壁
半分客待遇の囚人、という身の上であるファルにとって、つらいのは、「キースに会えないこと」だけではなかった。
とにかく──何もすることがない、のだ。
食事はすべてどこかで用意され、エレネが運んできてくれる。豪華で手が込んでいて量もたっぷりで、おまけに栄養的にも配慮された、きっちりと整った食膳である。食べればそのまま下げられるので、ファルがする動作といえば、フォークを上げたり下げたりするくらいだ。
身体を拭いたり髪を洗ったりするのも、これまたエレネが毎日欠かさずやってくれる。自分でやると何度も言ったが、「これが私の仕事ですから」と、頑として引いてくれなかった。
着ている衣服は寝間着に替えるたびにどこかへ持っていかれて、また戻ってきた時には新品同様に洗われぴしっと畳まれているし、起きたら起きたで素早くベッドメイキングまでされるし、もちろん掃除だって床も家具も隅から隅まで塵ひとつない。
エレネの立場がどういうものなのかは今ひとつ定かではないものの、きっと天界の屋敷で働いたら、おそろしいまでに有能な使用人として、どこでも重宝されるだろう。それくらい、彼女は完璧だった。一から十までこまごまとファルの世話を焼き、非常に気が利いて、しかも手早く、おまけに笑顔まで絶やさない。
ファルが彼女の仕事を手伝おうとしても、やんわりと「ファルさまはそのようなことをお気になさらず」と断られ、自発的に片付けをしようとしても、「それでは私の仕事がなくなってしまいます」と悲しそうな顔をされ、何かすることはないのかと訴えてみても、「どうぞ、ごゆっくりなさってください」とニコニコ微笑まれる。
エレネが本当に心の底からそう思っているらしいことは彼女の色にも出ているが、そうでなければ、これは新しい手法の罰か拷問かとファルは思っただろう。これ以上「ゆっくり」していたら、脳味噌が溶けちゃうよ!
そんな次第で、この高い塔の上の部屋の中に閉じ込められたファルには、窓から外を眺めるか、ここから逃げる方法を考えることくらいしか、することがない。
ファルは物心ついた頃から、朝から晩までボロ雑巾のようになるまで肉体を擦り減らし、働きづめで過ごしてきた。慣れないとか落ち着かないとか以前に、この状態は、苦痛を感じるほどだ。
……ただ、ぼんやりと、窓の向こうの色鮮やかな景色と人の群れを見る。
一日が無為に過ぎ去るのを、唇を噛みしめながら見送るしかない日々。昔から何事も深く考えるということをしなかった──たとえその気があってもそんな時間も余裕もなかったファルには、あまりにも息苦しい毎日だった。
退屈というのは、これほど虚しいものだったのか。身体にはなんの異常もなく、むしろ今まででいちばん健康なくらいだというのに、日ごと夜ごと、何かが自分の中から削り取られていくような気がする。
キースはどうしているだろう。突然いなくなったファルを、探しているのだろうか。
──探しているとして、どこを?
ファルは現在の自分がいるところがどこなのかも、よく判っていなかった。判っているのは、キースが見せてくれたあの地図の、「忌み地」と呼ばれた真ん中の陸地ではない、ということだけ。ここが東の大陸なのか西の大陸なのかも判らない。どれだけ訊いても、エレネもゴウグも、一切教えてくれないからだ。
「そういったことは、クイートさまに直接お聞きください」──彼らが言うのは、そればかり。
だったらいつクイートに会えるのかと聞いても首を傾げられ、なぜクイートでなければだめなのかと聞いても困ったように沈黙される。ファルが得られる情報は極めて少なく、ここに連れて来られた時から、ほとんど何も変化がない。
少なくとも、もう三十日くらいは経過したはずだ。こんなことなら、最初からもっとちゃんと日にちを数えておけばよかった。そう後悔したところで、過ぎてしまったものはもう取り返しがつかない。
何もしないまま、何も出来ないまま、時間ばかりが指の間から零れ落ちていく。それを戻すすべがない以上、何かを新たに手の中に入れなければならないはずなのに、ファルにはどうしてもそれが見つけられないでいる。
ただもどかしく、空っぽの掌を見つめるしかなかった。
わからないよ、キース。
わたしは一体、何をすればいい?
