漂泊
キノイの里での日常は、少々拍子抜けするほど穏やかに、淡々と過ぎていった。
朝起きて、食べて、働いて、夜眠る。そういう波風のまったく立たない毎日を、里の住人たちはひっそりと静かに送っている。陽気に笑い合ったり、大声で騒いだり、賑やかに盛り上がったりすることは一切ない。その点、彼らはみんな、デンとよく似ていた。
誰もかれもが覇気がなく、どこか諦めきったような目をして、自分の日々の生活を守ることだけを第一として考えている──ような。
悪意はないが、善意もない。里に舞い込んできた子供二人に、まったく関心がないわけでもないのだろうが、好奇心を見せることも、必要以上に立ち入ってくることもなかった。一応、ここに連れてきたということでか、衣食住について仲立ちとなって動いてくれるデンからして、キースとファルに対し個人的な内容を尋ねてこないのは最初から同じだ。
無関心、というよりは、不干渉、とでもいうのか。
どうやらこの里では、人と人とは互いになるべく関わらない、というのが暗黙の了承事項にでもなっているらしい。
里という集落を形成していても、そこに「家族」というものがほとんど存在しない、という事実からも、それは推し量れた。ひとつの家に住んでいるのは一人であることが多く、たまに複数で集団生活をしている場合や、男女で暮らしている場合もあるが、それを家族という名で呼んでもいいのか甚だ疑問になるくらい、そこには親密性が感じられない。
──おかしな場所だな。
この里で暮らしはじめてから数日、日が立てば経つほど、キースの違和感は嵩を増して膨らんでいった。地界およびそこに住む人々のことがまるで判らないにしても、こういうものなのだろう、と簡単に納得することも出来ない。
地界というのがすべてこんな感じなのだとしたら、そこに繁殖・繁栄というものはまったく望めなくなってしまうのではないか。家族という共同体を持たない種は、ひたすら先細りしていく未来しかない。子供の姿がほとんど見えないキノイの里も、このままでは、住人すべてが死に絶えて滅びる廃墟への道を一直線に進むことになる。
誰も何も事情を訊いてこない、というのは、今のキースやファルの立場からしては非常に都合のいいことではあるが、普通だったらあり得ない。当たり前のようにそれがされているのは、里の側に、その事情をすでに理解している、という思い込みがあるからなのだろう。
実際にその二つの間には大きな食い違いがあるのだが、あちらはそんなことを考えもしていない。それほどまでに、ここの人間たちにとって、それが「常識」として存在している。
「天にも地にも見放され、捨てられた忌み地」──と、デンは言っていたのだったか。
どうもここで言う「天」とは、「天界」ではなく、「神がいるような場所」という、ぼんやりとした抽象的な意味合いであるようだ。
確かに、空を仰いでも、この場所から天界の存在を感じ取れるようなものは、何も見えない。そこには常に白く薄い雲が広がって、その先の視界を遮っているからだ。
里の人々は、「雲の上」にもまた大勢の人々が暮らす別の世界がある、とは考えてもいないらしい。
しかしあの台詞は逆に考えれば、「この場所を見放し、捨て、忌み地とした何者か」がいる、ということでもある。だとしたらやはり、このキノイの里を基準として、地界というものを考えてはいけないのだろう。
「東の大陸、か……」
キースは呟いた。
おそらく地界は自分たちが思っているよりもずっと広く、ここはその中でも特殊な場所として位置づけされている。
住人たちは決して、その詳細を自ら言葉にしようとはしない。拒絶こそされないが、説明を求めれば求めるほど、目を逸らし、口を噤む。
まるで、それ自体が禁忌にでもなっているように。
──ここが忌み地とされている理由と事情を知るには、どうしたらいいだろう?
