨めな自分に、唯一手を差し伸べてくれた人だから?
ううん、おそらく、それだけじゃない。
きっと、エレネはその時、そこに──目の前にいるその人の中に、明るくて温かい、自分自身の、自分だけの「幸福」というものが存在しているのを、見つけたのだ。
どれほど部屋が広くても、どれほど豪華な食べ物が並べられていても、それだけでは意味がない。「その人」がいて、それはちゃんとした形になる。
ファルも判った。今になって、ようやく、判った。
キースと一緒にいた時間、あれこそが、ファルの幸福だった。
思い出すだけで胸が締め付けられ、ひどく泣きたくなり、あちこちが軋むように痛く、寂しくて寂しくてたまらないのは、そのためだった。
幸と不幸は表と裏。一方を手に入れれば、必ずもう一方もくっついてくる。幸福を知ってようやく不幸を知り、不幸を知ってからはじめて、それまでの自分が幸せだったかを知るのだ。
そういう意味で、何も持たず何も知らなかった以前のファルは、本当に中身が虚ろな、空っぽの人間だったのだろう。
……でも、今は違う。
ファルは宙を見据え、ペンを握る手に強く力を込めた。
諦めるもんか。
今度は、与えられるのではなく、自力で再びあの幸せを掴み取る。
キースのところに帰って、そして行くんだ。二人で、必ず。
約束の地へ。