***
「やあ。元気?」
ようやくファルの前に姿を現した男は、本気で腹立たしくなるほど、爽やかな笑みを口許に浮かべ、涼しげな顔つきで部屋の中に入ってきた。
まるで久しぶりに知己を訪れるかのような、しれっとした態度である。もちろんその表情には、罪悪感や申し訳なさどころか、ほんのちょっとのバツの悪ささえどこにも見当たらない。
あまりにも普通に部屋の中に入ってきて、あまりにも普通に挨拶をするので、ファルは一瞬自分も挨拶しそうになり、次いでがーっと頭に血が昇った。当然であろう。
ベッドにあった枕を勢いよく掴み、あとから入ってきたエレネが止める間もあらばこそ、その男の顔面向かって思いきり投げつける。
「おっと」
少し目を見開き、クイートがひょいっと顔を動かして避けた。
「いや、ちょっと待……待ってって」
枕だけで気が収まるはずもなく、次から次へと手当たり次第にものを投げる。毛布はクイートまで届かずに床に落ち、カップとランプは届いたが、これも避けられ壁にぶつかって割れた。
「こらっ、お前いい加減にしろ、クイートさまに向かって!」
その音に驚いて入ってきたゴウグに押さえつけられなければ、きっとクイートに飛びかかっていただろう。ゴウグの巨大な両腕に捕らえられてもなお、ファルは顔を真っ赤にして遮二無二暴れ続けた。
「まあ落ち着いて、子猿ちゃん」
クイートはといえば、どこまでも楽しげな口ぶりでそんなことを言って、ゴウグの腕の中でもがくファルを眺めている。
「わたしをキースのところに帰してよ!」
ファルは叫んだが、彼の表情はまったく変わらない。
「それは出来ないね」
「なんでこんなことをするの?! 今まで、こんなところにわたしを閉じ込めて放っておいたのはどうして?! ここはどこ?! あなたは誰?!」
今までずっと溜め込んでおくばかりだったものが、堰を切ったように溢れだす。自分の声が怒声なのか悲鳴なのかもよく判らない。必死になって抑えつけていた感情が、ここにきて制御が利かないほどに一気に噴出した。
「それを知りたいのなら」
クイートの静かな声に、ファルはぴたりと動きを止めた。荒い息をして、自分の前に立つ男を睨みつける。
「君はもうちょっと冷静にならなければだめだよ。か弱い子猫が牙を剥いたところで、こちらにはなんのダメージもない。ここはまず黙って俺の話を聞くのが、賢い判断というものさ」
ね? と笑いかけて、クイートはテーブルの上をトンと指で軽く叩いた。
丸いテーブルを挟み、ファルとクイートは向かい合って椅子に座った。
部屋の中には二人だけだ。心配そうに何かを言いかけたエレネも、「しかしまたこのガキが暴れたら……」と渋い顔をするゴウグも、クイートは手の動きひとつで黙らせて、扉の外へと出した。
「さて」
もう暴れはしないが、逆に一言も発することなく黙り込んでしまったファルを見やり、ちらっと苦笑してから、クイートが口を開く。
「……まずは、挨拶が遅れてしまったことを詫びるべきかな。これでもいろいろと多忙な身でね、他の国に行く予定も入ってたし、あちこちを巡っていろいろと根回しする必要もあったものだから」
落ち着いた口調でそんなことを言う彼の見た目は、キノイの里でのそれと、かなり変わっていた。
赤茶けた短髪に人好きのしそうな笑顔、というのは変わっていないが、着ている衣服の質が格段に違う。あちらで見かけた時は、いかにも役人っぽい、無個性で地味な服をまとっていたが、今は赤と黒を大胆に組み合わせた色合いの、地味とは対極にあるような装いである。
艶のあるさらりとした柔らかそうな生地といい、あちこち紐の組み込まれた凝った形といい、あまり必要とも思えない裾部分の装飾といい、どう見ても高価そうだ。しかもちっとも厭味には見えず、さりげない着こなしがよく似合っていて、ますます腹が立つ。