***
適応力というものが異様に優れているファルは、里のあちこちに顔を出しては、住人たちの仕事を手伝っている。
もともと年齢のわりに使用人として過ごした経験が長く、それなりに知恵も廻るので、慣れない道具や方法に戸惑いながらも、何事もけっこう器用に要領よくこなしてしまっているらしい。基本的にガードが固く、他人をあまり寄せつけない里の住人たちも、ファルの子供の顔と外見に油断するのか、「じゃあ……」という感じでこまごまとした用事を頼んでいるようだ。
人同士はあまり干渉し合わないといっても、かなり原始的な生活をしているこの里では、やることはたくさんあり、慢性的に人手不足の状態であるのだろう。
その日の夕暮れ時、キースが里に戻ると、ちょうどデンの家から出てくるファルと出くわした。
その両手には、大量の草が詰まったザルが抱えられている。
「あ、おかえり、キース」
里の住人たちと同じ格好をしたファルが、にこっと笑う。
ちなみに、ずっと同じものを着ているわけにもいかないので、キースも観念して、今は渡された里の衣服を身につけている。現在の自分の姿はあまり見ないようにしているが、それを着たキースを見た時の、「か……」と禁断の言葉を出そうとして口をもぐもぐさせていたファルの顔つきを思うに、それなりに似合ってはいるらしい。不本意だ。
「ああ」
キースが返事をすると同時に、ファルの後ろから、デンものっそりと身を屈めるようにして出てきた。この人物は、大概どんな時でも、なんとなく申し訳なさそうに背中が丸まっている。
デンはキースを見て首を傾げ、「お前さん、また里の外を出歩いてたのかい?」と訊ねた。
「まあな」
少年の姿をしていても、キースはファルのように無邪気さを装うのは非常に不得手だ。というか、出来ない。なので里の住人たちに対する時は、いつも最小限の返答になる。
デンはそれについて特に気に留める様子はなかったものの、キースの肯定には思うところがあったようで、少し顔をしかめた。
「子供一人で、あまりウロウロしてはいかんよ。大きな獣がいないとも限らないし、もしも迷ったら、この里に戻れないかもしれない」
デンは、キースとファルに対して、まだしも友好的な態度をとってくれる、数少ない人間だ。冷たいというのではないが、遠巻きにして眺めているような里の住人たちの中で、あれこれと気遣うようなことも口にする。拾って連れてきた責任感というよりは、もともと人の好いところがあるのだろう。
「気をつける」
そう言ってから、キースはちらっとデンを見上げた。
デンはがっちりとした体格の中年男だが、その顔に乗っているのは大体いつも気弱げな表情である。ちまちまと瞬きを繰り返し、あまり他人と視線を合わせることもない目は、妙に怯えているような、悪く言えば卑屈な雰囲気を伴っている。
「……なあ、ここに、地図っていうのはないか?」
「え。地図?」
珍しくキースが短い返事以外のことを口にしたからか、デンはちょっと驚いたように、さらにぱちぱちと瞬きした。
「この周辺の。あるいは、もっと大きな全体の」
「いやあ……」
デンが困ったように口ごもる。
「俺は、そういうのは持ってないなあ。なにしろ、必要ないからよう。スーリオも、もうここに長いし、余所に行きたいとか、戻りたいなんて気持ちもとうに捨てちまったろうから、置いてないんじゃないかねえ」
「…………」
戻りたい、ってなんだ?