「もっと他のことを詫びるべきじゃないのかな。キノイの里から女の子を誘拐したことについて、とか」
しっかり皮肉に聞こえるように言うと、クイートからは、「あ、うん、それは別に悪いと思ってないから」と平然とした返事が返ってきて、唖然とした。
だったらこの人物の、「悪い」と思う基準とは、なんなのだ。
あくまでも軽い言葉と、微塵も揺れない彼の色に、ひやりとした。
クイートという男は、どこか常識で測れないような部分があった。ユアンに対して覚えたような恐怖は湧かないものの、何をぶつけてもびくとも動かないような頑丈な壁があるのを感じる。
「……キースのところに帰して」
目の前の男を真っ向から見据えて、ファルは低い声ではっきりと言った。
「さっきも言ったね。それは出来ない、と」
クイートは悠然と椅子に腰かけて、笑顔で言いきった。テーブルの上に置いた腕で頬杖をつき、ゆったりとした仕草で足を組む。そうやって動くたびに聞こえる布擦れの音が、非常にファルの神経を逆撫でした。
「どうしてよ!」
思わず、テーブルを平手でバンと叩いたが、クイートはまったく動じない。
「君をあんな場所に置いたまま、放っておくわけにはいかないからさ」
「はあ?」
ファルは虚を突かれ、怒るのも忘れてぽかんとした。あっさり答えを寄越されるとも思っていなかったのだが、こんな風に斜め方向からの球を投げられるとも思わなかった。
何を言っているのかさっぱり判らない。それこそ、塔の上などという場所にファルを放り込んで、そのまま知らんぷりを決め込んでいたのはクイートのほうではないか。
「ということで、君の質問にはひとつ答えた。今度は俺の問いに答えてもらおうかな」
ファルの困惑にはお構いなしに、クイートは平然と話を続けた。まるで、自分の義務はこなしたのだから、今度は権利を行使する、とでも言いたげな態度だった。
「君──ファルといったっけ」
クイートの視線がこちらにまっすぐ向けられる。キノイの里でも思ったが、この男の目つきは相手に逸らすことを許さないような強さと尊大さがあった。「上に立つ者」独特の瞳だ。
「ファルはどうして、天界から堕とされたんだい?」
***
ファルはしばらくそのまま、動きを止めていたらしい。
「ファル?」
呼びかけられて、はっとする。身じろぎをしたついでにぱちぱちと目を瞬いて、向かいに座る男の顔を見返した。余裕のあるその表情と態度は、最初からずっと微動だにしない。
「ど、どうして、それ」
口ごもりつつ、もごもご返すと、クイートがぷっと噴き出した。
「無駄に誤魔化したり、隠そうとはしないだけ、素直だねと褒めるべきかな。それとも、そんな知恵もないことを残念がるべきかな」
どうやら馬鹿にされたようだ、というのは判った。むっと眉を上げる。
「別に、誤魔化すつもりも、隠すつもりもないよ。だけど、地界の人たちっていうのは、天界のことを知らないのが普通だと思ってたから」
「うん、話が早くていい。俺も持って回った言い方はあまり好きじゃないんだ。時間がもったいないしね。ということで、もっと単刀直入に聞くけど、ファルは『罪人』として天界から堕とされた、ということで間違いはないかな」
「……どうしてわかるの?」
今度こそきょとんとして、首を傾げる。思いがけない成り行きに、ファルの中からはいつの間にか、すっかり怒りが消え失せていた。
「君の身体を毎日綺麗にしているエレネは、俺の忠実な部下なんだよ。細くて小柄な体躯に、無数の傷跡と、そして酷い火傷の痕があると、そりゃもう憤慨しながら教えてくれた」
「あ、そうか」
今さらながら、思い出す。自分では見えないので忘れていたが、そういえば、ファルの背中にはイーセンにつけられた焼きごての痕が、くっきりと残っていたのだっけ。