と思ったが、問いかけるのはやめた。デンはどうも無意識に口を滑らせているようだし、突っ込んで聞くと、ぴたっと続きを止めてしまう可能性が高い。
とりあえず、この口ぶりだと、この世界にもちゃんと地図というものは存在しているのは間違いないようだ。
「あるとしたら……」
言いかけて、デンの目がふらりと迷うように、とある方向に向かった。
そこには、他の家々から離れて、一軒の小さな家がぽつんと建っている。
「わたし、まだあのおうちには行ってないんだけど、誰が住んでるの?」
デンとキースが目線を向けた先に自分も目をやって、ファルが問いかける。デンはまた、ちまちまと目を瞬いた。
「ニグルだよ」
「ニグル、さん?」
ファルは首を捻った。地界人の名前は、天界人からすると、少々変わった響きのものが多いので、聞いただけではそれが男性名なのか女性名なのか、さっぱり判らない。
「ここに来て、もう一年ばかりになるかなあ。けど、未だにこの里に馴染めないみたいで、ほとんど誰とも口をきかないんだ。まあ、そういうことは別に珍しいことじゃないんだけどよう、あれはちょっと度を越えてるかなあ。あんなにも自分の殻の中にだけ閉じこもってちゃあ、長くは保たないかもしれねえなあ」
「長くは、保たない……」
ファルが小さな声で呟いたが、それはデンの耳には届かなかったらしい。
「元のところから持ってきたものをぜーんぶ、家の中に置いて手放さないんだ。……いつまでも未練を持ってたって、どうしようもないのになあ」
デンはその家に目を向けたまま、独り言のようにぽつりと言った。
まるで、自分自身にも言い聞かせているような口調で。
「…………」
キースはしばらく考えるように口を結び、それからファルに顔を向けた。
「ファル、その草をどうするんだ?」
「あ、この中から薬草を選り分けるんだよ。デンさんが使うんだって」
デンが、薬草を煮たり煎じたりして、里の人間が体調を崩した時などに渡す役目を担っている、というのは、ファルから聞いて知っている。
「おまえに選別できるのか?」
「うん。デンさんに教えてもらったからね」
「ああ、ファルは意外と、覚えが早くてなあ。面倒な作業なんで、やってもらうと助かるよ」
まあ、天界で草を食べていたこともあったのだから、相性は悪くないのだろう。そう思いながら、キースは頷いた。
「家に帰ってやるんだろう? おれも手伝う」
「うん」
ファルは、じゃあねデンさん、と手を振って、キースと一緒に歩き出した。
***
狭い家の中に戻ると、木の床の上にぺたんと座って、早速ファルはせっせと草を分けはじめた。
「どうすればいいんだ?」
「あのね、これと同じ形の草をね……」
ファルの向かいに腰を下ろし、その教えに従ってキースも手をつけたが、正直、植物というものにまるで興味を持ったことのない身には、数ある細い草の些細な違いを見つけるのも難しかった。キースは本などで得た知識はそこそこ持っているが、生活に密着した知識の量という点においては、比べるまでもなくファルのほうが圧倒的に上回っている。
もしかしたら、とキースは内心で思う。
……もしかしたら、ファルは天界よりもこの地界のほうが、ずっと暮らしやすいのかもしれないな。
ここなら、どれだけ汚れても、コマネズミのように朝から晩までくるくると働いても、それを軽蔑したり疎外したりする人間はいない。
ファルが今まで身につけたものが、ここでなら活かされる。このキノイの里という少々特殊な場所でなければ、ファルが周囲に認められ、受け入れられるところがあるのかもしれない。
ただ搾取されるばかりでなく、働きに見合ったものが返ってくるところ。暴力の影に脅かされなくてもいいところ。両手両足をいっぱいに伸ばして、元気に駆けまわれるところ。
ファルが安心し、笑って生きていけるところ。
──そういう場所が見つかったのなら、おれは……
「……ねえ、キース」
黙ったまま機械的に手だけを動かしていたキースは、ファルの声で我に返った。
ん? と顔を上げたが、ザルを挟んで前に座るファルは、目を下に向けたままだ。キースからは、小さなつむじしか見えない。