「……じゃ、クイートは、それが天界での『罪人のしるし』だってことを知ってるの?」
クイートはこともなげに頷いた。
「知ってる。忌み地の中央にある『咎人の森』に棲む化け物たちの背中にもそれがついている、ということもね」
咎人の森、と彼はそう言った。
キノイの里では……地界では、あの森は「呪われた森」と呼ばれていたはずなのに。
「──ひょっとして、クイートも、天界人?」
ファルのその問いは、クイートの意表を突いたらしい。今度は彼のほうが目を瞬いて、それから声を立てて笑いだした。
「いやいや、俺は正真正銘、君らが言うところの『地界人』だよ」
「じゃあ、どうして」
「天界のことを知ってるか? 地界のすべての人たちが、それの存在を知らないわけじゃない、ということさ。俺はたまたま、それを知ることの出来る立場に生まれついた、というだけだ」
「知ることの出来る立場?」
「待った、今度は俺が訊ねる番だよ」
クイートが微笑みながらファルの言葉を遮る。なぜ順番に問い手を代わる必要があるのか、そしてクイートの答えはほとんど答えになっていないにも関わらず、なぜそのルールを当然のようにファルにも適用することを要求してくるのか、ちっとも理解できない。なんだか理不尽ではないだろうか、とむくむく不満が込み上げる。
が、
「君がさっきから、帰りたい、と言っている相手」
クイートがそう言ったので、ファルは急いで文句を喉の奥へと呑み込んだ。
「キース、だったね。あの彼は、君の何?」
「…………」
ファルはその質問には答えなかった。というより、答えられなかった。兄、という表向きの肩書きを口にすればいいのか、それとも正直なところを言っていいのか、判断がつかなかったからである。大体、他の人が知らないことを知っているこのクイートという人物が敵なのかどうかも、今の時点でははっきりしていない。
それに、正直なところと言ったって、なんて言えばいいのだ。
──キースは、わたしの何?
最初は、少し変わった出会い方をしただけの、赤の他人だった。それから、主従関係になった。一緒に地界に堕ちてからは、同居人というものになった。そして、これからも一緒にいると約束してくれて……でも、具体的に二人の間には特に何もないわけで……いや、何かしようと思っても、諸々の問題があったわけだけど……えーと……
こういうのって、なんて呼ぶの?
首を捻って真剣に考え込みはじめたファルを見て、クイートは 「ふうん、簡単には言えない、ってことかな」と勝手に結論を出してしまった。
「とにかく、彼もまた、罪人として君と共に堕とされたのかい?」
ファルはその言葉に顔を上げ、ぶるぶると首を横に振った。そこだけはちゃんと否定しておかなければと思ったのだ。
だって、キースは罪人などではない。
「キースは、わたしを助けようとしてくれたんだよ」
「──なるほど」
クイートの目が、すうっと細まった。
何を納得し、何を理解したのかはさっぱり判らないが、何度も頷きながら呟く。
「本人は無自覚で、天界人にさえも、正体は気づかれていなかったということか。でなければ、いくら奴らが愚かでも、ファルを罪人として堕とすなんてことはしないはずだからな。……ああ、そうか、だから」
口許に手を当て、くくっと肩を揺らして小さく笑った。
「だからあいつは、人間のままなのか」
ファルは目を見開いた。
「それ、どういう──」
「あのキースっていうのは、確かに君の宝だったということさ」
「宝?」
「おっと、子猿ちゃん、お喋りはここまでだ。悪いけど、俺はもう行かないといけない」
クイートが椅子から立ち上がったのを見て、ファルは驚いて今度は口を開けた。
ここまで? この、まったく実のない会話だけで、おしまいにするつもりなのか?