「もしも地図があったら、何かわかるの?」
「とりあえず、地界がどういう世界なのかって、基本的なところはわかるだろ」
「キースが毎日のように里の外に出ていくのも、ここのことが少しでも知りたいからなんだよね?」
「せめてここがどれくらいの広さで、どういう地形か、ってことくらいはな。結局今のところ、何も判らないままだが」
判ったのは、一日程度歩いたところで何も得られるものはない、ということくらいだ。
子供の身体、というハンデはあるにしても、半日分ほどの徒歩で行けるような距離に、この里のような集落は見つけられなかった。
本格的にそういうものを探すのなら、数日、という単位での時間が必要になる。とはいえ、負担の多そうなその行程に、ファルを同行させるわけにはいかない。デンが言っていたように、獣と遭遇する危険もある。しかしだからといって、この里に一人だけ残していくのも不安だ。キースはまだ、この里のことも、里の住人のことも、全面的に信用しているわけではなかった。
地図があれば、いちばん手っ取り早いのだ。
ニグルという人物がそれを持っているというのなら、なんとしても見せてもらいたい。
「ニグルさん、地図を持っているといいね」
「そうだな。明日にでも行ってみるが」
しかし、どうやって切り出したものか。ただでさえ干渉し合うのをよしとはしないこの里で、ニグルというのは、さらに排他的な性質であるようだし。下手を打つと、地図を持っているかどうかの確認すら、とれないかもしれない。
「ニグルさんて人は、一年くらい前に来た、って言ってたね」
「そうだな」
返事をしながら、少し訝しむ。
声は普段とあまり変わらないのに、ファルは依然として顔を上げようとはしなかった。誰かと話をする時はしっかり目と目を合わせてくるファルにしては、珍しい。
「──ここの里の人たちはみんな、どこかから流れてきた人たちなんだね」
ファルの言葉に、キースは頷いた。
子供のような外見をしていても、ファルはちゃんと自分で考えられる頭を持っている。何も言わなくても、キースと同じ推測の結論には、とっくに辿り着いていたのだろう。
「天界ではなく、地界の別のところから。自分の意志でなのか、そうでないのかは、わからないけど。それでもみんな、もともと住んでいた場所には──生まれ育った故郷の地には、簡単に戻れない事情があるんだね」
「戻れないのか、戻らないのか、それも判らないがな」
「きっと、今でも『もとの場所』に、愛着があるんだろうね。だからみんな、ここでは自分のことを語ろうとしないんじゃないかな。懐かしくて、思い出すと悲しくて、たぶん帰りたいって気持ちはいつでもあって、でも帰れないことを認めるのがつらくて、必死に自分の中にしまい込んでるんじゃないかな」
「……ファル?」
さすがに不審に思って、名を呼んだ。
ファルは訥々と言葉を紡ぎだしている。こちらを見ないまま、ほとんど一人語りのように。
「どうした?」
訊ねると、しばらく沈黙の間が空いた。
ようやく顔を上げたファルの目が、まっすぐ射抜くようにこちらに向かってくる。蜂蜜色のその瞳はどんな感情を含んでいるのか、キースには読み取れない。
「キースも、帰りたい?」
その問いに、一瞬、言葉に詰まった。
「……帰るって」
「天界に」
畳み掛けてこられて、咄嗟に誤魔化す言葉が思いつかない。
少し迷ってから、視線をずらした。
「地界から天界に帰る方法なんて、あるわけないだろう」
自分の口から出てきた返事は、明らかにファルの質問の意図から外れている。それはよく判ったが、他に何をどう言えばいいのかが、判らなかった。
「もしも方法があったら、キースは帰りたい?」
問いを重ねるファルの声に、落胆や怒りの響きはなかった。責めているようでも、同情しているようでもない。何を思ってその返事を求めているのかが掴めなくて、キースは余計、答えに窮した。
「──帰ったとしても、もう、あそこにおれの居場所はない」
結局、喉の奥から勝手に出てきたのはそんな台詞だった。自分の耳でそれを聞いて、自分で動揺した。
──いつまでも未練を持ってたって、どうしようもないのになあ。
さっきのデンの言葉が、頭の中に甦る。
この言い方、まるでおれのほうこそ、未練があるようだ。
「そう」
ファルはそれだけ言って、口を閉じた。それ以上は聞こうとせず、再び目線を下げ、薬草の選別にとりかかる。
「……明日、わたしがニグルさんのところに行ってみるよ。キースは、『子供のフリ』をするのが、苦手みたいだしね」
静かな口調で言われて、キースは「……ああ」と掠れた声を出した。
***
その夜、キースはファルが寝入っている家からそっと抜け出して、再び里の外に出た。
闇の中、月明かりに照らされる草原を前に、一人で立ち尽くす。広がる草の群れは、風が吹くたびに、揺れてなびいて、ざざあっという音を立てた。それ以外は動物の鳴き声もせず、しんとした静寂に包まれている。
唇を引き結んで目の前の景色を眺めていたキースは、自分の両手を胸の上でかざすと、そこに目線を移した。
数日前に自分を襲った不可解な痛みは、あれきり一度も訪れてはいなかった。あれは一体なんだったのか。今も原因は不明なままだ。
広げられた掌は、ひどく小さい。大人の時の、半分もない。忌々しいほど、どこもかしこも子供の身体。本当は見たくもないが、それでもそれは、直視しなければならないキースにとっての現実だった。
……天界に帰りたい、と望んでいるわけじゃない。
自分自身に言い聞かせるように、内心で呟いた。今まで曖昧にしていたものを、目の前に引きずり出して確認するために、「そういうわけじゃない」と、ぽつりと声にも出した。
あそこに、もうキースが戻る場所はない。ユアンを裏切り、アストン家の血に逆らい、これまで積み重ねてきたものを、すべて失った。ライリー家は、すぐにでも新しい影として別の家を選出しただろう。それをイーセンあたりが務めているかは不明だが、アストンの名も、代々続いてきたライリーの影の家系も、キースの代で断たれたことになる。
それは覚悟していたことだし、構わない。あの白雲宮の最深部で、ファルを逃がした後は、閉ざした扉を守って自分は死ぬつもりでいた。だからこそ、振り向くな、行け、とファルに向かって叫んだのだ。
それでいい、と決断した上で、とった行動だった。
──でも、こうして自分の命はまだ続いていて、おまけに化け物になることもなく、地界に降り立つという結果になって。
キースは完全に、自分の立ち位置を見失ってしまった。
せめてもとのままの姿であったなら、別の考えも持てただろう。ファルを保護する立場でいることも、難なく出来たかもしれない。
……だけど、こんな小さな身体、小さな手で。
一体、何が出来るっていうんだ? ファルが倒れたって、負ぶってやることも出来ない。抱き上げてやることも出来ない。ファルがこの世界で生きていくための手助けすら、してやれない。むしろ、足を引っ張りかねない。あの少女は一人でもしたたかに前へと進んでいけるだろうが、「もう一人の子供」という厄介な存在は、重荷にしかならないだろう。
今は、まだいい。何も判らない現状では、ファルの近くには誰かが必要だ。目を光らせ、警戒し、場合によっては自分の手を汚せる誰かが。もともと、ファルを災厄の渦のど真ん中に叩き込むような真似をしたのはキースだ、何があっても必ず、彼女の身は守ろう。
だが。
もしもこの先、ファルが安心し、笑って生きていける場所が見つかったなら。
もっときちんと彼女を庇護してやれる存在が出来たなら。
その時、キースという人間はどう考えても不要になる。そうなったらどうすればいい? どこに行けばいい? あの森の中の化け物のように、目的もなく彷徨うしかないのか?
生まれながらのあるじも、家も、仕事も、鍛え上げた肉体も、一度は受け入れた自分の宿命さえ、すべてを手放した今のキースには、もう何も残っていない。
胸の中にまで、乾いた風が吹き通っていくようだ。
「…………」
キースは顔を上げて、黒く染まった夜空を見上げた。
──天界にも地界にも、おれの居場所はないんだ、ファル。