「冗談じゃないよ! 結局、何も答えてもらってない! ていうか、わたしをさっさとここから出してってば!」
「そんなにここがイヤなら、窓から出て行けばいいんじゃないかな」
軽く笑みながら言われて、カッとなった。
「それが出来たらそうしてる! 飛んで行けるものなら、とっくにキースのところまで飛んでいってるよ!」
「──じゃあ、どうしてそうしないの?」
いきなりクイートが真顔になった。
正面切って問い返されて、ファルは言葉に詰まる。こちらに向けられる眼差しには、冗談やからかいの類は一切含まれていなくて、本気で頭が混乱しそうになった。
この男は、何を言ってるんだ?
「やれやれ、手のかかる子だなあ」
クイートは、頑是ない子供を相手にする時の大人のような顔で肩を竦めた。
「ここまでお膳立てをしてあげているのに、未だ覚醒する気配もないとは。何が妨げになっているんだろうな。生育過程に問題でもあるのかな」
不思議そうに首を傾げている。判らないなと呟いているが、それを言いたいのは断然ファルのほうだ。
「──まあ、これからはなるべく様子を見に来るようにするよ。エレネにもうるさく言われたしね。ずっとこのままでいてもらっても困る」
「ちょっと……」
「あ、そうそう」
眉を吊り上げたファルに、たった今思い出したとでもいうように、クイートが声を上げた。
「君の大事な彼ね、キノイの里を出たらしいよ」
「え」
ファルが大きく目を瞠ったのを見て、何が楽しいのか、また笑った。
「子供と女の二人組が、境界検問所を抜けて忌み地から東の大陸へと向かった、との報告があった。いや、侮れないよね。屈強な検問所の男たちが口を揃えて、『十二、三歳の子供にやられた』って言うんだから。たった一人に、被害甚大というから驚きだ。俺も話を聞いた時には耳を疑ったよ。ただの子供じゃないとは思ったけど」
「キースが?」
茫然として立ち尽くす。ファルがここでぐずぐずしている間に、キースはキースで、とっくに行動を起こしていたということか。
でも、キノイの里のあった陸地でさえ広いと思ったのに、さらに広大な東の大陸で、ファルの居場所をどうやって探すつもりなのだろう。そもそもファルはここが東の大陸であるのかどうかも確証が持てないのだが。
……で、連れの「女」って、誰?
「どうやら彼は、君を救いに来るつもりのようだね」
クイートがファルを覗き込み、唇の端を上げる。
「──それに対して、君は何をするの?」
その問いかけに、ファルは再び、え、と短く声を発した。
「ここでただ、じたばた足掻いて、嘆くだけかい? 彼は君を助けようとして一緒に天界から堕ちた。地界で君を保護していたのも彼だ。我が身を挺して化け物からも俺からも君を守ろうとし、今だって危険を顧みず君を救い出そうとしてる。文字通り、命懸けでね。まるで、君専用の人間盾だ。しかも、おそろしく献身的な。……対して、君は何をしたのかな。なーんにも、していないよね。ただ『そこにいる』、それだけだ。彼の役に立つようなことも、助けになるようなこともしていない。いや、出来ない、のか。そういうの、なんて言うか知ってるかい?」
クイートは微笑んだ。
「……『依存』って、言うんだよ」
依存、とファルが声にならない声で呟く。お腹の中に、冷たいものが落ちていくような感じがした。
「このままじゃ、君は彼にとっての重い荷物にしかならないよ。……君に何が出来るのか、もう少しちゃんと考えてごらん」
じゃあね、と言うと、クイートは部屋から出ていった。
ファルはその場から動けず、閉じる扉を見ていることしか出来なかった。




